エコーに映らない出口の異常―胎児超音波が見逃しやすい鎖肛
第109回医師国家試験 E問題 第25問
国試問題にチャレンジ
胎児超音波検査で診断が最も困難な疾患はどれか。
- a.鎖肛
- b.水腎症
- c.卵巣嚢腫
- d.横隔膜ヘルニア
- e.十二指腸閉鎖症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胎児超音波で見つけやすいのは、液体貯留による拡張や嚢胞(水腎症、卵巣嚢腫)、臓器の位置異常(横隔膜ヘルニア)、特徴的な液体腔と羊水過多(十二指腸閉鎖のdouble bubble sign)など、はっきりした画像変化を伴う疾患です。鎖肛は消化管の最末端の異常で、嚥下した羊水は口側の小腸で吸収されるため腸管拡張や羊水量異常が起こりにくく、肛門自体も小さいため、多くは出生前に診断されません。出生直後の診察で肛門の有無と位置を確認することが発見の基本であり、VACTERL連合の一部として他の奇形を伴うことがある点にも注意が必要です。羊水が尿で産生され、嚥下と腸管吸収で除去されるという生理を押さえると、上部消化管閉鎖で羊水過多、尿路の産生・排出障害で羊水過少になる理由も一貫して理解できます。
解答・解説
正解はaです
胎児超音波検査で出生前に見つけやすい疾患と、見つけにくい疾患を区別できるかを問う問題である。
超音波で「見える」異常の条件
胎児超音波で異常として捉えられるのは、おおむね次のいずれかの変化を伴う疾患である。 ・液体の貯留による拡張・嚢胞(無エコー域)が生じる:水腎症、卵巣嚢腫、消化管閉鎖による口側腸管の拡張など ・臓器の位置や形の明らかな異常がある:横隔膜ヘルニアによる腹部臓器の胸腔内への脱出、臍帯ヘルニアなど ・羊水量の異常が生じる:胎児は羊水を嚥下し、主に小腸で吸収する。上部消化管が閉鎖すると羊水を吸収できず羊水過多になり、逆に尿の産生・排出が障害されると羊水過少になる。
考え方
鎖肛(直腸肛門奇形)は消化管の最も末端の異常である。胎児期には腸管内容が肛門から排出されることはもともとほとんどなく、嚥下した羊水は閉鎖部より口側の小腸で吸収されて胎盤経由で母体に戻る。そのため、閉鎖があっても口側腸管の目立つ拡張や羊水量の異常が起こりにくく、超音波で異常を示す手がかりが乏しい。肛門という小さな構造の有無を胎内で確実に評価することも難しい。したがって選択肢の中で出生前診断が最も困難なのは鎖肛である。 他の4疾患は、液体貯留像や臓器の位置異常といった特徴的な所見を示すため、出生前に発見されることが多い。
選択肢考察
- ○a. 鎖肛
鎖肛は直腸が盲端に終わり、正常な位置に肛門が開いていない先天奇形である。胎児が飲み込んだ羊水は閉鎖部より手前の小腸で吸収されるため、閉鎖があっても腸管の著明な拡張や羊水過多が生じにくい。肛門自体も小さな構造で、胎内での有無の確認は難しい。一部の症例では直腸の拡張や、直腸と尿路の瘻孔による腸管内石灰化などから疑われることもあるが、多くは出生前に診断されず、出生後の診察(肛門の欠如、体温計・カテーテルが挿入できない、生後24時間以上胎便が出ない、会陰部の瘻孔など)で発見される。病型(高位・中間位・低位)の評価には倒立位単純X線撮影(Wangensteen-Rice法)などが用いられる。以上から最も診断が困難なのはこの疾患である。
- ×b. 水腎症
水腎症は腎盂尿管移行部狭窄、膀胱尿管逆流、後部尿道弁などにより尿の流れが妨げられ、腎盂・腎杯が拡張した状態である。拡張した腎盂は尿で満たされて無エコー域として描出されるため、胎児超音波で発見しやすく、出生前に見つかる泌尿器異常として最も頻度が高い。腎盂前後径の計測で重症度を評価し、両側性で下部尿路閉塞を伴う場合には羊水過少も手がかりになる。
