真っ赤に膨らんだ鼓膜に選ぶ一手―小児急性中耳炎はなぜアモキシシリンなのか
第109回医師国家試験 I問題 第6問
国試問題にチャレンジ
耳痛を訴える2歳9か月の男児の鼓膜の写真を別に示す。 投与すべき抗菌薬はどれか。

- a.ペニシリン系
- b.マクロライド系
- c.ニューキノロン系
- d.テトラサイクリン系
- e.アミノグリコシド系
対話形式の解説
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ドクターまとめ
耳痛を訴える乳幼児で鼓膜の発赤・膨隆を認め、光錐やツチ骨柄が不明瞭になっていれば急性中耳炎と診断できます。主な起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスで、抗菌薬の第一選択は耐性菌を考慮した高用量のペニシリン系アモキシシリンです。マクロライド系は肺炎球菌の耐性率が高く、ニューキノロン系は関節軟骨障害の懸念から小児では難治例に限られ、テトラサイクリン系は8歳未満で歯の着色を起こし、アミノグリコシド系は経口吸収されず耳毒性・腎毒性があるため、いずれも適しません。ガイドラインでは重症度に応じて、軽症の経過観察から薬剤変更、鼓膜切開まで段階的に治療を選びます。起炎菌・薬剤移行性・小児での安全性という観点から抗菌薬を選ぶ考え方は、小児感染症全般に応用できる重要な基本です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理と診断
耳痛を訴える2歳9か月の幼児である。鼓膜の写真では、鼓膜全体が強く発赤し、さらに外側へ向かって膨らんでいる(膨隆)。鼓膜上の血管が拡張して目立ち、ツチ骨柄などの正常な目印(ランドマーク)や光錐は判別しにくくなっている。鼓膜の発赤・膨隆は、中耳腔に膿性の貯留液がたまり内圧が上がっていることを示す所見であり、耳痛という急性症状と合わせて急性中耳炎と診断できる。 乳幼児は耳管が太く短く水平に近いため、上気道炎のあとに鼻咽腔の細菌が中耳へ入りやすく、急性中耳炎が多い。鑑別としては、鼓膜の発赤・膨隆を伴わず中耳に液が貯留する滲出性中耳炎(通常、耳痛や発熱はない)や、鼓膜所見は正常で外耳道に炎症のある外耳炎などが挙がるが、本例の鼓膜所見はこれらとは異なる。
治療薬選択の考え方
小児急性中耳炎の主な起炎菌は、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)とインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)であり、次いでモラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)である。小児急性中耳炎診療ガイドラインでは、年齢、耳痛、発熱、啼泣・不機嫌、鼓膜の発赤、鼓膜の膨隆、耳漏の項目をスコア化して軽症・中等症・重症に分類し、重症度に応じて治療を選ぶ。軽症例ではまず抗菌薬を使わずに3日間経過観察することも選択肢となるが、本例のように鼓膜の発赤に加えて膨隆がはっきりしていれば中等症以上と考えられ、抗菌薬投与の適応となる。その第一選択はペニシリン系のアモキシシリン(AMPC)であり、耐性菌を考慮して高用量で投与する。
選択肢考察
- ○a. ペニシリン系
小児急性中耳炎の主要な起炎菌である肺炎球菌とインフルエンザ菌に対して、経口のペニシリン系薬であるアモキシシリン(AMPC)は良好な抗菌力を示し、中耳への移行も良い。日本ではペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)やβ-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)などの耐性菌が多いが、アモキシシリンを高用量で用いることで中耳での薬物濃度を高め、多くの耐性肺炎球菌にも対応できる。このためガイドラインでは中等症以上の第一選択薬とされている。効果が不十分な場合や重症例では、β-ラクタマーゼ阻害薬を配合したクラブラン酸・アモキシシリン(CVA/AMPC)、さらに経口セフェム系(セフジトレン ピボキシルなど)の高用量投与や鼓膜切開などが検討される。
- ×b. マクロライド系
マクロライド系(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)は、日本の肺炎球菌の大部分が耐性を獲得しており、インフルエンザ菌への抗菌力も十分ではない。このため小児急性中耳炎の第一選択にはならない。マイコプラズマ肺炎や百日咳など、マクロライドが有効な病原体による感染症とは使い分ける必要がある。
