「開かない」のか「閉じてしまう」のか―顔のしわが教える眼瞼痙攣の正体
第109回医師国家試験 G問題 第21問
国試問題にチャレンジ
眼が開かないと訴える患者の顔の写真を別に示す。 病態として最も考えられるのはどれか。

- a.筋無力症
- b.ジストニア
- c.てんかん発作
- d.両側動眼神経麻痺
- e.両側眼輪筋筋力低下
対話形式の解説
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ドクターまとめ
「眼が開かない」という訴えには、眼瞼挙筋の筋力低下による眼瞼下垂、閉瞼筋群の不随意な過剰収縮による眼瞼痙攣、筋力は保たれているのに開瞼できない開瞼失行という異なる機序があります。眼周囲や眉間に深いしわが寄り眉毛が下がっていれば、眼輪筋・鼻根筋・皺眉筋の過剰収縮を示し、局所性ジストニアである眼瞼痙攣を考えます。一方、重症筋無力症や動眼神経麻痺による眼瞼下垂ではしわは寄らず、前頭筋で眉毛を挙上して代償し、顔面神経麻痺による眼輪筋の筋力低下ではむしろ閉瞼不全(兎眼)となります。眼瞼痙攣は中高年女性に多く、初期はドライアイと誤認されやすいこと、感覚トリックがみられること、治療の第一選択がボツリヌス毒素局所注射であることも重要です。顔の表情筋の収縮パターンから「力が弱いのか、強すぎるのか」を見極める視点は、神経疾患の診察全般に通じる基本となります。
解答・解説
正解はbです
「眼が開かない」という訴えには、大きく分けて (1) まぶたを持ち上げる力が弱い(眼瞼下垂)、(2) まぶたを閉じる筋が勝手に強く収縮して開けられない(眼瞼痙攣)、(3) 筋力も筋緊張も正常なのに開け方が分からない(開瞼失行)の三つの機序がある。写真からどれに当たるかを読み取ることが本問の鍵である。
写真の所見
両眼は固く閉じられ、眼の周囲には放射状・横走する深いしわが寄っている。これは眼輪筋が強く収縮していることを示す。さらに眉毛が下方に引き下げられ、眉間(鼻根部)にもしわが集まっており、鼻根筋・皺眉筋も同時に収縮している。つまり「まぶたが垂れ下がっている」のではなく、「閉瞼筋群が力いっぱい収縮して眼を閉じている」状態である。
病態の推定
眼瞼挙筋(動眼神経支配)の筋力低下による眼瞼下垂であれば、眼周囲に強いしわは寄らず、むしろ前頭筋を収縮させて眉毛を持ち上げ、代償的に眼を開けようとする姿勢になることが多い。写真の所見はこれと正反対であり、眼輪筋を中心とする不随意で持続的な筋収縮、すなわち局所性ジストニアである眼瞼痙攣(blepharospasm)による開瞼困難と考えるのが最も妥当である。
選択肢考察
- ×a. 筋無力症
誤り。重症筋無力症は神経筋接合部のアセチルコリン受容体(または MuSK など)に対する自己抗体により、筋の易疲労性・筋力低下をきたす疾患で、初発症状として眼瞼下垂と複視が多い。眼瞼下垂は眼瞼挙筋の筋力低下によるもので、夕方に増悪する日内変動を示す。眼輪筋の筋力低下を伴うこともあるが、いずれも「力が入らない」病態であり、写真のように閉瞼筋群が強く収縮してしわが寄る所見とは合わない。Lambert-Eaton 筋無力症候群(電位依存性カルシウムチャネルに対する自己抗体による)でも眼瞼下垂をみることがあるが、同様に筋力低下の病態であり該当しない。
- ○b. ジストニア
