StudyMed医師国家試験

「味がしない」の陰に亜鉛あり―微量元素と症状を一対一で結ぶ

第102回医師国家試験 E問題 第30問

国試問題にチャレンジ

第102回 E問題 第30問

味覚障害を起こすのはどれか。

  1. a.亜鉛欠乏
  2. b.マンガン中毒
  3. c.カルシウム欠乏
  4. d.マグネシウム欠乏
  5. e.アルミニウム中毒

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、微量元素や電解質の過不足がそれぞれどんな症状を起こすかを問う問題だ。味覚障害というキーワードから、どの元素が味を感じる仕組みに関わっているかを考えてみよう。まず、味はどうやって感じているか覚えているかな。
医学生医学生
舌の味蕾にある味細胞が受容して、前2/3は鼓索神経、後ろ1/3は舌咽神経で伝わる、と神経解剖で習いました。
ドクタードクター
その通り。軟口蓋は大錐体神経、咽頭や喉頭蓋は迷走神経も担当している。ここで大事なのは、味細胞がおよそ10日前後という短い周期で入れ替わる細胞だということ。新しい細胞をつくり続けるには、DNAやRNA、蛋白の合成に関わる酵素が欠かせない。その酵素の多くが補因子として必要とする元素は何だろう。
医学生医学生
亜鉛ですね。生化学で亜鉛酵素がたくさん出てきました。
ドクタードクター
正解。亜鉛が足りないと味細胞の再生が追いつかず、味が薄く感じる味覚低下、本来と違う味に感じる異味症、何も食べていないのに苦味を感じる自発性異常味覚などが起こる。日本の味覚障害の原因でも、亜鉛欠乏性と薬剤性が大きな割合を占めるんだ。
医学生医学生
薬剤性というのは、薬そのものが味細胞を傷つけるんですか。
ドクタードクター
そういう機序もあるけれど、よく知られているのは薬剤が亜鉛とキレートをつくって、結果的に亜鉛欠乏を招くパターンだ。降圧薬、抗菌薬、抗腫瘍薬、チアマゾール、D-ペニシラミンなどが代表で、高齢者は内服薬が多いから特に注意したい。では残りの選択肢も確認しよう。マンガン中毒は何を起こすかな。
医学生医学生
淡蒼球にたまってParkinson症候群になる、と神経内科の講義で聞きました。
ドクタードクター
よく覚えているね。鉱山や溶接作業での職業性曝露、長期の中心静脈栄養でのマンガン過剰、肝不全での胆汁排泄障害が背景になり、頭部MRIのT1強調像で淡蒼球が高信号になるのが特徴だ。初期には易刺激性や幻覚などの精神症状がみられることもある。味覚とは関係しない。
医学生医学生
カルシウムとマグネシウムは、どちらもテタニーのイメージです。
ドクタードクター
そう、この2つは神経筋の興奮性に関わる。カルシウム欠乏では、慢性的には小児のくる病や成人の骨軟化症、血中濃度が下がればテタニーやしびれ、Trousseau徴候・Chvostek徴候、心電図のQT延長が出る。マグネシウム欠乏も振戦やけいれん、不整脈を起こし、さらにPTHの分泌と作用を障害するので低カルシウム血症を合併しやすい。低カリウム血症も伴いやすいんだ。
医学生医学生
低カルシウム血症がなかなか補正できないときは、マグネシウムも測るべきということですね。
ドクタードクター
まさに臨床で役立つ視点だ。最後にアルミニウム中毒はどうだろう。
医学生医学生
透析の患者さんで問題になると聞いたことがあります。
ドクタードクター
そう。アルミニウムは腎から排泄されるので、腎不全で蓄積しやすい。かつてアルミニウム含有のリン吸着薬や透析液が使われていた時代には、骨軟化症や、言語障害・ミオクローヌス・認知機能低下を示す透析脳症、小球性貧血が問題になった。これも味覚障害の原因ではない。
医学生医学生
元素ごとに障害される臓器を一対一で覚えておけば、迷わず解けますね。
ドクタードクター
その通り。亜鉛欠乏は味覚障害のほかに、口や会陰部など開口部周囲と四肢末端の皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延、免疫能低下、小児の成長障害も起こす。長期の中心静脈栄養、慢性腸疾患、肝硬変、慢性腎臓病、高齢者の偏食などが背景になりやすい。同じく中心静脈栄養では、銅欠乏による貧血や好中球減少、セレン欠乏による心筋症にも気をつけたい。
医学生医学生
耳鼻科の外来で味覚障害の患者さんを診るときは、何を検査するんですか。
ドクタードクター
電気味覚検査や濾紙ディスク法で味覚の閾値を評価し、血清亜鉛値を測る。内服薬の確認も欠かせないし、口腔乾燥や舌炎、中耳手術後の鼓索神経障害、顔面神経麻痺、感冒後といった原因も見落とさないようにする。亜鉛欠乏が疑われれば酢酸亜鉛やポラプレジンクなどの亜鉛製剤を投与するけれど、効果判定には数か月かかるから、焦らず続けてもらうよう説明することが大切だ。