- ×c. 卵巣嚢腫
女児胎児では、母体や胎盤由来のホルモンの刺激により卵巣に嚢胞が形成されることがあり、主に妊娠後期に下腹部の嚢胞性病変として超音波で描出される。液体を含む嚢胞は無エコー域として明瞭に映るため出生前に発見可能である。多くは出生後に自然縮小するが、大きいものは茎捻転や出血をきたすことがある。腸管の閉鎖や重複腸管、尿路系の嚢胞などとの鑑別を要する。
- ×d. 横隔膜ヘルニア
先天性横隔膜ヘルニアは横隔膜の欠損部(多くは左後外側のBochdalek孔)から胃・腸管・肝臓などの腹部臓器が胸腔内に脱出する疾患である。超音波では胸腔内の胃泡や腸管像、心臓の対側(多くは右方)への偏位として捉えられ、出生前診断が可能である。肺低形成や肺高血圧により出生直後から重篤な呼吸不全をきたすため、出生前に診断して高次医療施設での分娩・新生児管理を準備することが重要である。肺の大きさの指標(肺頭比など)や肝臓脱出の有無が予後評価に用いられる。
- ×e. 十二指腸閉鎖症
十二指腸閉鎖症では、拡張した胃と、閉鎖部より口側で拡張した十二指腸球部の2つの液体貯留腔が並んで見える「double bubble sign」が特徴的である。羊水を下部小腸で吸収できないため羊水過多を伴うことが多く、これも発見の契機となる。約3割に21トリソミーを合併し、心奇形などの他の形態異常を伴うことも多いため、診断した場合は全身の精査や染色体検査の検討が必要である。
胎児超音波で出生前診断されやすい主な形態異常
・中枢神経:無脳症、水頭症、全前脳胞症、二分脊椎(脊髄髄膜瘤) ・胸部:先天性横隔膜ヘルニア、先天性肺気道奇形(CPAM。以前は先天性嚢胞状腺腫様奇形=CCAMと呼ばれた)、胸水、先天性心疾患 ・腹壁:臍帯ヘルニア、腹壁破裂 ・消化管:食道閉鎖(胃泡の欠如・縮小と羊水過多)、十二指腸閉鎖(double bubble sign)、小腸閉鎖(多数の拡張腸管) ・泌尿器:水腎症、多嚢胞性異形成腎、後部尿道弁(拡張膀胱・羊水過少)、腎無形成(羊水過少) ・骨系統:致死性骨異形成症、軟骨無形成症(四肢短縮)
羊水量と消化管・尿路の関係
羊水は妊娠中期以降、主に胎児尿で産生され、胎児の嚥下と腸管での吸収で除去される。 ・羊水過多:上部消化管閉鎖(食道閉鎖、十二指腸閉鎖など)、嚥下障害をきたす中枢神経・神経筋疾患、母体糖尿病など ・羊水過少:腎無形成(Potter症候群)、両側の高度な尿路閉塞、前期破水、胎盤機能不全など 閉鎖部位が下部(回腸、大腸、肛門)になるほど口側腸管で羊水が吸収されるため、羊水過多になりにくく、出生前診断も難しくなる。
鎖肛(直腸肛門奇形)の要点
出生約5,000人に1人程度とされる。直腸盲端と恥骨直腸筋の位置関係により高位・中間位・低位に分類される。VACTERL連合(椎体、肛門、心、気管食道、腎、四肢の異常)の一部として現れることがあり、他の奇形の検索が必要である。出生直後の診察で肛門の位置・有無を確認することが発見の基本である。
POINT
・鎖肛は消化管の最末端の異常で、口側腸管の拡張や羊水異常をきたしにくく、胎児超音波での出生前診断が困難である。 ・液体貯留(水腎症、卵巣嚢腫)、臓器の位置異常(横隔膜ヘルニア)、double bubble sign(十二指腸閉鎖)は出生前に発見しやすい。 ・上部消化管閉鎖は羊水過多、尿の産生・排出障害は羊水過少をきたす。 ・十二指腸閉鎖では21トリソミーの合併に注意する。
