StudyMed医師国家試験

顔のぶつぶつと発作は一本の線でつながる―結節性硬化症を「過誤腫」で理解する

第110回医師国家試験 A問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第110回 A問題 第15問

結節性硬化症でみられるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.てんかん
  2. b.脊柱側彎
  3. c.聴覚障害
  4. d.血管線維腫
  5. e.性腺機能低下

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、神経皮膚症候群の一つである結節性硬化症の特徴的な所見を選ぶ問題だ。ポイントは2つ。古典的な3主徴を思い出せるかどうかと、ほかの選択肢が「どの疾患の顔なのか」を整理できているかどうか。まず、結節性硬化症の3主徴は言えるかな。
医学生医学生
Vogtの3主徴で、顔面の血管線維腫、てんかん、知的障害だったと思います。
ドクタードクター
正解。それを思い出せれば、答えはてんかんと血管線維腫の2つになる。でも、なぜそういう症状が出るのかを理解しておくと、ほかの臓器病変までまとめて覚えられる。原因遺伝子は何だったかな。
医学生医学生
TSC1とTSC2です。遺伝形式は常染色体顕性だったはずですが、家族歴のない患者さんも多いと聞きました。
ドクタードクター
よく知っているね。多くは新生突然変異による孤発例だ。TSC1はハマルチン、TSC2はチュベリンをコードしていて、この2つは複合体を作ってmTOR経路にブレーキをかけている。変異でブレーキが外れるとmTORが過剰に働き、全身の臓器に過誤腫ができる。過誤腫とは、その臓器にもともとある組織が無秩序に増えた良性病変のことだ。
医学生医学生
病理学の講義で過誤腫は腫瘍と奇形の中間のようなもの、と習いました。脳にできるとてんかんになるわけですね。
ドクタードクター
その通り。大脳の皮質・皮質下結節がてんかんの焦点になる。結節性硬化症の患者さんの大部分にてんかんがみられ、最も頻度の高い神経症状だ。特に乳児期にはWest症候群で発症することが多い。
医学生医学生
小児科の実習で、West症候群の赤ちゃんを診たときに、指導医の先生がまず皮膚に白斑がないか確認していたのを思い出しました。
ドクタードクター
鋭い観察だね。葉状白斑は乳児期から認められ、最も早く気づかれやすい皮膚所見なんだ。ウッド灯を当てると見つけやすい。一方、顔面の血管線維腫は幼児期から学童期に、鼻の周りから両頬に左右対称性の小さな紅色丘疹として出てきて、思春期にかけて目立ってくる。
医学生医学生
昔は脂腺腫と呼ばれていたと教科書に書いてありました。皮脂腺の腫瘍ではないんですか。
ドクタードクター
そこはよく誤解される点だ。組織学的には皮脂腺の腫瘍ではなく、血管と線維性結合組織が増えた過誤腫なので、今は血管線維腫と呼ぶ。にきびと間違えられることもあるけれど、mTOR阻害薬のシロリムス外用ゲルという、病態に基づいた治療があるのも覚えておこう。
医学生医学生
では脊柱側彎はどうでしょう。神経皮膚症候群っぽい気がして迷いました。
ドクタードクター
迷うのはわかる。でも脊柱側彎は神経線維腫症1型、つまりvon Recklinghausen病の骨病変として有名なものだ。NF1ではほかに蝶形骨大翼の形成不全や脛骨の偽関節もみられる。同じ母斑症でも顔となる所見が違うんだ。
医学生医学生
聴覚障害は神経線維腫症2型ですね。両側の聴神経腫瘍で難聴になる、とCBTの対策で覚えました。
ドクタードクター
その通り。正確には前庭神経鞘腫だね。聴覚障害ならAlport症候群も代表的だ。最後の性腺機能低下はどうかな。
医学生医学生
Klinefelter症候群やPrader-Willi症候群のイメージです。結節性硬化症とは結びつきません。
ドクタードクター
正しい整理だ。嗅覚障害を伴うKallmann症候群も含めて、内分泌の文脈で問われることが多い。こうして見ると、ひっかけ選択肢はどれも別の疾患の代表所見なんだ。
医学生医学生
結節性硬化症は皮膚と脳以外にも病変がありましたよね。腎臓にも何かできたような。
ドクタードクター
いい質問だ。発展知識としてまとめておこう。成人期に重要なのは腎血管筋脂肪腫で、大きくなると出血の危険がある。胎児期や新生児期には心横紋筋腫が見つかることがあり、成長とともに自然に小さくなりやすい。成人女性では肺のリンパ脈管筋腫症、脳ではMonro孔付近の上衣下巨細胞性星細胞腫が水頭症の原因になりうる。エベロリムスなどのmTOR阻害薬は、これらの一部に使われている。
医学生医学生
原因がmTORの過剰活性化だから、全身の病変にmTOR阻害薬が効くという流れですね。病態から治療まで一貫しているのがわかりました。
ドクタードクター
その理解が大切だ。臨床では、てんかんの子どもに白斑を見つけたら結節性硬化症を考え、診断後は腎臓や肺、脳の定期的な評価を続ける必要がある。一つの所見から全身を見渡す視点を持っておこう。

