StudyMed医師国家試験

透析カテーテル後の発熱と新しい心雑音―血液培養の次に見るべきは「弁」

第110回医師国家試験 A問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第110回 A問題 第23問

75歳の男性。発熱を主訴に来院した。糖尿病腎症による腎不全のため10年前から血液透析療法を受けている。1か月前,内シャントが閉塞し透析を行うためカテーテルを2週間留置した。2週前から食欲不振と微熱が出現し,昨日,血液透析後から悪寒と戦慄とを伴う38℃台の発熱が出てきたため救急外来を受診した。脈拍100/分,不整。血圧100/60 mmHg。今までに認められなかった心尖部を最強点とするⅢ/Ⅵの収縮期雑音を聴取する。血液所見:赤血球320万,Hb 9.0 g/dL,Ht 28%,白血球10,500,血小板9.8万。血液生化学所見:AST 34 IU/L,ALT 9 IU/L,LD 231 IU/L(基準176~353),尿素窒素35 mg/dL,クレアチニン5.0 mg/dL。CRP 14 mg/dL。血液培養の検体を提出した。  次に行う検査はどれか。

  1. a.胸部CT
  2. b.心エコー検査
  3. c.腹部血管造影
  4. d.腹部超音波検査
  5. e.上部消化管内視鏡検査

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、透析患者さんの発熱で次に何の検査をするかを問う問題だ。カギは「菌血症の入り口があるか」と「身体所見が病変のどこを指しているか」の2つ。まず、この患者さんの背景から感染のリスクを考えてみよう。
医学生医学生
血液透析を10年受けていて、しかも最近、透析用のカテーテルを留置していますね。カテーテル感染が心配です。
ドクタードクター
いい着眼点だね。透析患者さんは尿毒症に伴って免疫機能が落ちているうえ、頻回の穿刺やバスキュラーアクセスを介して菌血症を起こしやすい。特に一時的に入れる非カフ型カテーテルは、自己血管の内シャントに比べて血流感染の危険がずっと高いんだ。
医学生医学生
2週間前からの微熱と食欲不振に続いて、透析後に悪寒戦慄が出ているのは、菌血症を起こしているということでしょうか。
ドクタードクター
そう読むのが自然だね。悪寒戦慄を伴う高熱は菌血症を強く示唆するし、その前からだらだら続く微熱は亜急性の持続感染を思わせる。そして最も重要な所見は、これまでなかった心尖部最強点の収縮期雑音が新たに聴こえていることだ。
医学生医学生
循環器の講義で、心尖部の収縮期雑音は僧帽弁閉鎖不全症と習いました。でも高齢の透析患者さんなら、弁の石灰化でもともと雑音があってもおかしくないのでは。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。そこで「今までに認められなかった」という一言が効いてくる。新しく出現した逆流性雑音は、弁尖の穿孔や腱索断裂といった弁の破壊を疑わせる。菌血症の危険因子、持続する発熱、新規の逆流性雑音がそろえば、まず考えるのは感染性心内膜炎だ。
医学生医学生
感染性心内膜炎の診断といえば、修正Duke基準ですね。
ドクタードクター
その通り。大基準の二本柱は「血液培養で典型的な起炎菌が持続的に検出されること」と「心内膜病変の証明」。新規の弁逆流も大基準に含まれる。この患者さんではすでに血液培養が提出されているから、次はもう一方の柱を確かめることになる。
医学生医学生
心内膜病変を直接見るなら、心エコー検査ですね。
ドクタードクター
正解。心エコーでは疣贅の有無や大きさ、可動性を見られるし、カラードプラで僧帽弁逆流の重症度や弁破壊の様子もわかる。非侵襲的でベッドサイドですぐできるのも大きい。まず経胸壁心エコーを行い、描出が不十分なときや弁輪部膿瘍などの合併症を疑うときは、感度の高い経食道心エコーを追加する。
医学生医学生
胸部CTではだめなんですか。救急外来だと発熱の原因検索でCTを撮ることが多い印象があります。
ドクタードクター
通常の胸部CTでは弁の形や逆流はほとんど評価できず、疣贅を見つける力も心エコーに及ばない。心電図同期の心臓CTが弁輪部膿瘍の評価に役立つことはあるけれど、あくまで補助的な位置づけだ。右心系の心内膜炎で敗血症性肺塞栓を探すときなどに使うことはあるね。
医学生医学生
腹部超音波や腹部血管造影は、脾梗塞のような塞栓症を探す目的ならありそうですが。
ドクタードクター
塞栓症の評価としては考えうるけれど、この患者さんには腹痛などの腹部症状がない。腹部超音波では弁の感染は証明できないし、腹部血管造影は侵襲的で造影剤も使う検査だから、今行う理由はない。上部消化管内視鏡も、貧血の原因検索としては考えられるけれど、発熱と新規心雑音という主問題には答えてくれない。
医学生医学生
経食道心エコーも胃カメラのように口から入れますが、目的が全然違うんですね。
ドクタードクター
そう、形は似ていても見ているのは心臓だ。食道は左房のすぐ後ろにあるから、僧帽弁を近くから鮮明に観察できるんだよ。
医学生医学生
臨床実習で循環器内科を回ったとき、心内膜炎の患者さんで血液培養を時間をずらして3セット採っていたのを思い出しました。
ドクタードクター
よく見ていたね。血液培養は抗菌薬を始める前に複数セット採るのが鉄則だ。治療は起炎菌に応じた4〜6週間の静注抗菌薬が基本で、透析患者さんでは黄色ブドウ球菌が多く、急速に重症化しやすい。カテーテル関連の感染なら感染源となったカテーテルの抜去も必要だ。重症心不全、制御困難な感染、塞栓リスクの高い大きく動く疣贅があれば早期手術も検討する。脳塞栓や感染性脳動脈瘤を探すために頭部画像検査を行うことも覚えておこう。