まとめ

味細胞は短い周期で入れ替わり、その再生には亜鉛を補因子とする酵素群が必要なため、亜鉛欠乏は味覚障害の代表的な原因となります。薬剤による亜鉛キレートも多く、内服薬の確認と血清亜鉛値の測定が診療の基本で、治療は亜鉛製剤の投与で効果判定には数か月を要します。亜鉛欠乏ではほかに開口部周囲・四肢末端の皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延、免疫低下もみられます。一方、マンガン中毒はParkinson症候群、カルシウム欠乏はくる病・骨軟化症やテタニー、マグネシウム欠乏はテタニーや不整脈と低カルシウム血症の合併、アルミニウム中毒は透析脳症や骨軟化症を起こします。元素と症状を一対一で結びつけておくことは、中心静脈栄養管理や高齢者診療で欠乏症を見抜く力に直結します。

解答・解説

正解はaです

本問は、微量元素・電解質の過不足によって生じる代表的な症状を問う一般問題である。 味覚は、舌や軟口蓋に分布する味蕾(みらい)の味細胞が化学物質を受容し、鼓索神経(顔面神経の枝)・舌咽神経・迷走神経を経て中枢へ伝えられることで成立する。味細胞は約10日前後の短い周期で入れ替わる細胞であり、その新生には核酸・蛋白合成に関わる酵素群が必要で、これらの多くが亜鉛を補因子として要求する。したがって亜鉛が不足すると味細胞の再生が滞り、味覚低下・異味症(本来と異なる味に感じる)・自発性異常味覚(何も口にしていないのに苦味などを感じる)などが生じる。 一方、選択肢に挙がる他の元素・電解質は、それぞれ神経系・骨・筋・心臓などに特徴的な障害を起こすが、味覚障害の代表的原因とはされない。「元素ごとに典型的な障害臓器・症状を一対一で結びつけて覚えておく」ことが正解を導く考え方となる。

選択肢考察

  1. ○a.  亜鉛欠乏

    亜鉛は味細胞の新陳代謝(DNA・RNA合成や細胞分裂)に関わる多数の酵素の補因子であり、欠乏すると味細胞の再生が障害されて味覚障害を起こす。わが国の味覚障害の原因として、亜鉛欠乏性および薬剤性(薬剤の亜鉛キレート作用による二次的な亜鉛欠乏を含む)が大きな割合を占める。亜鉛欠乏ではほかに、口周囲・顔面・会陰部など開口部周囲や四肢末端の皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延、下痢、免疫能低下、小児の成長障害、性腺機能低下、うつ・無気力などの精神症状がみられる。長期の中心静脈栄養、慢性腸疾患、肝硬変、慢性腎臓病、高齢者の偏食などが背景となる。

  2. ×b.  マンガン中毒

    マンガンは大脳基底核(特に淡蒼球)に蓄積しやすく、中毒ではParkinson症候群(筋固縮、無動、小刻み歩行など)やジストニアといった錐体外路症状を呈する。初期には情緒不安定・易刺激性・幻覚などの精神症状(いわゆる「マンガン狂」)がみられることもある。鉱山・溶接作業者の職業性曝露や、長期中心静脈栄養でのマンガン過剰投与、肝不全(胆汁排泄障害)が原因となり、頭部MRI T1強調像で淡蒼球の高信号が特徴である。味覚障害の原因ではない。

