StudyMed医師国家試験

粘血便の生検標本を読む―潰瘍性大腸炎の病理「三点セット」

第110回医師国家試験 A問題 第59問

国試問題にチャレンジ

第110回 A問題 第59問

50歳の男性。2か月前から続く下痢と粘血便とを主訴に来院した。1週前から1日に6,7回の粘血便を認めている。海外渡航歴はない。身長164 cm,体重54 kg。体温37.8℃。脈拍88/分,整。血圧120/60 mmHg。眼瞼結膜は軽度貧血様である。内視鏡検査では結腸に多発性のびらんと潰瘍とを認める。採取された結腸粘膜生検組織のH-E染色標本(A)(B)を別に示す。  本標本に認められる所見はどれか。3つ選べ。

第110回 A問題 第59問の問題画像
  1. a.静脈瘤
  2. b.陰窩膿瘍
  3. c.杯細胞の減少
  4. d.過形成性ポリープ
  5. e.びまん性炎症細胞浸潤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、慢性の粘血便で受診した患者さんの大腸生検標本から、どんな組織所見が読み取れるかを問う問題だ。臨床像から疾患を想定し、その疾患で生検に何が見えるはずかを結びつけるのがポイントになる。まず、2か月続く粘血便と、内視鏡での多発するびらん・潰瘍から何を考えるかな。
医学生医学生
慢性の粘血便なので、炎症性腸疾患、特に潰瘍性大腸炎が第一に浮かびます。ただ50歳というのは少し年齢が高い気もします。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。潰瘍性大腸炎は20代を中心とした若年発症が多いけれど、50〜60歳代にも小さな発症のピークがある。だから年齢だけで除外してはいけないんだ。海外渡航歴がないことでアメーバ赤痢のような輸入感染症の可能性は下がるし、2か月という経過も一般的な急性感染性腸炎とは合わない。
医学生医学生
発熱と1日6〜7回の粘血便、それに貧血もあるので、そこそこ重い状態ですよね。
ドクタードクター
その通り。排便回数や発熱、貧血は重症度判定の項目にも入っていて、本例は中等症以上に相当しうる。では標本に移ろう。H-E染色では、粘膜固有層にリンパ球や形質細胞を主体とした炎症細胞が密に、びまん性に浸潤している。そして陰窩の内腔に好中球が集まって小さな膿瘍をつくっている。さらに陰窩上皮をよく見ると、本来たくさんあるはずの粘液を抱えた細胞が乏しい。
医学生医学生
病理実習で正常大腸を見たとき、陰窩が試験管を並べたようにきれいに並んでいて、白く抜けた杯細胞がびっしりだったのを覚えています。それが減っているということですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。杯細胞は粘液を分泌して粘膜を守る細胞だけど、活動期の潰瘍性大腸炎では上皮が傷害されて再生を繰り返すため、粘液が失われて杯細胞が減少する。これを粘液枯渇とも呼ぶ。つまり、びまん性炎症細胞浸潤、陰窩膿瘍、杯細胞の減少の3つが、この標本で認められる所見であり、活動期潰瘍性大腸炎の典型像なんだ。
医学生医学生
陰窩膿瘍は潰瘍性大腸炎に特異的な所見だと思っていました。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。陰窩膿瘍は炎症が活動性であることを示す所見で、感染性腸炎やCrohn病でもみられることがある。単独では特異的とはいえない。だから、びまん性の炎症や杯細胞減少、陰窩の配列の乱れといった所見を組み合わせて判断するんだ。
医学生医学生
では静脈瘤はどうでしょう。粘膜からの出血という意味で関係ありそうにも思えます。
ドクタードクター
静脈瘤は門脈圧亢進症などで静脈が拡張・蛇行した状態で、食道や胃、直腸などにみられる。組織では粘膜下層を中心に壁の薄い拡張静脈が目立つ。今回の標本にそうした血管はなく、潰瘍性大腸炎の所見でもない。
医学生医学生
過形成性ポリープも違いますよね。でも潰瘍性大腸炎ではポリープができると習った気がします。
ドクタードクター
鋭い。潰瘍性大腸炎で見られるのは、潰瘍の間に残った粘膜や再生上皮が盛り上がった炎症性ポリープ、いわゆる偽ポリープだ。過形成性ポリープは陰窩が延長して内腔側の上皮が鋸歯状、つまりギザギザになる非腫瘍性の隆起で、直腸やS状結腸に多い別の病変なんだ。今回の標本は炎症が主体で、鋸歯状構造はない。
医学生医学生
名前が似ていても、炎症性ポリープと過形成性ポリープは別物なんですね。
ドクタードクター
そう。では理解の確認として、潰瘍性大腸炎の炎症はどの層が主座かな。
医学生医学生
粘膜、特に粘膜固有層です。直腸から連続性に口側へ広がって、重症例を除いて粘膜下層より深くは及ばない、ですね。
ドクタードクター
完璧だ。それがCrohn病との大きな違いで、Crohn病は非連続性のskip lesionと全層性炎症、そして非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が特徴になる。生検で肉芽腫が見つかればCrohn病を考える。発展として、粘膜深部、つまり陰窩底部と粘膜筋板の間に形質細胞が増える所見は、慢性の炎症性腸疾患を示唆する。また寛解期になっても陰窩のねじれや萎縮は残るから、過去に炎症があった痕跡として読めるんだ。
医学生医学生
消化器内科の実習で、長く潰瘍性大腸炎を患っている患者さんが定期的に内視鏡を受けていました。あれは癌のチェックですか。
ドクタードクター
その通り。長期経過例では異形成やcolitic cancerが発生しやすくなるので、定期的な内視鏡サーベイランスが重要だ。治療は5-アミノサリチル酸製剤が基本で、中等症以上や効果不十分ならステロイド、免疫調節薬、生物学的製剤、JAK阻害薬などを用いる。重症・難治例や癌合併例では大腸全摘術も考慮する。病理所見と臨床像を行き来しながら考える習慣をつけておこう。

