StudyMed医師国家試験

原因は結果より先にある―リスクファクターに欠かせない「時間性」

第109回医師国家試験 E問題 第1問

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第109回 E問題 第1問

要因Aが疾患Bのリスクファクターとなる条件として不可欠なのはどれか。

  1. a.要因Aが疾患Bの発症に先行する。
  2. b.要因Aを疾患Bの多くが有している。
  3. c.要因Aが存在しないと疾患Bは発症しない。
  4. d.要因Aが疾患Bに対して量-反応関係がある。
  5. e.要因Aによって疾患Bが発症することを動物実験で再現できる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は疫学の基本、ある要因が病気のリスクファクターといえるための条件を問う問題だ。ポイントは、因果関係を考えるときの条件のうち、「あれば望ましい条件」と「欠けてはならない条件」を区別できるかどうか。まず、リスクファクターとは何かを確認しよう。
医学生医学生
病気の原因になるもの、という理解でいいでしょうか。
ドクタードクター
少し補足が必要だね。リスクファクターは、その病気が起こる確率を高める要因のことだ。「あれば必ず発症する」「なければ絶対に発症しない」という決定的な原因を指すわけではない。発症の危険を上乗せする要因、と考えるといい。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、高血圧は脳卒中のリスクファクターだけど、高血圧がなくても脳卒中は起こる、と聞いた気がします。
ドクタードクター
まさにその例だ。高血圧の人の多くは脳卒中を起こさないし、高血圧のない人にも脳卒中は起こる。それでも高血圧はリスクファクターなんだ。では、観察研究で要因と病気の間に関連が見つかったら、すぐ因果関係があるといえるかな。
医学生医学生
相関があるだけでは因果関係とはいえない、とCBTの勉強でも何度も出てきました。
ドクタードクター
そう。そこで因果関係を判断する目安として、喫煙と肺癌の関係を検討した1964年の米国公衆衛生局長諮問委員会の5条件、つまり一致性・強固性・特異性・時間性・整合性や、Hillの基準が使われる。ただ、このほとんどは「満たせば因果関係の可能性が高まる」補強材料で、満たさなくても否定はされない。例外が一つだけある。
医学生医学生
要因が病気より先にある、という時間性ですね。病気になってから現れた要因が、その病気を起こすことはありえないので。
ドクタードクター
その通り、それが正解だ。原因は必ず結果より前に存在しなければならない。Hill自身も、時間性以外は必要条件ではないと述べている。ほかの選択肢も見ていこう。患者の多くがその要因を持っている、という条件はどうかな。
医学生医学生
患者さんの大半が持っていたら、かなり怪しい気がしますけど……。
ドクタードクター
関連を疑うきっかけにはなるね。でも、病気には複数の原因がありうるから、その要因による発症が一部にとどまっていても立派なリスクファクターになりうる。逆に、一般の人もほとんど持っているありふれた習慣なら、患者の多くが持っていても関連があるとはいえない。大事なのは、要因を持つ群と持たない群の発症率を比べること、つまり相対危険などで評価することなんだ。
医学生医学生
比較対照がないと判断できない、ということですね。要因がないと発症しない、というのは特異性の話でしょうか。
ドクタードクター
近い考え方だね。これは要因が必要条件だということになる。でも生活習慣病や癌の多くは多要因で起こるから、ひとつの要因がなくても別の要因から発症しうる。喫煙は肺癌の代表的なリスクファクターだけれど、非喫煙者にも肺癌は起こるよね。
医学生医学生
量-反応関係は、たばこの本数が多いほど肺癌が増える、というものですよね。これはかなり強い根拠に思えます。
ドクタードクター
認められれば因果関係を強く示唆する、良い補強条件だ。5条件では強固性の一部として扱われることが多く、Hillの基準では生物学的勾配として独立した項目になっている。ただ、ある閾値を超えたときだけ影響が出る要因や、曝露量を段階的に測れない要因では確認できないこともある。だから不可欠ではないんだ。
医学生医学生
動物実験での再現も、あると説得力は増すけれど、必須ではなさそうです。基礎医学の実習でも、マウスとヒトでは代謝が違うと言われました。
ドクタードクター
そうだね。既知の生物学的知見との整合性を支える材料にはなるけれど、動物とヒトでは感受性が違うし、動物モデルがない病気や倫理的に再現できない要因も多い。不可欠な条件とはいえない。
医学生医学生
時間性だけは論理的に外せない条件で、ほかは因果関係を補強する条件、という整理ですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として研究デザインとのつながりも押さえておこう。横断研究は要因と病気を同時に調べるから、どちらが先かわかりにくく、因果の逆転が起こりうる。たとえば病気になったせいで生活習慣が変わった、ということもある。
医学生医学生
コホート研究なら、要因の有無で分けてから発症を追跡するので、時間性を確認しやすいわけですね。
ドクタードクター
その通り。症例対照研究は発症後に過去の曝露を尋ねるから、思い出しバイアスに注意が必要だ。論文を読むときや、患者さんに「これが原因ですか」と聞かれたときにも、この視点が役に立つよ。

