「どこで起きた肺炎か」で薬が決まる―人工呼吸器関連肺炎とカルバペネムの理由
第109回医師国家試験 I問題 第7問
国試問題にチャレンジ
肺炎と抗菌薬の組合せで正しいのはどれか。
- a.市中肺炎 ―― グリコペプチド系
- b.院内肺炎 ―― テトラサイクリン系
- c.非定型肺炎 ―― アミノグリコシド系
- d.特発性器質化肺炎 ―― ニューキノロン系
- e.人工呼吸器関連肺炎 ―― カルバペネム系
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
肺炎の抗菌薬は、発症の場と患者背景から原因微生物を推定し、そのスペクトラムに合う薬を選ぶ経験的治療が基本です。市中肺炎は肺炎球菌やインフルエンザ菌が中心でβ-ラクタム系±マクロライド系、非定型肺炎ではβ-ラクタム系が無効なためマクロライド系・テトラサイクリン系・ニューキノロン系を用います。院内肺炎や人工呼吸器関連肺炎では緑膿菌などのグラム陰性桿菌やMRSAが問題となるため、カルバペネム系などの抗緑膿菌活性をもつ広域薬で開始し、MRSAリスクがあれば抗MRSA薬を併用、培養結果に応じてデエスカレーションします。特発性器質化肺炎は非感染性で、抗菌薬ではなくステロイドで治療します。原因菌と薬のスペクトラムを対応づける考え方は、耐性菌を生まない適正な抗菌薬使用の土台になります。
解答・解説
正解はeです
肺炎の治療薬を選ぶときは、「どこで・どのような患者に発症したか」から原因微生物を推定し、その微生物に有効な抗菌薬を選ぶ(経験的治療〈エンピリック治療〉)という考え方が基本となる。
発症の場による分類と主な原因微生物
・市中肺炎(community-acquired pneumonia:CAP):病院外で日常生活を送っていた人に発症する肺炎。肺炎球菌が最多で、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス、および非定型病原体(肺炎マイコプラズマ、肺炎クラミドフィラ、レジオネラ)が主な原因となる。 ・院内肺炎(hospital-acquired pneumonia:HAP):入院後48時間以降に新たに発症した肺炎。基礎疾患や免疫低下をもつ患者が多く、緑膿菌などのグラム陰性桿菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの耐性菌が問題となる。 ・人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia:VAP):気管挿管・人工呼吸管理の開始後48時間以降に発症する肺炎で、院内肺炎の一型である。緑膿菌、アシネトバクター、クレブシエラ、エンテロバクター、セラチアなどのグラム陰性桿菌やMRSAが原因となりやすい。
病原体の性質による分類
・非定型肺炎:細胞壁をもたないマイコプラズマや、細胞内で増殖するクラミドフィラ・レジオネラなどによる肺炎。細胞壁合成を阻害するβ-ラクタム系が効かないため、細胞内移行性のよいマクロライド系・テトラサイクリン系・ニューキノロン系を用いる。
非感染性の「肺炎」
・特発性器質化肺炎(cryptogenic organizing pneumonia:COP)は特発性間質性肺炎の一病型であり、病原体による感染症ではない。名称に「肺炎」とあっても抗菌薬の対象ではない点に注意する。 以上を踏まえ、各肺炎の想定原因菌と抗菌薬のスペクトラム(有効な菌の範囲)が一致する組合せを選べばよい。緑膿菌を含むグラム陰性桿菌を広くカバーするカルバペネム系は、VAPの経験的治療薬として妥当な選択肢である。
選択肢考察
- ×a. 市中肺炎 ―― グリコペプチド系
グリコペプチド系(バンコマイシン、テイコプラニン)は主にMRSAなどの耐性グラム陽性菌に対して用いる抗MRSA薬である。市中肺炎の主要原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌、非定型病原体に対する標準治療ではなく、グラム陰性菌には無効である。耐性菌を増やさないためにも、MRSAの関与が強く疑われる特殊な場合(インフルエンザ後の壊死性肺炎など)を除き、市中肺炎に用いない。市中肺炎ではアンピシリン・スルバクタムやセフトリアキソンなどのβ-ラクタム系を中心に、非定型病原体が疑われればマクロライド系などを組み合わせる。
- ×b. 院内肺炎 ―― テトラサイクリン系
