StudyMed医師国家試験

味がしないのは舌の「入れ替わり」が止まったから―鉄と亜鉛が支える味細胞

第104回医師国家試験 B問題 第36問

国試問題にチャレンジ

第104回 B問題 第36問

欠乏によって味覚障害をきたすのはどれか。2つ選べ。

  1. a.鉄
  2. b.銅
  3. c.亜鉛
  4. d.ヨウ素
  5. e.セレン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、どの微量元素が欠乏すると味覚障害が起こるかを問う問題だ。微量元素の欠乏症はバラバラに覚えがちだけど、まず「味細胞はどんな細胞か」を考えると答えが見えてくる。それぞれの元素の代表的な欠乏症もあわせて整理していこう。
医学生医学生
味覚障害といえば亜鉛、というのはCBTの勉強で何度も見ました。でも、もう一つがすぐに出てきません。
ドクタードクター
亜鉛を挙げられたのは大事な一歩だね。その前に味覚の仕組みを確認しよう。味は舌や軟口蓋の味蕾にある味細胞が受け取り、鼓索神経、舌咽神経、迷走神経を通って中枢に伝わる。この味細胞は約10日前後で入れ替わる、とても新陳代謝の速い細胞なんだ。
医学生医学生
腸の上皮みたいに、どんどん作り直されているんですね。だから細胞分裂に必要な材料が足りないと影響が出やすい、と。
ドクタードクター
その通り。亜鉛は多くの金属酵素の構成成分で、DNAや蛋白の合成を通じて細胞の増殖を支えている。不足すると味蕾での細胞更新が追いつかず、味細胞が減って味覚が低下する。微量元素欠乏による味覚障害の原因としては、亜鉛が最も多いとされているよ。
医学生医学生
亜鉛欠乏ではほかにどんな症状が出ますか。皮膚科の講義で腸性肢端皮膚炎という病名を聞いた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。口の周りや四肢末端、陰部の皮膚炎が特徴で、先天性のものが腸性肢端皮膚炎だ。ほかに脱毛、創傷治癒遅延、小児の成長障害、性腺機能低下、下痢、免疫能低下、嗅覚障害もみられる。原因は食事摂取不足、吸収不良、慢性肝疾患や腎疾患、糖尿病、それにペニシラミンなど亜鉛とキレートを作る薬剤だ。
医学生医学生
では、もう一つは鉄でしょうか。鉄欠乏性貧血で舌がつるつるになると習いました。
ドクタードクター
正解。鉄欠乏では貧血だけでなく上皮の障害が起こる。舌乳頭が萎縮して舌が平滑で赤くなる萎縮性舌炎や口角炎が生じ、これが味覚障害につながる。スプーン状爪、氷を無性に食べたくなる異食症も鉄欠乏の特徴だ。舌炎や食道ウェブによる嚥下障害を伴うものはPlummer-Vinson症候群と呼ばれる。
医学生医学生
鉄と亜鉛はどちらも偏食で不足しそうなので、一緒に欠乏している患者さんもいそうですね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。食事摂取不良や吸収不良という共通の背景から、両者が併存する例は少なくない。では残りを確認しよう。銅はどうかな。鉄と一緒に造血に関わる元素だけど。
医学生医学生
銅も貧血を起こすなら、舌炎を介して味覚障害も起こしそうに思えてしまいます。
ドクタードクター
そう考えたくなるよね。ただ銅欠乏の代表的な症状は、鉄剤に反応しない貧血、好中球減少といった血液異常と、亜急性連合性変性症に似た脊髄障害などの神経症状なんだ。長期の中心静脈栄養、胃切除後、亜鉛の過剰摂取が原因になる。亜鉛が銅の吸収を邪魔するから、亜鉛を補充しすぎると銅欠乏を招くこともある点は臨床で大事だよ。味覚障害は銅欠乏の典型的な症状とはされていない。
医学生医学生
ヨウ素は甲状腺ですよね。欠乏すると甲状腺ホルモンが作れなくて甲状腺腫になる。
ドクタードクター
そう。TSHが上がって甲状腺が腫れ、胎児期・新生児期の重い欠乏はクレチン症の原因になる。ただ海藻をよく食べる日本では欠乏はまれで、むしろ過剰摂取による甲状腺機能低下が問題になることがある。セレンはどうだろう。
医学生医学生
セレンは克山病、心筋症のイメージです。
ドクタードクター
その通り。セレンはグルタチオンペルオキシダーゼなど抗酸化酵素の構成成分で、欠乏すると心筋症や筋肉痛・筋力低下、爪の白色化、大球性貧血などが起こる。長期の中心静脈栄養や経腸栄養で問題になる元素だね。
医学生医学生
整理すると、味覚障害は亜鉛と鉄、銅は血液と神経、ヨウ素は甲状腺、セレンは心筋、という対応ですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、味覚障害の原因全体も押さえておこう。亜鉛欠乏性のほかに、薬剤性、糖尿病・肝疾患・腎疾患・甲状腺機能低下症などの全身疾患性、感冒後、口腔乾燥症やカンジダ症などの口腔疾患、顔面神経麻痺や中耳手術での鼓索神経障害がある。ビタミンB12などのビタミン欠乏も舌炎を介して味覚障害を起こす。
医学生医学生
耳鼻咽喉科の臨床実習で、濾紙に試薬をしみ込ませて舌に置く検査を見学しました。
ドクタードクター
濾紙ディスク法だね。甘味・塩味・酸味・苦味を部位ごとに調べられる。ほかに電気味覚検査もある。そして血清亜鉛値を測り、低ければ亜鉛製剤で補充する。血清亜鉛が正常範囲でも、補充で改善する例があることは覚えておきたい。高齢者では食欲低下や多剤服用が重なって味覚障害が起こりやすく、味がしないことで食事量がさらに減る悪循環にもつながるから、軽く見ないことが大切だよ。

