StudyMed医師国家試験

片脚だけがむくむ理由―Starlingの法則で見抜く「全身性」と「局所性」の浮腫

第109回医師国家試験 C問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第109回 C問題 第7問

全身の浮腫を最もきたしにくいのはどれか。

  1. a.肝硬変
  2. b.心不全
  3. c.深部静脈血栓症
  4. d.蛋白漏出性胃腸症
  5. e.ネフローゼ症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は浮腫の問題だ。ポイントは、浮腫が「なぜ起こるか」という機序と、「どこに出るか」という分布の2つ。選択肢の疾患がそれぞれ全身に共通する原因で起こるのか、それとも体の一部分だけの問題なのかを考えていこう。まず、浮腫ってそもそも何だったかな。
医学生医学生
血管の外、組織の間に水がたまった状態ですよね。生理学の講義でStarlingの法則を習いました。
ドクタードクター
その通り。毛細血管での水の出入りは、血管内の静水圧と膠質浸透圧のバランスで決まる。静水圧が上がる、膠質浸透圧が下がる、血管透過性が上がる、リンパ流が滞る、のどれかが起これば間質に水がたまるんだ。
医学生医学生
4つの機序のうち、どれが全身性になるかが問題ということですね。
ドクタードクター
そう。血漿アルブミンが減って膠質浸透圧が下がれば、その影響は全身の毛細血管に及ぶ。体全体でNaと水が貯留した場合も同じだ。一方、一本の静脈が詰まっただけなら、静水圧が上がるのはその下流、つまり閉塞部より末梢だけになる。
医学生医学生
それなら肝硬変は、アルブミンが作れなくなるので全身性ですね。消化器内科の実習で、腹水と両下腿のむくみがある患者さんを受け持ちました。
ドクタードクター
いい経験だね。肝硬変では合成能低下による低アルブミン血症に加えて、有効循環血漿量の減少からレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系が活性化して、腎臓でNaと水が貯留する。だから両側性・全身性の浮腫と腹水が出るんだ。
医学生医学生
心不全は静水圧の上昇なので、こちらも局所性かと一瞬思ったんですが……。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。心不全で上がるのは中心静脈圧、つまり全身の静脈が戻ってくる根元の圧だ。しかも心拍出量低下で腎血流が減り、RAA系や交感神経が働いて体液そのものが増える。だから頸静脈怒張や肝腫大とともに両側性の浮腫が出て、立っている人なら下腿、寝ている人なら背部や仙骨部に目立つ。なお左心不全単独では主に肺うっ血で、全身の浮腫は右心不全の要素が加わると顕著になる。
医学生医学生
同じ静水圧上昇でも、根元で上がるか途中で上がるかで分布が変わるんですね。蛋白漏出性胃腸症とネフローゼ症候群は、どちらも蛋白が失われる病気でした。
ドクタードクター
そう。ネフローゼ症候群は尿へ、蛋白漏出性胃腸症は消化管へアルブミンが逃げていく。どちらも低アルブミン血症による膠質浸透圧低下で全身性浮腫になる。ネフローゼでは眼瞼や顔面のように組織の軟らかい部位から目立ちはじめるのが特徴的だ。蛋白漏出性胃腸症は、尿蛋白が乏しいのに低アルブミン血症がある、という状況で疑うのがコツだよ。
医学生医学生
となると、残る深部静脈血栓症が正解ですね。下肢の深部静脈が詰まって、その末梢だけがむくむ局所性浮腫だからです。
ドクタードクター
正解。深部静脈血栓症は多くが片側下肢の腫脹・疼痛・色調変化として現れ、左右差が大きな手がかりになる。左総腸骨静脈は右総腸骨動脈に圧迫されやすいので左側に多い。血栓が下大静脈まで及べば両下肢がむくむこともあるけれど、それでも閉塞部より末梢に限られた局所性浮腫で、全身性浮腫の原因にはならないんだ。
医学生医学生
OSCEの身体診察で下腿を押して圧痕を見ましたが、左右差もしっかり見るべきなんですね。
ドクタードクター
まさにそこが臨床のポイント。片側だけの下肢腫脹なら、まず深部静脈血栓症、蜂窩織炎、リンパ浮腫など局所的な原因を考える。特に深部静脈血栓症は肺血栓塞栓症につながりうるから、術後や長期臥床の患者で片脚が腫れていたら見逃してはいけない。
医学生医学生
全身性浮腫の原因としては、心・肝・腎・蛋白喪失のほかに何を覚えておけばいいですか。
ドクタードクター
甲状腺機能低下症による粘液水腫、Ca拮抗薬やNSAIDs、グルココルチコイドなどの薬剤性も大事だ。粘液水腫や慢性期のリンパ浮腫は押しても圧痕が残りにくい非圧痕性浮腫になる。「機序」「分布」「圧痕の有無」の3つで整理すると、浮腫の鑑別はぐっと楽になるよ。

