言葉が出ない3歳児―「伝わらない」の本質から自閉スペクトラム症を理解する
第110回医師国家試験 A問題 第42問
国試問題にチャレンジ
3歳の男児。言葉が出ないことを主訴に両親に連れられて来院した。運動発達に問題はなかったが,言葉が出てこなかった。診察室では,視線は合わず動き回り,体を前後に揺らし,回転することが多い。積み木を見つけて遊び始めると,集中して1列に並べ始め,親の呼びかけにも振り向かない。運動発達に遅れはなく,聴覚障害の所見は認めない。 この疾患について正しいのはどれか。
- a.偏食はまれである。
- b.言葉の理解は良い。
- c.両親の養育態度が原因である。
- d.症状が出そろうのは青年期である。
- e.自分の意思を伝達することに障害がある。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
言葉の遅れを主訴とする幼児では、まず難聴や全般的な発達の遅れを除外し、視線が合わない・呼びかけに応じないといった社会的コミュニケーションの障害と、常同運動や物を並べるなどの限定された反復的行動がそろえば自閉スペクトラム症を考えます。中核症状の一つは、言語・非言語の両面で自分の意思を相手に伝えることの障害であり、言語発達の遅れを伴う例では言葉の理解にも困難がみられることが多いです。感覚過敏による偏食はよくみられ、原因は親の養育態度ではなく遺伝的要因の大きい神経発達症であり、症状は乳幼児期から現れて典型例では3歳頃までに出そろいます。対応の中心は早期発見と療育・家族支援であり、正しい知識をもって家族の誤解を解くことが、医師として子どもの発達を支える第一歩になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・3歳男児、主訴は言葉が出ないこと(言語発達の遅れ)。 ・運動発達は正常で、聴覚障害もない。したがって、言葉の遅れは難聴や全般的な発達の遅れだけでは説明しにくい。 ・視線が合わない、親の呼びかけに振り向かない:他者と注意や関心を共有することの障害、すなわち対人的相互反応(社会性)の障害を示す。 ・体を前後に揺らす、くるくる回る:常同的・反復的な運動。 ・積み木で遊ぶというより、集中して1列に並べ続ける:物の特定の扱い方へのこだわり、限定された興味。
診断へのプロセス
社会的コミュニケーション・対人的相互反応の障害と、限定された反復的な行動・興味・活動という二つの特徴が幼児期早期から認められ、言語発達の遅れを伴うことから、自閉症(現在の診断名では自閉スペクトラム症:autism spectrum disorder、ASD)と考えられる。鑑別として、難聴(聴覚障害の所見はないことで否定的)、知的能力障害(運動発達が正常で、社会性の障害とこだわりが前景に立つ点が異なる)、表出性の言語障害(対人関係やこだわりの問題は伴わない)、ネグレクトなど養育環境の問題による発達の遅れ(反応性アタッチメント障害など)が挙がる。かつて言語発達の遅れを伴わないものはAsperger症候群として区別されていたが、現在はいずれも自閉スペクトラム症に含まれる。
設問の考え方
自閉症の基本的な特徴(社会性・コミュニケーションの障害、こだわり)、原因の考え方(生物学的要因による神経発達症であり、育て方が原因ではない)、症状が現れる時期(幼児期早期)を正しく理解しているかが問われている。
選択肢考察
- ×a. 偏食はまれである。
自閉症では感覚の過敏さ(特定の食感・におい・色への強い嫌悪)や同一性へのこだわりのため、特定の食品しか食べない、決まった銘柄や調理法でないと食べないといった強い偏食がしばしばみられる。偏食はまれではなく、よくみられる症状である。
- ×b. 言葉の理解は良い。
言語発達の遅れを伴う自閉症では、言葉の表出だけでなく理解にも障害がみられることが多い。言葉で要求を伝えられず、相手の手をつかんで欲しい物のところへ運ばせる「クレーン現象」や、相手の言葉をそのまま繰り返す「反響言語(エコラリア)」もみられる。言語発達の遅れがなかったものはかつてAsperger症候群と呼ばれたが、その場合でも冗談や比喩、言外の意味の理解は苦手である。
