StudyMed医師国家試験

黄疸より、腹痛より、「呼吸の速さ」を見よ―急性胆管炎が敗血症へ傾くサイン

第109回医師国家試験 H問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第109回 H問題 第7問

急性胆管炎の身体診察所見で緊急度の高い対応が求められるのはどれか。

  1. a.眼球結膜の黄染
  2. b.右上腹部の圧痛
  3. c.腸雑音の亢進
  4. d.背部の叩打痛
  5. e.頻呼吸の出現

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は急性胆管炎の患者さんを診察するとき、どの所見が「今すぐ動かなければいけない」サインなのかを問う問題だ。着眼点は、病気そのものを示す局所所見と、全身状態の悪化を示す所見を区別できるかどうか。まず急性胆管炎とはどういう病態か、説明できるかな。
医学生医学生
総胆管結石などで胆管が詰まって、うっ滞した胆汁に細菌が感染する病気ですよね。
ドクタードクター
その通り。ポイントは、閉塞で胆管内圧が上がると、細菌やエンドトキシンが血液中へ逆流しやすくなること。だから急性胆管炎は、短時間で菌血症、敗血症、敗血症性ショックへ進みうる緊急疾患なんだ。
医学生医学生
消化器内科の講義で、Charcotの3徴が発熱・黄疸・右上腹部痛だと習いました。だから眼球結膜の黄染も右上腹部の圧痛も、胆管炎らしさを示す大事な所見だと思います。
ドクタードクター
「胆管炎らしさ」という点では正しいよ。眼球結膜の黄染は胆汁うっ滞を反映し、ビリルビンがおおむね2〜3 mg/dLを超えると見えてくる。診断基準でも胆汁うっ滞の項目に入る。右上腹部の圧痛も胆道の炎症を示す局所所見だ。ただ、どちらも診断の手がかりであって、それだけで臓器障害や循環不全を意味するわけではない。
医学生医学生
なるほど、「診断に役立つ所見」と「緊急度を示す所見」は別物なんですね。背部の叩打痛も同じ局所所見の仲間でしょうか。
ドクタードクター
そう考えていい。右季肋部から背部の叩打痛は、肝胆道系の炎症の波及や肝膿瘍、膵炎の合併、腎盂腎炎などでもみられる局所の炎症所見だ。病変の場所や合併症を考えるヒントにはなるが、全身状態の悪化を示すものではない。
医学生医学生
腸雑音の亢進はどうですか。腹部の異常だから悪いサインのような気もしてしまいます。
ドクタードクター
腸雑音の亢進は下痢や腸炎、機械的腸閉塞の初期などで聴かれる所見で、胆管炎の重症度とは直接関係しない。むしろ腹膜炎や麻痺性イレウスが進むと、腸雑音は減弱・消失する方向に向かうんだ。
医学生医学生
そうすると残るのは頻呼吸の出現ですね。バイタルサインの異常だから、全身に影響が及び始めているということでしょうか。
ドクタードクター
まさにそこが正解の理由だ。頻呼吸は、全身性炎症による呼吸促迫、組織の低灌流で乳酸が溜まった代謝性アシドーシスを呼吸で代償している状態、あるいはARDSなど呼吸不全の始まりを示唆する。つまり局所の感染が敗血症へ移行しつつあるサインなんだ。
医学生医学生
救急科の実習で、qSOFAの項目に呼吸数22回/分以上が入っていると教わりました。意識変容と収縮期血圧100 mmHg以下と合わせて3項目でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。呼吸数は忙しい現場で測り忘れられがちだけど、敗血症を拾い上げるうえで大切な指標なんだ。急性胆管炎の重症度判定でも、呼吸機能障害、つまりPaO2/FiO2比300未満は臓器障害として重症に分類される。
医学生医学生
Reynoldsの5徴というのも国試で出てきますよね。Charcotの3徴にショックと意識障害を加えたものだったと思います。
ドクタードクター
その通り。Reynoldsの5徴は重篤な急性閉塞性化膿性胆管炎を示唆する。ショックも意識障害も全身状態の異常だよね。頻呼吸は、そこへ至る前の段階で気づける大事なサインと言える。
医学生医学生
頻呼吸に気づいたら、具体的には何をすればいいですか。
ドクタードクター
まず血圧や意識、酸素化を確認して、輸液を含めた呼吸・循環の全身管理を始める。抗菌薬は重症度にかかわらず投与するが、根本は閉塞した胆管の減圧だ。ERCPによる経鼻胆道ドレナージやステント留置といった内視鏡的胆道ドレナージを、全身状態を安定させながら急いで行う。中等症でも早期のドレナージが勧められているよ。
医学生医学生
抗菌薬だけでは不十分で、詰まりを取らないと感染した胆汁が溜まったままになる、ということですね。
ドクタードクター
そう、感染巣のドレナージが胆管炎治療の要なんだ。臨床では、黄疸が強くて見た目が派手な患者さんほど注目されがちだけれど、本当に怖いのは静かに上がっていく呼吸数や脈拍、ぼんやりしてくる意識のほうだ。局所所見で診断し、バイタルサインで緊急度を判断する、という二段構えを忘れないでほしい。

