StudyMed医師国家試験

病気を治すための「ごはん」は保険で出る―公的医療保険の給付範囲を一本の軸で整理する

第109回医師国家試験 G問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第109回 G問題 第2問

公的医療保険の給付対象となるのはどれか。

  1. a.正常分娩
  2. b.入院中の食事
  3. c.職場の健康診断
  4. d.地域住民への健康教育
  5. e.インフルエンザの予防接種

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、公的医療保険が何を給付し、何を給付しないのかを問う問題だ。選択肢を一つずつ暗記で判断するより、「医療保険はそもそも何のための制度か」という一本の軸を持つと迷わなくなる。まずはそこから考えてみよう。
医学生医学生
病気やけがをしたときに、治療費の負担を軽くするための制度、というイメージです。
ドクタードクター
その通り。我が国の公的医療保険は、業務外の疾病・負傷に対して、その治療に必要な医療を給付するのが基本なんだ。診察、検査、薬、処置や手術、入院、看護などが「療養の給付」として現物給付される。裏返すと、病気ではないもの、病気になる前の予防、仕事中や通勤中のけがは、原則として対象外になる。
医学生医学生
仕事中のけがが外れるのは、労災保険が担当するからですね。
ドクタードクター
そう。では、この軸で選択肢を見てみよう。まず正常分娩はどうかな。
医学生医学生
出産ってかなりお金がかかると聞きますし、保険が効きそうな気もしますが……。
ドクタードクター
そこはよく誤解されるポイントだ。正常な妊娠・分娩は疾病ではないから、療養の給付の対象外で、分娩費用は原則自費になる。その代わりに、医療保険から出産育児一時金という現金給付が支給されて、費用の大部分をまかなえる仕組みになっているんだ。
医学生医学生
産婦人科の実習で、帝王切開は保険が効くと聞いたのはそういうことですか。
ドクタードクター
まさにそう。帝王切開や吸引分娩などの異常分娩、妊娠高血圧症候群や切迫早産の治療は、疾病に対する医療だから保険給付の対象になる。同じお産でも「治療」があるかどうかで扱いが分かれるわけだ。次に職場の健康診断は?
医学生医学生
病気を見つける目的なので、治療ではないですね。会社が費用を出しているイメージがあります。
ドクタードクター
正解。職場の一般健康診断は労働安全衛生法に基づいて事業者に実施が義務づけられていて、費用も事業者負担だ。ただし、健診で異常を指摘されて医療機関で精密検査や治療を受ける段階になれば、そこからは医療保険の対象になる。
医学生医学生
地域住民への健康教育やインフルエンザの予防接種も、予防なので外れるということですね。
ドクタードクター
そう。健康教育は健康増進法などに基づいて市町村や保健所が行う保健事業で、公費でまかなわれる。インフルエンザの予防接種は予防接種法のB類疾病で、65歳以上などが定期接種の対象となり、市町村が実施主体として費用の一部を公費負担する。それ以外の人は任意接種で原則自費だ。
医学生医学生
そうすると残るのは入院中の食事ですが、食事は治療ではない気がして、最初は違和感がありました。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だね。でも入院中の食事は、病気を治すための栄養管理や食事療法の一部と位置づけられているんだ。病院実習で、糖尿病食や減塩食、腎臓病食のような治療食を見たことはないかな。
医学生医学生
内科で回ったとき、管理栄養士さんが患者さんごとにエネルギー量や塩分を調整していました。確かにあれは治療の一環ですね。
ドクタードクター
その通り。だから入院中の食事は入院時食事療養費として医療保険から現物給付され、患者さんは1食ごとに決められた標準負担額だけを自己負担する。低所得者には減額措置もある。これが今回の正解だ。
医学生医学生
「疾病の治療に直結しているか」で判断すると、全部すっきり説明できますね。
ドクタードクター
そうだね。発展として、医療保険の給付には療養の給付以外にもいろいろある。自己負担が一定額を超えた分を払い戻す高額療養費、療養病床に入院する65歳以上の人の食費と居住費をまとめた入院時生活療養費、保険診療と保険外の診療を併用するときの保険外併用療養費、それに被用者保険の傷病手当金や出産手当金といった現金給付もある。
医学生医学生
40〜74歳が受ける特定健診は、医療保険者が実施すると習いました。あれは保険給付には入らないんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。特定健康診査・特定保健指導は、高齢者の医療の確保に関する法律に基づいて医療保険者が行う保健事業であって、療養の給付ではない。実施主体が保険者だからといって給付と混同しないよう注意しよう。臨床の場でも、差額ベッド代や美容目的の医療のように保険が効かないものを患者さんに説明する場面は多いから、制度の線引きを理解しておくことは大切だよ。

まとめ

公的医療保険の療養の給付は、業務外の疾病・負傷の治療を対象とするのが基本であり、病気ではない正常分娩、予防目的の健康診断・予防接種・健康教育、業務上の傷病(労災保険が担当)は原則として対象外です。入院中の食事は治療の一環である栄養管理・食事療法とみなされ、入院時食事療養費として給付され、患者は標準負担額のみを自己負担します。正常分娩には出産育児一時金が支給され、帝王切開などの異常分娩は保険給付の対象となる点、職場健診は労働安全衛生法による事業者負担、インフルエンザの定期接種は予防接種法のB類疾病で市町村が実施主体である点もあわせて押さえておきましょう。「疾病の治療に直結しているか」という軸で制度を整理しておくと、各種給付や他制度との関係を理解しやすくなり、患者さんへの費用説明など臨床現場でも役立ちます。