テトラサイクリン系(ミノサイクリン、ドキシサイクリン)は非定型病原体には有効だが、院内肺炎で問題となる緑膿菌には無効であり、院内肺炎の標準的な経験的治療薬ではない。院内肺炎は易感染性の患者に耐性菌を含むグラム陰性桿菌などで起こるため、抗緑膿菌活性をもつβ-ラクタム系(カルバペネム系、タゾバクタム・ピペラシリン、セフェピムなど)を中心とし、重症度や耐性菌リスクに応じて抗MRSA薬などを追加する。
- ×c. 非定型肺炎 ―― アミノグリコシド系
アミノグリコシド系(ゲンタマイシン、アミカシンなど)は主に好気性グラム陰性桿菌に用いる薬で、細胞内への移行が悪い。そのため細胞内寄生菌であるクラミドフィラやレジオネラには効果が期待できず、マイコプラズマ肺炎にも用いない。また肺組織や気道分泌物への移行が不良で、酸性環境で活性が落ちることから、肺炎に単剤で用いることは基本的にない。非定型肺炎にはマクロライド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系を用いる。
- ×d. 特発性器質化肺炎 ―― ニューキノロン系
特発性器質化肺炎は原因不明の非感染性炎症性疾患(特発性間質性肺炎の一病型)であり、抗菌薬は無効である。治療には副腎皮質ステロイドを用い、多くは良好に反応するが、減量・中止に伴って再燃しやすい。臨床的には細菌性肺炎として抗菌薬で治療しても改善せず、陰影が移動・残存することが診断の手がかりになることがある。
- ○e. 人工呼吸器関連肺炎 ―― カルバペネム系
人工呼吸器関連肺炎の原因菌は緑膿菌、アシネトバクター、クレブシエラ、エンテロバクター、セラチアなどのグラム陰性桿菌が中心で、MRSAも重要である。カルバペネム系(メロペネム、イミペネム・シラスタチンなど)はグラム陽性菌から緑膿菌を含むグラム陰性桿菌、嫌気性菌まで幅広いスペクトラムをもち、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌にも有効なため、VAPの経験的治療薬として適切である。ただしMRSAには無効なので、MRSAのリスクがあれば抗MRSA薬を併用する。培養結果が判明したら、より狭域の薬剤に変更する(デエスカレーション)ことが原則である。
主な抗菌薬とスペクトラムの整理
・ペニシリン系(アンピシリン、β-ラクタマーゼ阻害薬配合薬など):肺炎球菌など。市中肺炎の中心的薬剤。タゾバクタム・ピペラシリンは緑膿菌にも有効。 ・セフェム系:セフトリアキソンは市中肺炎の入院治療で頻用。セフェピム、セフタジジムは抗緑膿菌活性をもつ。 ・カルバペネム系:最も広域。緑膿菌・ESBL産生菌・嫌気性菌に有効。MRSA、マイコプラズマなどには無効。耐性菌出現を防ぐため、重症例や耐性菌リスクの高い例に限定して用いる。 ・グリコペプチド系(バンコマイシン、テイコプラニン):MRSAなどの耐性グラム陽性菌。腎障害に注意し、治療薬物モニタリング(TDM)で血中濃度を管理する。 ・マクロライド系、テトラサイクリン系:非定型病原体に有効。 ・ニューキノロン系(レスピラトリーキノロン:レボフロキサシン、モキシフロキサシンなど):肺炎球菌と非定型病原体の両方をカバーする。結核の診断を遅らせるおそれがあるため、結核の否定が不十分なときは使用に注意する。 ・アミノグリコシド系:グラム陰性桿菌。肺への移行が悪く単剤では用いない。腎毒性・聴器毒性に注意。
院内肺炎・VAPの考え方
院内肺炎は、易感染性の宿主に耐性菌を含む多様な菌が感染するため、重症度と耐性菌リスク(最近の抗菌薬使用歴、長期入院など)を評価し、必要に応じて広域抗菌薬で開始する。その後、喀痰・気管吸引物の培養結果に基づいて狭域化するのが原則である。VAPの予防には、頭部挙上(半座位)、鎮静の適正化と毎日の離脱評価、口腔ケア、不要な人工呼吸期間の短縮などが重要である。
POINT
・市中肺炎:肺炎球菌・インフルエンザ菌が中心。β-ラクタム系±マクロライド系など。 ・院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎:緑膿菌などのグラム陰性桿菌・MRSA。抗緑膿菌活性のある広域β-ラクタム系(カルバペネム系など)、MRSAリスクがあれば抗MRSA薬を追加。 ・非定型肺炎:β-ラクタム系は無効。マクロライド系・テトラサイクリン系・ニューキノロン系。 ・特発性器質化肺炎:非感染性。抗菌薬無効、副腎皮質ステロイドが有効。 ・グリコペプチド系はMRSA用であり、市中肺炎のルーチン薬ではない。
