産後3日目の涙―「すぐ泣いてしまう」は病気?マタニティ・ブルーズを正しく見守る
第115回医師国家試験 C問題 第19問
国試問題にチャレンジ
マタニティ・ブルーズについて正しいのはどれか。
- a.母乳育児は禁止する。
- b.直ちに精神科医師に連絡する。
- c.涙もろくなるのが特徴である。
- d.自然に軽快することはまれである。
- e.分娩1か月後に発症のピークがある。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
マタニティ・ブルーズは産後3〜5日ごろ(おおむね産後10日以内)に出現する一過性の軽い情動不安定で、涙もろさが最も特徴的な症状です。胎盤娩出後のエストロゲン・プロゲステロンの急激な低下に疲労や育児不安が重なって生じると考えられ、産婦の30〜50%程度が経験し、多くは2週間以内に自然軽快します。対応は傾聴・説明・休息確保と経過観察が基本で、母乳育児の中止や直ちの精神科紹介は不要ですが、2週間以上続く場合は産後うつ病(EPDSでスクリーニング)、幻覚・妄想や錯乱があれば産褥精神病として緊急の精神科対応を考えます。発症時期・症状・持続期間で産褥期の精神障害を区別できることは、母子の安全を守る周産期医療の基本となります。
解答・解説
正解はcです
産褥期にみられる精神的変化のうち、最も頻度の高いマタニティ・ブルーズの特徴と対応を問う一般問題である。 マタニティ・ブルーズは、分娩後数日以内に始まる一過性の軽い情動の不安定状態である。分娩に伴って胎盤が娩出されると、妊娠中に高値であったエストロゲンやプロゲステロンが急激に低下する。この内分泌環境の急変に、分娩による疲労、睡眠不足、育児への不安などの心理社会的要因が重なって生じると考えられている。産後の女性の30〜50%程度が経験するとされ、病的な状態というより産褥期の生理的反応に近い。 本問を解く鍵は、(1) 症状の中心が涙もろさ(些細なことで泣いてしまう)であること、(2) 好発時期が産後3〜5日ごろ(おおむね産後10日以内)であること、(3) 多くは2週間以内に自然に軽快し、治療を要さないこと、の3点である。対応の基本は、母親の話をよく聴き、症状は一時的なものであると説明して安心させ、家族の協力を得ながら経過を観察することである。ただし、2週間を超えて症状が続く場合は産後うつ病への移行を考え、精神科との連携を検討する。
選択肢考察
- ×a. 母乳育児は禁止する。
誤りである。マタニティ・ブルーズは薬物療法を必要としない一過性の状態であり、母乳育児を制限する理由はない。授乳による母子の触れ合いは母親の情緒の安定や愛着形成にも役立つため、むしろ通常どおり継続を支援する。授乳が母親の負担になっている場合は、家族の協力や睡眠時間の確保などで調整する。
- ×b. 直ちに精神科医師に連絡する。
誤りである。マタニティ・ブルーズは自然に軽快することがほとんどであり、まず産科スタッフによる傾聴、説明、休息の確保といった支持的な対応と経過観察を行う。精神科への紹介を考えるのは、症状が2週間以上続く場合、日常生活や育児に支障が出ている場合、希死念慮や子どもを傷つける考えがある場合、幻覚・妄想などの精神病症状がある場合、精神疾患の既往がある場合などである。
- ○c. 涙もろくなるのが特徴である。
正しい。マタニティ・ブルーズの最も特徴的な症状は涙もろさであり、理由のはっきりしないまま、あるいは些細なきっかけで泣いてしまう。このほか、軽い抑うつ気分、不安感、イライラ感、集中力の低下、疲れやすさ、不眠などを伴うことがある。症状は軽く、気分が短時間で変わりやすく、日常生活や育児はおおむね保たれる点が産後うつ病との違いである。
- ×d. 自然に軽快することはまれである。
誤りである。マタニティ・ブルーズは一過性で、多くは数日から長くても2週間以内に自然に軽快する。治療を必要としないのが原則である。逆に、2週間を過ぎても抑うつ症状が持続・悪化する場合は、マタニティ・ブルーズではなく産後うつ病を疑う必要がある。
- ×e. 分娩1か月後に発症のピークがある。
誤りである。マタニティ・ブルーズは分娩後早期、特に産後3〜5日ごろに症状が出やすく、おおむね産後10日以内に発症する。分娩から数週間後(多くは産後1か月以内)に発症し、2週間以上持続するのは産後うつ病の特徴であり、両者は発症時期と持続期間で区別する。
産褥期の主な精神障害の比較
・マタニティ・ブルーズ:頻度は産婦の30〜50%程度。産後3〜5日ごろに出現しやすい。涙もろさ、軽い抑うつ、不安が主体で、多くは2週間以内に自然軽快する。対応は傾聴・説明・休息確保と経過観察。 ・産後うつ病:頻度は約10%前後。多くは産後数週間〜数か月以内に発症し、抑うつ気分、興味・喜びの喪失、不眠、食欲低下、自責感、育児への自信喪失などが2週間以上続く。希死念慮や児への虐待につながることがあり、精神科での治療(心理療法、抗うつ薬など)を要する。マタニティ・ブルーズが長引いて移行することもある。 ・産褥精神病:頻度は約0.1〜0.2%とまれ。産後2週間以内に急激に発症することが多く、錯乱、幻覚・妄想、躁状態などを呈する。双極性障害との関連が深い。母子の安全確保のため緊急に精神科治療(しばしば入院)が必要である。
産後うつ病のスクリーニング
エジンバラ産後うつ病自己評価票(EPDS)が広く用いられる。10項目の自記式質問票で、日本では9点以上を産後うつ病の可能性ありとして評価・支援につなげることが多い。産後うつ病の早期発見のため、産後1か月健診に加えて産後2週間健診を行う施設が増えており、公費による産婦健康診査の助成も行われている。
リスク因子
精神疾患の既往(特にうつ病・双極性障害)、妊娠中の抑うつや不安、家族・パートナーからの支援不足、経済的困難、望まない妊娠、育児困難のある児などは、産後うつ病の発症リスクを高める。
POINT
・マタニティ・ブルーズは産後3〜5日ごろに出現する一過性の情動不安定で、涙もろさが特徴。 ・頻度は産婦の30〜50%程度と高く、多くは2週間以内に自然軽快する。 ・対応は傾聴・説明・休息確保と経過観察。母乳育児の中止や直ちの精神科紹介は不要。 ・2週間以上続く場合は産後うつ病を疑う(EPDSでスクリーニング)。 ・幻覚・妄想や錯乱を伴う場合は産褥精神病として緊急に精神科対応が必要。