まとめ

急性胆管炎は、胆管閉塞により胆管内圧が上昇して細菌やエンドトキシンが血中へ逆流し、短期間で敗血症・敗血症性ショックへ進行しうる緊急疾患です。眼球結膜の黄染、右上腹部の圧痛、背部叩打痛は胆管の閉塞や炎症を示す局所所見で診断には役立ちますが、それだけで緊急度は決まらず、腸雑音の亢進は重症度と直接関係しません。一方、頻呼吸は全身性炎症や代謝性アシドーシスの代償、呼吸不全の始まりを示すバイタルサインの異常で、qSOFAの項目(呼吸数22回/分以上)にも含まれ、敗血症への進行を示唆します。頻呼吸を認めたら呼吸・循環の全身管理と抗菌薬投与を行いつつ、内視鏡的胆道ドレナージによる胆道減圧を急ぎます。「局所所見で診断し、バイタルサインで緊急度を判断する」という視点は、胆管炎に限らず感染症診療全般の基本です。

解答・解説

正解はeです

急性胆管炎の患者を診察するとき、どの所見が「重症化(敗血症・臓器障害)への進行」を示し、緊急の対応を要するかを問う問題である。 急性胆管炎は、総胆管結石や腫瘍などで胆管が閉塞し、うっ滞した胆汁に細菌感染が起こる病態である。胆管内圧が上がると細菌やエンドトキシンが血中へ逆流しやすく、短時間で菌血症、敗血症、敗血症性ショックへ進行しうる。古典的にはCharcotの3徴(発熱、黄疸、右上腹部痛)が知られ、これにショック(血圧低下)と意識障害が加わったものをReynoldsの5徴と呼び、重篤な状態を示す。 選択肢のうち、黄疸(眼球結膜の黄染)、右上腹部の圧痛、背部の叩打痛は、胆管の閉塞や炎症そのものを反映する局所的な所見であり、診断の手がかりにはなるが、それだけで重症度が高いことを示すものではない。一方、頻呼吸はバイタルサインの異常であり、全身性の炎症反応や、敗血症で乳酸が蓄積して代謝性アシドーシスとなり呼吸で代償している状態、あるいは呼吸不全の始まりを示唆する。敗血症のスクリーニングに用いるqSOFA(quick SOFA)でも、呼吸数22回/分以上が項目の一つになっている。 したがって、急性胆管炎の経過中に頻呼吸が出現した場合は、敗血症・臓器障害への進行を考え、呼吸・循環の評価と全身管理を開始する。そのうえで、抗菌薬投与とともに、内視鏡的胆道ドレナージ(ERCPによる経鼻胆道ドレナージやステント留置)などの胆道減圧を急ぐ必要がある。

選択肢考察

  1. ×a.  眼球結膜の黄染

    緊急度は高くない。眼球結膜の黄染は黄疸の所見で、胆管閉塞による胆汁うっ滞を反映する。黄疸は血清総ビリルビンがおおむね2〜3 mg/dL以上になると肉眼で認識できるようになり、眼球結膜は皮膚より早く黄染がわかる部位である。急性胆管炎の診断基準では胆汁うっ滞の項目に含まれ、診断に役立つ所見である。しかし黄疸があるだけでは臓器障害や循環不全を意味せず、緊急度を決める所見ではない。

  2. ×b.  右上腹部の圧痛

    緊急度は高くない。右上腹部の圧痛は胆道系の炎症を示唆する局所所見で、Charcotの3徴の腹痛に相当し、急性胆管炎や急性胆嚢炎でよくみられる。圧痛のみで、筋性防御や反跳痛などの腹膜刺激徴候を伴わなければ、汎発性腹膜炎のような外科的緊急状態を示すものではない。全身状態の悪化を示す所見ではない点で、頻呼吸とは重みが異なる。

