「やめたい」はどこにある?―禁煙外来の第一歩は薬ではなく意志の確認
第110回医師国家試験 A問題 第51問
国試問題にチャレンジ
22歳の男性。友人に勧められて禁煙外来を受診した。喫煙歴は20歳から毎日10本程度。自分で禁煙を何度か試みたがうまくいかないという。現在,大学に通っており,既往歴に特記すべきことはない。 次に実施すべきなのはどれか。
- a.もう一度禁煙を試みてうまくいかなければ再受診するよう指示する。
- b.喫煙歴が短いため禁煙外来の対象にならないと説明する。
- c.情報提供を行い禁煙の意志を確認する。
- d.禁煙外来を勧めた友人に連絡する。
- e.ニコチン補充療法を開始する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクターまとめ
禁煙外来の初診では、喫煙の害や禁煙の利益、治療の流れ・費用などの情報を提供したうえで、本人の禁煙の意志を確認することが出発点となります。禁煙の意志は治療成功の最大の要因であり、保険診療の条件(TDS 5点以上、35歳以上ではBrinkman指数200以上、直ちに禁煙する意志、文書による同意)にも含まれるため、意志を確かめる前にニコチン補充療法などの薬物療法を始めるべきではありません。自力での禁煙に失敗している人を先送りしたり、喫煙歴が短いことを理由に断ったりする対応は不適切で、本人の同意なく第三者に連絡することは守秘義務の点でも問題です。行動変容ステージモデルや5Aアプローチを理解しておくと、外来・病棟を問わず患者さんの段階に合わせた禁煙支援ができるようになります。
解答・解説
正解はcです
状況の整理
・22歳の大学生の男性で、20歳から1日10本程度をたばこを吸っている。自分で何度か禁煙を試みたがうまくいかなかった。 ・禁煙外来の受診は友人に勧められたためで、本人が自分からやめたいと強く思って来たのかはまだわからない。 ・既往歴に特記すべきことはなく、喫煙による病気がすでにあるわけではない。
考え方
禁煙治療を成功させるうえで最も大事なのは、本人の「やめたい」という気持ち(禁煙の意志)である。禁煙の補助薬は離脱症状(イライラ、集中できない、強い喫煙欲求など)を和らげるが、意志がないまま薬だけを使ってもうまくいかない。また、保険を使った禁煙治療(ニコチン依存症管理料の算定)には、「直ちに禁煙しようと考えていること」と「禁煙治療を受けることに文書で同意していること」が条件として含まれている。 そのため、初めて受診した人には、まず喫煙の害、禁煙のメリット、禁煙外来の治療内容(期間、使う薬、費用、保険が使えるかどうか)などを説明する。そのうえで、本人が今すぐ禁煙する気があるかを確認し、意志があれば治療を始める。意志が固まっていなければ、禁煙の動機を高めるはたらきかけを行う。 本例は自力での禁煙に何度も失敗しており、ニコチン依存の状態にあると考えられる。医療者の支援を受けるよい機会であり、追い返したり先送りしたりせず、上記の手順で対応する。
選択肢考察
- ×a. もう一度禁煙を試みてうまくいかなければ再受診するよう指示する。
不適切。本人はすでに何度も自力で禁煙を試みて失敗しており、ニコチン依存のため自分の力だけでやめるのは難しい状態である。禁煙補助薬とカウンセリングを組み合わせた治療を受けると、自力で禁煙するよりも成功率が高くなることがわかっている。受診したこの機会に支援を始めるべきで、もう一度自力で試させて先送りする理由はない。
- ×b. 喫煙歴が短いため禁煙外来の対象にならないと説明する。
不適切。禁煙外来は喫煙歴の長さに関係なく、禁煙を望むすべての喫煙者が利用できる。保険の条件をみても、2016年度の診療報酬改定で、Brinkman指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)200以上という条件は35歳以上の人だけに適用されることになった。35歳未満の本例では喫煙本数や年数は問われず、ほかの条件を満たせば保険で治療を受けられる。仮に保険の条件を満たさない場合でも自費で禁煙治療を受けることはでき、受診者を門前払いする理由にはならない。また、若いうちに禁煙するほど健康上の利益は大きい。
