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エコーに映らない出口の異常―胎児超音波が見逃しやすい鎖肛

第109回医師国家試験 E問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第109回 E問題 第25問

胎児超音波検査で診断が最も困難な疾患はどれか。

  1. a.鎖肛
  2. b.水腎症
  3. c.卵巣嚢腫
  4. d.横隔膜ヘルニア
  5. e.十二指腸閉鎖症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胎児超音波で出生前に見つけやすい疾患と見つけにくい疾患を見分ける問題だ。カギは「超音波で異常として映るのはどんな変化か」を考えること。液体がたまる、臓器の位置がずれる、羊水量が変わる、この3つを手がかりにしてみよう。
医学生医学生
超音波は液体が黒く抜けて見えるので、嚢胞や拡張があるものは見つけやすいですよね。産婦人科の臨床実習で妊婦健診のエコーを見せてもらったとき、胎児の胃や膀胱が黒く映っていました。
ドクタードクター
いい観察だね。液体は無エコー域として明瞭に映る。まず水腎症はどうだろう。
医学生医学生
尿が腎盂にたまって拡張するので、黒い袋として見えそうです。
ドクタードクター
その通り。腎盂尿管移行部狭窄や膀胱尿管逆流、後部尿道弁などで腎盂が拡張し、出生前に見つかる泌尿器異常として最も多い。両側の高度な閉塞なら羊水過少も手がかりになる。卵巣嚢腫も同じ理屈だ。
医学生医学生
胎児に卵巣嚢腫ができるというのは、少し意外でした。
ドクタードクター
母体や胎盤由来のホルモンの刺激で、女児の卵巣に嚢胞ができることがあるんだ。妊娠後期に下腹部の嚢胞として描出される。多くは生後に自然に小さくなるけれど、大きいものは茎捻転や出血に注意が必要だよ。では横隔膜ヘルニアは。
医学生医学生
腹部の臓器が胸の中に入り込むので、胸腔内に胃が見えるはずです。
ドクタードクター
そう。胸腔内の胃泡や腸管、心臓が反対側に押しやられる所見で診断できる。肺低形成のため出生直後から重い呼吸不全になるので、出生前に診断して高次施設で分娩する準備をすることがとても大事なんだ。
医学生医学生
十二指腸閉鎖はdouble bubble signですね。小児外科の講義で、X線写真で習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。胎児でも、拡張した胃と十二指腸球部の2つの液体腔として見える。さらに胎児は羊水を飲んで主に小腸で吸収しているから、上部で閉鎖すると吸収できずに羊水過多になる。これも発見のきっかけになるんだ。
医学生医学生
そうすると、鎖肛はどうなるんでしょう。腸が詰まっているなら、やっぱり手前の腸が拡張しそうな気がしますが。
ドクタードクター
そこが今回の核心だ。鎖肛は消化管の一番末端の異常だよね。胎児期にはもともと腸の内容物が肛門から出ることはほとんどなく、飲んだ羊水は閉鎖部よりずっと手前の小腸で吸収されてしまう。だから閉鎖があっても目立つ腸管拡張や羊水量の異常が起こりにくいんだ。
医学生医学生
閉鎖の位置が下になるほど、羊水はちゃんと吸収されてしまって手がかりが消えるわけですね。
ドクタードクター
その通り。しかも肛門はとても小さな構造で、胎内でその有無を確実に確認するのは難しい。一部では直腸の拡張や、直腸と尿路の瘻孔による腸管内の石灰化から疑われることもあるけれど、多くは出生前には診断されない。だから選択肢の中で最も診断が困難なのは鎖肛だ。
医学生医学生
では、鎖肛は生まれてから見つけることになるんですね。
ドクタードクター
そう。出生直後の診察で肛門の位置と有無を必ず確認するのが基本だ。肛門が見当たらない、体温計が入らない、生後24時間以上胎便が出ない、会陰部に瘻孔がある、といった点で気づかれる。病型の評価には倒立位単純X線撮影などを用いて、直腸盲端の高さで高位・中間位・低位に分ける。
医学生医学生
ほかの奇形との合併も気になります。
ドクタードクター
大事な視点だね。鎖肛はVACTERL連合、つまり椎体、肛門、心臓、気管食道、腎、四肢の異常の一部として現れることがあるから、ほかの奇形の検索が必要だ。十二指腸閉鎖も約3割に21トリソミーを合併するので、どちらも「一つ見つけたら全身を探す」姿勢を忘れないようにしよう。

