StudyMed医師国家試験

「確率」で増えるのは発生だけ―確定的影響と確率的影響を見分ける放射線の基本

第109回医師国家試験 G問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第109回 G問題 第17問

放射線の確率的影響で正しいのはどれか。

  1. a.放射線宿酔が含まれる。
  2. b.線量に閾〈しきい〉値がある。
  3. c.線量と重症度に相関がある。
  4. d.防護目標は発生の防止である。
  5. e.ヒトでは遺伝的影響は確認されていない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は放射線の生体影響の分類を問う問題だ。放射線防護では、影響を「確定的影響」と「確率的影響」の2つに分けて考える。この2つの違いを、閾値、重症度、防護目標という切り口で整理できるかがポイントになる。
医学生医学生
放射線医学の講義で習った気はするんですが、どっちがどっちだったか、いつも混乱してしまいます。
ドクタードクター
まずは仕組みから押さえると混乱しにくいよ。確定的影響は、多数の細胞が死んだり機能を失ったりして起こる影響だ。ある程度の数の細胞がやられないと症状は出ないから、閾値がある。閾値を超えると、線量が増えるほど頻度も重症度も上がる。最近は「組織反応」とも呼ばれているね。
医学生医学生
脱毛や皮膚障害、白内障なんかがそうですよね。
ドクタードクター
その通り。不妊、骨髄抑制、急性放射線症候群、胎児の奇形もここに入る。一方、確率的影響は、1個の細胞のDNAに生じた変異が細胞死に至らずに残り、増殖したり子孫に伝わったりして起こる影響だ。具体的には発癌と遺伝的影響の2つになる。
医学生医学生
1個の細胞の変化から始まるなら、どんなに少ない線量でも起こりうる、ということですか。
ドクタードクター
いい理解だね。だから放射線防護上は閾値がないと仮定する。これをしきい値なし直線モデル、LNTモデルという。ただし100mSv程度以下の低線量では、発癌リスクの増加は疫学的に明らかになっていない。LNTモデルはあくまで安全側に立った防護上の仮定なんだ。では、選択肢を見ていこう。まず放射線宿酔はどうかな。
医学生医学生
放射線治療の実習で、照射後に気持ち悪くなる患者さんがいると聞きました。被曝すれば誰にでも起こりうるので、確率的なものかなと思ったんですが……。
ドクタードクター
そこはよく間違えるところだね。放射線宿酔は、全身や広い範囲に被曝した後、数時間から数日で悪心・嘔吐、倦怠感などが出るもので、おおむね1Gy前後以上で起こり、線量が多いほど早く強く出る。閾値があって重症度が線量に比例するから、確定的影響に分類される。
医学生医学生
なるほど。そうすると「閾値がある」と「線量と重症度に相関がある」も、どちらも確定的影響の特徴ですね。
ドクタードクター
その通り。確率的影響で線量によって変わるのは「発生する確率」だけで、いったん生じた癌の重さは線量に関係しない。たくさん浴びたから悪性度の高い癌になる、というわけではないんだ。
医学生医学生
「確率的」という名前は、まさにそこから来ているんですね。防護目標が発生の防止というのはどうですか。
ドクタードクター
これも確定的影響の話だ。閾値があるなら、被曝を閾値未満に抑えれば発生を完全に防げる。でも確率的影響は閾値がないと仮定するから、発生をゼロにはできない。そこで、被曝を合理的に達成可能な限り低く抑えるALARAの原則に従い、発生確率を社会的に容認できるレベルまで制限することが目標になる。
医学生医学生
残るのは、ヒトでは遺伝的影響が確認されていない、ですね。遺伝的影響は確率的影響に入るのに、確認されていないというのは意外です。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だよ。ショウジョウバエやマウスの動物実験では遺伝的影響が示されている。しかし広島・長崎の被爆者の子どもを対象にした長期の疫学調査では、先天異常、死産、染色体異常、癌の発生などに、放射線による有意な増加は認められていない。だからヒトでのリスクは動物実験のデータから推定されているんだ。これが正解になる。
医学生医学生
逆に、発癌はヒトでも確認されているんですよね。
ドクタードクター
そう。被爆者の追跡調査では、白血病が被爆後数年で増え始め、固形癌はその後長期にわたって増加することが示されている。チェルノブイリ原発事故の後には、放射性ヨウ素の内部被曝による小児甲状腺癌の増加も確認されたね。
医学生医学生
胎児の奇形は確定的影響で、遺伝的影響は確率的影響。妊婦さんへの被曝と、次の世代への影響は分けて考えるべきなんですね。
ドクタードクター
鋭いね。胎児への影響は胎児自身の組織への障害だから確定的影響、遺伝的影響は生殖細胞の変異が子孫に伝わるもの、という区別だ。最後に臨床の話もしておこう。放射線防護には正当化、最適化、線量限度の3原則があるけれど、医療被曝には線量限度が適用されない。患者さんの利益のために必要な検査や治療を制限しないためで、その代わり正当化と最適化で管理するんだ。
医学生医学生
CTを撮るときも、本当に必要か、線量を下げられないかを考えるのが大事ということですね。外来で患者さんに被曝の心配を聞かれたときにも、この区別で説明できそうです。
ドクタードクター
その通り。不安を持つ患者さんに正確な情報を伝えるためにも、この分類はしっかり押さえておこう。

