StudyMed医師国家試験

そのレバー、何のため?―車椅子のブレーキが転倒事故を防ぐ

第109回医師国家試験 H問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第109回 H問題 第18問

車椅子の写真を別に示す。  矢印で示したレバーを用いて行うのはどれか。

第109回 H問題 第18問の問題画像
  1. a.シートの高さを調節する。
  2. b.移乗するときに体を支える。
  3. c.背もたれの角度を調節する。
  4. d.進行方向をコントロールする。
  5. e.車輪にブレーキをかけて固定する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、病院や介護の現場で毎日のように目にする標準型の自走式車椅子について、部品の名前と役割を問う問題だ。見るべきは、矢印のレバーが車椅子のどこに付いているか。位置がわかれば役割は自然に見えてくるよ。
医学生医学生
座面の横で、大きな後輪のタイヤのすぐ前にあるレバーですね。座面の高さを変えるレバーかと一瞬思いました。
ドクタードクター
事務椅子のイメージだとそう見えるかもしれないね。でも標準型の車椅子は座面の高さが基本的に固定されていて、利用者の下腿の長さなどに合わせて車椅子を選ぶ段階で決めるものなんだ。では、タイヤのすぐ近くにレバーがある理由を考えてみよう。
医学生医学生
タイヤに接するように付いているなら、タイヤを押さえて止めるためのもの……ブレーキでしょうか。
ドクタードクター
正解。これは駐車用ブレーキ、ストッパーとも呼ばれる部品だ。レバーを倒すと金具がタイヤに押し当てられて、車輪が回らないように固定される。だから「車輪にブレーキをかけて固定する」が答えになる。
医学生医学生
背もたれの角度を変えるレバーという可能性はないんですか。
ドクタードクター
標準型の車椅子は背もたれ、正式にはバックサポートの角度も固定だ。背もたれを倒せるのはリクライニング式の車椅子で、その操作レバーは通常、背もたれの後ろ、介助者が握るグリップの近くにある。後輪の前にはないんだ。
医学生医学生
進む方向は、自分でこぐときは後輪の外側の輪を回して変えるんでしたよね。
ドクタードクター
そう、その輪をハンドリムという。左右のハンドリムを回す力や速さを変えて、前進・後退・方向転換をする。介助者が押すときは後ろのグリップで操作するし、電動車椅子ならジョイスティックだ。いずれもこのレバーの役目ではない。
医学生医学生
移乗のときに体を支えるためのものかとも迷いました。手をつくのにちょうどよさそうな位置なので。
ドクタードクター
移乗のときに手をついて体を支えるのは、主にアームサポート、つまり肘掛けだ。ブレーキのレバーは体重をかけるための部品ではない。ただ、移乗とは深い関係があるよ。移乗の前には必ずこのレバーで両側のブレーキをかけて、車椅子を固定しておくことが安全の大前提なんだ。
医学生医学生
OSCEの練習で、車椅子への移乗介助をやったとき、最初にブレーキ確認を忘れて指導の先生に注意されました。
ドクタードクター
それは大事な経験だね。車椅子は止まっているときにブレーキをかけていないと、わずかな傾斜や体重移動で簡単に動いてしまう。ベッドやトイレへの移乗中に車椅子が動けば、転倒・転落事故につながる。しかも患者さん自身が麻痺や筋力低下、認知機能の低下でブレーキを操作できなかったり、かけ忘れたりすることが多いんだ。
医学生医学生
だから医療者側が、ブレーキがかかっているかを確認しないといけないんですね。
ドクタードクター
その通り。ついでに、ほかの部品も整理しておこう。前の小さな車輪はキャスターで、向きが自由に変わる。足を載せるのはフットサポートで、移乗の前には跳ね上げて足に引っかからないようにする。後ろの下のほうに出ている棒はティッピングレバーといって、介助者が踏んで前輪を持ち上げ、段差を越えるときに使う。
医学生医学生
肘掛けが跳ね上がるタイプの車椅子を整形外科の実習で見ました。横から移乗しやすいからだと教わりました。
ドクタードクター
まさにそう。肘掛けが着脱できたり跳ね上がったりするタイプは、片麻痺の患者さんなどの横方向の移乗に便利だ。もう一つ、坂道の介助も覚えておこう。下り坂では後ろ向きに進むほうが、患者さんが前に転落するのを防ぎやすい。
医学生医学生
移乗前は両側のブレーキとフットサポート、段差はティッピングレバー、下り坂は後ろ向き、ですね。
ドクタードクター
完璧だ。車椅子の操作はリハビリスタッフや看護師に任せがちだけど、医師も病棟や外来で患者さんを移動させる場面はたくさんある。部品の名前と役割を知っておくことが、そのまま事故予防につながるんだよ。

