りんご病が「貧血の急降下」を招く―遺伝性球状赤血球症の子どもが集団生活で気をつけたいこと
第120回医師国家試験 D問題 第56問
国試問題にチャレンジ
3歳の女児。黄疸を主訴に母親に連れられて来院した。以前から顔色が黄色いことは気にしていたが,受診はしていなかった。3歳児健康診査で受診を指示された。日齢1で黄疸に対し光線療法を4日間受けた。母も幼少期から軽度の黄疸を指摘されており,20歳で脾摘を受けている。体温36.2℃。活気良好。顔色軽度蒼白。皮膚は軽度黄染を認めた。眼球結膜は黄染を認める。腹部は平坦で圧痛を認めない。肝を触知せず,左季肋下に脾を4cm触知する。血液所見:赤血球398万,Hb 10.8g/dL,Ht 40%,網赤血球6.2%,白血球8,300,血小板24万。血液生化学所見:総ビリルビン3.1mg/dL,直接ビリルビン0.4mg/dL,AST 38U/L,ALT 32U/L,LD 302U/L(基準190~365),Fe 20μg/dL,TIBC 438μg/dL(基準290~390),ハプトグロビン5mg/dL以下(基準19~170)。免疫血清学所見:直接Coombs試験陰性。赤血球浸透圧抵抗試験で抵抗は低下していた。末梢血塗抹May-Giemsa染色標本を下に示す。 集団生活開始にあたり,注意すべき感染性疾患はどれか。

- a.手足口病
- b.伝染性紅斑
- c.伝染性単核球症
- d.風疹
- e.溶連菌感染症
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
新生児期からの黄疸、家族歴、間接ビリルビン優位の黄疸・貧血・脾腫、Coombs陰性、浸透圧抵抗の低下、球状赤血球の存在から遺伝性球状赤血球症と診断できます。この疾患では赤血球寿命が短く、骨髄の旺盛な造血で貧血が代償されているため、赤芽球に感染して産生を一時停止させるヒトパルボウイルスB19(伝染性紅斑)にかかると、網赤血球が著減する無形成発作を起こし急激な重症貧血に陥ります。伝染性紅斑は保育園などで流行しやすく、発疹が出る頃には感染力がほぼないため予防が難しく、集団生活を始める溶血性貧血の子どもでは特に注意が必要です。溶連菌の「溶血性」は培地上の性質であり、患者の溶血とは無関係である点も押さえておきましょう。パルボウイルスB19は妊婦の胎児水腫や免疫不全者の慢性赤芽球癆の原因にもなり、「赤芽球を狙うウイルス」として病態から理解しておくと応用が利きます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・3歳女児。以前から顔色が黄色く、3歳児健診で受診を指示された(慢性的に続く黄疸)。 ・日齢1に黄疸が出て光線療法を4日間受けている。生後24時間以内に現れる早発黄疸は、溶血性疾患を強く疑う手がかりである。 ・母も幼少期から軽い黄疸があり、20歳で脾摘を受けている。母から子へ伝わる溶血性疾患、すなわち常染色体顕性(優性)遺伝の遺伝性溶血性貧血が考えられる。 ・身体所見:顔色軽度蒼白(貧血)、皮膚・眼球結膜の黄染(黄疸)、左季肋下に脾を4cm触知(脾腫)。活気は良好で全身状態は落ち着いている。 ・血液検査:Hb 10.8g/dLと軽度の貧血、網赤血球6.2%と増加(骨髄が赤血球を盛んに作って失われた分を補っている)。 ・生化学:総ビリルビン3.1mg/dLのうち直接ビリルビンは0.4mg/dLで、間接(非抱合型)ビリルビン優位。ハプトグロビン(血中に出たヘモグロビンと結合して消費される蛋白)が5mg/dL以下に著減。いずれも溶血を示す。 ・直接Coombs試験陰性:赤血球に結合した抗体がなく、自己免疫性溶血性貧血などの免疫性溶血は否定的。 ・赤血球浸透圧抵抗試験で抵抗が低下:低張液中で赤血球が壊れやすい。 ・末梢血塗抹標本:中央の淡明部(central pallor)を欠き、小さく濃く染まる球状赤血球が多数みられる。
診断
家族歴のある慢性の溶血性貧血(貧血・間接ビリルビン優位の黄疸・脾腫の三徴)、Coombs陰性、浸透圧抵抗低下、球状赤血球の存在から、遺伝性球状赤血球症(hereditary spherocytosis:HS)と診断できる。鉄欠乏性貧血だけでは新生児期からの黄疸や溶血所見は説明できない。
設問の考え方
問われているのは「HSの小児が保育園などで集団生活を始めるにあたり、特に警戒すべき感染症」である。HSでは赤血球の寿命が短く、骨髄が常に赤血球を大量に作り続けることでようやく貧血が軽度に保たれている。そのため、赤血球の産生を一時的に止めてしまう病原体に感染すると、急激で重い貧血に陥る。この性質をもつのがヒトパルボウイルスB19であり、その代表的な小児感染症が伝染性紅斑(りんご病)である。保育園・幼稚園で流行しやすい点も、集団生活開始時の注意点として合致する。
選択肢考察
- ×a. 手足口病
