初めてのめまいと片耳の難聴―「蝸牛症状」で分ける内耳性めまいの鑑別
第110回医師国家試験 A問題 第56問
国試問題にチャレンジ
52歳の男性。起床時に回転性めまい,左難聴および耳鳴りを自覚したため来院した。これまで同様の症状をきたしたことはなかった。身長170 cm,体重72 kg。体温36.5℃。尿検査と血液検査とに異常を認めない。これまで耳漏と顔面神経麻痺が出現したことはない。両側鼓膜に異常を認めない。オージオグラムを別に示す。 考えられる疾患はどれか。2つ選べ。

- a.Ménière病
- b.前庭神経炎
- c.突発性難聴
- d.真珠腫性中耳炎
- e.良性発作性頭位めまい症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
回転性めまいの鑑別では、まず難聴・耳鳴りなどの蝸牛症状を伴うかで内耳性疾患を二分し、伴うものにはMénière病やめまいを伴う突発性難聴、伴わないものには前庭神経炎や良性発作性頭位めまい症があります。オージオグラムで気骨導差のない感音難聴で、鼓膜が正常なら、伝音難聴を主体とする真珠腫性中耳炎などの中耳疾患は考えにくくなります。Ménière病は内リンパ水腫による反復性のめまい発作が特徴ですが、初回発作の段階ではめまいを伴う突発性難聴と区別できないことが多く、その後の発作の反復や聴力の変動で見分けます。突発性難聴は早期治療が望ましく、また一側難聴を伴うめまいでも聴神経腫瘍や小脳梗塞などの中枢性疾患の除外が欠かせません。蝸牛症状・難聴の種類・持続時間と反復性という軸で整理することは、救急外来や一般外来でめまい患者を安全に診るための基本になります。
解答・解説
正解はa, cです
所見の整理
・52歳男性、起床時に突然生じた回転性めまい、左難聴、左耳鳴り。過去に同様のエピソードはない(初回)。 ・耳漏や顔面神経麻痺の既往はなく、両側鼓膜は正常。中耳の炎症性疾患や真珠腫を示す所見がない。 ・尿・血液検査に異常はなく、全身性疾患(感染、代謝異常など)を示唆する所見もない。 ・オージオグラムでは左耳に感音難聴を認める(気導・骨導がともに低下し、両者の差である気骨導差がない)。本例では低音域に限らず比較的平坦(水平型)な閾値上昇を示している。
診断へのプロセス
まず、めまいに「蝸牛症状(難聴・耳鳴り・耳閉感)」を伴うかどうかで内耳性めまいを大きく二分する。蝸牛症状を伴うのは、内耳のうち蝸牛と前庭の両方が障害される疾患(Ménière病、めまいを伴う突発性難聴、外リンパ瘻、内耳炎など)であり、伴わないのは前庭系だけが障害される疾患(前庭神経炎、良性発作性頭位めまい症など)である。本例は一側の感音難聴と耳鳴りを伴うので、前者に絞られる。 次に、難聴の種類を確認する。鼓膜正常で感音難聴であることから、中耳疾患(伝音難聴をきたす)は否定的である。 残る候補のうち、Ménière病は本来めまい発作を反復する疾患だが、すべての患者に必ず「最初の1回」がある。初回発作の段階では、めまいを伴う突発性難聴と臨床的に区別できないことが多い。また Ménière病の難聴は典型的には低音障害型だが、全音域に及ぶ型を示すこともある。したがって、現時点では両者のいずれも考えられ、経過(発作の反復、聴力の変動)を追って鑑別していくことになる。
設問の考え方
「回転性めまい+一側感音難聴・耳鳴り+鼓膜正常+初回発作」という組み合わせを満たす疾患を2つ選ぶ。蝸牛症状を欠く疾患と、伝音難聴・鼓膜異常をきたす疾患を除外すればよい。
選択肢考察
- ○a. Ménière病
内リンパ水腫(内耳の内リンパ腔が過剰な内リンパ液で膨張した状態)を病態とし、回転性めまい発作に一側の感音難聴・耳鳴り・耳閉感を伴う。めまい発作は通常10分程度から数時間持続し、これを反復するのが特徴である。難聴は初期には低音障害型で変動しやすく、発作を重ねると全音域に進行していくが、初回から水平型に近い難聴を示すこともある。本例は初回発作であるため確定診断(反復発作が必要)はできないが、症状・所見は Ménière病の初回発作として矛盾せず、考えられる疾患に含まれる。