まとめ

放射線の生体影響は、多数の細胞死によって起こる確定的影響(組織反応)と、DNA変異が残ることで起こる確率的影響に分けられます。確定的影響は閾値があり線量とともに重症度が増し、放射線宿酔・脱毛・白内障・不妊・胎児の奇形などが含まれ、閾値未満に抑えて発生を防ぐことが防護目標です。確率的影響は発癌と遺伝的影響で、防護上は閾値がないと仮定され(LNTモデル)、線量で変わるのは発生確率のみで重症度は線量によらず、ALARAの原則で発生確率を容認できるレベルに制限します。遺伝的影響は動物実験では示されていますが、原爆被爆者の子どもの疫学調査などでもヒトでは確認されておらず、一方で白血病や甲状腺癌などの発癌はヒトで確認されています。この区別は医療被曝の説明や放射線防護の実践の基礎となる重要な知識です。

解答・解説

正解はeです

放射線の生体影響は、放射線防護の観点から「確定的影響」と「確率的影響」の2つに分けられる。本問はこの2つの違いを正しく理解しているかを問う一般問題である。

確定的影響(組織反応)

多数の細胞が死んだり機能を失ったりすることで起こる影響である。一定の線量(閾値〈しきい値〉)を超えないと発症せず、閾値を超えると線量が増えるほど発生頻度が高まり、症状も重くなる。例として、放射線宿酔、脱毛、皮膚障害(紅斑・潰瘍)、白内障、不妊、骨髄抑制、急性放射線症候群、胎児の奇形などがある。国際放射線防護委員会(ICRP)の2007年勧告以降は「組織反応」とも呼ばれる。

確率的影響

1個の細胞のDNAに生じた変異が、細胞死に至らずに残り、増殖・伝達されることで起こる影響であり、発癌(白血病、甲状腺癌、固形癌など)と遺伝的影響が該当する。放射線防護上は閾値がないと仮定され(しきい値なし直線〈LNT:linear non-threshold〉モデル)、線量が増えるほど「発生する確率」が高くなる。一方、発生した癌の悪性度や重症度は線量に依存しない。 この対比を押さえれば、閾値の有無・重症度との相関・含まれる症状について各選択肢を判断できる。さらに、遺伝的影響は確率的影響に分類されるものの、広島・長崎の原爆被爆者の子どもを対象とした大規模な疫学調査を含め、ヒトでは放射線による遺伝的影響は統計的に確認されていない、という知識が正解の根拠となる。

選択肢考察

  1. ×a.  放射線宿酔が含まれる。

    誤り。放射線宿酔は、全身または広い範囲への被曝後、数時間〜数日以内に悪心・嘔吐、食欲不振、全身倦怠感などが出現するもので、一定の線量(おおむね1Gy前後)以上で起こり、線量が多いほど早く強く出る。閾値があり線量と重症度が相関するので、確定的影響(組織反応)に分類される。

