汗腺は多いのか、指令が強すぎるのか―掌蹠多汗症の本質を見抜く
第114回医師国家試験 A問題 第4問
国試問題にチャレンジ
掌蹠多汗症について誤っているのはどれか。
- a.精神性発汗は亢進する。
- b.汗腺の数が増加している。
- c.真菌や細菌の感染を起こしやすい。
- d.治療にはイオントフォレーシスが用いられる。
- e.Minor法はヨードデンプン反応を利用した検査法である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
掌蹠多汗症は手掌・足底に生活に支障を来すほどの発汗がみられる状態で、汗腺の数や構造は正常であり、エクリン汗腺を支配する交感神経コリン作動性線維の過剰な刺激による機能的異常と考えられています。掌蹠では精神性発汗が主体のため緊張で悪化し、睡眠中は発汗が止まるのが原発性の特徴で、睡眠中も続く多汗や全身性の多汗では甲状腺機能亢進症などの続発性を疑います。湿った皮膚は浸軟してバリア機能が落ち、白癬や点状角質融解症などの感染を起こしやすくなります。発汗部位はヨードデンプン反応を用いるMinor法で可視化し、治療には塩化アルミニウム外用、水道水イオントフォレーシス、ボツリヌス毒素局注、抗コリン薬、代償性発汗に注意すべき胸腔鏡下交感神経遮断術などがあります。「汗腺が多いのではなく指令が強すぎる」という病態を押さえると、検査・治療・合併症を一貫して理解できます。
解答・解説
正解はbです
テーマ
掌蹠多汗症(しょうせきたかんしょう)は、手のひら(手掌)と足の裏(足底)に、日常生活に支障を来すほどの過剰な発汗がみられる状態である。基礎疾患や薬剤などの明らかな原因がないものは原発性局所多汗症に分類され、掌蹠のほか腋窩・頭部・顔面にも起こりうる。
正誤を判断するための要点
・病態:汗を出すのは主にエクリン汗腺である。掌蹠のエクリン汗腺は体温調節よりも精神的緊張に反応して汗を出す性質(精神性発汗)が強い。掌蹠多汗症では、汗腺そのものの数や大きさ・構造に異常はなく、汗腺を支配する交感神経(コリン作動性線維)の活動が過剰になっていることが原因と考えられている。つまり「汗腺が多い」のではなく「汗腺への指令が強すぎる」病気である。 ・合併症:常に湿った皮膚は角層がふやけ(浸軟)、はがれやすくなり、皮膚のバリア機能が低下して感染を起こしやすい。 ・検査:発汗部位や程度はヨードデンプン反応を用いたMinor法で可視化できる。 ・治療:外用薬、水道水イオントフォレーシス、ボツリヌス毒素局注、内服薬、胸腔鏡下交感神経遮断術などがある。 本問は「誤っているもの」を選ぶ形式である。病態の本質(汗腺数は正常で、神経性の分泌亢進である)を理解していれば、汗腺の数の増加を述べた記述が誤りと判断できる。
選択肢考察
- ×a. 精神性発汗は亢進する。
正しい記述である。掌蹠のエクリン汗腺は、暑さに反応する温熱性発汗よりも、緊張・不安・興奮などに反応する精神性発汗が主体である。掌蹠多汗症ではこの精神性発汗が過剰となり、人前での緊張や書字・握手などの場面で症状が強まる。一方、睡眠中は交感神経活動が低下するため発汗が止まるのが特徴であり、睡眠中も続く多汗では続発性多汗症を考える。
- ○b. 汗腺の数が増加している。
誤った記述であり、これが正解である。掌蹠多汗症の患者のエクリン汗腺の数は健常者と変わらず、組織学的にも汗腺の大きさや構造に明らかな異常はみられない。過剰な発汗は、汗腺を支配する交感神経(アセチルコリンを伝達物質とするコリン作動性線維)からの刺激が過剰であることによる機能的な異常と考えられている。ボツリヌス毒素や抗コリン薬が有効であることも、神経から汗腺への伝達が病態の中心であることを裏付けている。
- ×c. 真菌や細菌の感染を起こしやすい。
