StudyMed医師国家試験

体は「水とNaを守れ」と叫んでいる―脱水で上がる検査値を代償反応から読み解く

第109回医師国家試験 G問題 第39問

国試問題にチャレンジ

第109回 G問題 第39問

脱水において上昇するのはどれか。3つ選べ。

  1. a.血漿レニン活性〈PRA〉
  2. b.心房性ナトリウム利尿ペプチド〈H. ANP〉
  3. c.尿浸透圧
  4. d.尿素窒素〈BUN〉/血清クレアチニン
  5. e.尿中Na濃度

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、脱水のときに検査値がどちらへ動くかを問う問題だ。丸暗記ではなく、「体液が減ったとき、体は何を守ろうとするか」という一点から考えると、すべての選択肢が筋道立てて解ける。まず、体液が減ったら体はどう反応すると思う?
医学生医学生
血圧を保つために、水やNaを体の外に出さないようにする方向に働くと思います。
ドクタードクター
その通り。具体的には4つの仕組みが一斉に動く。レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化、交感神経の緊張、バソプレシンの分泌増加、そしてナトリウム利尿ペプチドの分泌低下だ。では、まず血漿レニン活性はどうなるかな。
医学生医学生
生理学の講義で、レニンは傍糸球体細胞から出ると習いました。腎臓への血流が減れば増えるはずなので上昇ですね。
ドクタードクター
正解。刺激は3つあって、輸入細動脈の灌流圧低下、緻密斑に届くNaClの減少、腎交感神経のβ1刺激だ。脱水ではそのすべてが働くから、レニンははっきり上がる。続くアンジオテンシンⅡやアルドステロンも増えて、血管収縮とNa・水の保持が起こるんだ。
医学生医学生
ANPも体液を調節するホルモンなので、脱水のときは一緒に頑張って増えるのかと思いました。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。ANPは心房の壁が引き伸ばされたときに分泌されて、Naを尿に出し、血管を広げ、レニンやアルドステロンを抑える。いわば「体液が多すぎる」ときのブレーキ役なんだ。脱水では心房に戻る血液が減って伸展刺激が弱まるから、ANPはむしろ低下する。上がるのは心不全や腎不全のような体液過剰の状態だよ。
医学生医学生
なるほど、RAA系とANPはシーソーのように逆向きに動くんですね。では尿浸透圧は、バソプレシンが増えるから上がりますか。
ドクタードクター
そう。血漿浸透圧の上昇と循環血液量の減少の両方がバソプレシンの刺激になる。バソプレシンは集合管のV2受容体からアクアポリン2を管腔側に移動させて水を再吸収するから、尿は少なく、濃くなる。腎前性の状態では尿浸透圧が500 mOsm/kgH2Oを超えることが多いんだ。
医学生医学生
BUN/クレアチニン比は、CBTの対策で「脱水だと上がる」とだけ覚えていて、理由はあいまいでした。
ドクタードクター
いい機会だから理屈を押さえよう。クレアチニンは濾過されたあとほとんど再吸収されないので、GFRが下がった分だけ上がる。一方の尿素は尿細管で一部再吸収されて、その量は尿の流れが遅いほど、水の再吸収が多いほど増える。脱水ではGFR低下に加えて尿素の再吸収が増えるから、BUNがクレアチニン以上に上昇して、比が20を超えるような値になるんだ。
医学生医学生
ということは、消化管出血や高タンパク食でBUNだけが上がっても比は高くなりますね。
ドクタードクター
鋭いね。異化亢進、たとえばステロイド投与や高熱でも同じことが起こるから、比が高いイコール脱水と決めつけないことが大切だ。では最後、尿中Na濃度は?
医学生医学生
アルドステロンでNaを再吸収するので、尿中のNaは減る……だから上がらないですね。
ドクタードクター
正解。近位尿細管でも交感神経やアンジオテンシンⅡによってNa再吸収が増えるから、尿中Naはふつう20 mEq/L未満、FENaは1%未満に下がる。ただし、利尿薬を使っている人や副腎不全の人では、腎臓からNaが漏れるので脱水でも尿中Naが下がらないことがある点は覚えておこう。
医学生医学生
まとめると、尿は「少なく、濃く、Naが少ない」、血液側ではレニンとBUN/Cr比が上がってANPが下がる、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。この知識は臨床で、急性腎障害を腎前性と腎性に分けるときにそのまま使う。腎前性では尿細管の機能が保たれているから濃い尿・Naの少ない尿になるけれど、急性尿細管壊死のように尿細管が壊れると、尿浸透圧は350未満、尿中Naは40を超え、FENaは2%を超えるような値になる。
医学生医学生
腎臓内科の実習で、指導医の先生がまずFENaを計算していたのはそのためだったんですね。
ドクタードクター
そういうことだね。それから脱水の種類も意識しておきたい。水がより多く失われる高張性脱水では血清Naが上がって強い口渇が出るし、Naがより多く失われる低張性脱水では水が細胞内へ移るので血圧低下や頻脈が目立ちやすい。身体所見では口腔粘膜や腋窩の乾燥、ツルゴール低下、起立性低血圧、検査ではヘマトクリットや総タンパク、尿酸の上昇も手がかりになる。高齢者は口渇を訴えにくいから、こうした所見を丁寧に拾うことが大切だよ。

