StudyMed医師国家試験

赤い点と小さな出血から始まる―糖尿病網膜症の「最初のサイン」を見抜く

第109回医師国家試験 I問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第109回 I問題 第34問

糖尿病網膜症の初期からみられる所見はどれか。2つ選べ。

  1. a.軟性白斑
  2. b.網膜出血
  3. c.硝子体出血
  4. d.毛細血管瘤
  5. e.網膜新生血管

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、糖尿病網膜症の病期ごとの眼底所見を整理する問題だ。ポイントは「初期」がどの病期を指すか、そして各所見がどんな病態から生まれるか。病態の流れを押さえれば、所見の順番は自然に並べられるよ。
医学生医学生
糖尿病網膜症は単純、増殖前、増殖の3段階でしたよね。内分泌代謝の講義で三大合併症のひとつとして習いました。
ドクタードクター
その通り。日本でよく使われる改変Davis分類だね。初期、つまり単純網膜症で何が起きているかを考えよう。高血糖が続くと、網膜の毛細血管を支える周皮細胞が脱落し、基底膜も肥厚して血管壁が弱くなる。弱くなった壁はどうなると思う?
医学生医学生
圧に負けて膨らむ……それが毛細血管瘤ですか。
ドクタードクター
正解。毛細血管瘤は糖尿病網膜症で最も早く現れる所見のひとつで、眼底では小さな赤い点、蛍光眼底造影では点状の過蛍光として見える。そして弱い血管や血管瘤からは血液が漏れ出す。これが点状・斑状の網膜出血だ。
医学生医学生
つまり毛細血管瘤と網膜出血が初期の所見ですね。でも白斑も早い時期から出ると聞いた気がして、軟性白斑とも迷いました。
ドクタードクター
そこが一番の引っかけどころだね。単純網膜症で出る白斑は硬性白斑で、血管から漏れた脂質や蛋白が沈着したもの。境界明瞭で黄白色に見える。一方、軟性白斑は細小動脈が閉塞して神経線維層が虚血に陥り、軸索流が途絶えて神経線維が腫れたもの。境界不明瞭な綿花状の病変で、綿花状白斑とも呼ばれる。
医学生医学生
「漏れ」が硬性白斑で、「詰まり」が軟性白斑ということですか。
ドクタードクター
いいまとめ方だ。軟性白斑は網膜の虚血を示すので増殖前網膜症の所見になる。この段階では静脈の数珠状拡張や網膜内細小血管異常、蛍光眼底造影での無灌流域も見られるようになる。
医学生医学生
虚血がさらに進むと、新生血管が出てくるんですよね。
ドクタードクター
そう。虚血網膜からVEGFなどの血管新生因子が出て、網膜や視神経乳頭に新生血管が生じる。新生血管の出現こそが増殖網膜症を定義づける所見だから、初期にはみられない。
医学生医学生
硝子体出血はその新生血管が破れて起こるんでしたっけ。眼科の臨床実習で、急に飛蚊症と視力低下を訴えて来た患者さんを見ました。
ドクタードクター
まさにそれだね。新生血管はもろくて破れやすく、硝子体側に出血すると急激な視力低下を来す。さらに増殖膜が収縮すれば牽引性網膜剝離、虹彩や隅角に新生血管が及べば血管新生緑内障にもなる。どれも進行期の所見で、初期とは正反対だ。
医学生医学生
漏れる、詰まる、新しい血管が生える、破れる、という順番で考えれば並べられますね。
ドクタードクター
その流れがつかめれば十分だ。臨床で大事な点も押さえておこう。単純網膜症の網膜出血は、それだけでは視力にほとんど影響しない。だから患者さんは気づかないまま進行することがある。
医学生医学生
だから糖尿病と診断されたら、症状がなくても定期的に眼底検査を受けるんですね。
ドクタードクター
その通り。もうひとつ、黄斑浮腫はどの病期でも起こりえて、網膜症が軽くても視力低下の原因になる。OCTで評価して、抗VEGF薬の硝子体内注射などで治療する。それから、急激に血糖を下げると網膜症が一時的に悪化することがあるので、血糖コントロールのスピードにも注意が必要だ。
医学生医学生
治療は病期によって変わるんですよね。
ドクタードクター
単純網膜症では血糖・血圧・脂質の管理と定期受診、増殖前網膜症では無灌流域への網膜光凝固を検討、増殖網膜症では汎網膜光凝固や硝子体手術、抗VEGF療法が中心になる。病期と所見を結びつけて覚えておくと、治療方針まで一続きで理解できるよ。

まとめ

糖尿病網膜症の初期にあたる単純網膜症では、周皮細胞の脱落で弱くなった毛細血管が膨らむ毛細血管瘤と、そこから血液が漏れる点状・斑状の網膜出血、脂質や蛋白が沈着する硬性白斑がみられます。毛細血管の閉塞による虚血が進むと、軟性白斑や静脈の数珠状拡張、網膜内細小血管異常が現れる増殖前網膜症となります。さらにVEGFにより新生血管が生じると増殖網膜症となり、硝子体出血や牽引性網膜剝離、血管新生緑内障を来します。「漏れる→詰まる→生える→破れる」という病態の流れで所見を整理すると、硬性白斑と軟性白斑の区別も含めて病期判定が容易になります。初期は自覚症状に乏しいため、糖尿病患者では定期的な眼底検査が早期発見と失明予防の要となります。