まとめ

味細胞は約10日前後で入れ替わる新陳代謝の速い細胞であり、細胞増殖に必要な栄養素が不足すると味覚障害が起こりやすくなります。微量元素欠乏による味覚障害の代表は亜鉛欠乏で、皮膚炎・脱毛・創傷治癒遅延なども伴い、鉄欠乏も萎縮性舌炎を介して味覚障害をきたします。一方、銅欠乏は鉄剤不応性貧血・好中球減少・脊髄障害、ヨウ素欠乏は甲状腺腫・クレチン症、セレン欠乏は心筋症(克山病)が代表的です。臨床では濾紙ディスク法などで味覚を評価し、血清亜鉛を確認して補充を検討しますが、亜鉛の過剰補充は銅欠乏を招く点にも注意が必要です。微量元素を「欠乏でどの臓器が障害されるか」で系統的に整理しておくと、栄養管理や原因不明の症状に出会ったときの鑑別に役立ちます。

解答・解説

正解はa, cです

味覚は、舌や軟口蓋などにある味蕾の中の味細胞が味物質を受け取り、その情報が鼓索神経(顔面神経の枝)・舌咽神経・迷走神経を介して中枢へ伝えられることで生じる。味細胞は約10日前後という短い周期で入れ替わる、細胞分裂の非常に盛んな細胞である。そのため、細胞の増殖や代謝に必要な栄養素が不足すると、味細胞の再生が追いつかず味覚障害が起こりやすい。 微量元素のなかで味覚障害の原因として最も重要なのは亜鉛である。亜鉛は多くの酵素の構成成分で、DNA・蛋白合成を通じて味細胞の新生に不可欠である。鉄も欠乏すると口腔粘膜・舌乳頭の萎縮(舌炎)を生じ、味覚障害の原因となる。鉄欠乏と亜鉛欠乏は、偏食や吸収不良など共通の背景から併存することも多い。なお、微量元素以外ではビタミンB12などのビタミン欠乏も舌炎を介して味覚障害をきたす。 本問は、各微量元素の欠乏症を系統的に整理しておけば、味覚障害が典型的な症状として挙がるのは鉄と亜鉛であると判断できる。

選択肢考察

  1. ○a.  鉄

    鉄欠乏では、小球性低色素性貧血に加えて、上皮組織の障害による症状が出現する。舌乳頭が萎縮して舌が平滑・発赤する萎縮性舌炎や口角炎が生じ、味覚障害の原因となる。そのほか、スプーン状爪(匙状爪)、嚥下困難(鉄欠乏性貧血に舌炎・食道ウェブによる嚥下障害を伴うものをPlummer-Vinson症候群という)、氷などを無性に食べたくなる異食症もみられる。亜鉛欠乏と同様に食事摂取不良を背景とすることが多く、両者が併存する例もある。

  2. ×b.  銅

    銅はセルロプラスミンやシトクロムcオキシダーゼ、スーパーオキシドジスムターゼなどの酵素の構成成分であり、鉄の利用(造血)や神経機能、結合組織の形成に関与する。欠乏すると、貧血(鉄剤に反応しない)、好中球減少、汎血球減少といった血液異常、脊髄障害(亜急性連合性変性症に似た歩行障害や感覚障害)、視神経障害などの神経症状、小児では骨の発育異常をきたす。長期の中心静脈栄養や胃切除後、亜鉛の過剰摂取(亜鉛が銅の吸収を阻害する)が原因となる。先天的な銅吸収障害としてMenkes病がある。味覚障害は銅欠乏の代表的な症状とはされていない。