まとめ

脱水で循環血液量が減ると、体は水とNaを保持する方向へ代償し、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系とバソプレシンが活性化する一方、心房伸展で分泌されるANPは低下します。その結果、尿は少なく濃くNaが乏しくなり、尿浸透圧は上昇、尿中Na濃度とFENaは低下します。BUN/クレアチニン比は、GFR低下に加えて尿素の尿細管再吸収が増えることで上昇し、腎前性腎障害の指標となりますが、消化管出血や異化亢進でも上がる点に注意が必要です。これらの指標は急性腎障害の腎前性と腎性の鑑別にそのまま応用でき、利尿薬使用時など例外も含めて理解しておくことが、輸液や腎障害の診療の基盤になります。

解答・解説

正解はa, c, dです

脱水とは体内の水分(体液)が失われた状態であり、とくに細胞外液量・循環血液量が減ると、体は「水とNaを体内に保持して血圧と循環を守る」方向に一斉に代償反応を起こす。各検査値の変化は、この代償反応から論理的に導くことができる。

脱水時の主な代償反応

1. レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系の活性化:腎血流・腎灌流圧の低下を傍糸球体装置が感知してレニンを分泌し、アンジオテンシンⅡとアルドステロンが増える。アルドステロンは集合管でNa再吸収を促進する。 2. 交感神経の緊張:血管収縮や近位尿細管でのNa再吸収促進を通じて、Naと水の保持に働く。 3. バソプレシン(抗利尿ホルモン、ADH)の分泌増加:血漿浸透圧の上昇(浸透圧刺激)と、循環血液量の減少(非浸透圧刺激)の両方で分泌が増え、集合管で水が再吸収されて尿が濃縮される。 4. ナトリウム利尿ペプチドの分泌低下:心房への血液還流が減って心房壁が伸展されなくなるため、ANPの分泌は減る。 これらの結果、尿は「量が少なく、濃く、Naが少ない」状態となり、血液側では尿素の再吸収増加を反映してBUNがクレアチニン以上に上昇する。したがって、脱水で上昇するのは血漿レニン活性、尿浸透圧、BUN/クレアチニン比であり、ANPと尿中Na濃度は低下する。

選択肢考察

  1. ○a.  血漿レニン活性〈PRA〉

    レニンは腎臓の傍糸球体細胞から分泌される。脱水で循環血液量が減ると、①輸入細動脈の灌流圧低下、②緻密斑(マクラデンサ)に届く尿細管液中のNaCl量の減少、③腎交感神経の緊張(β1受容体刺激)という3つの刺激がいずれも働き、レニン分泌が増える。そのため血漿レニン活性は上昇し、続いてアンジオテンシンⅡとアルドステロンも増加して、血管収縮とNa・水の保持が起こる。

  2. ×b.  心房性ナトリウム利尿ペプチド〈H. ANP〉

    ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)は、体液量が増えて心房に戻る血液が増え、心房壁が引き伸ばされると心房筋から分泌される。腎臓でNa排泄と利尿を促し、血管を拡張させ、レニン・アルドステロンの分泌を抑える。脱水では心房の伸展刺激が弱まるため分泌は低下する。ANPが上昇するのは心不全や腎不全などの体液過剰状態である。