  3. ×c.  腸雑音の亢進

    緊急度は高くない。腸雑音(腸蠕動音)の亢進は、下痢や腸炎、機械的腸閉塞の初期などで聴かれる所見であり、急性胆管炎の重症度とは直接関係しない。なお、腹膜炎や麻痺性イレウスが進行すると腸雑音はむしろ減弱・消失する。腸雑音の亢進だけで緊急度が高いとは判断できない。

  4. ×d.  背部の叩打痛

    緊急度は高くない。右季肋部〜背部の叩打痛は、胆道・肝臓の炎症(胆管炎の波及、肝膿瘍など)や、膵炎の合併、腎盂腎炎などでもみられる局所の炎症所見である。病変の局在や合併症を考える手がかりにはなるが、それ自体は全身状態の悪化を示す所見ではなく、緊急度を判断する根拠にはならない。

  5. ○e.  頻呼吸の出現

    緊急度が高い。頻呼吸はバイタルサインの異常であり、急性胆管炎が局所の感染から全身性の病態、すなわち敗血症へ進行しつつあることを示すサインである。機序としては、全身性炎症による呼吸促迫、組織低灌流で乳酸が蓄積した代謝性アシドーシスに対する呼吸性代償、敗血症に伴う急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの呼吸不全が考えられる。かつて用いられたSIRS(全身性炎症反応症候群)の基準では呼吸数20回/分超が、現在の敗血症の拾い上げに用いるqSOFAでは呼吸数22回/分以上が項目に含まれる。急性胆管炎の重症度判定でも、呼吸機能障害(PaO2/FiO2比300未満)は臓器障害として重症(Grade Ⅲ)に分類される。頻呼吸の出現を認めたら、ショックや意識障害の有無を確認し、全身管理と並行して早急な胆道ドレナージを検討する。

急性胆管炎の診断(Tokyo Guidelines 2018:TG18)

A. 全身の炎症所見:発熱(38℃超)や悪寒戦慄、血液検査での炎症反応(白血球数異常、CRP上昇など)。 B. 胆汁うっ滞所見:黄疸(総ビリルビン2 mg/dL以上)、肝胆道系酵素の上昇。 C. 胆管病変の画像所見:胆管拡張、または原因となる狭窄・結石・ステントなどの所見。 Aのいずれか+Bのいずれか+Cのいずれかで確診、Aのいずれか+BまたはCのいずれかで疑診とする。

重症度判定

重症(Grade Ⅲ):次のいずれかの臓器障害を伴うもの。循環障害(ドパミン5 μg/kg/分以上、またはノルアドレナリンの使用を要する低血圧)、中枢神経障害(意識障害)、呼吸機能障害(PaO2/FiO2比300未満)、腎機能障害(乏尿、または血清クレアチニン2.0 mg/dL超)、肝機能障害(PT-INR 1.5超)、血液凝固異常(血小板10万/μL未満)。 中等症(Grade Ⅱ):臓器障害はないが、白血球数12,000/μL超または4,000/μL未満、39℃以上の発熱、75歳以上、総ビリルビン5 mg/dL以上、低アルブミン血症のうち2項目以上を満たすもの。 軽症(Grade Ⅰ):上記のいずれにも該当しないもの。

治療の原則

すべての重症度で、抗菌薬投与と全身管理(輸液など)を開始する。中等症では早期の、重症では全身状態を安定させたうえで緊急の胆道ドレナージ(内視鏡的ドレナージが第一選択)を行う。軽症でも初期治療に反応しなければドレナージを考慮する。

Charcotの3徴とReynoldsの5徴

Charcotの3徴:発熱、黄疸、右上腹部痛。 Reynoldsの5徴:Charcotの3徴+ショック+意識障害。重症の急性閉塞性化膿性胆管炎を示唆する。

POINT

・急性胆管炎は短時間で敗血症性ショックへ進行しうる緊急疾患である。 ・黄疸、右上腹部圧痛などの局所所見よりも、頻呼吸・頻脈・血圧低下・意識障害といったバイタルサインの異常が緊急度を示す。 ・qSOFA:呼吸数22回/分以上、意識変容、収縮期血圧100 mmHg以下。 ・Reynoldsの5徴=Charcotの3徴(発熱・黄疸・右上腹部痛)+ショック+意識障害。 ・重症例では全身管理を行いつつ緊急胆道ドレナージを行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。