StudyMed医師国家試験

「朝ごはん、何でした?」―ありふれた問いが映し出す記銘力

第109回医師国家試験 F問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第109回 F問題 第7問

記銘力の評価に有用な質問はどれか。

  1. a.「ここはどこですか」
  2. b.「今の季節はいつですか」
  3. c.「どこで生まれましたか」
  4. d.「日本の首相は誰ですか」
  5. e.「朝食は何を食べましたか」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、認知機能の診察で使う質問のうち、どれが記銘力をみるのに役立つかを問う問題だ。どの質問も外来でよく耳にするものだけど、それぞれ評価している機能が違う。まずは記銘力という言葉の意味を整理しよう。記憶にはどんな過程があったかな。
医学生医学生
記銘、保持、想起の3つでしたよね。記銘は新しいことを覚え込む段階だと思います。
ドクタードクター
その通り。記銘力は新しい情報を取り込んで覚える力だ。これが落ちると、少し前の出来事を覚えていられない、つまり近時記憶の障害として表に出てくる。だから評価するには「ごく最近、新しく体験したこと」を覚えているかを聞けばいい。
医学生医学生
それなら朝食の内容でしょうか。数時間前の出来事ですし。
ドクタードクター
正解。朝食は数時間前の新しい体験で、それを記銘し、保持し、想起できるかを一度に確認できる。しかも答えが正しいかどうかを家族や病棟スタッフに確かめられるのも大事な点だ。答え合わせのできない質問だと、作話されても気づけないからね。
医学生医学生
精神科の臨床実習で、Korsakoff症候群の患者さんがもっともらしい朝食の話をしてくれたんですが、実は違っていたことがありました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。作話はKorsakoff症候群の特徴の一つで、記銘力障害や見当識障害とセットで現れる。だからこそ確認できる質問を選ぶ意味がある。では他の選択肢を見ていこう。「ここはどこですか」は何をみている?
医学生医学生
場所がわかっているか……見当識ですね。でも、入院した場所を覚えているかという意味では記憶とも関係しそうで迷いました。
ドクタードクター
鋭い疑問だ。確かに見当識の保持には記憶も関わる。ただ、この質問が直接みているのは、自分が今どんな状況に置かれているかの認識、つまり場所の見当識なんだ。新しい情報を覚え込む力そのものを評価する質問ではない。季節を聞く質問も同じで、こちらは時間の見当識だね。
医学生医学生
見当識って、障害される順番がありましたよね。
ドクタードクター
一般に時間、場所、人物の順に障害されやすいとされる。せん妄などの意識障害や認知症の評価で頻用される項目だ。次は「どこで生まれましたか」。
医学生医学生
これは昔の記憶なので遠隔記憶ですか。Alzheimer型認知症の祖母も、昔のことはよく話すのに、さっきの話は忘れてしまいます。
ドクタードクター
まさにその通り。出身地は何十年も繰り返し使われてきた情報だから、記銘力が落ちていても比較的保たれやすい。Alzheimer型認知症では海馬を含む側頭葉内側が早期から障害されるので、近時記憶障害が目立つ一方で遠隔記憶は残りやすいんだ。
医学生医学生
首相の名前は、新しい情報という意味では記銘力に近い気がしましたが……。
ドクタードクター
そこが引っかけポイントだね。首相の名前は一般常識・社会的知識で、正答できるかは教育歴や時事への関心に大きく左右される。記銘力が保たれていても答えられない人はいるし、逆に正答してもそれが記銘力の証明にはならない。評価の道具としては不安定なんだ。
医学生医学生
質問ごとに何をみているのかを意識しないと、評価がぶれてしまうんですね。
ドクタードクター
そう。発展として記憶の時間的分類も押さえておこう。数秒から1分程度の即時記憶は数字の順唱・逆唱で評価するけれど、注意力の影響を大きく受ける。数分から数日の近時記憶は、3つの言葉を覚えてもらって数分後に思い出してもらう遅延再生や、最近の出来事の質問でみる。遠隔記憶は生年月日や出身地、過去の大きな出来事でみるんだ。
医学生医学生
OSCEの練習で改訂長谷川式をやりましたが、3単語の遅延再生がまさに近時記憶の項目なんですね。
ドクタードクター
その通り。HDS-RやMMSEには見当識、3単語の記銘と遅延再生、計算、数字の逆唱などが含まれている。点数の合計だけでなく、どの項目で失点したかを見ると、記憶障害が主体なのか、注意障害や見当識障害が主体なのかが見えてくる。日常の診察では、朝食や最近の出来事を自然な会話の中で聞くのが簡便で役に立つよ。