まとめ

リスクファクターとは疾患の発生確率を高める要因であり、それがあれば必ず発症する、なければ発症しないという決定的な原因ではありません。要因と疾患の関連が因果的かどうかは、一致性・強固性・特異性・時間性・整合性の5条件やHillの基準で判断しますが、このうち要因が疾患に先行するという時間性だけは論理的に欠かせない条件です。患者の多くが要因を持つこと、要因がないと発症しないこと、量-反応関係、動物実験での再現性は、いずれも因果関係を補強しうる材料にとどまり必須ではありません。時間性の確認には、曝露を把握してから発症を追跡するコホート研究が優れており、横断研究では因果の逆転に注意が必要です。この考え方は、疫学研究を批判的に読み、患者に根拠を説明するための基礎になります。

解答・解説

正解はaです

問われていること

リスクファクター(危険因子)とは、ある疾患の発生確率を高める要因のことである。「その要因があれば必ず発症する」「その要因がなければ決して発症しない」という決定的な原因を指す言葉ではなく、発症の危険を上乗せする要因と理解する。

考え方

観察研究で要因Aと疾患Bの間に統計学的な関連(相関)が見つかっても、それだけでは因果関係があるとはいえない。関連が因果的なものかどうかを判断する目安として、1964年の米国公衆衛生局長諮問委員会報告(喫煙と肺癌の関係を検討した報告)の5条件や、Hillの基準(Bradford Hillが1965年に提唱した9項目)が知られている。 これらの条件の多くは「満たしていれば因果関係の可能性が高まる」という補強材料であり、満たさなくても因果関係は否定されない。しかし、時間性(原因が結果より先に存在すること)だけは例外である。結果である疾患の後に生じた要因が、その疾患を引き起こすことは論理的にありえないため、時間性はリスクファクターとみなすための必須条件となる。 したがって、各選択肢が因果推論のどの条件に対応するかを整理し、「あれば望ましい条件」なのか「欠けてはならない条件」なのかを区別することが解答の鍵である。

選択肢考察

  1. ○a.  要因Aが疾患Bの発症に先行する。

    関連の時間性(temporality)に相当する。原因は必ず結果より前に存在しなければならず、疾患の発症後に現れた要因はその疾患の原因にはなりえない。因果関係を推定する諸条件の中で、これだけは満たされないと因果関係そのものが成立しないため、リスクファクターとみなすうえで不可欠な条件である。なお、横断研究では要因と疾患を同時点で測定するため時間の前後関係を確かめにくく、コホート研究(要因の有無で集団を分け、その後の発症を追跡する研究)が時間性の確認に優れているのはこのためである。