正しい。ジストニアは、拮抗筋を含む複数の筋が不随意かつ持続的に収縮し、異常な姿勢や運動を生じる病態である。眼瞼痙攣は局所性ジストニアの代表で、眼輪筋を主体に、鼻根筋・皺眉筋などの閉瞼に関わる筋が過剰に収縮するため、まぶしさ・瞬目過多から始まり、進行すると自分の意思で眼を開けられなくなる。写真の、眼周囲の深いしわ、眉毛の下降、眉間のしわは、まさに閉瞼筋群の過剰収縮を示している。眼瞼痙攣に口周囲・下顎のジストニア(口下顎ジストニア)を合併したものは Meige 症候群と呼ばれる。中高年女性に多く、ベンゾジアゼピン系薬などの薬剤性の場合もある。治療の第一選択はボツリヌス毒素の局所注射である。
- ×c. てんかん発作
誤り。てんかん発作は大脳皮質神経細胞の過剰な同期性発射による一過性の症状で、数十秒から数分で終わる発作性のものである。全般発作では意識障害を伴い、強直間代発作などではむしろ開眼していることが多い。焦点発作で顔面の間代性けいれんが生じることはあるが、通常は一側性で、両側の閉瞼筋群に持続する収縮が生じて「眼が開かない」と意識清明な状態で訴えるという経過は、てんかん発作の特徴に合わない。
- ×d. 両側動眼神経麻痺
誤り。動眼神経は眼瞼挙筋を支配するため、麻痺すると眼瞼下垂が生じて眼が開きにくくなる。しかし、その場合は眼瞼挙筋の筋力低下であって眼輪筋の収縮は伴わず、眼周囲に強いしわは寄らない。代償として前頭筋を収縮させて眉毛を挙上していることが多い。また動眼神経麻痺では、上・下・内転方向の眼球運動障害(眼位は外下方偏位)や散瞳・対光反射消失を伴うのが通常である。
- ×e. 両側眼輪筋筋力低下
誤り。眼輪筋は顔面神経に支配される閉瞼の筋であり、その筋力が低下すると「眼が開かない」のではなく「眼が閉じられない」(兎眼、閉瞼不全)となる。顔面神経麻痺などでは下眼瞼が下がり瞼裂が開大する。写真では眼輪筋がむしろ強く収縮しており、筋力低下とは逆の所見である。
「眼が開かない」の鑑別
・眼瞼下垂(挙上する力の低下): 動眼神経麻痺、Horner 症候群(瞼板筋〈Müller 筋〉の麻痺による軽度下垂)、重症筋無力症、筋強直性ジストロフィー、眼咽頭型筋ジストロフィー、慢性進行性外眼筋麻痺、加齢性(腱膜性)眼瞼下垂など。前頭筋で代償し、額に横じわが寄り眉毛が挙上していることが多い。 ・眼瞼痙攣(閉瞼筋の過剰収縮): 局所性ジストニア。眼周囲・眉間に強いしわが寄り、眉毛が下がる(Charcot 徴候)。 ・開瞼失行: 筋力・筋緊張に明らかな異常がないのに、意図的な開瞼ができない状態。進行性核上性麻痺やパーキンソン病などでみられ、眼瞼痙攣と合併することもある。 ・偽眼瞼下垂: 顔面神経麻痺の回復期の病的共同運動、眼球陥凹、対側の眼瞼後退など。
眼瞼痙攣の特徴
・初期はまぶしさ(羞明)、瞬目増加、眼の乾燥感などを訴え、ドライアイと誤認されやすい。 ・感覚トリック(目元に触れる、歌う・話すなど特定の動作で症状が軽くなる現象)がみられることがあり、ジストニアに特徴的である。 ・診断には速く軽い瞬目の反復や強い瞬目が困難になるかをみる瞬目テストが用いられる。 ・治療はボツリヌス毒素(A型)の眼輪筋への局所注射が第一選択。内服薬(抗コリン薬など)の効果は限定的である。
ジストニアの分布による分類
局所性(眼瞼痙攣、痙性斜頸、書痙など)、分節性(Meige 症候群など隣接する部位)、多巣性、全身性、片側性に分けられる。
POINT
・眼周囲・眉間のしわと眉毛の下降を伴う閉瞼 → 眼輪筋などの過剰収縮 → 眼瞼痙攣(局所性ジストニア) ・眼瞼下垂(動眼神経麻痺、重症筋無力症)は眼瞼挙筋の筋力低下で、しわは寄らず前頭筋で眉毛を挙上して代償する ・眼輪筋の筋力低下(顔面神経麻痺)は閉瞼不全(兎眼)をきたす ・眼瞼痙攣+口下顎ジストニア = Meige 症候群。治療の第一選択はボツリヌス毒素局所注射
