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骨頭が見えない月齢でどう読む?―3か月児の股関節X線と「年齢で絞る」小児股関節疾患

第109回医師国家試験 I問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第109回 I問題 第23問

3か月児の股関節エックス線写真の正面像を別に示す。  診断として正しいのはどれか。

第109回 I問題 第23問の問題画像
  1. a.Perthes病
  2. b.骨端線離開
  3. c.単純性股関節炎
  4. d.大腿骨頭すべり症
  5. e.発育性股関節形成不全

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は乳児の股関節X線写真を読む問題だ。ポイントは2つ。1つは、この月齢では大腿骨頭がまだはっきり写らないことを前提に、何を手がかりに読むか。もう1つは、選択肢の疾患がそれぞれ何歳ごろに起こるかという知識だ。
医学生医学生
大腿骨頭が写らないんですか。てっきり骨頭の形を見るものだと思っていました。
ドクタードクター
そこが乳児の画像の難しいところ。大腿骨頭の骨端核は生後数か月ごろから出現してくるから、3か月ではまだ見えないか、ごく小さいことが多い。骨頭は軟骨のままなのでX線には写らないんだ。だから骨頭ではなく、大腿骨近位端の骨幹端が寛骨臼に対してどこにあるかで脱臼を判断する。
医学生医学生
この写真では、左側の大腿骨の端が右より上の外側にずれているように見えます。
ドクタードクター
よく見えているね。左の大腿骨近位端が上外側に偏位して寛骨臼の中に収まっておらず、左の臼蓋も浅く傾斜が急になっている。左股関節の脱臼の所見だ。これを客観的に評価するのが補助線で、左右のY軟骨を結ぶHilgenreiner線、臼蓋の外上縁からそれに下ろした垂線のPerkins線、閉鎖孔の上縁と大腿骨頸部の内側縁を結ぶShenton線が代表的だ。
医学生医学生
Shenton線は、正常なら滑らかな弧になるんでしたっけ。
ドクタードクター
そう。脱臼すると大腿骨が上にずれるので、弧が途切れる。Perkins線については、正常なら骨幹端の内側端がこの線より内側にあるけれど、脱臼では外側に出る。さらにHilgenreiner線と臼蓋の傾きがなす臼蓋角は、乳児で30度を超えると臼蓋形成不全を疑う。
医学生医学生
では診断は発育性股関節形成不全ですね。昔は先天性股関節脱臼と呼んでいたと整形外科の講義で聞きました。
ドクタードクター
正解。名前が変わったのには理由がある。生まれたときは脱臼していなくても、脚を伸ばした状態で固定するおむつや抱き方など、生後の環境で脱臼が起こったり進んだりすることが分かってきた。そこで亜脱臼や臼蓋形成不全まで一連の病態としてまとめ、発育性と呼ぶようになったんだ。
医学生医学生
Perthes病も股関節の病気ですが、これは違うんですか。
ドクタードクター
Perthes病は大腿骨頭骨端核の血流障害による阻血性壊死で、3〜12歳ごろの男児に多い。骨端核が硬化したり扁平化したり分節化したりするのが画像の特徴だ。3か月では骨端核そのものがまだ十分にできていないから、壊死する対象がないんだよ。
医学生医学生
単純性股関節炎も幼児期以降でしたよね。小児科の臨床実習で、風邪のあとに脚を引きずって来た子がそう診断されていました。
ドクタードクター
まさに典型例だ。3〜10歳ごろに上気道感染の後などに急な股関節痛と跛行で発症し、数日から2週間ほどで自然に良くなる一過性の滑膜炎だ。X線では通常異常がなく、超音波で関節液の貯留が見える程度。年齢も合わないし、脱臼も起こさない。
医学生医学生
大腿骨頭すべり症は、思春期の肥満の男の子というイメージです。
ドクタードクター
その通り。成長スパートの時期に骨端線で骨頭が後下方にずれる病気で、側面像で分かりやすい。今回は骨頭のすべりではなく大腿骨近位端全体が臼蓋から外れているから違う。骨端線離開は外力で成長軟骨板がずれる損傷だけど、この写真には骨折線などの外傷所見がないし、そもそも骨端核がまだ見えない時期だからX線で評価する対象が描出されない。
医学生医学生
乳児期は発育性股関節形成不全、幼児から学童期は単純性股関節炎とPerthes病、思春期は大腿骨頭すべり症、と年齢で整理すればいいんですね。
ドクタードクター
そう、小児の股関節疾患は年齢でかなり絞れる。ただし新生児や乳児の化膿性股関節炎は見逃すと関節が破壊されうる緊急性の高い疾患なので、発熱や不機嫌を伴うときは忘れないこと。発展知識として、発育性股関節形成不全は女児に多く、骨盤位分娩、家族歴、寒冷地や冬生まれなどが危険因子で、左側に多い。乳児健診では開排制限や大腿皮膚溝の左右差、両膝を立てたときの膝の高さの差を見るんだ。
医学生医学生
骨頭が写らない時期なら、X線より超音波のほうが有用なんでしょうか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。骨化前の乳児期早期には、軟骨も描出できる超音波検査(Graf法)が有用で、被曝もない。治療は乳児期ならまずPavlik(リーメンビューゲル)装具で股関節を屈曲・開排位に保ち、自然な整復を図る。整復されなければ牽引療法や観血的整復を考える。そして予防も大切で、脚をM字型に開いて自由に動かせるおむつの当て方や抱き方を家族に伝えることが重要だ。
医学生医学生
健診での声かけひとつで防げる可能性があるというのは、臨床に出たら意識したいです。
ドクタードクター
その意識が大切だ。歩き始めてから跛行で見つかると治療が難しくなることが多いから、乳児期のうちに見つけて治すことが目標になるんだよ。