  3. ×c.  カルシウム欠乏

    慢性的なカルシウム不足(ビタミンD不足を伴うことが多い)では骨の石灰化が障害され、小児ではくる病、成人では骨軟化症をきたす。低カルシウム血症となると神経・筋の興奮性が高まり、テタニー、口周囲や手指のしびれ、Trousseau徴候・Chvostek徴候、けいれんがみられ、心電図ではQT延長を示す。味覚障害は典型的な症状ではない。

  4. ×d.  マグネシウム欠乏

    低マグネシウム血症では神経筋の興奮性亢進による振戦・テタニー・けいれん、筋力低下、不整脈(QT延長、torsades de pointesなど)がみられる。さらにマグネシウム欠乏は副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌と作用を障害するため低カルシウム血症を合併しやすく、低カリウム血症(腎からのK喪失)も伴いやすい。重症では意識障害を呈する。味覚障害の原因とはされない。

  5. ×e.  アルミニウム中毒

    アルミニウムは腎から排泄されるため、腎不全患者(特にかつてのアルミニウム含有リン吸着薬の使用や、アルミニウムを含む透析液の使用)で蓄積しやすい。骨の石灰化前線に沈着して骨軟化症(アルミニウム骨症)を、脳に蓄積して言語障害・ミオクローヌス・認知機能低下などを示す透析脳症(アルミニウム脳症)を起こす。小球性貧血もみられる。味覚障害の原因ではない。

味覚障害の主な原因

・亜鉛欠乏性:偏食、吸収障害、慢性疾患に伴う低亜鉛血症 ・薬剤性:降圧薬、抗菌薬、抗腫瘍薬、抗甲状腺薬(チアマゾール)、D-ペニシラミンなど。薬剤が亜鉛とキレートを形成して亜鉛欠乏をきたすものが多い ・特発性:明らかな原因を特定できないもの(潜在的な亜鉛欠乏が含まれるとされる) ・全身疾患性:糖尿病、肝疾患、腎不全、甲状腺機能低下症など ・感冒後・ウイルス感染後(COVID-19を含む) ・口腔疾患:舌炎、口腔乾燥(Sjögren症候群など)、口腔カンジダ症 ・神経障害:中耳手術や中耳炎による鼓索神経障害、顔面神経麻痺(Bell麻痺など)、脳血管障害 ・心因性

味覚の神経支配

・舌の前2/3:鼓索神経(顔面神経) ・舌の後1/3:舌咽神経 ・軟口蓋:大錐体神経(顔面神経) ・咽頭・喉頭蓋:迷走神経

味覚障害の検査・治療

電気味覚検査や濾紙ディスク法で味覚閾値を評価し、血清亜鉛値を測定する。亜鉛欠乏が疑われる場合は亜鉛製剤(酢酸亜鉛やポラプレジンクなど)を投与し、効果判定には数か月を要する。原因薬剤があれば可能な範囲で中止・変更する。

微量元素・電解質の異常と代表的症状の整理

・亜鉛欠乏:味覚障害、開口部周囲・四肢末端の皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延、免疫低下、成長障害 ・銅欠乏:貧血、好中球減少、脊髄障害(Menkes病は先天性銅吸収障害) ・セレン欠乏:心筋症(克山病)、筋痛・筋力低下、爪の白色化 ・クロム欠乏:耐糖能異常 ・マンガン中毒:Parkinson症候群、精神症状 ・アルミニウム中毒:透析脳症、骨軟化症、小球性貧血 ・カルシウム欠乏:くる病・骨軟化症、テタニー、QT延長 ・マグネシウム欠乏:テタニー、不整脈、低カルシウム血症・低カリウム血症の合併

POINT

・味覚障害の最重要原因は亜鉛欠乏であり、薬剤性(亜鉛キレート作用)も多い。 ・亜鉛欠乏の三大イメージ:味覚障害、皮膚炎(開口部周囲・四肢末端)、創傷治癒遅延・免疫低下。 ・長期中心静脈栄養では亜鉛・銅・セレンなど微量元素欠乏に注意する。 ・マンガン中毒=Parkinson症候群、アルミニウム中毒=透析脳症・骨軟化症と一対一で覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。