狙い撃ちできるか?―「局所治療」の視点で見る肺癌の放射線治療
第109回医師国家試験 E問題 第27問
国試問題にチャレンジ
肺癌患者において放射線治療の適応でないのはどれか。
- a.限局型小細胞癌
- b.上大静脈症候群
- c.癌性胸膜炎
- d.骨転移
- e.脳転移
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
放射線治療は照射した範囲にのみ効果を及ぼす局所治療であり、病変が照射野に収まる場合や、特定の病変を縮小させれば症状が改善する場合に適応となります。肺癌では、限局型小細胞肺癌に対する化学放射線療法が根治目的の代表で、上大静脈症候群、骨転移、脳転移は緩和目的の照射の代表的な適応です。一方、癌性胸膜炎は胸膜全面に病変が広がるため片肺全体を照射する必要があり、肺障害が大きい割に効果が乏しいことから適応となりません。癌性胸膜炎には全身薬物療法を行い、胸水には胸腔ドレナージと胸膜癒着術で対応します。「局所に限られるか」「症状の原因となる病変か」という視点を持つと、放射線治療の適応を暗記に頼らず理解でき、臨床での治療選択にも応用できます。
解答・解説
正解はcです
肺癌診療における放射線治療の役割を問う問題である。
放射線治療の基本的な性格
放射線治療は照射した範囲にだけ効果を及ぼす「局所治療」である。したがって、適応となるのは病変が一定の範囲に限られていて照射野に収められる場合、あるいは特定の病変が症状の原因となっていて、その病変を縮小させれば症状が改善する場合である。一方、照射範囲が広くなるほど正常組織の障害(肺では放射線肺臓炎・肺線維症)が増えるため、病変が広範にびまん性に広がっている状態は不向きである。
肺癌での放射線治療の使われ方
・根治目的:限局型小細胞肺癌に対する化学放射線療法、手術できない早期非小細胞肺癌に対する定位放射線治療、局所進行非小細胞肺癌(Ⅲ期)に対する化学放射線療法など。 ・緩和・症状改善目的:上大静脈症候群、骨転移による疼痛や病的骨折・脊髄圧迫の予防、脳転移による神経症状、気道狭窄、血痰など。
考え方
癌性胸膜炎は、胸膜全体に癌細胞が播種した状態である。病変は片側胸腔の胸膜全面に及ぶため、照射するなら片肺全体を含む広い範囲が必要となり、肺の放射線障害が大きく、得られる利益に見合わない。また、胸水の制御には胸腔ドレナージと胸膜癒着術がより有効である。したがって放射線治療の適応とならないのは癌性胸膜炎である。
選択肢考察
- ×a. 限局型小細胞癌
限局型小細胞肺癌は、病変が片側胸郭内(同側肺門・縦隔、両側縦隔、同側鎖骨上窩リンパ節など)にとどまり、一つの照射野に収められる範囲のものを指す。小細胞癌は抗癌薬と放射線の両方に感受性が高いため、シスプラチン+エトポシドなどの化学療法に胸部放射線治療を同時併用する化学放射線療法が標準治療であり、根治を目指せる。治療で完全奏効に近い効果が得られた例では、脳転移の発生を抑えるための予防的全脳照射(PCI)も考慮される。放射線治療の適応である。
- ×b. 上大静脈症候群
上大静脈症候群は、腫瘍や腫大した縦隔リンパ節が上大静脈を圧迫・浸潤して静脈還流が障害され、顔面・頸部・上肢の浮腫、前胸部の静脈怒張、呼吸困難などをきたす病態である。原因として肺癌(特に小細胞癌)が多い。腫瘍を縮小させて圧迫を解除する目的で放射線治療が行われ、オンコロジック・エマージェンシー(腫瘍に関連した緊急病態)として速やかな対応が求められる。小細胞癌では化学療法も有効であり、症状が重篤な場合は血管内ステント留置で早期の症状改善を図ることもある。放射線治療の適応である。
- ○c. 癌性胸膜炎
癌性胸膜炎は胸膜に癌が播種して悪性胸水を生じた状態で、肺癌ではM1a、すなわちⅣ期(遠隔転移あり)に分類される。病変は胸膜の全面に及ぶため、照射するには片側肺全体を照射野に含めなければならず、放射線肺臓炎などの障害が大きい割に、胸膜播種や胸水を制御する効果は期待しにくい。治療の中心は全身薬物療法(細胞障害性抗癌薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬)であり、胸水による呼吸困難には胸腔ドレナージと胸膜癒着術(タルク、OK-432などを胸腔内に注入)が行われる。したがって放射線治療の適応とならない。
- ×d. 骨転移
肺癌は骨転移をきたしやすい癌の一つである。骨転移による疼痛に対する放射線治療は有効性の高い緩和治療で、多くの患者(報告によりおおむね6〜8割以上)で疼痛の軽減が得られる。8Gyの単回照射や30Gy/10回などの分割照射が用いられる。疼痛緩和のほか、病的骨折の予防や、脊椎転移による脊髄圧迫(麻痺)の改善・予防にも用いられる。放射線治療の適応である。
- ×e. 脳転移
肺癌は脳転移の原因として最も多い癌である。脳転移は頭蓋内圧亢進症状や麻痺などの神経症状をきたし、多くの抗癌薬は血液脳関門を通過しにくいため、放射線治療が重要な役割を担う。転移の数が少なく小さい場合は、ガンマナイフなどによる定位放射線照射(病変に高線量を集中させる方法)、多発する場合は全脳照射が選択される。症状緩和や局所制御を目的とした放射線治療の適応である。
肺癌における放射線治療の主な適応
・根治的照射: 手術不能または手術を希望しないⅠ期非小細胞肺癌→体幹部定位放射線治療(SBRT) 切除不能Ⅲ期非小細胞肺癌→化学放射線療法(その後に免疫チェックポイント阻害薬による地固め療法) 限局型小細胞肺癌→化学放射線療法、奏効例に予防的全脳照射 ・緩和的照射:脳転移、骨転移(疼痛、脊髄圧迫)、上大静脈症候群、気道狭窄・無気肺、血痰など
放射線治療が不向きな状態
照射範囲が広くならざるを得ない病態(癌性胸膜炎、癌性心膜炎、広範な肺内転移、癌性リンパ管症など)は、正常組織への障害が大きく効果も乏しいため適応となりにくい。例外として造血幹細胞移植の前処置で行う全身照射(TBI)がある。
悪性胸水の管理
・胸腔穿刺・ドレナージで症状を改善する。 ・再貯留を防ぐため、胸水を十分排液して肺が再膨張した後に胸膜癒着術を行う。 ・繰り返す場合は胸腔内留置カテーテルの使用も選択肢となる。 ・原疾患には全身薬物療法を行う。
POINT
・放射線治療は局所治療であり、病変が照射野に収まる場合や、特定の病変による症状を緩和したい場合に用いる。 ・限局型小細胞肺癌は化学放射線療法が標準。 ・上大静脈症候群、骨転移、脳転移は緩和的照射の代表的適応。 ・癌性胸膜炎は胸膜全体に病変が及び照射野が広くなるため適応外。治療は全身薬物療法と胸腔ドレナージ・胸膜癒着術。
