「朝ごはん、何でした?」―ありふれた問いが映し出す記銘力
第109回医師国家試験 F問題 第7問
国試問題にチャレンジ
記銘力の評価に有用な質問はどれか。
- a.「ここはどこですか」
- b.「今の季節はいつですか」
- c.「どこで生まれましたか」
- d.「日本の首相は誰ですか」
- e.「朝食は何を食べましたか」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
記憶は記銘・保持・想起の3過程からなり、記銘力とは新しい情報を覚え込む力で、その低下は近時記憶の障害として現れます。そのため「朝食に何を食べたか」のように数時間前の体験を、家族などに正否を確認できる形で尋ねる質問が記銘力の評価に有用です。「ここはどこか」「今の季節は」は見当識、「出身地」は遠隔記憶、「首相は誰か」は教育歴に左右される一般知識を問う質問であり、評価対象が異なります。Alzheimer型認知症では近時記憶障害が初期から目立ち遠隔記憶は比較的保たれ、Korsakoff症候群では作話を伴うことがあります。各質問や認知機能検査の項目が何を評価しているかを理解しておくことは、認知症やせん妄を正確に評価する診察の基本となります。
解答・解説
正解はeです
記憶は「記銘(新しい情報を覚え込む)」「保持(覚えた情報を蓄えておく)」「想起(必要なときに思い出す)」の3つの過程からなる。記銘力とは、このうち新しい情報を取り込んで覚える力であり、記銘力が低下すると、少し前の出来事を覚えていられない(近時記憶の障害)という形で現れる。 したがって記銘力を評価するには、「ごく最近、新たに体験した出来事」を覚えているかを尋ねるのが適切である。一方、以下の質問は別の機能を評価するものであり、混同しないことが本問のポイントである。 ・見当識(時間・場所・人物について、自分が今どのような状況に置かれているかの認識)を問う質問 ・昔から覚えている情報(遠隔記憶)を問う質問 ・一般常識・知識(教育歴や社会的関心に左右される)を問う質問 なお、診察では患者の回答が正しいかどうかを家族などに確認できる質問を選ぶ必要がある。
選択肢考察
- ×a. 「ここはどこですか」
場所の見当識を確認する質問である。見当識は時間・場所・人物の順に障害されやすいとされ、意識障害(せん妄など)や認知症の評価に用いられる。見当識の保持には記憶も関与するが、新しい情報を覚え込む力そのものを直接評価する質問ではないため、記銘力の評価としては適切でない。
- ×b. 「今の季節はいつですか」
時間の見当識を確認する質問である。「今日は何年何月何日ですか」「何曜日ですか」「今は何時ごろですか」なども同じく時間の見当識を問う。見当識障害の評価には有用だが、記銘力を評価する質問ではない。
- ×c. 「どこで生まれましたか」
生まれた場所は昔から繰り返し使われてきた情報であり、遠隔記憶(長期間保持された記憶)の保持と想起を問う質問である。記銘力の低下(近時記憶の障害)があっても遠隔記憶は比較的保たれることが多く、新しく覚える力の評価には適さない。
- ×d. 「日本の首相は誰ですか」
一般常識・社会的知識を問う質問である。正答できるかどうかは教育歴や政治・時事への関心に大きく左右され、記銘力が保たれていても答えられないことがある。記銘力を評価する質問としては有用でない。
- ○e. 「朝食は何を食べましたか」
数時間前という最近の体験を覚えているかを問う質問であり、新しく体験した出来事を記銘し、それを保持・想起できるか(近時記憶)を評価できる。記銘力の低下は Alzheimer 型認知症の初期から目立つ症状であり、日常診療で簡便に使える質問である。回答の正否を家族や病棟スタッフに確認できる点でも適している。
記憶の過程と分類
・記憶の過程:記銘(符号化)→ 保持(貯蔵)→ 想起(検索)。 ・保持時間による臨床的分類: 即時記憶:数秒〜1分程度。数字の順唱・逆唱などで評価する(注意力の影響を大きく受ける)。 近時記憶:数分〜数日程度。3つの言葉を覚えさせて数分後に再生させる遅延再生、最近の出来事(食事内容など)の質問で評価する。 遠隔記憶:数週〜数十年。生年月日、出身地、過去の重大な出来事などで評価する。 ・内容による分類:陳述記憶(エピソード記憶・意味記憶)と非陳述記憶(手続き記憶など)。
記銘力障害が目立つ病態
・Alzheimer型認知症:海馬・側頭葉内側の障害により近時記憶(エピソード記憶)障害が初期から目立つ。遠隔記憶は比較的保たれる。 ・Korsakoff症候群(ビタミンB1欠乏など):記銘力障害、見当識障害、作話、健忘。 ・一過性全健忘、頭部外傷後健忘なども記銘力が障害される。
認知機能検査での評価
・改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やMini-Mental State Examination(MMSE)では、見当識(日時・場所)、3単語の記銘と遅延再生、計算、数字の逆唱などを評価する。項目ごとに何の機能をみているかを整理しておくとよい。
見当識
・時間・場所・人物に関する見当識があり、一般に時間 → 場所 → 人物の順に障害されやすい。
POINT
・記憶の3過程は記銘・保持・想起。記銘力は「新しいことを覚える力」で、最近の出来事を尋ねて評価する。 ・「朝食に何を食べたか」は近時記憶(記銘力)の評価に有用。 ・「ここはどこか」「今の季節は」は見当識、「出身地」は遠隔記憶、「首相は誰か」は一般知識を問う質問である。 ・Alzheimer型認知症では近時記憶障害が初期から目立ち、遠隔記憶は比較的保たれる。
