見逃されやすい甲状腺―Down症候群の内分泌合併症はなぜ「定期検査」が欠かせないのか
第109回医師国家試験 I問題 第27問
国試問題にチャレンジ
Down症候群で合併しやすい内分泌疾患はどれか。
- a.尿崩症
- b.クレチン症
- c.Basedow病
- d.Cushing症候群
- e.原発性アルドステロン症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
Down症候群(21トリソミー)に合併しやすい内分泌疾患の代表は甲状腺機能低下症で、先天性のクレチン症が一般集団より明らかに多く、さらに成長とともに橋本病などの自己免疫性甲状腺炎による後天性の機能低下症も増えます。Basedow病もやや増えますが頻度は機能低下症のほうが高く、尿崩症、Cushing症候群、原発性アルドステロン症には特別な関連はありません。機能低下症の症状は発達の遅れや便秘などDown症候群自体の特徴と重なり見逃されやすいため、新生児マススクリーニングに加えて定期的な甲状腺機能検査が推奨されます。先天性心疾患、消化管閉鎖、白血病、環軸椎不安定性などと合わせて合併症を全体像で把握することが、長期にわたる診療とフォローアップの基盤になります。
解答・解説
正解はbです
Down症候群(21トリソミー)に合併しやすい内分泌疾患を問う問題である。 Down症候群は21番染色体が1本多いことで起こる最も頻度の高い染色体異常症で、知的障害(発達遅滞)、特徴的顔貌、筋緊張低下に加え、多くの臓器に合併症を伴う。内分泌領域で最も重要なのは甲状腺疾患であり、その中心は甲状腺機能低下症である。 甲状腺機能低下症は、出生時から存在する先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)と、小児期以降に橋本病(慢性甲状腺炎)などの自己免疫機序で発症する後天性のものの両方が、一般集団よりも明らかに多い。先天性甲状腺機能低下症の頻度は一般集団(数千人に1人程度)に比べて数十倍高いとされ、さらに年齢とともに自己免疫性甲状腺炎による機能低下症が増えていく。 選択肢のうち甲状腺機能低下症に当たるのはクレチン症であり、これが正解となる。Basedow病も一般集団よりはやや多いとされるが、頻度では機能低下症のほうがはるかに高く、「最も合併しやすいもの」を一つ選ぶ本問ではクレチン症を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 尿崩症
尿崩症は抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)の分泌不足(中枢性)または腎での作用不全(腎性)により、多量の希釈尿が出る疾患である。中枢性の原因は頭蓋咽頭腫・胚細胞腫などの腫瘍、Langerhans細胞組織球症、外傷、特発性などであり、Down症候群に特に合併しやすいという関連は知られていない。
- ○b. クレチン症
クレチン症は先天性甲状腺機能低下症を指し、甲状腺の形成異常(無形成・低形成・異所性甲状腺)やホルモン合成障害などで起こる。Down症候群では先天性甲状腺機能低下症の頻度が一般集団より数十倍高く、さらに成長に伴って橋本病などの自己免疫性甲状腺炎による機能低下症も増える。Down症候群に合併する内分泌疾患として最も代表的なのが甲状腺機能低下症であり、本選択肢が正解である。甲状腺機能低下症は発達遅滞・成長障害・便秘・体重増加などを悪化させるが、症状がDown症候群自体の特徴と重なって見逃されやすいため、定期的な甲状腺機能検査が欠かせない。
- ×c. Basedow病
Basedow病(Graves病)は甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体に対する自己抗体(TRAb)が甲状腺を刺激し、甲状腺機能亢進症を来す自己免疫疾患である。Down症候群は自己免疫疾患全般を合併しやすいため、Basedow病も一般集団よりは多いとされる。しかし頻度は甲状腺機能低下症(先天性・後天性)のほうがはるかに高く、一つだけ選ぶ本問ではクレチン症が優先される。
- ×d. Cushing症候群
Cushing症候群はコルチゾールの慢性的な過剰により、満月様顔貌・中心性肥満・高血圧・耐糖能異常などを来す疾患である。原因は下垂体ACTH産生腺腫(Cushing病)、副腎腺腫、異所性ACTH産生腫瘍、医原性(ステロイド投与)などで、Down症候群に特に合併しやすいという関連はない。
- ×e. 原発性アルドステロン症
原発性アルドステロン症は副腎からアルドステロンが自律的に過剰分泌される疾患で、高血圧と低カリウム血症を特徴とする。原因は副腎腺腫や両側副腎過形成であり、成人の二次性高血圧の代表である。Down症候群との合併は知られていない。
Down症候群の概要
21番染色体のトリソミーによる。核型は標準型(21トリソミー)が約95%を占め、残りは転座型(約3〜4%、親が均衡型転座保因者のことがある)とモザイク型(1〜2%程度)である。母体年齢が上がるほど発生頻度が上昇する。
主な合併症と目安の頻度
・先天性心疾患:約半数。心内膜床欠損症(房室中隔欠損症)、心室中隔欠損症などが代表。 ・消化管:十二指腸閉鎖(double bubble sign)、Hirschsprung病、鎖肛など。 ・聴覚:難聴や滲出性中耳炎が高頻度。 ・眼:白内障、屈折異常、斜視など。 ・呼吸:閉塞性睡眠時無呼吸が多い(顔面中部低形成、巨舌傾向、筋緊張低下などによる)。 ・血液:新生児期の一過性骨髄異常増殖症(TAM)、急性白血病(特に急性巨核芽球性白血病)の頻度上昇。 ・整形外科:環軸椎不安定性。 ・内分泌・自己免疫:甲状腺疾患(機能低下症が主体で、Basedow病もやや増える)、1型糖尿病、セリアック病など。 ・神経:若年からのAlzheimer型認知症の発症。
甲状腺のフォローアップ
甲状腺機能低下症は症状が目立ちにくく、Down症候群の特徴(発達の遅れ、低身長、筋緊張低下、便秘など)と区別しにくい。そのため新生児マススクリーニングに加え、乳児期(生後6か月・12か月ごろ)に甲状腺機能を確認し、その後も年1回程度の定期的な甲状腺機能検査が推奨されている。
クレチン症(先天性甲状腺機能低下症)
新生児マススクリーニング(TSH測定)で早期発見される。症状は遷延性黄疸、哺乳不良、便秘、巨舌、臍ヘルニア、皮膚乾燥、小泉門開大などである。治療が遅れると知的障害や成長障害が残るため、診断後速やかにレボチロキシン(合成T4製剤)を開始する。
POINT
・Down症候群に合併しやすい内分泌疾患の代表は甲状腺機能低下症(先天性=クレチン症、および自己免疫性甲状腺炎による後天性)である。 ・Basedow病も増えるが、頻度は機能低下症のほうが高い。 ・甲状腺機能低下症の症状はDown症候群の特徴と重なり見逃されやすいため、定期的な甲状腺機能検査を行う。 ・その他の重要な合併症:先天性心疾患(心内膜床欠損症)、十二指腸閉鎖、Hirschsprung病、白血病、難聴、白内障、環軸椎不安定性、閉塞性睡眠時無呼吸。
