小さくて良性なら「穴から取る」―腹腔鏡手術が輝く副腎腺腫と、他の泌尿器疾患の標準治療
第111回医師国家試験 B問題 第17問
国試問題にチャレンジ
腹腔鏡手術の適応となるのはどれか。
- a.尿管結石症
- b.後腹膜線維症
- c.腎動脈狭窄症
- d.前立腺肥大症
- e.原発性アルドステロン症
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
腹腔鏡手術は小切開から炭酸ガスで気腹して行う手術で、創が小さく疼痛が軽く早期退院が可能な一方、気腹に伴う合併症もあります。原発性アルドステロン症のうち片側性のアルドステロン産生腺腫は、小さく良性で浸潤がないため、腹腔鏡下副腎摘除術が標準的な根治療法となります。両側性の特発性アルドステロン症はミネラルコルチコイド受容体拮抗薬で治療するため、副腎静脈サンプリングによる局在診断が手術適応の判断に欠かせません。尿管結石は体外衝撃波や経尿道的砕石術、前立腺肥大症は薬物療法と経尿道的手術、腎動脈狭窄症は降圧薬とカテーテル治療、後腹膜線維症はステロイドと尿路ドレナージが主体で、腹腔鏡の前立腺全摘除術の対象は前立腺癌である点も混同しやすいポイントです。各疾患の第一選択の治療を思い浮かべる習慣は、治療法を問う問題全般や実際の治療方針の理解に役立ちます。
解答・解説
正解はeです
腹腔鏡手術は、腹壁に数か所の小切開(ポート)を置き、炭酸ガスで腹腔(または後腹膜腔)を膨らませてカメラと鉗子で行う手術である。開腹手術に比べて創が小さく、術後疼痛が軽く、離床・退院が早いという利点がある。泌尿器科・内分泌外科領域では、副腎摘除術、根治的腎摘除術、腎部分切除術、腎盂形成術、前立腺全摘除術(ロボット支援を含む)などが代表的な対象である。 本問では、各疾患に対する「標準的な治療手段」が何かを考える。尿管結石は体外衝撃波や経尿道的内視鏡、前立腺肥大症は経尿道的手術、腎動脈狭窄はカテーテル治療、後腹膜線維症は薬物療法と尿路ドレナージが主体であり、いずれも腹腔鏡手術が第一選択となる疾患ではない。一方、原発性アルドステロン症の片側性病変(アルドステロン産生腺腫など)では、患側副腎摘除術が根治療法であり、その標準術式は腹腔鏡下副腎摘除術である。副腎は小さな臓器で、アルドステロン産生腺腫は径1〜2cm程度と小さく良性のことが多いため、腹腔鏡手術の良い適応となる。
選択肢考察
- ×a. 尿管結石症
誤り。10mm未満程度の小結石は自然排石を期待し、必要に応じて薬物(α1遮断薬など)で排石を促す。自然排石が見込めない結石や水腎症・感染を伴う閉塞では、体外衝撃波結石破砕術(ESWL)や、尿管鏡を尿道から挿入してレーザーなどで砕石・抜去する経尿道的尿管砕石術(TUL)が行われる。腎結石が大きい場合は経皮的腎砕石術(PNL)も選択される。これらの低侵襲な内視鏡・体外治療で対応できるため、腹腔鏡手術が通常の適応となることはない(内視鏡治療が困難な特殊例で例外的に行われる程度である)。
- ×b. 後腹膜線維症
誤り。後腹膜線維症は大動脈周囲から後腹膜に線維性組織が増生し、尿管を巻き込んで水腎症を来す疾患である。IgG4関連疾患によるものが多く、治療の基本は副腎皮質ステロイドである。尿管閉塞による水腎症・腎機能障害に対しては尿管ステント留置や腎瘻造設でドレーナージを行う。悪性疾患との鑑別のために生検が必要になることはあるが、腹腔鏡手術が標準治療として適応となる疾患ではない。
- ×c. 腎動脈狭窄症