まとめ

浮腫はStarlingの法則に基づき、毛細血管静水圧の上昇、膠質浸透圧の低下、血管透過性の亢進、リンパ流障害によって生じ、分布から全身性と局所性に分けられます。肝硬変、ネフローゼ症候群、蛋白漏出性胃腸症は低アルブミン血症による膠質浸透圧低下で、心不全は体液貯留と中心静脈圧の上昇で、いずれも両側性・全身性の浮腫をきたします。一方、深部静脈血栓症は閉塞部より末梢の静水圧が上がる局所性浮腫で、多くは片側下肢に左右差のある腫脹として現れ、全身性浮腫の原因にはなりません。片側の下肢腫脹をみたら深部静脈血栓症や蜂窩織炎などの局所的原因をまず考え、肺血栓塞栓症のリスクも念頭に置くことが重要です。浮腫を機序と分布で整理する考え方は、日常診療で頻繁に出会う「むくみ」の鑑別の基本となります。

解答・解説

正解はcです

浮腫とは、血管外の組織間隙(間質)に水分が過剰に貯留した状態である。毛細血管での水分の出入りはStarlingの法則で説明され、毛細血管内圧(静水圧)の上昇、血漿膠質浸透圧の低下、毛細血管透過性の亢進、リンパ流の障害のいずれかが起こると、間質に水分がたまる。 浮腫は分布によって全身性と局所性に分けられる。 ・全身性浮腫:体全体の水・Na(ナトリウム)の貯留や、血漿アルブミンの低下など、全身に共通する原因で生じる。心疾患、肝疾患、腎疾患、低栄養・蛋白喪失、内分泌疾患(甲状腺機能低下症など)、薬剤などが代表的である。 ・局所性浮腫:原因が特定の部位に限られるもので、静脈の閉塞(深部静脈血栓症など)、リンパ管の閉塞(リンパ浮腫)、局所の炎症やアレルギーなどによる。 本問では、各疾患の浮腫の機序が「全身に及ぶもの」か「閉塞部位より末梢に限局するもの」かを考える。肝硬変・蛋白漏出性胃腸症・ネフローゼ症候群は低アルブミン血症による膠質浸透圧低下、心不全は体液貯留と静脈圧上昇により全身性浮腫をきたす。一方、深部静脈血栓症は特定の静脈が血栓で閉塞して、その末梢側の静水圧が上がることによる局所性浮腫であり、全身性浮腫を最もきたしにくい。

選択肢考察

  1. ×a.  肝硬変

    全身性浮腫をきたす。肝硬変では肝臓でのアルブミン合成が低下して低アルブミン血症となり、血漿膠質浸透圧が下がることで水分が間質へ移動する。さらに、門脈圧亢進や末梢血管の拡張による有効循環血漿量の減少を契機にレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系が活性化し(二次性アルドステロン症)、腎臓でNaと水が貯留する。これらの結果、下腿を中心とした両側性・全身性の浮腫と腹水がみられる。

  2. ×b.  心不全

    全身性浮腫をきたす。心拍出量が低下すると腎血流が減少してレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系や交感神経系が活性化し、体内にNaと水が貯留する。加えて、右心系への静脈還流がうっ滞して中心静脈圧が上昇し、全身の毛細血管静水圧が高まる。このため頸静脈怒張、肝腫大とともに両側性の浮腫が出現し、重力の影響で体の低い部位(歩行可能なら下腿、臥床中なら背部や仙骨部)に目立つ。なお左心不全では主に肺うっ血・肺水腫が生じ、全身の浮腫は右心不全の要素が加わると顕著になる。