まとめ

結節性硬化症はTSC1またはTSC2遺伝子の変異によりmTOR経路が過剰に活性化し、全身に過誤腫が多発する常染色体顕性遺伝の神経皮膚症候群で、顔面血管線維腫・てんかん・知的障害が古典的なVogtの3主徴です。てんかんは皮質結節を焦点として高頻度にみられ、乳児期にはWest症候群で発症することが多く、葉状白斑は早期発見の手がかりになります。脊柱側彎は神経線維腫症1型、聴覚障害は神経線維腫症2型やAlport症候群、性腺機能低下はKlinefelter症候群やPrader-Willi症候群に特徴的な所見です。腎血管筋脂肪腫、心横紋筋腫、肺リンパ脈管筋腫症、上衣下巨細胞性星細胞腫などの臓器病変も重要で、mTOR阻害薬が治療に用いられます。各神経皮膚症候群の代表所見を比較して整理しておくことが、鑑別と長期管理の両方に役立ちます。

解答・解説

正解はa, dです

結節性硬化症(tuberous sclerosis complex:TSC)は、TSC1遺伝子(ハマルチンをコード)またはTSC2遺伝子(チュベリンをコード)の変異による常染色体顕性(優性)遺伝の神経皮膚症候群(母斑症)である。ハマルチンとチュベリンは複合体を作ってmTOR(mammalian target of rapamycin)経路を抑制しているため、変異によりmTORが過剰に活性化し、全身の臓器に過誤腫(その臓器に本来ある組織が無秩序に増えた良性病変)が多発する。患者の多くは家族歴のない新生突然変異による孤発例である。 古典的には「顔面の血管線維腫・てんかん・知的障害」がVogtの3主徴として知られる。本問はこの3主徴を思い出せば、てんかんと血管線維腫を選ぶことができる。 残りの選択肢は、他の神経皮膚症候群や遺伝性疾患に特徴的な所見を並べたひっかけである。脊柱側彎は神経線維腫症1型、聴覚障害は神経線維腫症2型やAlport症候群、性腺機能低下はPrader-Willi症候群やKlinefelter症候群などで問われる所見であり、各疾患の「顔」となる所見を整理しておくと迷わない。

選択肢考察

  1. ○a.  てんかん

    結節性硬化症の患者の大部分(おおむね8〜9割)にてんかん発作がみられ、最も頻度の高い神経症状である。原因は大脳の皮質・皮質下結節(tuber)で、神経細胞の遊走障害や過誤腫性の異常組織がてんかん原性焦点となる。乳児期にはWest症候群(点頭てんかん:シリーズ形成するてんかん性スパズム、脳波のヒプスアリスミア、発達の停止・退行を特徴とする)で発症することが多く、West症候群の基礎疾患として結節性硬化症は代表的である。なお、2012年の国際診断基準では、てんかんや知的障害は特異性が低いため診断項目から外されているが、臨床的には極めて重要な所見である。

  2. ×b.  脊柱側彎

    脊柱の側彎・後彎は神経線維腫症1型(neurofibromatosis type 1:NF1、von Recklinghausen病)に特徴的な骨格異常である。NF1ではほかに蝶形骨大翼の形成不全、脛骨の偽関節(先天性下腿偽関節)などの骨病変がみられる。結節性硬化症では骨硬化像や骨嚢胞様変化がみられることはあるが、脊柱側彎は特徴的な所見ではない。

  3. ×c.  聴覚障害

    聴覚障害は神経線維腫症2型(NF2)で典型的にみられる。NF2では両側の前庭神経鞘腫(いわゆる聴神経腫瘍)が生じ、感音難聴・耳鳴・めまいをきたす。NF2では脊髄神経鞘腫や髄膜腫も多発しやすい。また、感音難聴はAlport症候群(IV型コラーゲン異常による遺伝性腎炎に難聴・眼病変を伴う)でも重要な所見である。結節性硬化症の特徴的所見には含まれない。

