歩くほど遠ざかる―運動が守るのは「結腸」だった
第109回医師国家試験 F問題 第15問
国試問題にチャレンジ
習慣的な運動によって発症リスクが低下するのはどれか。
- a.胃癌
- b.肺癌
- c.食道癌
- d.結腸癌
- e.膀胱癌
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
習慣的な身体活動で発症リスクが下がることが国際的に「確実」と評価されているがんは結腸癌であり、日本人を対象とした評価でも「ほぼ確実」とされています(直腸癌では関連は明確ではありません)。機序としては、腸管通過時間の短縮による発がん物質と粘膜の接触時間の減少、肥満・インスリン抵抗性・高インスリン血症の改善などが考えられています。一方、胃癌はピロリ菌と高塩分食、肺癌と膀胱癌は喫煙、食道扁平上皮癌は喫煙と飲酒が主な危険因子で、運動によるリスク低下は確立していません。がんごとの代表的な危険因子を整理しておくことは、国家試験だけでなく、患者さんへの根拠に基づいた生活指導の基盤になります。
解答・解説
正解はdです
生活習慣とがんの関係のうち、身体活動(習慣的な運動)によって発症リスクが下がるがんを問う問題である。 生活習慣とがんの因果関係については、世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)が世界中の疫学研究を系統的に評価した報告書(2007年、および2018年の改訂版)がよく知られている。この評価では、身体活動が結腸癌のリスクを下げることは最も強い根拠レベル「確実(convincing)」と判定されている。日本人を対象とした研究を評価した国立がん研究センターの判定でも、身体活動による結腸癌リスク低下は「ほぼ確実」とされている。 運動が結腸癌を予防する機序としては、次のようなものが考えられている。 ・腸管の蠕動が促され便の通過時間が短くなることで、便中の発がん物質と大腸粘膜が接触する時間が減る。 ・肥満、特に内臓脂肪の蓄積が抑えられ、インスリン抵抗性・高インスリン血症やインスリン様成長因子(IGF-1)の上昇といった細胞増殖を促す状態が改善する。 ・慢性炎症の軽減や免疫機能の改善。 一方、選択肢のほかのがんには、運動によってリスクが下がるという確立した根拠はなく、それぞれ喫煙・飲酒・感染など別の主要な危険因子が知られている。したがって正解は結腸癌である。
選択肢考察
- ×a. 胃癌
誤り。胃癌の最大の危険因子はHelicobacter pylori(ピロリ菌)の持続感染であり、そのほか高塩分食品の摂取、喫煙が確立したリスク因子である。習慣的な運動が胃癌の発症リスクを下げるという確立した根拠はない。予防としてはピロリ菌の除菌、減塩、禁煙が重要である。
- ×b. 肺癌
誤り。肺癌の最大の危険因子は喫煙(受動喫煙を含む)であり、ほかにアスベスト、ラドン、ヒ素、大気汚染などの環境・職業曝露が知られている。運動と肺癌リスク低下の関連を示唆する報告はあるものの、喫煙などの交絡を除いた評価では根拠は限定的で、確立したものとはいえない。予防の中心は禁煙である。
- ×c. 食道癌
誤り。日本人に多い食道扁平上皮癌の主な危険因子は喫煙と飲酒であり、特に飲酒で顔が赤くなるアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)の活性が弱い体質の人ではリスクが大きく高まる。熱い飲食物の摂取もリスクとされる。欧米に多い食道腺癌では胃食道逆流症、Barrett食道、肥満が危険因子である。運動によるリスク低下は確立していない。
- ○d. 結腸癌
正しい。身体活動が結腸癌のリスクを下げることは、国際的な評価で「確実」、日本人を対象とした評価でも「ほぼ確実」と判定されている。運動により腸の蠕動が促進されて便の通過時間が短縮し、発がん物質と大腸粘膜の接触時間が減ること、肥満やインスリン抵抗性・高インスリン血症が改善することなどが機序と考えられている。なお、同じ大腸でも直腸癌については運動との関連ははっきりしておらず、リスク低下が確実とされているのは結腸癌である。大腸癌の危険因子としては、ほかに赤身肉・加工肉の摂取、飲酒、肥満、喫煙が挙げられる。
- ×e. 膀胱癌
誤り。膀胱癌(尿路上皮癌)の最大の危険因子は喫煙であり、ほかに芳香族アミン(β-ナフチルアミン、ベンジジンなど、染料工業などでの職業曝露)、シクロホスファミドの使用、ビルハルツ住血吸虫感染(扁平上皮癌の原因)が知られている。運動によるリスク低下は確立していない。
身体活動とがんリスク(国際的評価の要点)
・結腸癌:身体活動でリスクが低下する根拠は「確実」 ・乳癌(閉経後)、子宮体癌:身体活動でリスクが低下する可能性が高い(probable) ・その他の部位:根拠は限定的
肥満とがん
肥満(体脂肪の過剰)は、大腸癌、閉経後乳癌、子宮体癌、腎細胞癌、食道腺癌、膵癌、肝癌など多くのがんのリスクを上げる。運動は体重管理を通じても、これらのがんの予防に間接的に寄与する。
日本人のためのがん予防法(国立がん研究センター)の5つの生活習慣
禁煙、節酒、食生活の見直し(減塩、野菜・果物の摂取、熱い飲食物を避ける)、身体を動かす、適正体重の維持。これに感染対策(ピロリ菌、肝炎ウイルス、HPVなど)を加えたものが予防の柱とされる。
主ながんと代表的な危険因子
胃癌:ピロリ菌、高塩分食、喫煙 肺癌:喫煙、アスベスト、ラドン 食道癌:喫煙・飲酒(扁平上皮癌)、胃食道逆流・肥満(腺癌) 大腸癌:赤身肉・加工肉、飲酒、肥満、運動不足(結腸) 膀胱癌:喫煙、芳香族アミン、シクロホスファミド 肝細胞癌:B型・C型肝炎ウイルス、飲酒、非アルコール性脂肪性肝疾患 子宮頸癌:HPV(16型・18型など)
POINT
・習慣的な身体活動で発症リスクが低下することが確実とされるがんは結腸癌である(直腸癌は関連が明確でない)。 ・機序:腸管通過時間の短縮による発がん物質との接触時間の減少、肥満・インスリン抵抗性の改善など。 ・胃癌=ピロリ菌・塩分、肺癌・膀胱癌=喫煙、食道扁平上皮癌=喫煙・飲酒が主な危険因子。