まとめ

胎児超音波で見つけやすいのは、液体貯留による拡張や嚢胞(水腎症、卵巣嚢腫)、臓器の位置異常(横隔膜ヘルニア)、特徴的な液体腔と羊水過多(十二指腸閉鎖のdouble bubble sign)など、はっきりした画像変化を伴う疾患です。鎖肛は消化管の最末端の異常で、嚥下した羊水は口側の小腸で吸収されるため腸管拡張や羊水量異常が起こりにくく、肛門自体も小さいため、多くは出生前に診断されません。出生直後の診察で肛門の有無と位置を確認することが発見の基本であり、VACTERL連合の一部として他の奇形を伴うことがある点にも注意が必要です。羊水が尿で産生され、嚥下と腸管吸収で除去されるという生理を押さえると、上部消化管閉鎖で羊水過多、尿路の産生・排出障害で羊水過少になる理由も一貫して理解できます。

解答・解説

正解はaです

胎児超音波検査で出生前に見つけやすい疾患と、見つけにくい疾患を区別できるかを問う問題である。

超音波で「見える」異常の条件

胎児超音波で異常として捉えられるのは、おおむね次のいずれかの変化を伴う疾患である。 ・液体の貯留による拡張・嚢胞(無エコー域)が生じる:水腎症、卵巣嚢腫、消化管閉鎖による口側腸管の拡張など ・臓器の位置や形の明らかな異常がある:横隔膜ヘルニアによる腹部臓器の胸腔内への脱出、臍帯ヘルニアなど ・羊水量の異常が生じる:胎児は羊水を嚥下し、主に小腸で吸収する。上部消化管が閉鎖すると羊水を吸収できず羊水過多になり、逆に尿の産生・排出が障害されると羊水過少になる。

考え方

鎖肛(直腸肛門奇形)は消化管の最も末端の異常である。胎児期には腸管内容が肛門から排出されることはもともとほとんどなく、嚥下した羊水は閉鎖部より口側の小腸で吸収されて胎盤経由で母体に戻る。そのため、閉鎖があっても口側腸管の目立つ拡張や羊水量の異常が起こりにくく、超音波で異常を示す手がかりが乏しい。肛門という小さな構造の有無を胎内で確実に評価することも難しい。したがって選択肢の中で出生前診断が最も困難なのは鎖肛である。 他の4疾患は、液体貯留像や臓器の位置異常といった特徴的な所見を示すため、出生前に発見されることが多い。

選択肢考察

  1. ○a.  鎖肛

    鎖肛は直腸が盲端に終わり、正常な位置に肛門が開いていない先天奇形である。胎児が飲み込んだ羊水は閉鎖部より手前の小腸で吸収されるため、閉鎖があっても腸管の著明な拡張や羊水過多が生じにくい。肛門自体も小さな構造で、胎内での有無の確認は難しい。一部の症例では直腸の拡張や、直腸と尿路の瘻孔による腸管内石灰化などから疑われることもあるが、多くは出生前に診断されず、出生後の診察(肛門の欠如、体温計・カテーテルが挿入できない、生後24時間以上胎便が出ない、会陰部の瘻孔など)で発見される。病型(高位・中間位・低位)の評価には倒立位単純X線撮影(Wangensteen-Rice法)などが用いられる。以上から最も診断が困難なのはこの疾患である。

  2. ×b.  水腎症

    水腎症は腎盂尿管移行部狭窄、膀胱尿管逆流、後部尿道弁などにより尿の流れが妨げられ、腎盂・腎杯が拡張した状態である。拡張した腎盂は尿で満たされて無エコー域として描出されるため、胎児超音波で発見しやすく、出生前に見つかる泌尿器異常として最も頻度が高い。腎盂前後径の計測で重症度を評価し、両側性で下部尿路閉塞を伴う場合には羊水過少も手がかりになる。