主にコクサッキーウイルスA群やエンテロウイルス71が原因で、口腔内の水疱・潰瘍と手足の水疱性発疹を呈する。まれに無菌性髄膜炎や脳炎を合併する(特にエンテロウイルス71)が、赤血球の産生を止める作用はなく、HSの貧血を急激に悪化させる感染症ではない。
- ○b. 伝染性紅斑
原因のヒトパルボウイルスB19は、赤血球系前駆細胞の表面にあるP抗原(グロボシド)を受容体として侵入し、赤芽球に感染して破壊する。健常者では赤血球寿命が約120日と長いため、産生が1週間ほど止まっても貧血はほとんど目立たない。しかしHSでは赤血球寿命が著しく短く、網赤血球を増やして代償しているため、産生が止まると数日でHbが急落し、網赤血球も著減する。これを無形成発作(aplastic crisis、赤芽球癆様の一過性造血停止)と呼び、輸血を要するほどの重症貧血になりうる。保育園などで流行しやすく、集団生活を始めるHS児が最も注意すべき感染症である。
- ×c. 伝染性単核球症
主にEpstein-Barr(EB)ウイルスの初感染で起こり、発熱・咽頭炎・頸部リンパ節腫脹・肝脾腫・異型リンパ球増加を呈する。脾腫や肝機能障害を起こし、まれに溶血を伴うことはあるが、赤血球産生を止めて無形成発作を起こす代表的な原因ではない。HS児に特有の注意点としては伝染性紅斑の方がはるかに重要である。
- ×d. 風疹
風疹ウイルスによる発疹性疾患で、合併症として血小板減少性紫斑病や脳炎があり、妊娠初期の感染では先天性風疹症候群を起こす。しかし赤芽球に感染して赤血球産生を停止させることはなく、HSの貧血を急激に悪化させる疾患ではない。
- ×e. 溶連菌感染症
A群β溶血性レンサ球菌による咽頭炎などで、続発症として急性糸球体腎炎やリウマチ熱が問題となる。「溶血性」は寒天培地上で菌が示す性質を指す名称であり、患者の赤血球を壊したり造血を止めたりするわけではない。HSの病状を特異的に悪化させる感染症ではない。
遺伝性球状赤血球症(HS)の概要
・日本人の先天性溶血性貧血で最も多い。多くは常染色体顕性(優性)遺伝だが、家族歴のない孤発例や潜性遺伝例もある。 ・原因:赤血球膜を裏打ちする膜骨格蛋白(アンキリン、スペクトリン、バンド3、プロテイン4.2など)の異常。膜が少しずつ失われて表面積が減り、赤血球は球状になる。球状赤血球は変形しにくく、脾臓の狭い血管網を通り抜けられずに捕捉・破壊される(血管外溶血)。 ・症状:貧血、間接ビリルビン優位の黄疸、脾腫。新生児黄疸で発見されることも多い。慢性溶血に伴いビリルビン結石(胆石)を生じやすい。 ・検査:網赤血球増加、ハプトグロビン低下、LD上昇(本例のように正常範囲のこともある)、MCHC上昇、球状赤血球、浸透圧抵抗の低下、直接Coombs試験陰性。EMA(eosin-5'-maleimide)結合能を調べるフローサイトメトリー検査も診断に用いられる。 ・治療:軽症は経過観察。中等症以上や重い貧血・胆石を伴う例では脾摘が有効で、溶血はほぼ消失する(球状赤血球自体は残る)。脾摘後重症感染症(肺炎球菌など莢膜をもつ細菌)の危険があるため、原則として5〜6歳以降まで待ち、術前に肺炎球菌・インフルエンザ菌b型・髄膜炎菌などのワクチン接種を行う。慢性溶血で需要が増す葉酸の補充も行われる。
溶血性貧血の急性増悪(クリーゼ)
・無形成発作(aplastic crisis):ヒトパルボウイルスB19感染による一過性の赤血球産生停止。網赤血球が著減するのが特徴。HSのほか鎌状赤血球症、サラセミア、ピルビン酸キナーゼ欠乏症など、赤血球寿命が短い疾患で起こる。通常1〜2週間で自然回復するが、その間の重症貧血に輸血を要することがある。 ・溶血発作(hemolytic crisis):ウイルス感染などを契機に溶血が一時的に強まり、黄疸と貧血が悪化する。網赤血球は増加する。
ヒトパルボウイルスB19と伝染性紅斑
・小児では両頬の平手打ち様紅斑と、四肢のレース状(網目状)紅斑が特徴。発疹が出る頃にはウイルス排出がほぼ終わっており、発疹出現時点での隔離の意義は乏しい。そのため流行時の感染を完全に防ぐのは難しい。 ・溶血性貧血患者のほか、妊婦(胎児水腫・胎児貧血)や免疫不全者(持続感染による慢性赤芽球癆)でも問題になる。成人では関節炎を起こしやすい。
POINT
・家族歴+新生児期からの黄疸+貧血・脾腫・間接ビリルビン優位の黄疸+Coombs陰性+球状赤血球+浸透圧抵抗低下 → 遺伝性球状赤血球症。 ・ヒトパルボウイルスB19(伝染性紅斑)は赤芽球に感染して赤血球産生を止める。 ・赤血球寿命の短い溶血性貧血患者が感染すると、網赤血球が著減する無形成発作(aplastic crisis)を起こし、急激な重症貧血となる。 ・溶血性貧血の小児が集団生活に入る際は、伝染性紅斑の流行に注意する。 ・パルボウイルスB19は妊婦(胎児水腫)、免疫不全者(慢性赤芽球癆)でも重要。
