出血か、炎症か、腫瘍か―病態から選ぶ内視鏡治療の正しい組合せ
第109回医師国家試験 G問題 第28問
国試問題にチャレンジ
疾患と内視鏡治療の組合せで正しいのはどれか。
- a.小腸血管形成異常 ―― 硬化療法
- b.胃潰瘍露出血管 ―― 粘膜切除術
- c.大腸憩室出血 ―― クリッピング
- d.大腸憩室炎 ―― 局注療法
- e.胃静脈瘤 ―― アルゴンプラズマ凝固
対話形式の解説
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ドクターまとめ
内視鏡治療は「止血」「静脈瘤治療」「腫瘍切除」という目的で整理すると、疾患との組合せを判断しやすくなります。大腸憩室出血は直細動脈の破綻による出血で、壁が薄く熱凝固では穿孔の危険があるため、クリッピングや結紮術による機械的止血が標準です。一方、大腸憩室炎は抗菌薬による保存療法が基本で急性期の内視鏡は避け、胃潰瘍露出血管はクリッピング・熱凝固・局注で止血し、粘膜切除術は腫瘍に用います。小腸血管形成異常はアルゴンプラズマ凝固などの焼灼、胃静脈瘤は組織接着剤による硬化療法やBRTOで治療します。病態と手技の目的を結びつけて理解することは、消化管出血の初期対応や専門医への相談を判断するうえでの土台になります。
解答・解説
正解はcです
消化管疾患それぞれに適した内視鏡治療を問う問題である。内視鏡治療は目的によって大きく分けられ、どの手技がどの病態に使われるかを整理しておくと解きやすい。
止血を目的とする手技
・機械的止血法:クリッピング(金属製のクリップで出血点や血管を挟む)、内視鏡的結紮術(輪ゴム状のバンドで縛る) ・熱凝固法:アルゴンプラズマ凝固(APC)、高周波凝固(止血鉗子による焼灼)、ヒータープローブ ・局注法:純エタノールや高張Na-エピネフリン(HSE)液を出血点周囲に注入し、血管収縮・組織固定を得る
静脈瘤に対する手技
・内視鏡的硬化療法(EIS):硬化剤を静脈瘤内やその周囲に注入して血栓化させる ・内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL):静脈瘤をバンドで結紮する ・胃静脈瘤では組織接着剤(シアノアクリレート系)の注入が用いられる
腫瘍を切除する手技
・内視鏡的粘膜切除術(EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)、ポリペクトミー 各選択肢について、疾患の病態(出血か、炎症か、腫瘍か、静脈瘤か)を見極め、その病態に適合する手技が組み合わされているかを判断する。大腸憩室出血は、憩室内の小血管が破綻して起こる動脈性出血であり、出血点を同定できればクリッピングで止血するのが標準的であるため、cが正しい。
選択肢考察
- ×a. 小腸血管形成異常 ―― 硬化療法
小腸血管形成異常(angiodysplasia、血管異形成)は粘膜下の拡張した毛細血管・静脈の集簇で、原因不明消化管出血の重要な原因である。カプセル内視鏡で発見し、バルーン内視鏡(ダブルバルーン小腸内視鏡など)下にアルゴンプラズマ凝固や高周波凝固で焼灼するのが一般的な治療である。硬化療法は静脈瘤を血栓化させるための手技であり、血管形成異常に対する標準治療ではない。
- ×b. 胃潰瘍露出血管 ―― 粘膜切除術
胃潰瘍の潰瘍底に露出血管を認める場合は、出血中または再出血の危険が高い状態であり、内視鏡的止血術の適応となる。方法はクリッピング、熱凝固(高周波凝固止血鉗子など)、HSE液や純エタノールの局注であり、これらを組み合わせることも多い。粘膜切除術(EMR)は早期癌や腺腫などの腫瘍性病変を切除する手技で、潰瘍出血の止血には用いない。むしろ潰瘍部を切除すれば穿孔の危険が大きい。
