膀胱は満タンか、空っぽか―「無尿」と「尿閉」から整理する泌尿器の症候
第109回医師国家試験 H問題 第6問
国試問題にチャレンジ
疾患と症候の組合せで正しいのはどれか。
- a.急性膀胱炎 ―― 発熱
- b.腎細胞癌 ―― 無尿
- c.前立腺肥大症 ―― 腰痛
- d.慢性腎不全 ―― 貧血
- e.両側尿管結石 ―― 尿閉
対話形式の解説
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医学生まとめ
慢性腎不全では、腎皮質でのエリスロポエチン産生が低下して正球性正色素性の腎性貧血をきたし、鉄補充とESAやHIF-PH阻害薬で治療します。急性膀胱炎は粘膜表層の感染で通常は発熱せず、発熱があれば腎盂腎炎や急性前立腺炎を考えます。両側尿管結石のような上部尿路の閉塞では膀胱に尿が届かず腎後性の無尿となり、尿閉は前立腺肥大症など膀胱出口から尿道の通過障害で生じます。前立腺肥大症の主症状は下部尿路症状と尿閉で腰痛ではなく、腎細胞癌は多くが片側性のため無尿にはならず、血尿・側腹部痛・腹部腫瘤や腫瘍随伴症候群が特徴です。症候が「どこで」「なぜ」起こるかを解剖と生理から考える姿勢は、泌尿器・腎疾患の鑑別を確実にする基本となります。
解答・解説
正解はdです
泌尿器・腎疾患の代表的な疾患と、それぞれに典型的な症候の対応を問う基本問題である。 解く際の鍵は次の2点である。 1. 感染症の発熱の有無:尿路感染症のうち、膀胱炎のような下部尿路の表在性粘膜感染では通常発熱しない。発熱があれば腎盂腎炎、急性前立腺炎、急性精巣上体炎などの実質臓器の感染を考える。 2. 「無尿」と「尿閉」の区別:無尿は腎で尿が作られない、または作られた尿が膀胱まで届かないために、膀胱に尿がたまらない状態(1日尿量100 mL未満)である。尿閉は膀胱に尿がたまっているのに排出できない状態である。尿管の閉塞(上部尿路)なら無尿、膀胱出口〜尿道の閉塞(下部尿路)なら尿閉となる。 このほか、慢性腎臓病(慢性腎不全)で生じる合併症(腎性貧血、高カリウム血症、代謝性アシドーシス、CKD-MBD〈慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常〉、体液過剰など)を理解していれば、正しい組合せは「慢性腎不全―貧血」と判断できる。
選択肢考察
- ×a. 急性膀胱炎 ―― 発熱
誤り。急性膀胱炎は膀胱粘膜の表層にとどまる感染であり、症状は排尿痛(特に排尿終末時)、頻尿、尿意切迫感、残尿感、下腹部不快感、混濁尿・血尿などの局所症状が中心で、通常は発熱を伴わない。38℃以上の発熱、悪寒戦慄、腰背部痛、肋骨脊柱角(CVA)叩打痛があれば、感染が腎実質に及んだ急性腎盂腎炎を考える。男性で発熱を伴う下部尿路症状があれば急性前立腺炎も鑑別に挙がる。
- ×b. 腎細胞癌 ―― 無尿
誤り。腎細胞癌は多くが片側性で、対側の健常腎が機能を保つため、無尿になることはまずない。両側性であっても腫瘍が両腎の機能をすべて失わせるほどになるのはきわめてまれである。腎細胞癌でみられる症状は、肉眼的血尿、側腹部痛、腹部腫瘤(古典的3主徴だが、そろうことは少ない)である。現在は画像検査で偶然発見される無症状例が多い。そのほか、発熱、体重減少、赤沈亢進や、エリスロポエチン産生による多血症、PTHrP(副甲状腺ホルモン関連蛋白)による高カルシウム血症などの腫瘍随伴症候群、左腎静脈への腫瘍塞栓による左精索静脈瘤を伴うことがある。