  3. ○c.  深部静脈血栓症

    最もきたしにくい。深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)は、主に下肢や骨盤内の深部静脈に血栓ができて静脈が閉塞する疾患である。閉塞部より末梢側で静脈圧が上昇し、その領域に限って浮腫が生じる。多くは片側下肢の腫脹・疼痛・色調変化として現れ、左右差が診断の手がかりとなる(左総腸骨静脈は右総腸骨動脈に圧迫されやすく、左側に多い)。下大静脈に血栓が及べば両下肢に浮腫が出ることもあるが、あくまで閉塞部位より末梢に限られた局所性浮腫であり、全身性浮腫の原因とはならない。

  4. ×d.  蛋白漏出性胃腸症

    全身性浮腫をきたす。蛋白漏出性胃腸症は、腸リンパ管拡張症、炎症性腸疾患、Ménétrier病などを背景に、血漿蛋白(特にアルブミン)が消化管内腔へ異常に漏れ出る病態である。肝臓での合成が追いつかず低アルブミン血症となり、膠質浸透圧の低下によって両側性・全身性の浮腫をきたす。尿蛋白が乏しいのに低アルブミン血症がある場合に疑い、α1-アンチトリプシンクリアランス試験や蛋白漏出シンチグラフィで診断する。

  5. ×e.  ネフローゼ症候群

    全身性浮腫をきたす。ネフローゼ症候群は糸球体から大量の蛋白が尿中に失われる病態で、成人の診断基準では尿蛋白3.5 g/日以上の持続と血清アルブミン3.0 g/dL以下が必須条件であり、浮腫は参考所見とされる。低アルブミン血症による膠質浸透圧低下に加え、腎臓でのNa貯留も浮腫の形成に関与する。眼瞼や顔面など組織の軟らかい部位から目立ちはじめ、重症例では下腿から全身に広がり、胸水・腹水を伴うこともある。

Starlingの法則と浮腫の4つの機序

1. 毛細血管静水圧の上昇:心不全、腎不全による体液過剰、静脈閉塞(深部静脈血栓症、上大静脈症候群など) 2. 血漿膠質浸透圧の低下(低アルブミン血症):ネフローゼ症候群、肝硬変、蛋白漏出性胃腸症、低栄養 3. 毛細血管透過性の亢進:炎症、熱傷、アレルギー、血管性浮腫、敗血症 4. リンパ流の障害:悪性腫瘍のリンパ節転移や郭清後、フィラリア症などによるリンパ浮腫

全身性浮腫と局所性浮腫の代表的原因

・全身性:心性(うっ血性心不全)、肝性(肝硬変)、腎性(ネフローゼ症候群、急性糸球体腎炎、腎不全)、栄養性・蛋白喪失(低栄養、蛋白漏出性胃腸症)、内分泌性(甲状腺機能低下症による粘液水腫など)、薬剤性(Ca拮抗薬、NSAIDs、グルココルチコイドなど)、特発性浮腫 ・局所性:静脈性(深部静脈血栓症、静脈瘤、上大静脈症候群)、リンパ性(リンパ浮腫)、炎症性(蜂窩織炎など)、血管性浮腫

浮腫の診察のポイント

全身性浮腫は重力の影響を受けやすく、立位・座位の多い人では下腿、臥床中の人では背部や仙骨部に目立つ。指で圧迫すると圧痕が残るもの(圧痕性浮腫)が多い。甲状腺機能低下症やリンパ浮腫の慢性期では圧痕が残りにくい非圧痕性浮腫となる。片側の下肢だけが腫れている場合は、まず深部静脈血栓症、蜂窩織炎、リンパ浮腫などの局所的原因を考える。

POINT

・全身性浮腫の代表的原因は心・肝・腎・低栄養(蛋白喪失)・内分泌・薬剤 ・肝硬変、ネフローゼ症候群、蛋白漏出性胃腸症は低アルブミン血症による膠質浸透圧低下で全身性浮腫をきたす ・心不全は体液貯留と静脈圧上昇で両側性・全身性浮腫をきたす ・深部静脈血栓症は閉塞部より末梢に限局する局所性浮腫で、多くは片側下肢に生じる

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。