  2. ×b.  要因Aを疾患Bの多くが有している。

    疾患Bの患者の多くが要因Aを持っていれば関連を疑うきっかけにはなるが、不可欠な条件ではない。疾患Bには複数の原因がありうるため、要因Aによる発症が患者全体の一部にとどまっていても、要因Aは十分にリスクファクターとなりうる。逆に、一般集団でもありふれた要因(例えば極めて多くの人が持つ習慣)であれば、患者の多くがそれを持っていても疾患との関連を意味しない。関連の有無は、要因を持つ群と持たない群の発症率の比較(相対危険など)で評価すべきである。

  3. ×c.  要因Aが存在しないと疾患Bは発症しない。

    要因Aが疾患Bの必要条件であることを意味し、関連の特異性(specificity:原因があれば結果があり、結果があれば原因がある)の考え方に近い。しかし多くの疾患、特に生活習慣病や癌は多要因で発症し、一つの要因がなくても他の要因から発症しうる。例えば喫煙は肺癌の代表的なリスクファクターだが、非喫煙者にも肺癌は発生する。したがって、この条件はリスクファクターの成立に不可欠ではない。

  4. ×d.  要因Aが疾患Bに対して量-反応関係がある。

    要因への曝露量が増えるほど発症率が高まる関係を量-反応関係(dose-response relationship、生物学的勾配)という。米国公衆衛生局長諮問委員会の5条件では関連の強固性(strength)の一部として扱われ、Hillの基準では独立した項目となっている。認められれば因果関係を強く示唆するが、ある閾値を超えたときだけ影響が出る要因や、曝露量を段階的に測定できない要因では量-反応関係が確認できないこともある。そのため、望ましい補強条件ではあっても不可欠な条件ではない。

  5. ×e.  要因Aによって疾患Bが発症することを動物実験で再現できる。

    動物実験で再現されることは、既存の生物学的知識と矛盾しないこと(関連の整合性 coherence、生物学的妥当性)を支持する材料になる。しかし、動物とヒトでは代謝や感受性が異なり、動物で起こる現象がヒトで起こるとは限らないし、その逆もある。また、動物モデルが確立していない疾患や、倫理的・技術的に再現が困難な要因も多い。したがって不可欠な条件ではない。

米国公衆衛生局長諮問委員会の因果関係判定5条件(1964年)

・関連の一致性(consistency):異なる集団・地域・時代・研究方法でも同様の関連が繰り返し観察されるか ・関連の強固性(strength):相対危険などで示される関連の大きさが大きいか、量-反応関係があるか ・関連の特異性(specificity):要因と疾患が1対1に近い対応をするか ・関連の時間性(temporality):要因が疾患に先行しているか ・関連の整合性(coherence):既知の生物学・医学的知見と矛盾しないか

Hillの基準(1965年)

上記に加えて、生物学的勾配(量-反応関係)、生物学的妥当性(plausibility)、実験的証拠(experiment:要因を除去すると発症が減るなど)、類似性(analogy)を含めた9項目からなる。Hill自身、時間性以外はいずれも因果関係の必要条件ではないと述べている。

リスクファクターと因果関係

リスクファクターは発症確率を高める要因であり、必ずしも十分条件・必要条件ではない。例:高血圧は脳卒中のリスクファクターだが、高血圧のない人も脳卒中を起こし、高血圧の人の多くは脳卒中を起こさない。

研究デザインと時間性

横断研究は要因と疾患を同時に調べるため、どちらが先かを判断しにくい(因果の逆転の可能性)。コホート研究は要因曝露を先に把握して発症を追跡するため時間性を確認しやすい。症例対照研究は発症後に過去の曝露を調べるため、思い出しバイアスに注意が必要である。

POINT

・リスクファクターとは疾患の発生確率を高める要因であり、必ず発症させる要因・なければ発症しない要因ではない ・因果関係の判定条件:一致性・強固性・特異性・時間性・整合性 ・このうち時間性(要因が疾患に先行する)だけは不可欠な条件である ・量-反応関係、特異性、動物実験での再現性などは因果関係を補強するが必須ではない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。