- ○c. 大腸憩室出血 ―― クリッピング
大腸憩室出血は、憩室の頸部やドーム部を走行する直細動脈(vasa recta)が破綻して起こる、無痛性の血便を特徴とする下部消化管出血である。高齢者、抗血栓薬やNSAIDs内服者に多い。自然止血することも多いが、大腸内視鏡で活動性出血や露出血管などの出血の痕跡(stigmata)を認めた場合は内視鏡的止血の適応となる。憩室の壁は筋層を欠き薄いため、穿孔の危険がある熱凝固より、機械的に血管を挟むクリッピングが標準的に用いられる。近年は憩室ごと吸引して縛る内視鏡的結紮術(EBL)も広く行われている。止血困難例では血管造影下の動脈塞栓術や手術を考慮する。
- ×d. 大腸憩室炎 ―― 局注療法
大腸憩室炎は憩室に生じた炎症で、腹痛・発熱・限局性圧痛を呈する。診断は主にCTで行い、治療は絶食・輸液・抗菌薬による保存療法が基本である。膿瘍形成時は経皮的ドレナージ、穿孔や汎発性腹膜炎では手術を行う。急性期の内視鏡検査は送気により穿孔を招くおそれがあるため避けるのが原則であり、局注療法(出血に対する止血手技)を行う対象ではない。
- ×e. 胃静脈瘤 ―― アルゴンプラズマ凝固
胃静脈瘤(特に胃穹窿部の孤立性静脈瘤)は血流量が多く太い短絡路(多くは胃腎シャント)を伴うことが多い。治療は内視鏡的硬化療法(組織接着剤のシアノアクリレート系薬剤や、オレイン酸エタノールアミンの注入)、またはバルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(BRTO)が中心である。アルゴンプラズマ凝固は表層の焼灼にとどまる手技で、静脈瘤の治療としては、食道静脈瘤の治療後に残る細い血管網を焼灼して再発を抑える地固め療法などに限られる。胃静脈瘤そのものの治療手段ではない。
主な内視鏡治療と適応の整理
・クリッピング:潰瘍の露出血管、大腸憩室出血、ポリープ切除後出血、EMR/ESD後の創閉鎖など ・内視鏡的結紮術:食道静脈瘤(EVL)、大腸憩室出血(EBL) ・内視鏡的硬化療法(EIS):食道・胃静脈瘤。胃静脈瘤ではシアノアクリレート系組織接着剤を用いることが多い ・アルゴンプラズマ凝固(APC):血管形成異常、胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE、watermelon stomach)、放射線性腸炎の出血、腫瘍の焼灼、静脈瘤治療後の地固め ・局注法(HSE液・純エタノール):潰瘍出血など ・EMR/ESD/ポリペクトミー:早期癌、腺腫などの腫瘍性病変
大腸憩室出血と憩室炎
日本では右側結腸の憩室が多いが、加齢とともに左側(S状結腸)の憩室も増える。憩室出血は無痛性の大量血便で発症し、憩室炎は腹痛と発熱で発症する点で臨床像が対照的である。憩室出血は再出血率が高いことも特徴であり、出血源の同定には造影CTが有用である。
胃静脈瘤
門脈圧亢進症で生じ、噴門部に食道静脈瘤から連続するものと、穹窿部に孤立して存在するものがある。孤立性胃静脈瘤は破裂すると大出血となりやすく、胃腎シャントを利用したBRTOが日本で広く行われている。
POINT
・大腸憩室出血の内視鏡的止血はクリッピング(または結紮術)が標準である。 ・大腸憩室炎は抗菌薬による保存療法が基本で、急性期の内視鏡は穿孔の危険から避ける。 ・胃潰瘍露出血管にはクリッピング・熱凝固・局注で止血する。EMRは腫瘍の治療である。 ・小腸血管形成異常はアルゴンプラズマ凝固などの焼灼で治療する。 ・胃静脈瘤は組織接着剤を用いた硬化療法やBRTOで治療する。