正しい記述である。汗で常に湿った皮膚では角層が浸軟して剝がれやすくなり、皮膚のバリア機能が低下する。高温多湿の環境は微生物の増殖にも有利であるため、白癬などの真菌感染や、足底の点状角質融解症(細菌感染により足底に小さな陥凹が多発し悪臭を伴う疾患)などの細菌感染を起こしやすい。汗疱(異汗性湿疹)を伴うこともある。
- ×d. 治療にはイオントフォレーシスが用いられる。
正しい記述である。水道水イオントフォレーシスは、手掌や足底を水道水に浸して弱い直流電流を流す治療で、掌蹠多汗症に有効である。作用機序は完全には解明されていないが、電気分解で生じた水素イオン(H+)が汗孔周囲に作用して汗管を一時的に狭窄・閉塞させ、汗の排出を抑えると考えられている。週に数回の治療を続けることで効果が得られ、効果を維持するには継続的な治療が必要である。
- ×e. Minor法はヨードデンプン反応を利用した検査法である。
正しい記述である。Minor法では、皮膚にヨード液を塗って乾かした後にデンプンを付着させる(または散布する)。汗が出ると、汗の水分を介してヨウ素とデンプンが反応し、発汗部位が青紫〜黒色に着色する。発汗の範囲や部位を目で見て確認でき、汗の量が多いほど着色点が大きく密になるため、程度もおおまかに(半定量的に)評価できる。多汗症の範囲の把握や治療効果の判定に用いられる。
原発性局所多汗症の概要
明らかな原因がなく、局所に過剰な発汗が6か月以上続くものをいい、手掌・足底・腋窩・頭部・顔面に生じる。10〜20歳代の若年で発症することが多く、家族内発症もみられる。生命に関わる疾患ではないが、書字や仕事、対人関係に支障を来し、精神的な苦痛が大きいことが多い。
診断の目安
局所の過剰発汗が明らかな原因なく6か月以上続くことに加え、次のうち2項目以上を満たすことが診断の目安とされる。 ・最初に症状が出るのが25歳以下 ・左右対称に発汗がみられる ・睡眠中は発汗が止まっている ・1週間に1回以上多汗のエピソードがある ・家族歴がある ・多汗のために日常生活に支障を来す
続発性多汗症との鑑別
甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、糖尿病、更年期障害、感染症、悪性腫瘍、薬剤の副作用などでも多汗がみられる。全身性の多汗や、睡眠中も続く多汗、中年以降の新たな発症では続発性を疑い、原因疾患を検索する。
主な治療
・外用療法:塩化アルミニウム外用(汗管を物理的に閉塞させる)。近年は抗コリン作用をもつ外用薬も用いられる。 ・水道水イオントフォレーシス:掌蹠多汗症で特に有用。 ・A型ボツリヌス毒素局所注射:神経終末からのアセチルコリン放出を阻害して発汗を抑える。効果は数か月持続し、繰り返し注射が必要。 ・内服療法:抗コリン薬(口渇、便秘、排尿障害などの副作用に注意)。 ・胸腔鏡下交感神経遮断術:手掌多汗症に対する効果は高いが、背部・体幹など他部位の発汗が増える代償性発汗が高頻度に起こり、不可逆的であるため、十分な説明と同意が必要である。
汗腺の種類
・エクリン汗腺:ほぼ全身に分布し、特に掌蹠・前額に多い。体温調節と精神性発汗を担い、交感神経のコリン作動性線維に支配される。 ・アポクリン汗腺:腋窩・外陰部などに限局し、毛包に開口する。腋臭症(わきが)に関与する。
POINT
・掌蹠多汗症では汗腺の数・構造は正常で、交感神経(コリン作動性)からの刺激過剰による機能的異常である。 ・掌蹠は精神性発汗が主体で、緊張で悪化し、睡眠中は止まる。 ・皮膚の浸軟によりバリア機能が低下し、真菌・細菌感染を起こしやすい。 ・Minor法=ヨードデンプン反応で発汗部位を可視化する検査。 ・治療は塩化アルミニウム外用、水道水イオントフォレーシス、ボツリヌス毒素局注、抗コリン薬、交感神経遮断術(代償性発汗に注意)。