- ○c. 情報提供を行い禁煙の意志を確認する。
適切。友人に勧められて受診した本人に、喫煙の害、禁煙による利益、禁煙外来の治療の流れ(標準的には12週間で5回の診察)、使える禁煙補助薬、費用や保険の条件などを説明し、そのうえで今すぐ禁煙するつもりがあるかを確認する。禁煙の意志は治療がうまくいくための最も大切な要素であり、保険で禁煙治療を行う際の条件でもある。意志を確かめてから治療を始めるのが正しい順番である。
- ×d. 禁煙外来を勧めた友人に連絡する。
不適切。治療を受けるかどうかを決めるのは患者本人であり、友人に連絡しても診療を進めるうえで意味はない。また、本人の同意なく第三者に受診の事実などを伝えることは、医師の守秘義務や個人情報保護の観点から問題となる。
- ×e. ニコチン補充療法を開始する。
今の時点では不適切。ニコチン補充療法(ニコチンパッチやニコチンガムでニコチンを補い、離脱症状を和らげながら量を減らしていく方法)は、禁煙治療で使われる有効な薬物療法である。しかし、禁煙の意志を確認し、治療の内容を説明して同意を得る前に始めるべきではない。意志が固まってから、患者の状態や希望に合わせてニコチン製剤やバレニクリン(ニコチン受容体部分作動薬の内服薬)などを選ぶ。
保険で禁煙治療を受けるための条件(ニコチン依存症管理料の対象患者、2016年度改定後)
①ニコチン依存症のスクリーニングテスト(TDS:Tobacco Dependence Screener)で5点以上であり、ニコチン依存症と診断されること ②35歳以上の場合、Brinkman指数が200以上であること(35歳未満では問わない) ③直ちに禁煙しようと考えていること ④禁煙治療について説明を受け、治療を受けることを文書で同意していること TDSは10項目の質問に「はい」「いいえ」で答える検査で、「はい」1つにつき1点(10点満点)となる。
標準的な禁煙治療の流れ
・12週間で計5回の診察(初回、2週後、4週後、8週後、12週後)を行う。 ・毎回、呼気中の一酸化炭素濃度を測って喫煙していないことを確認し、禁煙を続けるための助言を行う。 ・禁煙補助薬として、ニコチン製剤(パッチ、ガム)やバレニクリンがある。ニコチンパッチは医療用と市販用がある。
短時間の禁煙支援(5Aアプローチ)
・Ask(喫煙状況をたずねる)→Advise(禁煙をはっきり勧める)→Assess(禁煙する気があるかを評価する)→Assist(禁煙を支援する)→Arrange(再診やフォローアップを決める)の5段階で進める。 ・禁煙する気がまだない人には、喫煙のリスクや禁煙のメリットを伝えて動機を高めることを目指す。
行動変容ステージモデル
・無関心期(6か月以内に禁煙する気がない)→関心期(6か月以内に禁煙を考えている)→準備期(1か月以内に禁煙しようと考えている)→実行期(禁煙して6か月未満)→維持期(禁煙して6か月以上)。 ・ステージに合わせて支援の内容を変える。本例のように受診のきっかけが他人の勧めである場合は、まず本人がどのステージにいるかを確認することが出発点となる。
POINT
・禁煙治療の出発点は、情報提供と本人の禁煙の意志の確認である。意志を確かめずに薬物療法を始めない。 ・禁煙外来は喫煙歴の長短にかかわらず受けられる。保険の条件のBrinkman指数200以上は、2016年度改定以降35歳以上のみに適用される。 ・保険適用の条件:TDS 5点以上、35歳以上はBrinkman指数200以上、直ちに禁煙する意志、文書による同意。 ・自力での禁煙に失敗している人は、医療者の支援(カウンセリング+禁煙補助薬)で成功率が上がる。