- ×c. ニューキノロン系
ニューキノロン系は、幼若動物での関節軟骨障害が報告されたことから、小児には原則として使用が制限されている。小児の中耳炎に適応をもつ経口薬としてトスフロキサシンがあるが、ガイドライン上は第一選択薬・第二選択薬で改善しない難治例などに限って用いる位置づけである。また、耐性菌を増やさないためにも安易な使用は避けるべきであり、初回治療で選ぶ薬ではない。なお、耳漏のある例ではニューキノロン系の点耳薬を併用することがあるが、本問で問われている全身投与の第一選択とは別である。
- ×d. テトラサイクリン系
テトラサイクリン系は、骨や歯に沈着して歯の着色(黄染)やエナメル質形成不全を起こすため、歯の形成期にあたる8歳未満の小児には原則として使用しない。また、肺炎球菌の耐性も多く、急性中耳炎の治療薬として選ぶ理由はない。
- ×e. アミノグリコシド系
アミノグリコシド系(ゲンタマイシン、アミカシンなど)は、腸管からほとんど吸収されないため経口投与では全身治療に使えず、注射で用いる薬剤である。肺炎球菌などレンサ球菌への単独での抗菌力も弱い。さらに、内耳障害(難聴、めまい)や腎障害といった副作用がある。外来で治療する小児急性中耳炎の治療薬としては不適切である。
急性中耳炎の病態
急性中耳炎は、急性に発症した中耳の感染症で、耳痛、発熱、耳漏を伴うことがある。多くは上気道炎(かぜ)に続発し、鼻咽腔の細菌が耳管を経由して中耳腔へ入り込むことで起こる。乳幼児は耳管が成人よりも太く短く水平に近いこと、免疫が未熟であること、集団保育で感染の機会が多いことから、生後6か月〜2歳ごろに特に多い。言葉で症状を訴えられない乳児では、不機嫌、啼泣、耳に手をやる仕草、発熱が手がかりとなる。
鼓膜所見
正常鼓膜は真珠様の灰白色で半透明であり、ツチ骨柄や光錐が見える。急性中耳炎では、発赤(初期には鼓膜の一部、進むと全体)、膨隆、混濁がみられ、ランドマークが消失する。膨隆が強いと自然に穿孔して耳漏が出現する。滲出性中耳炎では、鼓膜の陥凹や中耳腔の液面・気泡がみられ、発赤や膨隆は目立たない。
重症度に応じた治療(小児急性中耳炎診療ガイドラインの考え方)
・軽症:抗菌薬を投与せず3日間経過観察し、改善がなければアモキシシリンを投与する。 ・中等症:アモキシシリン高用量が第一選択。改善が乏しければクラブラン酸・アモキシシリン、またはセフジトレン ピボキシル高用量などへ変更し、鼓膜の膨隆が強ければ鼓膜切開を考慮する。 ・重症:はじめから高用量アモキシシリン、クラブラン酸・アモキシシリン、セフジトレン ピボキシル高用量のいずれかを用い、鼓膜切開を併用することも多い。 ・これらで改善しない難治例では、トスフロキサシンやテビペネム ピボキシル(経口カルバペネム系)、注射薬(セフトリアキソンなど)が選択肢となる。 あわせて、解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン)による疼痛対策を行う。
主な耐性菌
・ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP):ペニシリン結合蛋白(PBP)の変異による耐性。高用量のアモキシシリンで対応できることが多い。 ・β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR):PBPの変異による耐性で、β-ラクタマーゼ阻害薬配合剤も効きにくい。日本で多いのが特徴である。 ・β-ラクタマーゼ産生菌(一部のインフルエンザ菌、多くのモラクセラ・カタラーリス):クラブラン酸などのβ-ラクタマーゼ阻害薬の配合が有効である。
小児で使用を避ける抗菌薬
・テトラサイクリン系:8歳未満で歯の着色・エナメル質形成不全。 ・ニューキノロン系:関節軟骨障害の懸念から原則として制限(小児適応のある一部薬剤を除く)。 ・アミノグリコシド系:腎毒性・耳毒性があり、経口では吸収されない。
POINT
・鼓膜の発赤・膨隆+耳痛の乳幼児は急性中耳炎。 ・主な起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス。 ・抗菌薬の第一選択はペニシリン系のアモキシシリン(耐性菌を考慮して高用量)。 ・軽症では抗菌薬を使わず3日間の経過観察も選択肢。重症度に応じて薬剤変更や鼓膜切開を行う。 ・マクロライド系は肺炎球菌の耐性率が高く第一選択にならない。テトラサイクリン系(8歳未満)とニューキノロン系は小児で原則避ける。