まとめ

血液透析や血管内カテーテル留置といった菌血症の危険因子をもつ患者に、持続する発熱と新たな心雑音が出現した場合は、まず感染性心内膜炎を疑います。心尖部最強点の新規収縮期雑音は、弁破壊による僧帽弁閉鎖不全を示唆する重要な所見です。修正Duke基準の大基準は血液培養での起炎菌の証明と心エコーでの心内膜病変の証明であり、血液培養を提出したら次に行うべきは心エコー検査で、経胸壁で不十分なら経食道心エコーを追加します。胸部CTや腹部の検査、内視鏡では弁の感染を証明できません。治療は長期の静注抗菌薬と感染源カテーテルの抜去が基本で、心不全や塞栓リスクが高ければ早期手術も検討するため、診断の二本柱を早く揃えることがその後の治療方針を左右します。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・背景:75歳男性、糖尿病腎症による末期腎不全で10年来の血液透析。透析患者は尿毒症に伴う免疫機能低下に加え、頻回の血管穿刺やバスキュラーアクセスを介した菌血症を起こしやすい。 ・感染の入り口:1か月前に内シャントが閉塞し、透析用カテーテルを2週間留置している。一時的な非カフ型カテーテルは、自己血管内シャントに比べてカテーテル関連血流感染の危険がはるかに高い。 ・経過:2週前からの食欲不振・微熱(亜急性の持続感染を示唆)に続き、透析後に悪寒戦慄を伴う38℃台の発熱(菌血症を示唆)。 ・身体所見:脈拍100/分で不整(心房細動などの不整脈を疑う)、血圧100/60 mmHgとやや低め。そして「今までになかった」心尖部最強点のⅢ/Ⅵ収縮期雑音が新たに出現している。心尖部の収縮期逆流性雑音は僧帽弁閉鎖不全症(MR)を示し、新規出現であることから弁の破壊(弁尖穿孔や腱索断裂)が疑われる。 ・検査:白血球10,500、CRP 14 mg/dLと強い炎症反応。貧血・血小板減少、BUN・クレアチニン高値は透析患者として説明可能な範囲である。

診断に至る考え方

菌血症の危険因子(透析・血管内カテーテル留置)をもつ患者に、持続する発熱と新規の逆流性心雑音が出現した場合、まず感染性心内膜炎(infective endocarditis:IE)を考える。修正Duke診断基準では、IEの診断の二本柱は「血液培養による典型的起炎菌の持続的検出」と「心エコー検査による心内膜病変(疣贅、弁輪部膿瘍、人工弁の新たな部分的離開)の証明」であり、いずれも大基準に位置づけられている。新規の弁逆流も大基準に含まれる。 本症例ではすでに血液培養が提出されているので、次に行うべきは心内膜病変を直接評価できる心エコー検査である。心エコーでは疣贅の有無・大きさ・可動性、弁逆流の重症度、弁輪部膿瘍などの合併症を評価でき、塞栓リスクや外科手術の適応判断にも直結する。