まとめ

記憶は記銘・保持・想起の3過程からなり、記銘力とは新しい情報を覚え込む力で、その低下は近時記憶の障害として現れます。そのため「朝食に何を食べたか」のように数時間前の体験を、家族などに正否を確認できる形で尋ねる質問が記銘力の評価に有用です。「ここはどこか」「今の季節は」は見当識、「出身地」は遠隔記憶、「首相は誰か」は教育歴に左右される一般知識を問う質問であり、評価対象が異なります。Alzheimer型認知症では近時記憶障害が初期から目立ち遠隔記憶は比較的保たれ、Korsakoff症候群では作話を伴うことがあります。各質問や認知機能検査の項目が何を評価しているかを理解しておくことは、認知症やせん妄を正確に評価する診察の基本となります。

解答・解説

正解はeです

記憶は「記銘(新しい情報を覚え込む)」「保持(覚えた情報を蓄えておく)」「想起(必要なときに思い出す)」の3つの過程からなる。記銘力とは、このうち新しい情報を取り込んで覚える力であり、記銘力が低下すると、少し前の出来事を覚えていられない(近時記憶の障害)という形で現れる。 したがって記銘力を評価するには、「ごく最近、新たに体験した出来事」を覚えているかを尋ねるのが適切である。一方、以下の質問は別の機能を評価するものであり、混同しないことが本問のポイントである。 ・見当識(時間・場所・人物について、自分が今どのような状況に置かれているかの認識)を問う質問 ・昔から覚えている情報(遠隔記憶)を問う質問 ・一般常識・知識(教育歴や社会的関心に左右される)を問う質問 なお、診察では患者の回答が正しいかどうかを家族などに確認できる質問を選ぶ必要がある。

選択肢考察

  1. ×a.  「ここはどこですか」

    場所の見当識を確認する質問である。見当識は時間・場所・人物の順に障害されやすいとされ、意識障害(せん妄など)や認知症の評価に用いられる。見当識の保持には記憶も関与するが、新しい情報を覚え込む力そのものを直接評価する質問ではないため、記銘力の評価としては適切でない。

  2. ×b.  「今の季節はいつですか」

    時間の見当識を確認する質問である。「今日は何年何月何日ですか」「何曜日ですか」「今は何時ごろですか」なども同じく時間の見当識を問う。見当識障害の評価には有用だが、記銘力を評価する質問ではない。

  3. ×c.  「どこで生まれましたか」

    生まれた場所は昔から繰り返し使われてきた情報であり、遠隔記憶(長期間保持された記憶)の保持と想起を問う質問である。記銘力の低下(近時記憶の障害)があっても遠隔記憶は比較的保たれることが多く、新しく覚える力の評価には適さない。

  4. ×d.  「日本の首相は誰ですか」

    一般常識・社会的知識を問う質問である。正答できるかどうかは教育歴や政治・時事への関心に大きく左右され、記銘力が保たれていても答えられないことがある。記銘力を評価する質問としては有用でない。

  5. ○e.  「朝食は何を食べましたか」

    数時間前という最近の体験を覚えているかを問う質問であり、新しく体験した出来事を記銘し、それを保持・想起できるか(近時記憶)を評価できる。記銘力の低下は Alzheimer 型認知症の初期から目立つ症状であり、日常診療で簡便に使える質問である。回答の正否を家族や病棟スタッフに確認できる点でも適している。

記憶の過程と分類

・記憶の過程:記銘(符号化)→ 保持(貯蔵)→ 想起(検索)。 ・保持時間による臨床的分類:  即時記憶:数秒〜1分程度。数字の順唱・逆唱などで評価する(注意力の影響を大きく受ける)。  近時記憶:数分〜数日程度。3つの言葉を覚えさせて数分後に再生させる遅延再生、最近の出来事(食事内容など)の質問で評価する。  遠隔記憶:数週〜数十年。生年月日、出身地、過去の重大な出来事などで評価する。 ・内容による分類:陳述記憶(エピソード記憶・意味記憶)と非陳述記憶(手続き記憶など)。

記銘力障害が目立つ病態

・Alzheimer型認知症:海馬・側頭葉内側の障害により近時記憶(エピソード記憶)障害が初期から目立つ。遠隔記憶は比較的保たれる。 ・Korsakoff症候群(ビタミンB1欠乏など):記銘力障害、見当識障害、作話、健忘。 ・一過性全健忘、頭部外傷後健忘なども記銘力が障害される。

認知機能検査での評価

・改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やMini-Mental State Examination(MMSE)では、見当識(日時・場所)、3単語の記銘と遅延再生、計算、数字の逆唱などを評価する。項目ごとに何の機能をみているかを整理しておくとよい。

見当識

・時間・場所・人物に関する見当識があり、一般に時間 → 場所 → 人物の順に障害されやすい。

POINT

・記憶の3過程は記銘・保持・想起。記銘力は「新しいことを覚える力」で、最近の出来事を尋ねて評価する。 ・「朝食に何を食べたか」は近時記憶(記銘力)の評価に有用。 ・「ここはどこか」「今の季節は」は見当識、「出身地」は遠隔記憶、「首相は誰か」は一般知識を問う質問である。 ・Alzheimer型認知症では近時記憶障害が初期から目立ち、遠隔記憶は比較的保たれる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。