  2. ×b.  線量に閾〈しきい〉値がある。

    誤り。閾値があるのは確定的影響の特徴である。確率的影響は、1個の細胞の遺伝子変異からでも生じうるため、放射線防護上はどんなに低い線量でも線量に比例したリスクがあると仮定する(LNTモデル)。なお、100mSv程度以下の低線量域では、発癌リスクの増加は疫学的に明らかになっておらず、LNTモデルは安全側に立った防護上の仮定である。

  3. ×c.  線量と重症度に相関がある。

    誤り。線量の増加とともに症状が重くなるのは確定的影響の特徴である。確率的影響では、線量によって変わるのは発生する確率であり、いったん生じた癌の重さは線量に関係しない。

  4. ×d.  防護目標は発生の防止である。

    誤り。発生そのものを防止することが防護目標となるのは確定的影響である。確定的影響には閾値があるので、被曝を閾値未満に抑えれば発生を完全に防ぐことができる。一方、確率的影響は閾値がないと仮定されるため、発生をゼロにすることはできない。そこで防護目標は、被曝を合理的に達成可能な限り低く抑え(ALARA:as low as reasonably achievable の原則)、発生確率を社会的に容認できるレベルまで制限することとされる。

  5. ○e.  ヒトでは遺伝的影響は確認されていない。

    正しい。遺伝的影響は確率的影響に分類され、ショウジョウバエやマウスなどの動物実験では放射線による遺伝的影響が示されている。しかし、広島・長崎の原爆被爆者の子ども(被爆二世)を対象とした長期の疫学調査などでは、先天異常、死産、染色体異常、癌の発生などについて、放射線による有意な増加は認められていない。ヒトにおける遺伝的影響のリスク評価は、動物実験のデータを基に推定されている。一方、白血病や甲状腺癌、固形癌などの発癌リスクの上昇はヒトの疫学調査で確認されている。

確定的影響と確率的影響の比較

確定的影響(組織反応) ・機序:多数の細胞の死・機能喪失 ・閾値:あり ・線量との関係:閾値を超えると線量に応じて発生頻度と重症度が増す ・例:放射線宿酔、皮膚障害、脱毛、白内障、不妊、骨髄抑制、急性放射線症候群、胎児の奇形・精神発達遅滞 ・防護目標:発生の防止(閾値未満に抑える) 確率的影響 ・機序:細胞のDNA変異(突然変異)が残り、増殖・伝達される ・閾値:ないと仮定(LNTモデル) ・線量との関係:線量に応じて発生確率が増すが、重症度は線量によらない ・例:発癌(白血病、甲状腺癌、固形癌など)、遺伝的影響 ・防護目標:発生確率を容認できるレベルまで制限する

放射線防護の3原則(ICRP)

・正当化:被曝を伴う行為は、それによる便益が害を上回る場合に限って行う ・最適化:被曝は合理的に達成可能な限り低く保つ(ALARAの原則) ・線量限度:職業被曝・公衆被曝に限度を設ける(医療被曝には線量限度を適用せず、正当化と最適化で管理する)

ヒトの疫学で確認されている確率的影響

原爆被爆者の追跡調査では、白血病が被爆後数年で増加し始め、固形癌はその後長期にわたって増加することが示されている。チェルノブイリ原発事故後には、放射性ヨウ素の内部被曝による小児甲状腺癌の増加が確認されている。

POINT

・確定的影響(組織反応):閾値あり、線量とともに重症度が増す、防護目標は発生防止。放射線宿酔・白内障・脱毛・不妊など ・確率的影響:閾値なしと仮定(LNTモデル)、線量で変わるのは発生確率、重症度は線量によらない。発癌と遺伝的影響 ・確率的影響の防護目標は発生確率を容認できるレベルまで制限すること(ALARA) ・遺伝的影響は動物実験では認められるが、ヒトでは確認されていない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。