選択肢考察

  1. ×a.  胸部CT

    通常の胸部CTでは弁の形態や逆流の評価はほとんどできず、疣贅の検出感度も心エコーに及ばない。心電図同期の心臓CTであれば大きな疣贅や弁輪部膿瘍の評価に役立つことがあるが、心エコーの補助的な位置づけであり、最初に行う検査ではない。右心系IEでの敗血症性肺塞栓の検索などには用いられることがある。

  2. ○b.  心エコー検査

    IEが疑われる症例で血液培養と並んで必須の検査である。疣贅の描出は修正Duke基準の大基準を満たす所見であり、カラードプラ法で僧帽弁逆流の程度や弁破壊の状態を評価できる。非侵襲的でベッドサイドで速やかに施行できる。まず経胸壁心エコー(TTE)を行い、描出が不十分な場合や合併症(弁輪部膿瘍など)が疑われる場合には、感度の高い経食道心エコー(TEE)を追加する。

  3. ×c.  腹部血管造影

    上腸間膜動脈閉塞症や消化管出血の出血源同定・塞栓術などに用いる侵襲的検査である。IEに伴う腹部臓器の塞栓や感染性動脈瘤を疑う所見(腹痛など)は本症例になく、敗血症が疑われる状態で造影剤を用いた侵襲的手技を行う理由はない。

  4. ×d.  腹部超音波検査

    肝胆道系感染や腹部実質臓器の病変、脾梗塞などの評価には有用であるが、本症例では腹部症状がなく、発熱と新規心雑音から心臓が病変の主座と考えられる。弁の感染を証明することはできず、優先される検査ではない。

  5. ×e.  上部消化管内視鏡検査

    食道・胃・十二指腸の病変を観察する検査であり、貧血の原因検索としては考慮されうるが、本症例の主問題である発熱と新規心雑音の評価には役立たない。弁膜の感染を証明することはできない(なお経食道心エコーは内視鏡と似た手技であるが、目的も機器も別物である)。

感染性心内膜炎(IE)の概要

弁膜や心内膜に細菌などが付着・増殖し、疣贅(vegetation)を形成する全身性感染症である。疣贅は弁破壊による心不全、塞栓症(脳塞栓・脾梗塞・腎梗塞など)、感染性動脈瘤などの重篤な合併症を起こす。

危険因子

人工弁置換後、IEの既往、先天性心疾患、弁膜症(僧帽弁逸脱症を含む)、血液透析、血管内カテーテル・ペースメーカーなどの留置、静注薬物使用、歯科処置後など。透析患者では黄色ブドウ球菌が起炎菌として多く、急性・重症の経過をとりやすい。

修正Duke診断基準の要点

大基準:①血液培養陽性(典型的起炎菌が2セット以上、または持続的菌血症)、②心内膜病変の証明(心エコーでの疣贅・膿瘍・人工弁の新たな部分的離開、または新規の弁逆流)。 小基準:素因、38.0℃以上の発熱、血管現象(主要動脈塞栓、感染性肺梗塞、感染性動脈瘤、頭蓋内出血、結膜出血、Janeway病変)、免疫学的現象(Osler結節、Roth斑、糸球体腎炎、リウマトイド因子陽性)、大基準を満たさない微生物学的所見。 確定診断:大基準2つ、大基準1つ+小基準3つ、または小基準5つ。

検査の進め方

・血液培養:抗菌薬投与前に、時間をあけて複数セット(通常3セット)採取する。 ・心エコー:まず経胸壁心エコー、必要に応じて経食道心エコー。経食道心エコーは疣贅検出感度が高く、人工弁や弁輪部膿瘍の評価に優れる。 ・頭部画像検査:脳塞栓・感染性脳動脈瘤の評価。

治療

起炎菌に応じた長期間(通常4〜6週)の静注抗菌薬投与。重症心不全、制御困難な感染(膿瘍など)、大きく可動性のある疣贅による塞栓リスクの高い例では早期手術を考慮する。カテーテル関連の場合は感染源となったカテーテルを抜去する。

POINT

・菌血症の危険因子(透析、血管内カテーテル留置など)+持続する発熱+新規の心雑音 → 感染性心内膜炎を疑う。 ・心尖部最強点の新規収縮期雑音 → 弁破壊による急性僧帽弁閉鎖不全を示唆。 ・IE診断の二本柱は「血液培養」と「心エコー(疣贅の証明)」で、どちらも修正Duke基準の大基準。 ・血液培養の次は心エコー。経胸壁心エコーで不十分なら経食道心エコーを行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。