解答・解説

正解はbです

公的医療保険の給付の基本的な考え方

我が国の公的医療保険(健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度など)は、被保険者が業務外の「疾病・負傷」を負ったときに、その治療に必要な医療を給付することを基本としている。診察、検査、薬剤、処置・手術、入院、看護などが「療養の給付」として現物給付される。 したがって、次のものは原則として医療保険の療養の給付の対象外となる。 ①疾病ではないもの:正常な妊娠・分娩、美容整形など ②疾病になる前の予防・健康づくり:健康診断、予防接種、健康教育など ③業務上・通勤途上の傷病:労働者災害補償保険(労災保険)が対応する 予防や健診はそれぞれ別の法律と財源(事業者負担、市町村事業など)で担われている。

正解を導く考え方

選択肢のうち、疾病の治療と直結しているのは「入院中の食事」だけである。入院中の食事は治療の一環(栄養管理・食事療法)として位置づけられ、入院時食事療養費として医療保険から給付される。患者は1食あたり定額の標準負担額のみを自己負担する。

選択肢考察

  1. ×a.  正常分娩

    正常な妊娠・分娩は疾病ではないため、医療保険の療養の給付の対象外であり、分娩費用は原則として自費となる。その代わり、医療保険からは出産育児一時金(現金給付)が支給され、分娩費用の大部分をまかなえるしくみになっている。一方、帝王切開や吸引分娩などの異常分娩、妊娠高血圧症候群・切迫早産などの治療は疾病に対する医療として保険給付の対象となる。

  2. ○b.  入院中の食事

    入院中の食事は、疾病の治療に必要な栄養管理・食事療法の一部とみなされ、医療保険から入院時食事療養費として給付される(現物給付)。患者は1食ごとに定められた標準負担額だけを自己負担し、残りは保険者が負担する。低所得者には標準負担額の減額措置がある。なお、療養病床に入院する65歳以上の患者では、食費と居住費(光熱水費)を合わせた入院時生活療養費が給付される。

  3. ×c.  職場の健康診断

    職場の一般健康診断(雇入れ時健診、定期健康診断など)は労働安全衛生法に基づき、事業者に実施が義務づけられており、費用は事業者が負担する。疾病の治療ではないため、医療保険の療養の給付の対象ではない。なお、健診の結果で異常が見つかり、医療機関で精密検査や治療を受ける段階になれば、それは医療保険の対象となる。

  4. ×d.  地域住民への健康教育

    地域住民への健康教育は、健康増進法などに基づき、市町村や保健所などの行政が健康づくり・生活習慣病予防を目的として行う保健事業である。費用は公費(行政の予算)でまかなわれ、個人の疾病の治療ではないため、医療保険の給付対象とはならない。

  5. ×e.  インフルエンザの予防接種

    予防接種は疾病の予防であり、医療保険の給付対象外である。インフルエンザの予防接種は、予防接種法上のB類疾病として、65歳以上の者(および60〜64歳で心臓・腎臓・呼吸器機能やHIVによる免疫機能に一定の障害がある者)が定期接種の対象となり、市町村が実施主体として費用の一部を公費負担する。それ以外の者では任意接種であり、原則自費となる。

医療保険の主な給付

・療養の給付(現物給付):診察、薬剤・治療材料、処置・手術、在宅療養、入院・看護など。患者は医療費の一部(原則3割、義務教育就学前2割、70〜74歳2割、75歳以上は1割〜3割)を窓口で負担する。 ・入院時食事療養費、入院時生活療養費 ・保険外併用療養費(評価療養・選定療養など、保険診療と保険外診療を併用する場合) ・高額療養費(自己負担が一定額を超えた分の払い戻し) ・訪問看護療養費、移送費 ・現金給付:出産育児一時金、出産手当金(被用者保険)、傷病手当金(被用者保険)、埋葬料(費)など

給付対象外のものと、それを担う制度

・正常分娩 → 医療保険から出産育児一時金(現金給付)で補填 ・職場の健康診断 → 労働安全衛生法(事業者負担) ・特定健康診査・特定保健指導 → 高齢者の医療の確保に関する法律に基づき、医療保険者が40〜74歳の加入者に実施する。保険者が行う保健事業であって、療養の給付ではない点に注意する。 ・地域住民の健康教育・健康相談 → 健康増進法(市町村) ・予防接種 → 予防接種法(定期接種は市町村が実施主体) ・業務上・通勤災害 → 労災保険 ・美容目的の医療、差額ベッド代(特別の療養環境の提供)など → 自費(差額ベッド代は選定療養として保険診療と併用可)

POINT

・公的医療保険の療養の給付は「業務外の疾病・負傷の治療」が対象。 ・正常分娩、健診、予防接種、健康教育は給付対象外(正常分娩には出産育児一時金が支給される)。 ・帝王切開などの異常分娩は保険給付の対象となる。 ・入院中の食事は入院時食事療養費として保険給付され、患者は標準負担額のみ自己負担する。 ・職場健診は労働安全衛生法で事業者負担、インフルエンザ定期接種は予防接種法のB類疾病(65歳以上など)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。