- ×c. 両親の養育態度が原因である。
かつては冷淡な養育態度が原因とする説(いわゆる「冷蔵庫マザー」説)が唱えられたが、現在は否定されている。自閉症は遺伝的要因の関与が大きい生まれつきの脳機能の発達の偏り(神経発達症)と考えられており、双生児研究でも高い遺伝率が示されている。親の育て方が原因ではないことを家族に説明することは、診療上も重要である。
- ×d. 症状が出そろうのは青年期である。
自閉症の症状は乳幼児期から現れ、典型例ではおおむね3歳頃までに特徴的な症状が出そろう。かつての診断基準では3歳以前の発症が要件とされ、現在の診断基準(DSM-5)でも症状は発達早期から存在することが求められている。軽症例では、社会的な要求が能力を上回る学童期以降に困難が明らかになることもあるが、症状が青年期に初めて出そろうわけではない。
- ○e. 自分の意思を伝達することに障害がある。
自閉症の中核症状の一つは社会的コミュニケーションの障害である。言葉の遅れに加え、視線を合わせる、指さしをする、身振りや表情を使うといった非言語的コミュニケーションも乏しく、自分の要求や気持ちを相手に伝えることが難しい。本例でも言葉が出ず、視線が合わず、呼びかけに応じないなど、意思の伝達と相互的なやりとりの障害が認められる。
自閉スペクトラム症(ASD)の概要
・神経発達症(発達障害)の一つ。DSM-5(米国精神医学会の診断基準)では、従来の自閉性障害(自閉症)、Asperger障害、特定不能の広汎性発達障害などが「自閉スペクトラム症」として一つにまとめられた。 ・有病率は1〜2%程度と報告され、男児に多い(男女比はおよそ4:1)。 ・知的能力障害を合併する例から、知的に高い例まで幅広い。てんかんの合併も一般人口より多い。注意欠如・多動症(ADHD)を併存することもある。
DSM-5の診断の柱
A.社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応の持続的な障害 ・情緒的な相互関係の障害(会話のやりとりや興味の共有ができない) ・非言語的コミュニケーションの障害(視線が合わない、身振り・表情が乏しい) ・人間関係を発展・維持することの障害(ごっこ遊びができない、友達を作れない) B.限定された反復的な行動・興味・活動(以下のうち2つ以上) ・常同的・反復的な運動、物の使用、会話(体を揺らす、物を一列に並べる、反響言語) ・同一性への固執、習慣へのかたくななこだわり(道順や手順が変わるとパニックになる) ・強度や対象が異常なほど限定された興味 ・感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ(音への過敏、痛みへの無反応、偏食) C.症状は発達早期から存在する D.症状が社会的・職業的機能に意味のある障害を引き起こしている E.知的能力障害や全般的な発達の遅れだけではうまく説明されない
幼児期によくみられる行動
視線が合わない、呼んでも振り向かない、指さしをしない、共同注意(相手と同じ物に注意を向けること)の欠如、クレーン現象、反響言語、一人遊びを好む、物を並べる・回す、手をひらひらさせる、つま先歩き、変化への強い抵抗など。
対応
根本的な薬物治療はなく、早期発見と療育(構造化された環境で視覚的手がかりを用いるTEACCHプログラム、応用行動分析など)、家族支援が中心となる。易刺激性(かんしゃく、自傷など)が強い場合にはリスペリドンやアリピプラゾールなどが用いられることがある。1歳6か月児健診や3歳児健診は早期発見の重要な機会である。
POINT
・自閉症の中核症状は「社会的コミュニケーション・対人相互反応の障害」と「限定された反復的な行動・興味(こだわり)」。 ・視線が合わない、呼びかけに振り向かない、クレーン現象、反響言語、物を一列に並べる、常同運動が典型的。 ・偏食・感覚過敏はしばしばみられる。 ・原因は生物学的(遺伝的要因が大きい)であり、親の養育態度ではない。 ・症状は乳幼児期から現れ、典型例では3歳頃までに出そろう。男児に多い。 ・現在の診断名は自閉スペクトラム症で、Asperger症候群も含まれる。