まとめ

慢性の粘血便と内視鏡での多発びらん・潰瘍を示す例では、年齢が中高年でも潰瘍性大腸炎を念頭に置きます。活動期潰瘍性大腸炎の生検では、粘膜固有層のびまん性炎症細胞浸潤、陰窩内に好中球が集まる陰窩膿瘍、杯細胞の減少(粘液枯渇)が典型的な三所見で、陰窩の配列の乱れも伴います。陰窩膿瘍は活動性炎症の指標ですが特異的ではなく、肉芽腫や全層性炎症があればCrohn病を考え、潰瘍性大腸炎の偽ポリープは過形成性ポリープとは別の病変です。炎症の主座が粘膜にあり直腸から連続性に広がるという病態を理解すると、組織所見を整理して記憶でき、長期経過例での癌サーベイランスの意義にもつながります。

解答・解説

正解はb, c, eです

所見の整理

・50歳男性。2か月前から下痢と粘血便が続き、最近1週は1日6〜7回の粘血便となっている。 ・体温37.8℃の発熱、脈拍88/分、軽度の貧血(眼瞼結膜)がみられる。 ・海外渡航歴がなく、アメーバ赤痢など輸入感染症の可能性は低い。2か月という慢性経過も、一般的な急性感染性腸炎とは合わない。 ・内視鏡では結腸に多発するびらん・潰瘍を認める。

診断へのプロセス

慢性の粘血便を呈する疾患として、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、Crohn病)、感染性腸炎(アメーバ赤痢、腸結核、カンピロバクターなど)、虚血性大腸炎、薬剤性腸炎、大腸癌などを鑑別する。潰瘍性大腸炎は若年者に多いが、50〜60歳代にも発症の小さなピークがあり、本例の年齢でも十分に考えられる。 生検組織(H-E染色)では、粘膜固有層に形質細胞・リンパ球を主体とする炎症細胞がびまん性に密に浸潤し、陰窩(腸腺)の内腔に好中球が集まった陰窩膿瘍がみられる。さらに陰窩上皮の杯細胞(粘液を産生する細胞)が減少し、粘液が乏しくなっている。陰窩の配列の乱れ(陰窩のねじれ・分枝)も伴う。これらはいずれも活動期の潰瘍性大腸炎に典型的な所見であり、臨床像と合わせて潰瘍性大腸炎と診断できる。Crohn病を示唆する非乾酪性類上皮細胞肉芽腫は認めない。

設問の考え方

選択肢の中から、活動期潰瘍性大腸炎の生検で典型的にみられる組織所見を選べばよい。潰瘍性大腸炎の炎症の主座は粘膜(粘膜固有層)であり、粘膜全体に連続性・びまん性の炎症が起こる、という病態を理解しておくと所見を整理しやすい。

選択肢考察

  1. ×a.  静脈瘤

    静脈瘤は門脈圧亢進症などで静脈が拡張・蛇行した状態で、食道・胃や直腸などにみられる。組織では拡張した壁の薄い静脈が粘膜下層を中心に認められる。本標本にこのような拡張静脈はなく、潰瘍性大腸炎の所見でもない。