まとめ

生後3か月の股関節X線では大腿骨頭の骨端核がまだ見えないことが多いため、大腿骨近位骨幹端と寛骨臼の位置関係、Shenton線の途絶、Perkins線より外側への偏位、臼蓋角の増大などで脱臼を評価します。本例では左大腿骨近位端が上外側に偏位し臼蓋も浅く、発育性股関節形成不全と診断できます。小児の股関節疾患は好発年齢で整理でき、乳児期は発育性股関節形成不全、幼児〜学童期は単純性股関節炎やPerthes病、思春期は大腿骨頭すべり症が代表です。発育性股関節形成不全は女児・骨盤位分娩・家族歴が危険因子で、乳児期早期の診断には超音波検査が有用、治療はPavlik装具が第一選択です。M字型の開排位を保つおむつや抱き方の指導による予防も含め、早期発見・早期治療の重要性を理解しておくことが大切です。

解答・解説

正解はeです

画像の読み方

乳児の股関節正面像では、大腿骨頭の骨化中心(骨端核)はまだ出現していないか、ごく小さいことが多い。生後3か月ではまだ見えないことも多いため、骨頭そのものではなく、大腿骨近位端(骨幹端)の位置と寛骨臼(臼蓋)との位置関係で脱臼の有無を判断する。 本問の写真では、左側の大腿骨近位端が反対側に比べて上外側へ偏位しており、寛骨臼の中に収まっていない。左側の臼蓋も浅く傾斜が急に見える。左股関節の脱臼の所見であり、3か月という年齢と合わせて発育性股関節形成不全(developmental dysplasia of the hip:DDH)と診断できる。

補助線による評価

乳児股関節の正面像では、次の補助線で脱臼を客観的に評価する。 ・Hilgenreiner線(Y軟骨線):左右のY軟骨(腸骨・坐骨・恥骨が合わさる部分)を結ぶ水平線。 ・Perkins線(Ombrédanne線):臼蓋の外上縁から Hilgenreiner線に下ろした垂線。正常では大腿骨近位骨幹端の内側端はこの線より内側にあり、脱臼では外側に出る。 ・Shenton線:閉鎖孔の上縁と大腿骨頸部の内側縁を結ぶ弧。正常では滑らかに連続し、脱臼では途切れる。 ・臼蓋角(α角、acetabular index):Hilgenreiner線と臼蓋の傾きのなす角。乳児期では30°を超えると臼蓋形成不全を疑う。

設問の考え方

選択肢の疾患はいずれも小児の股関節疾患だが、好発年齢が大きく異なる。3か月児という年齢だけで、幼児期以降に生じる単純性股関節炎・Perthes病、思春期に生じる大腿骨頭すべり症はほぼ除外でき、乳児期の股関節疾患として最も重要なのが発育性股関節形成不全である。画像の脱臼所見がこれを裏付ける。

選択肢考察

  1. ×a.  Perthes病

    Perthes病(Legg-Calvé-Perthes病)は大腿骨頭骨端核の血流障害による阻血性壊死で、3〜12歳ごろ(特に6〜7歳前後)の男児に多い。画像では骨端核の硬化・扁平化・分節化(圧潰)、関節裂隙の開大などがみられる。生後3か月では骨端核自体がまだ十分に出現しておらず、壊死を起こす対象がないため、本例には当てはまらない。

