「味がしない」の陰に亜鉛あり―微量元素と症状を一対一で結ぶ
第102回医師国家試験 E問題 第30問
国試問題にチャレンジ
味覚障害を起こすのはどれか。
- a.亜鉛欠乏
- b.マンガン中毒
- c.カルシウム欠乏
- d.マグネシウム欠乏
- e.アルミニウム中毒
対話形式の解説
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ドクターまとめ
味細胞は短い周期で入れ替わり、その再生には亜鉛を補因子とする酵素群が必要なため、亜鉛欠乏は味覚障害の代表的な原因となります。薬剤による亜鉛キレートも多く、内服薬の確認と血清亜鉛値の測定が診療の基本で、治療は亜鉛製剤の投与で効果判定には数か月を要します。亜鉛欠乏ではほかに開口部周囲・四肢末端の皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延、免疫低下もみられます。一方、マンガン中毒はParkinson症候群、カルシウム欠乏はくる病・骨軟化症やテタニー、マグネシウム欠乏はテタニーや不整脈と低カルシウム血症の合併、アルミニウム中毒は透析脳症や骨軟化症を起こします。元素と症状を一対一で結びつけておくことは、中心静脈栄養管理や高齢者診療で欠乏症を見抜く力に直結します。
解答・解説
正解はaです
本問は、微量元素・電解質の過不足によって生じる代表的な症状を問う一般問題である。 味覚は、舌や軟口蓋に分布する味蕾(みらい)の味細胞が化学物質を受容し、鼓索神経(顔面神経の枝)・舌咽神経・迷走神経を経て中枢へ伝えられることで成立する。味細胞は約10日前後の短い周期で入れ替わる細胞であり、その新生には核酸・蛋白合成に関わる酵素群が必要で、これらの多くが亜鉛を補因子として要求する。したがって亜鉛が不足すると味細胞の再生が滞り、味覚低下・異味症(本来と異なる味に感じる)・自発性異常味覚(何も口にしていないのに苦味などを感じる)などが生じる。 一方、選択肢に挙がる他の元素・電解質は、それぞれ神経系・骨・筋・心臓などに特徴的な障害を起こすが、味覚障害の代表的原因とはされない。「元素ごとに典型的な障害臓器・症状を一対一で結びつけて覚えておく」ことが正解を導く考え方となる。
選択肢考察
- ○a. 亜鉛欠乏
亜鉛は味細胞の新陳代謝(DNA・RNA合成や細胞分裂)に関わる多数の酵素の補因子であり、欠乏すると味細胞の再生が障害されて味覚障害を起こす。わが国の味覚障害の原因として、亜鉛欠乏性および薬剤性(薬剤の亜鉛キレート作用による二次的な亜鉛欠乏を含む)が大きな割合を占める。亜鉛欠乏ではほかに、口周囲・顔面・会陰部など開口部周囲や四肢末端の皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延、下痢、免疫能低下、小児の成長障害、性腺機能低下、うつ・無気力などの精神症状がみられる。長期の中心静脈栄養、慢性腸疾患、肝硬変、慢性腎臓病、高齢者の偏食などが背景となる。
- ×b. マンガン中毒
マンガンは大脳基底核(特に淡蒼球)に蓄積しやすく、中毒ではParkinson症候群(筋固縮、無動、小刻み歩行など)やジストニアといった錐体外路症状を呈する。初期には情緒不安定・易刺激性・幻覚などの精神症状(いわゆる「マンガン狂」)がみられることもある。鉱山・溶接作業者の職業性曝露や、長期中心静脈栄養でのマンガン過剰投与、肝不全(胆汁排泄障害)が原因となり、頭部MRI T1強調像で淡蒼球の高信号が特徴である。味覚障害の原因ではない。
- ×c. カルシウム欠乏