- ×c. 前立腺肥大症 ―― 腰痛
誤り。前立腺肥大症は、尿道を取り囲む移行領域の腺腫様過形成により膀胱出口が狭くなる疾患である。症状は下部尿路症状が中心で、排尿症状(尿勢低下、排尿遅延、腹圧排尿、尿線途絶)、蓄尿症状(頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感)、排尿後症状(残尿感)がみられる。進行すると残尿が増え、飲酒や抗コリン作用をもつ薬剤(総合感冒薬など)を契機に急性尿閉をきたす。腰痛は前立腺肥大症の典型的症候ではない。高齢男性で腰痛があれば、前立腺癌の骨転移(造骨性転移)などを別に考える必要がある。
- ○d. 慢性腎不全 ―― 貧血
正しい。エリスロポエチン(EPO)は主に腎皮質の尿細管周囲間質細胞が、組織の低酸素を感知して産生する造血ホルモンで、骨髄の赤芽球系前駆細胞の分化・増殖を促す。慢性腎不全で腎実質が障害されるとEPOの産生が不十分になり、貧血の程度に見合ったEPOの上昇が起こらず、正球性正色素性貧血をきたす。これを腎性貧血という。さらに、尿毒症物質による赤血球寿命の短縮、鉄の利用障害や透析に伴う失血による鉄欠乏も貧血を増悪させる。治療は、鉄の補充を行ったうえで赤血球造血刺激因子製剤(ESA:エリスロポエチン製剤など)を用いる。近年はHIF-PH阻害薬(低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素阻害薬)も使われている。
- ×e. 両側尿管結石 ―― 尿閉
誤り。尿管は腎から膀胱へ尿を運ぶ上部尿路である。両側の尿管が結石で閉塞すると、腎で作られた尿が膀胱へ届かず膀胱は空になる。したがって生じるのは尿閉ではなく、腎後性の乏尿・無尿(閉塞性腎不全)である。片腎(機能的単腎)の患者では片側の尿管結石でも同様に無尿となりうる。尿管結石では、そのほか疝痛発作(腰背部〜側腹部から下腹部・鼠径部へ放散する激痛)、悪心・嘔吐、血尿、水腎症がみられる。尿閉は前立腺肥大症、尿道狭窄、神経因性膀胱、膀胱頸部・尿道の結石嵌頓など下部尿路の通過障害で生じる。
無尿と尿閉の違い
無尿:1日尿量100 mL未満(乏尿は400 mL未満)。腎前性(脱水・ショックなど)、腎性(急性尿細管壊死など)、腎後性(両側尿管閉塞など)に分ける。膀胱は空で、導尿しても尿はほとんど得られない。腎後性では超音波で両側の水腎症を認める。 尿閉:膀胱に尿が充満しているが排尿できない状態。下腹部の膨隆・緊満を認め、導尿で多量の尿が得られる。原因は前立腺肥大症、前立腺癌、尿道狭窄、神経因性膀胱、薬剤(抗コリン薬、感冒薬など)など。
慢性腎臓病(CKD)の主な合併症
腎性貧血(EPO産生低下)、高カリウム血症、代謝性アシドーシス、高リン血症・低カルシウム血症と二次性副甲状腺機能亢進症(CKD-MBD)、高血圧・体液過剰(浮腫、肺水腫)、尿毒症症状(食欲不振、悪心、意識障害、心膜炎など)。
尿路感染症と発熱
発熱しない:膀胱炎、尿道炎。 発熱する:腎盂腎炎、急性前立腺炎、急性精巣上体炎。
POINT
・急性膀胱炎は発熱しない(発熱があれば腎盂腎炎・前立腺炎を疑う)。 ・慢性腎不全ではエリスロポエチン産生低下により正球性正色素性の腎性貧血をきたす。 ・両側尿管閉塞では「無尿」(腎後性)、膀胱出口〜尿道の閉塞では「尿閉」。 ・前立腺肥大症の主症状は下部尿路症状と尿閉であり、腰痛ではない。 ・腎細胞癌の古典的3主徴は血尿・側腹部痛・腹部腫瘤。