まとめ

標準型の自走式車椅子で、後輪のタイヤのすぐ前方にあるレバーは駐車用ブレーキ(ストッパー)であり、レバーを倒すと金具がタイヤを押さえて車輪を固定します。座面の高さや背もたれの角度は標準型では固定されており、方向の制御はハンドリムや介助用グリップ、移乗時に体を支えるのは主にアームサポート(肘掛け)の役割です。停車中、とくにベッドやトイレへの移乗の際には左右両側のブレーキをかけ、フットサポートを跳ね上げておくことが転倒・転落防止の基本で、麻痺や認知機能低下のある患者ではかけ忘れが多いため医療者による確認が欠かせません。キャスターやティッピングレバーなど各部の名称と役割、段差や下り坂での介助法まで押さえておくことは、病棟や外来で患者の安全を守るための実践的な知識になります。

解答・解説

正解はeです

医療・介護の現場で日常的に使われる標準型の自走式車椅子について、各部の名称と役割を問う問題である。 写真の矢印が指しているのは、座面の横、大きな後輪(駆動輪)のタイヤのすぐ前方に取り付けられたレバーである。この位置にあるレバーは駐車用ブレーキ(ストッパー)で、レバーを倒すと金具がタイヤに押し当てられ、車輪が回らないように固定される。 車椅子は止まっているときにブレーキをかけておかないと、わずかな傾斜や体重移動で簡単に動いてしまう。特にベッドやトイレへの乗り移り(移乗)の際に車椅子が動くと、転倒・転落事故につながる。患者本人が麻痺や筋力低下、認知機能の低下などのためにブレーキを操作できない、あるいはかけ忘れることも多いため、介助する医療者がブレーキの位置と操作法を理解し、確実にかかっているかを確認することが求められる。 なお、標準型車椅子には座面の高さや背もたれの角度を変えるレバーは通常付いておらず、方向の制御はハンドリム(後輪の外側にある輪)や介助用グリップで行う。

選択肢考察

  1. ×a.  シートの高さを調節する。

    誤り。標準型の車椅子では座面の高さは基本的に固定されており、矢印のレバーで調節するものではない。座面の高さは車椅子を選ぶ段階で、利用者の下腿の長さや足でこぐ必要の有無などに合わせて決める。座面高を変えられる車椅子も一部にあるが、そのための機構は後輪前方のレバーではない。

  2. ×b.  移乗するときに体を支える。

    誤り。移乗時に手をついて体を支えるのは主にアームサポート(肘掛け)である。矢印のレバーは体重をかけて支えるための部品ではない。ただし、移乗の前にはこのレバーでブレーキをかけ、車椅子を固定しておくことが安全な移乗の前提となる。

  3. ×c.  背もたれの角度を調節する。

    誤り。標準型車椅子の背もたれ(バックサポート)は角度が固定されている。背もたれを倒せるのはリクライニング式車椅子で、その場合の操作レバーは通常、背もたれ後方の介助用グリップ付近に設けられている。

  4. ×d.  進行方向をコントロールする。

    誤り。自走式車椅子では、利用者が左右のハンドリムを回す力や速さを変えることで前進・後退・方向転換を行う。介助者が押す場合は後方のグリップで操作する。電動車椅子ではジョイスティックで方向を制御する。いずれも矢印のレバーによる操作ではない。

  5. ○e.  車輪にブレーキをかけて固定する。

    正しい。矢印は後輪の前方、タイヤに近い位置にある駐車用ブレーキのレバーである。レバーを操作すると制動用の金具がタイヤを押さえ、車輪の回転を止めて車椅子を固定する。停車中、とくに移乗や立ち上がりの際には左右両側のブレーキをかけることが転倒防止の基本となる。

標準型(自走式)車椅子の主な部位と役割

・駆動輪(後輪):大径の車輪。外側のハンドリムを手で回して進む。 ・ハンドリム:駆動輪の外側にある輪。自走時に握って操作する。 ・キャスター(前輪):小径で向きが自由に変わる車輪。 ・駐車用ブレーキ(ストッパー):後輪前方にあるレバー式ブレーキ。停車時に車輪を固定する。 ・介助用グリップ(手押しハンドル):介助者が押すための持ち手。介助者用ブレーキが付いた機種もある。 ・アームサポート(肘掛け):腕を置く部分。立ち上がりや移乗時に手をついて支えにする。着脱・跳ね上げ式のものは横からの移乗に便利である。 ・フットサポート(足台)とレッグサポート:足と下腿を支える。移乗時には足台を跳ね上げ、足に引っかからないようにする。 ・ティッピングレバー:後方下部にある棒。介助者が踏んで前輪を持ち上げ、段差を越えるときに使う。

車椅子介助での安全確認

・移乗前:両側のブレーキをかける、フットサポートを上げる。 ・坂道:下り坂は後ろ向きに進むと前方への転落を防ぎやすい。 ・段差:ティッピングレバーを踏んでキャスターを上げて越える。

POINT

・後輪の前方、タイヤ近くにあるレバーは駐車用ブレーキである。 ・停車中、とくに移乗時には必ず両側のブレーキをかける。 ・患者自身がブレーキを操作できない・忘れることが多く、医療者による確認が重要である。 ・移乗時に体を支えるのは肘掛け、方向の制御はハンドリムや介助用グリップで行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。