  3. ×c.  卵巣嚢腫

    女児胎児では、母体や胎盤由来のホルモンの刺激により卵巣に嚢胞が形成されることがあり、主に妊娠後期に下腹部の嚢胞性病変として超音波で描出される。液体を含む嚢胞は無エコー域として明瞭に映るため出生前に発見可能である。多くは出生後に自然縮小するが、大きいものは茎捻転や出血をきたすことがある。腸管の閉鎖や重複腸管、尿路系の嚢胞などとの鑑別を要する。

  4. ×d.  横隔膜ヘルニア

    先天性横隔膜ヘルニアは横隔膜の欠損部(多くは左後外側のBochdalek孔)から胃・腸管・肝臓などの腹部臓器が胸腔内に脱出する疾患である。超音波では胸腔内の胃泡や腸管像、心臓の対側(多くは右方)への偏位として捉えられ、出生前診断が可能である。肺低形成や肺高血圧により出生直後から重篤な呼吸不全をきたすため、出生前に診断して高次医療施設での分娩・新生児管理を準備することが重要である。肺の大きさの指標(肺頭比など)や肝臓脱出の有無が予後評価に用いられる。

  5. ×e.  十二指腸閉鎖症

    十二指腸閉鎖症では、拡張した胃と、閉鎖部より口側で拡張した十二指腸球部の2つの液体貯留腔が並んで見える「double bubble sign」が特徴的である。羊水を下部小腸で吸収できないため羊水過多を伴うことが多く、これも発見の契機となる。約3割に21トリソミーを合併し、心奇形などの他の形態異常を伴うことも多いため、診断した場合は全身の精査や染色体検査の検討が必要である。

胎児超音波で出生前診断されやすい主な形態異常

・中枢神経:無脳症、水頭症、全前脳胞症、二分脊椎(脊髄髄膜瘤) ・胸部:先天性横隔膜ヘルニア、先天性肺気道奇形(CPAM。以前は先天性嚢胞状腺腫様奇形=CCAMと呼ばれた)、胸水、先天性心疾患 ・腹壁:臍帯ヘルニア、腹壁破裂 ・消化管:食道閉鎖(胃泡の欠如・縮小と羊水過多)、十二指腸閉鎖(double bubble sign)、小腸閉鎖(多数の拡張腸管) ・泌尿器:水腎症、多嚢胞性異形成腎、後部尿道弁(拡張膀胱・羊水過少)、腎無形成(羊水過少) ・骨系統:致死性骨異形成症、軟骨無形成症(四肢短縮)

羊水量と消化管・尿路の関係

羊水は妊娠中期以降、主に胎児尿で産生され、胎児の嚥下と腸管での吸収で除去される。 ・羊水過多:上部消化管閉鎖(食道閉鎖、十二指腸閉鎖など)、嚥下障害をきたす中枢神経・神経筋疾患、母体糖尿病など ・羊水過少:腎無形成(Potter症候群)、両側の高度な尿路閉塞、前期破水、胎盤機能不全など 閉鎖部位が下部(回腸、大腸、肛門)になるほど口側腸管で羊水が吸収されるため、羊水過多になりにくく、出生前診断も難しくなる。

鎖肛(直腸肛門奇形)の要点

出生約5,000人に1人程度とされる。直腸盲端と恥骨直腸筋の位置関係により高位・中間位・低位に分類される。VACTERL連合(椎体、肛門、心、気管食道、腎、四肢の異常)の一部として現れることがあり、他の奇形の検索が必要である。出生直後の診察で肛門の位置・有無を確認することが発見の基本である。

POINT

・鎖肛は消化管の最末端の異常で、口側腸管の拡張や羊水異常をきたしにくく、胎児超音波での出生前診断が困難である。 ・液体貯留(水腎症、卵巣嚢腫)、臓器の位置異常(横隔膜ヘルニア)、double bubble sign(十二指腸閉鎖)は出生前に発見しやすい。 ・上部消化管閉鎖は羊水過多、尿の産生・排出障害は羊水過少をきたす。 ・十二指腸閉鎖では21トリソミーの合併に注意する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。