解答・解説

正解はb, dです

糖尿病網膜症は、高血糖が長く続くことで網膜の細小血管が障害されて起こる糖尿病の三大合併症(網膜症・腎症・神経障害)の一つで、我が国の中途失明の主要な原因の一つである。 病期は、日本で広く用いられる改変Davis分類によって、単純網膜症 → 増殖前網膜症 → 増殖網膜症の3段階に分けられる。病態の流れは次のように理解するとよい。 1. 血管壁の障害(周皮細胞の脱落、基底膜の肥厚)により、毛細血管壁が弱くなって膨らむ(毛細血管瘤)。血管透過性が高まって血液成分が漏れ出し、点状・斑状の網膜出血や、脂質・蛋白の沈着である硬性白斑が生じる。ここまでが単純網膜症である。 2. 毛細血管の閉塞が進み、網膜が虚血に陥る。虚血部の神経線維層に軟性白斑が現れ、静脈の数珠状拡張や網膜内細小血管異常(IRMA)がみられる。これが増殖前網膜症である。 3. 虚血網膜から血管内皮増殖因子(VEGF)が放出されて新生血管が生じる。新生血管はもろく、破綻して硝子体出血を起こし、増殖膜が収縮すると牽引性網膜剝離を来す。これが増殖網膜症である。 「初期からみられる所見」とは、最初の段階である単純網膜症の所見を指す。選択肢では毛細血管瘤と網膜出血がこれに当たる。

選択肢考察

  1. ×a.  軟性白斑

    軟性白斑は、細小動脈の閉塞によって網膜神経線維層に虚血が起こり、軸索流が途絶えて神経線維が腫れたもので、境界の不明瞭な綿花状の白い病変として見える(綿花状白斑ともいう)。網膜の虚血を示す所見であり、増殖前網膜症の段階でみられる。単純網膜症でみられる白斑は、境界明瞭で黄白色の硬性白斑(血管から漏れ出た脂質・蛋白の沈着)であり、両者を区別することが重要である。

  2. ○b.  網膜出血

    血管壁がもろくなった毛細血管や毛細血管瘤から血液が漏れ出し、網膜内に点状出血や斑状出血として観察される。単純網膜症の段階から出現する代表的な所見である。網膜内の出血は硝子体出血と異なり、通常それだけでは視力に大きく影響しない。

  3. ×c.  硝子体出血

    硝子体出血は、網膜や視神経乳頭から硝子体側へ伸びた新生血管が破綻して起こる。増殖網膜症の所見であり、飛蚊症や急激な視力低下の原因となる。初期の所見ではない。

  4. ○d.  毛細血管瘤

    高血糖により毛細血管の周皮細胞が失われ、血管壁が弱くなって嚢状に膨らんだものである。眼底では小さな赤い点として見え、蛍光眼底造影では点状の過蛍光として描出される。糖尿病網膜症で最も早く現れる所見の一つで、単純網膜症の代表的所見である。

  5. ×e.  網膜新生血管

    毛細血管の閉塞による網膜虚血が進むと、VEGFなどの血管新生因子が産生されて新生血管が生じる。新生血管の出現は増殖網膜症を定義づける所見であり、初期ではみられない。新生血管が虹彩や隅角に及ぶと血管新生緑内障を来す。

改変Davis分類と主な所見

・単純網膜症: 毛細血管瘤、網膜点状・斑状出血、硬性白斑、網膜浮腫 ・増殖前網膜症: 軟性白斑、静脈の数珠状拡張などの静脈異常、網膜内細小血管異常(IRMA)、蛍光眼底造影での無灌流域 ・増殖網膜症: 網膜・乳頭の新生血管、硝子体出血、増殖膜、牽引性網膜剝離、血管新生緑内障 国際的には国際重症度分類(網膜症なし、軽症・中等症・重症非増殖網膜症、増殖網膜症)も用いられる。

糖尿病黄斑浮腫

網膜症のどの病期でも起こりうる。黄斑部に浮腫が生じると、網膜症が軽度でも視力低下を来す。光干渉断層計(OCT)で評価し、抗VEGF薬の硝子体内注射、ステロイド局所投与、レーザー光凝固などで治療する。

治療の概要

・単純網膜症: 血糖・血圧・脂質の管理と定期的な眼科受診 ・増殖前網膜症: 無灌流域に対する網膜光凝固術を検討 ・増殖網膜症: 汎網膜光凝固術、硝子体出血や牽引性網膜剝離には硝子体手術、抗VEGF療法

注意点

・網膜症は初期には自覚症状に乏しいため、糖尿病と診断されたら症状がなくても定期的な眼底検査が必要である。 ・急激に血糖値を下げると、網膜症が一時的に悪化することがある。

POINT

・糖尿病網膜症の初期(単純網膜症)の所見: 毛細血管瘤、網膜点状・斑状出血、硬性白斑 ・増殖前網膜症: 軟性白斑、静脈異常、IRMA、無灌流域 ・増殖網膜症: 新生血管、硝子体出血、牽引性網膜剝離、血管新生緑内障 ・硬性白斑(単純)と軟性白斑(増殖前)の区別が頻出

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。