  4. ○d.  血管線維腫

    顔面の血管線維腫(angiofibroma)は結節性硬化症の代表的な皮膚所見で、患者の約7〜8割にみられる。幼児期から学童期にかけて、鼻の周囲から両頬部に左右対称性に多発する紅色〜常色の小丘疹として現れ、思春期にかけて目立ってくる。かつては「脂腺腫(adenoma sebaceum)」と呼ばれたが、組織学的には皮脂腺の腫瘍ではなく、血管と線維性結合組織の増生からなる過誤腫であるため、現在は血管線維腫と呼ぶ。診断基準の大症状の一つであり、治療にはmTOR阻害薬(シロリムス)の外用ゲルが用いられる。

  5. ×e.  性腺機能低下

    性腺機能低下は結節性硬化症の特徴的所見ではなく、診断基準にも含まれない。性腺機能低下が問われる代表的な疾患には、Prader-Willi症候群(15番染色体q11-q13の父由来遺伝子の欠失などによる。新生児期の筋緊張低下、過食・肥満、低身長、知的障害、性腺機能低下)、Klinefelter症候群(47,XXY。高ゴナドトロピン性性腺機能低下)、Kallmann症候群(嗅覚障害を伴う低ゴナドトロピン性性腺機能低下)などがある。

結節性硬化症の主な臓器病変

・皮膚:顔面血管線維腫、白斑(葉状白斑:ash-leaf spot。乳児期から認め、最も早期に気づかれやすい)、シャグリンパッチ(粒起革様皮:腰仙部の結合織母斑)、爪囲線維腫(Koenen腫瘍)、前額部線維性局面(forehead plaque)、紙吹雪様白斑 ・中枢神経:皮質・皮質下結節、上衣下結節(脳室壁に沿った石灰化結節)、上衣下巨細胞性星細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma:SEGA。Monro孔付近に生じ水頭症の原因となる)。てんかん、知的障害、自閉スペクトラム症などの神経精神症状(TAND)を伴う ・腎:腎血管筋脂肪腫(angiomyolipoma:AML。成人期の主要な合併症で、出血の危険がある)、多発腎嚢胞 ・心:心横紋筋腫(胎児期・新生児期に発見されることが多く、成長とともに自然退縮しやすい) ・肺:リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis:LAM。主に成人女性) ・眼:網膜過誤腫

治療

mTOR阻害薬(エベロリムス)がSEGAや腎血管筋脂肪腫に、シロリムスがLAMや皮膚病変(外用)に用いられる。てんかんには抗てんかん薬が用いられ、West症候群にはACTH療法やビガバトリンが選択される。

主な神経皮膚症候群の比較

・NF1:カフェオレ斑、皮膚の神経線維腫、雀卵斑様色素斑、虹彩小結節(Lisch結節)、視神経膠腫、脊柱側彎・蝶形骨形成不全・脛骨偽関節。17番染色体のNF1遺伝子 ・NF2:両側前庭神経鞘腫による難聴、髄膜腫、脊髄神経鞘腫、若年性白内障。22番染色体のNF2遺伝子 ・結節性硬化症:顔面血管線維腫、葉状白斑、皮質結節、上衣下結節の石灰化、SEGA、腎血管筋脂肪腫、心横紋筋腫 ・Sturge-Weber症候群:三叉神経第1枝領域を含む顔面のポートワイン母斑(毛細血管奇形)、脳軟膜血管腫、脳回に沿ったレール状(tram-track)石灰化、てんかん、緑内障。遺伝性はなく、GNAQ遺伝子の体細胞モザイク変異による ・von Hippel-Lindau病:網膜・小脳の血管芽腫、腎細胞癌、褐色細胞腫

POINT

・結節性硬化症の古典的3主徴:顔面血管線維腫・てんかん・知的障害(Vogtの3主徴) ・TSC1/TSC2遺伝子変異→mTOR過剰活性化→全身の過誤腫。治療にmTOR阻害薬 ・乳児期のWest症候群の代表的基礎疾患 ・皮膚:血管線維腫、葉状白斑、シャグリンパッチ、爪囲線維腫 ・内臓:腎血管筋脂肪腫、心横紋筋腫、肺LAM、SEGA ・脊柱側彎→NF1、両側聴神経腫瘍による難聴→NF2、性腺機能低下→Prader-Willi症候群・Klinefelter症候群

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。