慢性的なカルシウム不足(ビタミンD不足を伴うことが多い)では骨の石灰化が障害され、小児ではくる病、成人では骨軟化症をきたす。低カルシウム血症となると神経・筋の興奮性が高まり、テタニー、口周囲や手指のしびれ、Trousseau徴候・Chvostek徴候、けいれんがみられ、心電図ではQT延長を示す。味覚障害は典型的な症状ではない。
- ×d. マグネシウム欠乏
低マグネシウム血症では神経筋の興奮性亢進による振戦・テタニー・けいれん、筋力低下、不整脈(QT延長、torsades de pointesなど)がみられる。さらにマグネシウム欠乏は副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌と作用を障害するため低カルシウム血症を合併しやすく、低カリウム血症(腎からのK喪失)も伴いやすい。重症では意識障害を呈する。味覚障害の原因とはされない。
- ×e. アルミニウム中毒
アルミニウムは腎から排泄されるため、腎不全患者(特にかつてのアルミニウム含有リン吸着薬の使用や、アルミニウムを含む透析液の使用)で蓄積しやすい。骨の石灰化前線に沈着して骨軟化症(アルミニウム骨症)を、脳に蓄積して言語障害・ミオクローヌス・認知機能低下などを示す透析脳症(アルミニウム脳症)を起こす。小球性貧血もみられる。味覚障害の原因ではない。
味覚障害の主な原因
・亜鉛欠乏性:偏食、吸収障害、慢性疾患に伴う低亜鉛血症 ・薬剤性:降圧薬、抗菌薬、抗腫瘍薬、抗甲状腺薬(チアマゾール)、D-ペニシラミンなど。薬剤が亜鉛とキレートを形成して亜鉛欠乏をきたすものが多い ・特発性:明らかな原因を特定できないもの(潜在的な亜鉛欠乏が含まれるとされる) ・全身疾患性:糖尿病、肝疾患、腎不全、甲状腺機能低下症など ・感冒後・ウイルス感染後(COVID-19を含む) ・口腔疾患:舌炎、口腔乾燥(Sjögren症候群など)、口腔カンジダ症 ・神経障害:中耳手術や中耳炎による鼓索神経障害、顔面神経麻痺(Bell麻痺など)、脳血管障害 ・心因性
味覚の神経支配
・舌の前2/3:鼓索神経(顔面神経) ・舌の後1/3:舌咽神経 ・軟口蓋:大錐体神経(顔面神経) ・咽頭・喉頭蓋:迷走神経
味覚障害の検査・治療
電気味覚検査や濾紙ディスク法で味覚閾値を評価し、血清亜鉛値を測定する。亜鉛欠乏が疑われる場合は亜鉛製剤(酢酸亜鉛やポラプレジンクなど)を投与し、効果判定には数か月を要する。原因薬剤があれば可能な範囲で中止・変更する。
微量元素・電解質の異常と代表的症状の整理
・亜鉛欠乏:味覚障害、開口部周囲・四肢末端の皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延、免疫低下、成長障害 ・銅欠乏:貧血、好中球減少、脊髄障害(Menkes病は先天性銅吸収障害) ・セレン欠乏:心筋症(克山病)、筋痛・筋力低下、爪の白色化 ・クロム欠乏:耐糖能異常 ・マンガン中毒:Parkinson症候群、精神症状 ・アルミニウム中毒:透析脳症、骨軟化症、小球性貧血 ・カルシウム欠乏:くる病・骨軟化症、テタニー、QT延長 ・マグネシウム欠乏:テタニー、不整脈、低カルシウム血症・低カリウム血症の合併
POINT
・味覚障害の最重要原因は亜鉛欠乏であり、薬剤性(亜鉛キレート作用)も多い。 ・亜鉛欠乏の三大イメージ:味覚障害、皮膚炎(開口部周囲・四肢末端)、創傷治癒遅延・免疫低下。 ・長期中心静脈栄養では亜鉛・銅・セレンなど微量元素欠乏に注意する。 ・マンガン中毒=Parkinson症候群、アルミニウム中毒=透析脳症・骨軟化症と一対一で覚える。