  2. ×b.  骨端線離開

    骨端線離開(骨端離開)は外力により成長軟骨板(骨端線)で骨端と骨幹端がずれる骨端線損傷である。本例のように大腿骨頭の骨端核がまだ見えない時期には、エックス線上で骨端線の離開を評価する対象がそもそも描出されない。また写真では骨幹端の骨折線や骨膜反応などの外傷所見はなく、変化は寛骨臼と大腿骨の位置関係の異常(脱臼)である。

  3. ×c.  単純性股関節炎

    単純性股関節炎は3〜10歳ごろの小児に多く、上気道感染などの後に急性の股関節痛・跛行で発症する一過性の滑膜炎である。数日〜2週間程度で自然軽快する。単純エックス線写真では通常異常を認めず、超音波検査で関節液の貯留を確認する程度である。年齢が合わず、脱臼をきたすこともないため誤りである。

  4. ×d.  大腿骨頭すべり症

    大腿骨頭すべり症は、成長スパートの時期にあたる思春期(10〜15歳前後)、特に肥満の男児に多い疾患で、骨端線の部分で大腿骨頭(骨端)が後下方へずれる。エックス線では側面像で骨頭の後方すべりが分かりやすく、正面像では Trethowan徴候(大腿骨頸部外側縁の延長線が骨頭にかからない)がみられる。3か月児には起こらず、写真でも骨頭のすべりではなく大腿骨近位端全体の脱臼が問題になっている。

  5. ○e.  発育性股関節形成不全

    写真では左大腿骨近位端が上外側に偏位して寛骨臼から外れ、臼蓋も浅い。乳児期にこうした股関節の脱臼・臼蓋形成不全を示すのが発育性股関節形成不全である。この病名は、従来の先天性股関節脱臼に加え、亜脱臼や臼蓋形成不全までを一連の病態としてまとめたもので、本例のように完全脱臼している場合もこれに含まれる。

発育性股関節形成不全(DDH)の概要

・定義:股関節の脱臼、亜脱臼、臼蓋形成不全を含む概念。かつては「先天性股関節脱臼」と呼ばれたが、出生時には脱臼していなくても、出生後の環境(下肢を伸展位で固定するおむつや抱き方など)によって脱臼が生じ・進行することが分かり、「発育性」の名称が用いられるようになった。 ・危険因子:女児(男児の数倍多い)、骨盤位分娩、家族歴、寒冷地・冬生まれ、下肢を伸ばした状態でのおむつ・巻きおむつなど。左側に多い。 ・症状・所見:開排制限(股関節を曲げて外に開く動きが制限される)、大腿皮膚溝(しわ)の左右非対称、脚長差(Allis徴候:両膝を立てると患側の膝が低い)、Ortolaniクリック(脱臼が整復される感触)・Barlow テスト(脱臼を誘発)など。歩行開始後は跛行、両側例では腰椎前弯の増強や動揺性歩行(あひる歩き)がみられる。 ・画像検査:骨頭が骨化していない乳児期早期には超音波検査(Graf法)が有用である。エックス線では Hilgenreiner線、Perkins線、Shenton線、臼蓋角で評価する。 ・治療:乳児期はまず Pavlik(リーメンビューゲル)装具で股関節を屈曲・開排位に保ち自然整復を図る。整復されない例では牽引療法や観血的整復を行う。遺残した臼蓋形成不全には骨盤骨切り術などが行われる。 ・予防:股関節を開排位(M字型)で自由に動かせるようにするおむつの当て方・抱き方の指導が重要である。

小児股関節疾患の好発年齢

・乳児期:発育性股関節形成不全、化膿性股関節炎(新生児・乳児で重要) ・幼児〜学童期:単純性股関節炎(3〜10歳)、Perthes病(3〜12歳、男児に多い) ・思春期:大腿骨頭すべり症(10〜15歳前後、肥満男児に多い)

POINT

・乳児の股関節脱臼は、大腿骨近位端の上外側偏位、Shenton線の途絶、Perkins線より外側への骨幹端の偏位、臼蓋角の増大で読む。 ・発育性股関節形成不全は脱臼・亜脱臼・臼蓋形成不全を包括する概念で、女児・骨盤位分娩・家族歴がリスク、左側に多い。 ・小児股関節疾患は年齢で絞り込む:乳児期は DDH、幼児〜学童期は単純性股関節炎・Perthes病、思春期は大腿骨頭すべり症。 ・乳児期の治療の第一選択は Pavlik(リーメンビューゲル)装具。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。