「ためられない」か「出せない」か―排尿障害は下部尿路を直接みる検査で評価する
第116回医師国家試験 D問題 第15問
国試問題にチャレンジ
排尿障害の診断で有用なのはどれか。3つ選べ。
- a.残尿測定
- b.尿流測定
- c.レノグラム
- d.腹部超音波検査
- e.末梢神経伝導検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
排尿障害(下部尿路機能障害)は、尿をためられない蓄尿障害と、尿をうまく出せない排出障害に分けて考えます。問診・症状スコア・排尿日誌に加え、非侵襲的に行える尿流測定、残尿測定、腹部超音波検査が基本検査で、尿勢や残尿量、前立腺・膀胱の形態、水腎症の有無を評価できます。最大尿流率10 mL/秒未満や残尿50〜100 mL以上は排出障害を示唆する目安です。レノグラムは分腎機能や上部尿路の通過障害を評価する核医学検査であり、末梢神経伝導検査は末梢神経障害の評価法で、いずれも膀胱・尿道の機能を直接評価するものではありません。「その検査がどの臓器のどの機能をみているか」を意識することで、排尿障害の診療に必要な検査を的確に選べるようになります。
解答・解説
正解はa, b, dです
排尿障害(下部尿路機能障害)は、膀胱と尿道からなる下部尿路の働きの異常である。大きく二つに分けられる。 ・蓄尿障害: 尿をためられない。頻尿、尿意切迫感、尿失禁など。過活動膀胱、間質性膀胱炎などでみられる。 ・排出障害: 尿をうまく出せない。尿勢低下、排尿遅延、残尿感、尿閉など。前立腺肥大症、尿道狭窄、神経因性膀胱(低活動膀胱)などでみられる。 排尿障害の基本的な評価は、問診・症状スコア(国際前立腺症状スコア〈IPSS〉、過活動膀胱症状スコア〈OABSS〉など)・排尿日誌に加えて、侵襲の少ない検査である尿流測定と残尿測定、そして超音波検査による前立腺・膀胱の形態評価である。必要に応じて、膀胱内圧測定や内圧尿流検査などのより詳しい尿流動態検査(ウロダイナミクス)を追加する。 本問では、下部尿路の機能や形態を直接評価する検査かどうか、という観点で選択肢を判断する。腎機能や上部尿路を評価する検査、末梢神経全般を評価する検査は、排尿障害の診断に直接は結びつかない。
選択肢考察
- ○a. 残尿測定
残尿とは、排尿直後に膀胱内に残っている尿のことである。排尿後も腎臓での尿の生成は続くため、測定は排尿直後に行う。導尿で実測する方法と、超音波で膀胱の大きさから推定する方法(簡便で非侵襲的なため現在の主流)がある。健常成人の残尿はほぼ0で、目安として50 mL以上で残尿が多い、100 mL以上で明らかな異常と判断される。残尿の増加は排出障害(膀胱出口部閉塞や排尿筋の収縮力低下)を示し、治療方針の決定や尿閉の確認にも役立つ。排尿障害の診断に有用であり、正しい。
- ○b. 尿流測定
尿流測定(ウロフロメトリー)は、専用の便器に普段どおり排尿してもらい、時間ごとの尿流量(mL/秒)を記録する非侵襲的な検査である。最大尿流率、平均尿流率、排尿量、排尿時間、尿流曲線の形から排出機能を客観的・定量的に評価できる。正確な評価には150 mL以上の排尿量が望ましい。成人男性では最大尿流率がおおむね15 mL/秒以上で正常、10 mL/秒未満では閉塞や排尿筋収縮力低下が疑われる。前立腺肥大症では最大尿流率の低い平坦で長い曲線、尿道狭窄では台形状の曲線を示す。排尿障害の診断に有用であり、正しい。
- ×c. レノグラム
レノグラムは、99mTc-MAG3(メルカプトアセチルトリグリシン)や99mTc-DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)などの放射性医薬品を静注し、腎臓への取り込みと尿路への排泄を経時的に記録する核医学検査である。左右それぞれの腎機能(分腎機能)の評価や、腎盂尿管移行部狭窄などの上部尿路の通過障害の評価に用いる。膀胱や尿道の機能は評価できないため、排尿障害の診断には直接用いられず、誤りである。
- ○d. 腹部超音波検査
腹部超音波検査(経腹的超音波検査)は非侵襲的で、外来ですぐに行える。前立腺の大きさ(体積の推定)や膀胱内への突出の程度、膀胱壁の肥厚、膀胱結石・膀胱腫瘍・膀胱憩室の有無を評価できる。排尿後に行えば残尿量の推定もできる。さらに、慢性的な排出障害が上部尿路へ影響して起こる水腎症の有無も確認できる。排尿障害の原因検索と重症度評価に有用であり、正しい。
- ×e. 末梢神経伝導検査
末梢神経伝導検査は、皮膚の上から末梢神経を電気刺激し、誘発された電位を記録して伝導速度や振幅を測定する検査である。ニューロパチー(末梢神経障害)や絞扼性神経障害などの診断に用いる。糖尿病性神経障害のように神経因性膀胱の背景疾患の評価に役立つ場面はあるが、膀胱・尿道の機能そのものを評価する検査ではなく、排尿障害の診断に直接有用な検査とはいえない。誤りである。
排尿障害の主な検査
・問診・症状スコア: 国際前立腺症状スコア(IPSS)とQOLスコア、過活動膀胱症状スコア(OABSS)など ・排尿日誌: 排尿の時刻と1回排尿量、尿失禁の有無などを記録する。1日尿量、夜間多尿(夜間尿量が1日尿量の33%を超える、高齢者の基準)、機能的膀胱容量の評価に有用である。 ・尿検査: 尿路感染症や血尿の有無を確認する。 ・尿流測定、残尿測定: 排出機能の非侵襲的な評価法。 ・超音波検査: 前立腺体積、膀胱の形態、残尿、水腎症の評価。 ・血清PSA: 前立腺肥大症と前立腺癌の鑑別のために測定する。 ・尿流動態検査(ウロダイナミクス): 膀胱内圧測定(蓄尿期の排尿筋過活動や膀胱コンプライアンス、膀胱容量を評価する)、内圧尿流検査(pressure-flow study。排尿時の排尿筋圧と尿流率を同時に測り、閉塞か排尿筋収縮力低下かを区別する)、外尿道括約筋筋電図など。神経因性膀胱や手術前の精密評価で用いる。
排尿障害の分類と代表的疾患
・蓄尿障害: 過活動膀胱、間質性膀胱炎、腹圧性尿失禁(骨盤底筋の脆弱化)、核上型の神経因性膀胱(脳血管障害、Parkinson病など) ・排出障害: 前立腺肥大症、尿道狭窄、膀胱頸部硬化症、核下型の神経因性膀胱(糖尿病、骨盤内手術後、腰部脊柱管狭窄症など)、抗コリン薬などの薬剤性 実際には前立腺肥大症のように蓄尿症状と排出症状の両方を伴う場合も多い。
POINT
・排尿障害は「蓄尿障害(ためられない)」と「排出障害(出せない)」に分けて考える。 ・基本検査は非侵襲的な尿流測定(ウロフロメトリー)、残尿測定、腹部超音波検査。 ・尿流測定は排尿量150 mL以上で評価し、最大尿流率10 mL/秒未満は排出障害を示唆する。 ・残尿は排尿直後に測定し、50〜100 mL以上で異常と判断する。 ・レノグラムは分腎機能と上部尿路の通過障害を評価する核医学検査で、下部尿路の評価には用いない。