- ×b. 前庭神経炎
前庭神経の障害(ウイルス感染の関与が推定される)により、突然の激しい回転性めまいが起こり、通常1日以上、数日にわたって持続する。上気道感染が先行することがある。障害は前庭神経に限られるため、難聴や耳鳴りなどの蝸牛症状は伴わないのが原則である。本例では左難聴と耳鳴りがあり、合致しない。
- ○c. 突発性難聴
明らかな原因なく突然発症する一側性(まれに両側)の高度感音難聴で、耳鳴りや耳閉感を伴うことが多い。障害が前庭にも及ぶと回転性めまいを伴い、患者の約3〜4割でめまいを合併するとされる。めまいは通常1回限りで反復しない点が Ménière病との違いである。「起床時に気づく」発症様式もよくみられる。本例は突然の一側感音難聴・耳鳴り・めまいの初回エピソードであり、考えられる疾患に含まれる。なお、めまいを伴う例は聴力予後が不良な傾向がある。
- ×d. 真珠腫性中耳炎
中耳腔に角化扁平上皮が増殖して真珠腫を形成し、周囲の骨を破壊しながら進展する疾患である。耳漏や鼓膜の陥凹・穿孔などの鼓膜異常を伴い、耳小骨の破壊により主に伝音難聴をきたす。外側半規管が破壊されて瘻孔ができると回転性めまいを、顔面神経管が侵されると顔面神経麻痺を生じうる。本例は鼓膜が正常で耳漏・顔面神経麻痺もなく、難聴も感音性であるため否定的である。
- ×e. 良性発作性頭位めまい症
耳石器(卵形嚢)から剥がれた耳石が半規管内に迷入することで、寝返りや起き上がりなど特定の頭位変換を契機に回転性めまいが起こる疾患である。めまいの持続は数十秒程度(通常1分以内)と短く、頭位を変えるたびに繰り返し誘発される。頭位によって出現・方向が変化する眼振が特徴である。前庭系のみの障害であり、難聴・耳鳴りは伴わないため、本例とは合致しない。起床時に発症する点は共通するが、蝸牛症状の有無で区別できる。
めまいを主訴とする末梢性(内耳性)疾患の比較
・Ménière病:めまい持続は10分程度〜数時間、反復する。蝸牛症状あり(低音障害型感音難聴、変動・進行)。病態は内リンパ水腫。グリセロールテストなどで内リンパ水腫を推定する。 ・めまいを伴う突発性難聴:めまいは1回のみ、数時間〜数日。蝸牛症状あり(突然の高度感音難聴)。治療はステロイドを中心とし、発症早期の治療開始が望ましい。 ・前庭神経炎:めまい持続は1日以上(数日)、反復しない。蝸牛症状なし。温度刺激検査(カロリックテスト)で患側の半規管機能低下を認める。 ・良性発作性頭位めまい症:めまい持続は数十秒(1分以内)、頭位変換で反復誘発。蝸牛症状なし。めまい疾患の中で最も頻度が高い。Dix-Hallpike法などの頭位変換眼振検査で診断し、Epley法などの頭位治療(浮遊耳石置換法)が有効。 ・外リンパ瘻:鼻かみ、いきみ、気圧変化、外傷などを契機に発症し、めまいと感音難聴をきたす。
難聴の種類の見分け方(オージオグラム)
・伝音難聴:骨導閾値は正常で、気導閾値のみ上昇(気骨導差あり)。外耳・中耳疾患(中耳炎、真珠腫、耳硬化症など)。 ・感音難聴:気導・骨導ともに同程度に上昇(気骨導差なし)。内耳〜後迷路の障害。 ・混合難聴:両者の要素をもつ。
中枢性めまいとの区別
一側の難聴を伴うめまいであっても、聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)や脳幹・小脳の血管障害(前下小脳動脈領域の梗塞は難聴を伴うことがある)を見逃さないよう、神経学的所見の確認や必要に応じた MRI 検査が重要である。
POINT
・めまいの鑑別は「蝸牛症状(難聴・耳鳴り)の有無」と「持続時間・反復性」で整理する。 ・蝸牛症状あり:Ménière病、めまいを伴う突発性難聴(+外リンパ瘻など)。 ・蝸牛症状なし:前庭神経炎、良性発作性頭位めまい症。 ・Ménière病の初回発作とめまいを伴う突発性難聴は、初回の時点では区別が難しい。反復すれば Ménière病を考える。 ・鼓膜正常+感音難聴なら中耳疾患(真珠腫性中耳炎など)は否定的。