  3. ○c.  尿浸透圧

    水分喪失により血漿浸透圧が上昇すること、および循環血液量の減少そのものが、いずれもバソプレシンの分泌を刺激する。バソプレシンは集合管のV2受容体を介してアクアポリン2を管腔側膜へ移動させ、水の再吸収を増やす。その結果、尿量は減少し、尿は濃縮されて尿浸透圧(および尿比重)が上昇する。腎前性の病態では尿浸透圧が500 mOsm/kgH2Oを超えることが多い。

  4. ○d.  尿素窒素〈BUN〉/血清クレアチニン

    クレアチニンは糸球体で濾過された後ほとんど再吸収されないため、血中濃度はおおむね糸球体濾過量(GFR)の低下分だけ上昇する。一方、尿素は尿細管で一部再吸収され、その量は尿の流れが遅い(尿量が少ない)ほど、また水の再吸収が多いほど増える。脱水ではGFRの低下に加えて尿素の再吸収が増えるため、BUNはクレアチニン以上に上昇し、BUN/クレアチニン比が高くなる(目安として20以上)。この比の上昇は脱水などの腎前性腎障害を疑う手がかりとなる。なお、消化管出血や高タンパク食、異化亢進(ステロイド投与、高熱など)でもBUNが上がり、比は上昇する。

  5. ×e.  尿中Na濃度

    脱水では、近位尿細管でのNa再吸収増加(交感神経・アンジオテンシンⅡの作用)と、集合管でのNa再吸収増加(アルドステロンの作用)が起こり、腎臓はNaを強く保持しようとする。そのため尿中Na濃度は低下し、一般に20 mEq/L未満となることが多い。ナトリウム排泄分画(FENa)も1%未満に低下する。ただし利尿薬の使用中や副腎不全などでは、腎臓からNaが失われるため脱水でも尿中Naが低下しないことがある。

脱水の分類

・高張性脱水(水欠乏性脱水):水の喪失がNaの喪失より多い。血清Naが上昇し、強い口渇がみられる。高齢者の水分摂取不足、発熱・発汗、尿崩症などで起こる。 ・低張性脱水(Na欠乏性脱水):Naの喪失が水の喪失より多い。血清Naが低下し、細胞外液から細胞内へ水が移動するため循環不全(血圧低下、頻脈)が目立ちやすい。嘔吐・下痢の後に水のみ補給した場合や副腎不全などで起こる。 ・等張性脱水:水とNaがほぼ同じ割合で失われる。急性の出血や下痢など。

腎前性腎障害と腎性(急性尿細管壊死など)腎障害の鑑別の目安

・尿浸透圧:腎前性 >500 mOsm/kgH2O、腎性 <350 mOsm/kgH2O ・尿中Na:腎前性 <20 mEq/L、腎性 >40 mEq/L ・FENa:腎前性 <1%、腎性 >2% ・BUN/Cr比:腎前性 >20、腎性 <10〜15 腎前性では尿細管の再吸収能が保たれているため、上記のように「濃い尿・Naの少ない尿」となる。尿細管が障害されると濃縮もNa再吸収もできなくなる。

脱水時にみられるその他の所見

・血液濃縮によるヘマトクリット、血清総タンパク、アルブミンの上昇 ・血清尿酸値の上昇(近位尿細管での再吸収増加) ・身体所見:皮膚・口腔粘膜の乾燥、ツルゴールの低下、腋窩の乾燥、頻脈、起立性低血圧、体重減少、尿量減少

POINT

・脱水では水とNaを保持する方向の代償が働く:レニン↑、アンジオテンシンⅡ↑、アルドステロン↑、バソプレシン↑、ANP↓。 ・尿は少なく濃くNaが乏しくなる:尿浸透圧↑、尿比重↑、尿中Na↓(<20 mEq/L)、FENa↓(<1%)。 ・BUN/Cr比は尿素再吸収の増加により上昇(>20)し、腎前性腎障害の指標となる。 ・ANPは心房の伸展で分泌されるため、体液過剰(心不全など)で上昇し、脱水では低下する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。