朝の血圧は家でしか測れない―家庭血圧が早朝高血圧を見抜く理由
第109回医師国家試験 I問題 第8問
国試問題にチャレンジ
本態性高血圧患者における家庭血圧の測定について正しいのはどれか。
- a.手首での測定を推奨する。
- b.早朝高血圧の診断に有用である。
- c.150/90 mmHg以上を高血圧の基準とする。
- d.患者の服薬アドヒアランスには影響しない。
- e.予後の予測には診察室血圧の方が優れている。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
家庭血圧は、上腕カフ式の自動血圧計で、起床後1時間以内(排尿後・服薬前・朝食前)と就寝前に座位安静後に測定し、135/85 mmHg以上を高血圧とします(診察室血圧は140/90 mmHg以上)。起床後に測定するため、外来では捉えにくい早朝高血圧の診断に有用で、仮面高血圧や白衣高血圧の判別にも欠かせません。日常生活下で繰り返し測定されるため再現性が高く、心血管イベントの予後予測能は診察室血圧より優れており、測定の継続は服薬アドヒアランスと降圧目標達成率の向上にもつながります。診察室の「一点」ではなく生活の中の血圧を見るという視点は、高血圧診療の質を左右する重要な考え方です。
解答・解説
正解はbです
高血圧の診断と治療では、外来で測る診察室血圧だけでなく、診察室外血圧(家庭血圧、24時間自由行動下血圧測定〈ambulatory blood pressure monitoring:ABPM〉)を組み合わせて評価することが重視されている。診察室血圧は1回の受診時の値にすぎず、緊張による上昇(白衣効果)や、受診時以外の時間帯の高血圧を見逃すおそれがあるためである。 家庭血圧は、患者自身が自宅で毎日、決まった条件で測定する血圧である。日本高血圧学会のガイドラインでは、上腕カフ式の自動血圧計を用い、朝(起床後1時間以内、排尿後、服薬前・朝食前、座位で1〜2分安静後)と晩(就寝前)に測定することが推奨されている。測定回数が多く、日常生活下の血圧を反映するため、再現性が高く、診察室血圧よりも心血管イベントや臓器障害の予後予測能に優れる。 本問では、家庭血圧の測定方法(上腕か手首か)、診断基準値(135/85 mmHg)、早朝高血圧・仮面高血圧・白衣高血圧の診断における役割、アドヒアランスへの効果、予後予測能を正しく理解しているかが問われている。家庭で起床後に測定することで、診察室では捉えられない早朝の血圧上昇を把握できる点が正解の根拠となる。
選択肢考察
- ×a. 手首での測定を推奨する。
家庭血圧は上腕カフ式の自動血圧計で測定することが推奨される。手首式は手首の位置と心臓の高さのずれによる誤差が生じやすく、動脈の解剖学的特徴からも測定値が不正確になりやすい。手首式や指式は原則として推奨されない。
- ○b. 早朝高血圧の診断に有用である。
早朝高血圧は、起床後の早朝の時間帯に血圧が高くなる状態であり、脳卒中や心筋梗塞などの心血管イベントのリスクとなる。この時間帯は通常の外来受診時間外であるため、診察室血圧では見逃されやすい。家庭血圧は起床後1時間以内に測定するため、早朝高血圧の検出に適している。早朝の血圧上昇には、夜間は下降するが起床時に急上昇するタイプ(モーニングサージ型)と、夜間も血圧が下がらない(non-dipper)・あるいは夜間高血圧が持続するタイプがある。早朝高血圧は、診察室血圧が正常で診察室外血圧が高い仮面高血圧の一型としても重要である。
- ×c. 150/90 mmHg以上を高血圧の基準とする。
家庭血圧による高血圧の基準は135/85 mmHg以上(収縮期・拡張期のいずれか一方でも満たせば該当)である。診察室血圧の基準140/90 mmHgより低く設定されているのは、家庭では白衣効果がなく、同じ人でも診察室より低い値になりやすいためである。150/90 mmHgという基準値は存在しない。
- ×d. 患者の服薬アドヒアランスには影響しない。
家庭血圧の測定・記録を続けると、患者が自分の血圧と治療効果を実感でき、治療への参加意識が高まるため、服薬アドヒアランス(患者が治療方針に主体的に従うこと)が向上する。その結果、降圧目標の達成率も改善することが知られている。
- ×e. 予後の予測には診察室血圧の方が優れている。
家庭血圧は日常生活下で長期にわたり繰り返し測定されるため、白衣効果の影響を受けず、測定値の再現性が高い。そのため、脳卒中などの心血管イベントや臓器障害、死亡との関連は診察室血圧より強く、予後予測能は家庭血圧の方が優れている。なお、ABPMで評価される夜間に血圧が下がらないパターン(non-dipper)も心血管リスクの上昇と関連する。
血圧の測定法別の高血圧基準(日本高血圧学会ガイドライン)
・診察室血圧:140/90 mmHg以上 ・家庭血圧:135/85 mmHg以上 ・ABPM:24時間平均130/80 mmHg以上、昼間平均135/85 mmHg以上、夜間平均120/70 mmHg以上
診察室血圧と診察室外血圧の組合せによる分類
・白衣高血圧:診察室血圧は高血圧、診察室外血圧は正常。不要な降圧薬投与を避けるため、家庭血圧での確認が重要である。将来、持続性高血圧に移行しやすいため経過観察を要する。 ・仮面高血圧:診察室血圧は正常、診察室外血圧は高血圧。早朝高血圧、夜間高血圧、昼間高血圧(職場や精神的ストレス下での上昇)が含まれ、持続性高血圧と同程度に心血管リスクが高い。 ・持続性高血圧:両方とも高血圧。
家庭血圧の測定条件
・上腕カフ式の自動血圧計を使用する。 ・朝:起床後1時間以内、排尿後、服薬前、朝食前、座位で1〜2分安静の後。 ・晩:就寝前、座位で1〜2分安静の後。 ・各機会に原則2回測定し、平均値を用いる。長期間(5日以上、できれば7日程度)の平均値で評価する。 ・自己申告の記録は誤記や選択的な記載が起こりうるため、メモリー機能付きの血圧計の記録を確認するとよい。
ABPMとの比較
ABPMは夜間睡眠中の血圧や24時間の血圧変動を評価でき、夜間高血圧やnon-dipperの診断に優れる。一方、家庭血圧は安価で長期間毎日測定できるため、日々の変動や長期の降圧効果の評価に適している。
POINT
・家庭血圧は上腕カフ式で、起床後1時間以内(服薬前・朝食前)と就寝前に測定する。 ・家庭血圧の高血圧基準は135/85 mmHg以上(診察室血圧は140/90 mmHg以上)。 ・早朝高血圧・仮面高血圧・白衣高血圧の診断に有用である。 ・予後予測能は診察室血圧より家庭血圧の方が優れる。 ・家庭血圧の測定継続は服薬アドヒアランスと降圧達成率を改善する。