  2. ○b.  陰窩膿瘍

    陰窩膿瘍は、陰窩の内腔に好中球が集簇して小さな膿瘍を形成したもので、炎症が活動性であることを示す。本標本でも陰窩内に好中球の集まりを認める。潰瘍性大腸炎の活動期に特徴的な所見であるが、感染性腸炎やCrohn病でもみられることがあり、単独では特異的ではない。

  3. ○c.  杯細胞の減少

    杯細胞は大腸の陰窩上皮に多く存在し、粘液を分泌して粘膜を保護する細胞である。潰瘍性大腸炎の活動期には、炎症による上皮障害と再生のために杯細胞内の粘液が失われ、杯細胞が減少する(杯細胞減少、粘液枯渇)。本標本でも陰窩上皮の杯細胞が乏しくなっている。

  4. ×d.  過形成性ポリープ

    過形成性ポリープは、陰窩が延長し、内腔側の上皮が鋸歯状(ギザギザ)を呈する非腫瘍性の小隆起性病変で、直腸やS状結腸に多い。本標本は炎症性変化が主体であり、鋸歯状構造を示す過形成性病変はみられない。なお、潰瘍性大腸炎では再生上皮の隆起である炎症性ポリープ(偽ポリープ)がみられることがあるが、過形成性ポリープとは別の病変である。

  5. ○e.  びまん性炎症細胞浸潤

    潰瘍性大腸炎では、粘膜固有層の全層にわたって形質細胞・リンパ球を主体に好中球・好酸球などが混在する炎症細胞がびまん性に浸潤する。特に粘膜深部(陰窩底部と粘膜筋板の間)への形質細胞浸潤(basal plasmacytosis)は慢性炎症性腸疾患を示唆する所見である。炎症は原則として粘膜にとどまり、重症例を除き粘膜下層以深には及ばない。本標本でも粘膜内に密なびまん性の炎症細胞浸潤を認める。

潰瘍性大腸炎の概要

大腸粘膜にびらんや潰瘍を形成する原因不明のびまん性非特異性炎症である。直腸から連続性に口側へ広がり、病変範囲により直腸炎型、左側大腸炎型、全大腸炎型に分類される。主症状は持続性・反復性の粘血便、下痢、腹痛で、重症例では発熱、頻脈、貧血を伴う。

病理所見の特徴

・活動期:粘膜固有層のびまん性炎症細胞浸潤、陰窩炎・陰窩膿瘍、杯細胞減少、びらん・潰瘍。 ・慢性期の変化:陰窩の配列の乱れ(ねじれ・分枝・萎縮)、粘膜深部の形質細胞浸潤、Paneth細胞化生(左側結腸)。 ・寛解期:炎症細胞は減るが陰窩の萎縮・配列異常が残る。 ・長期経過例では大腸癌(colitic cancer)や異形成(dysplasia)の発生に注意する。

Crohn病との比較

・潰瘍性大腸炎:直腸から連続性、粘膜主体の炎症、肉芽腫なし。内視鏡ではびまん性の発赤、血管透見像の消失、易出血性、偽ポリポーシス。 ・Crohn病:口腔から肛門までの消化管のどこにでも生じ、非連続性(skip lesion)、全層性炎症、非乾酪性類上皮細胞肉芽腫。内視鏡では縦走潰瘍、敷石像、狭窄・瘻孔。

臨床的重症度(主な項目)

排便回数(1日6回以上)、顕血便、発熱(37.5℃以上)、頻脈(90/分以上)、貧血(Hb 10 g/dL以下)、赤沈亢進などで判定する。本例は排便回数6〜7回の粘血便と37.8℃の発熱があり、中等症以上に相当しうる。

治療の概略

5-アミノサリチル酸製剤が基本で、中等症以上や効果不十分例では副腎皮質ステロイド、免疫調節薬、生物学的製剤(抗TNF-α抗体など)、JAK阻害薬などを用いる。重症・難治例や癌合併例では大腸全摘術を考慮する。

POINT

・潰瘍性大腸炎の生検所見の三点:びまん性炎症細胞浸潤(粘膜固有層)、陰窩膿瘍、杯細胞減少。 ・炎症は直腸から連続性・びまん性で、原則として粘膜に限局する。 ・陰窩膿瘍は活動性炎症の指標だが、潰瘍性大腸炎に特異的ではない。 ・肉芽腫や全層性炎症があればCrohn病を考える。 ・潰瘍性大腸炎は若年発症が多いが、中高年にも発症する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。