  3. ○c.  亜鉛

    亜鉛欠乏は、微量元素欠乏による味覚障害の原因として最も頻度が高い。亜鉛は多数の酵素(金属酵素)の活性に必要で、DNA・蛋白合成を介して細胞の増殖を支えている。味細胞は新陳代謝が速いため、亜鉛が不足すると味蕾での細胞更新が障害され、味蕾・味細胞の減少によって味覚が低下する。亜鉛欠乏ではほかに、皮膚炎(口囲・四肢末端・陰部の皮疹。先天性のものは腸性肢端皮膚炎)、脱毛、創傷治癒遅延、小児の成長障害、性腺機能低下、下痢、免疫能低下、嗅覚障害などがみられる。原因としては、食事摂取不足、吸収不良、慢性肝疾患・腎疾患、糖尿病のほか、亜鉛とキレートを形成する薬剤(ペニシラミンなど)の服用が知られる。治療は亜鉛の補充である。

  4. ×d.  ヨウ素

    ヨウ素は甲状腺ホルモン(サイロキシン〈T4〉、トリヨードサイロニン〈T3〉)の構成成分である。欠乏すると甲状腺ホルモンの合成が低下し、TSH(甲状腺刺激ホルモン)の分泌が亢進して甲状腺が腫大する(単純性甲状腺腫、地方病性甲状腺腫)。胎児期・新生児期の重度の欠乏はクレチン症(知能障害・発育障害)の原因となる。海藻を多く摂取する日本では欠乏はまれで、むしろ過剰摂取による甲状腺機能低下が問題となる。味覚障害の原因ではない。

  5. ×e.  セレン

    セレンはグルタチオンペルオキシダーゼなどの抗酸化酵素の構成成分であり、欠乏すると酸化ストレスによる細胞障害が生じる。代表的な症状は心筋症(中国の土壌セレン欠乏地域でみられる克山病〈Keshan病〉が有名)、骨格筋の障害による筋肉痛・筋力低下、爪の白色化、毛髪の変化、大球性貧血などである。長期の中心静脈栄養や経腸栄養で生じることがある。発癌リスクとの関連も報告されている。味覚障害は典型的な症状ではない。

主な微量元素と欠乏症の整理

・鉄: 小球性低色素性貧血、萎縮性舌炎、口角炎、匙状爪、異食症、Plummer-Vinson症候群、味覚障害 ・亜鉛: 味覚障害、皮膚炎(腸性肢端皮膚炎)、脱毛、創傷治癒遅延、成長障害、性腺機能低下、免疫能低下、下痢 ・銅: 貧血(鉄剤不応性)、好中球減少、脊髄障害・神経障害、骨の異常。先天性はMenkes病(なお、銅の蓄積症はWilson病) ・ヨウ素: 甲状腺腫、甲状腺機能低下症、クレチン症 ・セレン: 心筋症(克山病)、筋障害、爪の白色変化、大球性貧血 ・クロム: 耐糖能異常 ・マンガン: 成長障害、骨代謝異常(欠乏はまれ) ・モリブデン: 頻脈、中枢神経症状(長期静脈栄養でまれに生じる)

味覚障害の原因

・亜鉛欠乏性(食事性): 最も多い原因の一つ ・薬剤性: 亜鉛とキレートを形成する薬剤などによる ・全身疾患性: 糖尿病、肝疾患、腎疾患、甲状腺機能低下症など ・特発性: 明らかな原因が不明のもので、潜在的な亜鉛欠乏が関与している例もある ・感冒後・感染症: ウイルス感染による嗅覚障害に伴う風味障害を含む ・心因性、口腔疾患(口腔乾燥症、舌炎、カンジダ症)、神経疾患(顔面神経麻痺、中耳手術による鼓索神経障害など) ・ビタミン欠乏: ビタミンB12、B2など(舌炎を介する)

検査と治療

・味覚検査として、電気味覚検査や、濾紙に甘味・塩味・酸味・苦味の試薬をしみ込ませて舌に置く濾紙ディスク法がある。 ・血清亜鉛値を測定し、低値であれば亜鉛製剤で補充する。血清亜鉛値が正常範囲でも亜鉛補充で改善する例がある。

POINT

・味細胞は新陳代謝が速く、亜鉛・鉄など細胞増殖に必要な栄養素の欠乏で味覚障害を起こしやすい。 ・微量元素欠乏による味覚障害の代表は亜鉛欠乏。鉄欠乏も舌炎を介して味覚障害をきたす。 ・銅欠乏は貧血・好中球減少・神経障害、ヨウ素欠乏は甲状腺腫・甲状腺機能低下症、セレン欠乏は心筋症(克山病)と対応づけて覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。