誤り。腎動脈狭窄症の原因は粥状動脈硬化と線維筋性異形成が代表的で、腎血管性高血圧の原因となる。治療は降圧薬による内科的治療が基本で、血行再建が必要な場合は経皮的腎動脈形成術(PTRA、動脈硬化性ではステント留置を併用することが多い)が主流である。カテーテル治療が困難な症例では腎動脈バイパス術などの血管外科的手術が行われるが、これは開腹で行う血管手術であり、腹腔鏡手術の適応ではない。
- ×d. 前立腺肥大症
誤り。前立腺肥大症の治療はまずα1遮断薬、PDE5阻害薬、5α還元酵素阻害薬などの薬物療法で、効果不十分例や尿閉・繰り返す尿路感染・膀胱結石などを伴う例で手術を行う。手術は経尿道的前立腺切除術(TURP)や、ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)などの経尿道的内視鏡手術が標準である。非常に大きな腺腫では被膜下前立腺摘除術が行われることがあるが、一般には腹腔鏡手術の適応とはされない。腹腔鏡(ロボット支援)下前立腺全摘除術が行われるのは前立腺癌であり、混同しないよう注意する。
- ○e. 原発性アルドステロン症
正しい。原発性アルドステロン症では、副腎静脈サンプリングなどで病変が片側性(多くはアルドステロン産生腺腫)と確認されれば、患側副腎摘除術が根治療法となり、その標準術式が腹腔鏡下副腎摘除術である。腺腫は小さく良性であることがほとんどで、周囲への浸潤もないため腹腔鏡手術に適している。手術により低カリウム血症は改善し、高血圧も改善または治癒が期待できる。両側性(特発性アルドステロン症)では手術ではなくミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノンなど)による薬物療法を行う。
腹腔鏡手術の利点と注意点
利点は、創が小さく疼痛が少ない、早期離床・早期退院が可能、拡大視野で精細な操作ができる、出血量が少ない傾向にあることなどである。一方、気腹(炭酸ガス注入)に伴う高炭酸ガス血症や静脈還流低下、皮下気腫などの合併症があり、広範な癒着や高度の局所浸潤がある症例では適応が制限される。
泌尿器・副腎領域で腹腔鏡(ロボット支援含む)手術が行われる代表例
・副腎腫瘍:原発性アルドステロン症、Cushing症候群の副腎腺腫、褐色細胞腫(比較的小型のもの)、非機能性腺腫で手術適応のあるもの ・腎腫瘍:腎細胞癌に対する根治的腎摘除術・腎部分切除術 ・腎盂尿管移行部狭窄症:腎盂形成術 ・腎盂・尿管癌:腎尿管全摘除術 ・前立腺癌:前立腺全摘除術 ・膀胱癌:膀胱全摘除術 ・生体腎移植ドナーの腎採取
副腎腫瘍で腹腔鏡手術が難しいもの
径が大きい腫瘍(目安として6cm程度を超えるもの)や、副腎皮質癌が疑われるもの、周囲臓器・血管への浸潤があるものでは開腹手術が考慮される。
主な泌尿器疾患の標準的治療
・尿管結石:自然排石・薬物療法、ESWL、TUL ・前立腺肥大症:薬物療法、TURP、HoLEPなど ・腎動脈狭窄:降圧薬、PTRA(ステント) ・後腹膜線維症:ステロイド、尿管ステント・腎瘻
POINT
・原発性アルドステロン症の片側性病変(アルドステロン産生腺腫)は腹腔鏡下副腎摘除術の代表的適応である。 ・両側性(特発性アルドステロン症)はミネラルコルチコイド受容体拮抗薬で治療する。 ・尿管結石はESWL・TUL、前立腺肥大症は経尿道的手術、腎動脈狭窄はPTRA、後腹膜線維症はステロイドと尿路ドレナージが主体。 ・腹腔鏡(ロボット支援)下前立腺全摘除術の対象は前立腺癌であり、前立腺肥大症ではない。
