StudyMed医師国家試験

成人の常識は通用しない―元気な新生児の「正常所見」を見抜く

第109回医師国家試験 B問題 第43問

国試問題にチャレンジ

第109回 B問題 第43問

生後3日の新生児。体動は活発で泣き声は強く哺乳も良好である。外表に奇形を認めない。  この児に合致しないのはどれか。

  1. a.胸式呼吸
  2. b.Moro反射陽性
  3. c.安静時心拍数120/分
  4. d.大泉門は対角3×3 cm開大
  5. e.肝を右鎖骨中線上肋骨弓下に1 cm触知

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、元気に過ごしている生後3日の赤ちゃんについて、正常ではない所見を選ぶ問題だ。全身状態が良好で奇形もないから、病気探しではなく「健康な新生児の当たり前」を知っているかが問われている。ポイントは、成人の基準で判断しないことだよ。
医学生医学生
成人なら心拍120/分は頻脈ですし、肝臓を触れたら肝腫大を疑いますよね。全部異常に見えてしまいます。
ドクタードクター
そこが落とし穴なんだ。新生児では、成人なら異常とされる所見が正常ということがとても多い。ひとつずつ確認していこう。まず心拍数から。新生児の基準はどれくらいかな。
医学生医学生
小児科の講義で、新生児は120〜160/分くらいと習った気がします。
ドクタードクター
その通り。新生児は1回拍出量が小さいから、心拍数を多くして心拍出量を保っている。安静時120/分は正常範囲で、眠っているときは100/分前後まで下がることもある。年齢とともに心拍数は下がっていくんだ。
医学生医学生
では肝臓を1 cm触れるのも正常ですか。
ドクタードクター
そう。新生児・乳児は体に比べて肝臓が相対的に大きく、腹壁も薄くて軟らかいから、右鎖骨中線上で肋骨弓下に1〜2 cm程度触れるのは正常だ。脾臓の先端を触れることもある。それより大きい、硬いといった場合には、心不全や感染症、溶血性疾患、代謝疾患などを考えることになる。
医学生医学生
大泉門が3 cmも開いているのは、大きすぎて水頭症などが心配になります。
ドクタードクター
気持ちはわかるけど、出生時の大泉門はおおむね2〜3 cmで、個人差も大きい。対角線で測れば辺の間の距離より長くなるから、3×3 cmは十分に正常範囲だ。大切なのは大きさより、膨隆していないか、陥凹していないかの観察だよ。膨隆なら頭蓋内圧亢進、陥凹なら脱水を疑う。そして1歳6か月ごろまでに閉鎖する。
医学生医学生
Moro反射は原始反射なので、新生児では出て当然ですね。OSCEの練習でも、頭を支えて少し落とすと両腕を広げて抱きつくように閉じる、と教わりました。
ドクタードクター
よく覚えているね。原始反射は脳幹・脊髄レベルの反射で、大脳の成熟とともに抑制される。Moro反射は生後3〜4か月ごろに消えるのが正常だ。逆に、新生児期に出ない・弱いなら中枢神経障害、左右差があれば腕神経叢麻痺や鎖骨骨折を疑う。消えるべき時期を過ぎても残る場合も要注意だね。
医学生医学生
そうすると残るのは胸式呼吸です。新生児は腹式呼吸だから、これが合致しない所見ですね。
ドクタードクター
正解。理由まで説明できるかな。
医学生医学生
えっと……肺が小さいからでしょうか。
ドクタードクター
肺の問題というより胸郭の構造の問題なんだ。新生児の肋骨は軟らかく、成人のように斜めではなく水平に近い向きで並んでいて、肋間筋も未発達。だから胸郭を持ち上げて広げる換気が難しく、主に横隔膜の上下運動に頼って呼吸する。成長とともに胸郭の形が変わり、2歳前後で胸腹式呼吸、学童期にかけて胸式の割合が増えていく。
医学生医学生
構造から考えると納得です。呼吸数も成人よりずっと多いんですよね。
ドクタードクター
新生児の呼吸数は40〜60/分程度で、リズムも不規則になりやすい。数秒の呼吸休止を繰り返す周期性呼吸は正常範囲だけど、20秒以上の呼吸停止や、徐脈・チアノーゼを伴うものは無呼吸発作として異常だ。この区別は臨床でとても大事だよ。
医学生医学生
新生児室の実習では、黄疸や体重減少を気にしているお母さんが多かったです。
ドクタードクター
生後3日ごろはまさにその時期だね。生後2〜3日に出る生理的黄疸や、出生体重の5〜10%程度の生理的体重減少は正常な経過で、1〜2週で回復する。新生児中毒性紅斑や蒙古斑も病的ではない。正常を知っているからこそ、それを外れる異常に気づけるし、ご家族に安心を伝えられるんだ。

まとめ

新生児の身体所見は成人と大きく異なり、心拍数120〜160/分、肝臓を肋骨弓下に1〜2 cm触知、大泉門2〜3 cm程度の開大、Moro反射陽性はいずれも正常です。一方、新生児は肋骨が水平に近く肋間筋も未発達なため横隔膜に頼る腹式呼吸であり、胸式呼吸は合致しません。呼吸様式は2歳前後で胸腹式となり、学童期にかけて胸式の割合が増えます。原始反射の消失時期、大泉門の閉鎖時期、呼吸数40〜60/分や周期性呼吸と無呼吸発作の違い、生理的黄疸・体重減少もあわせて押さえておきましょう。正常値を発達段階に応じて理解することは、異常の早期発見と家族への適切な説明の土台になります。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

生後3日の新生児で、体動が活発、啼泣が力強く、哺乳も良好であり、外表奇形もない。全身状態は良好で、何らかの疾患を疑わせる情報はない。したがって本問は「健康な新生児の正常な身体所見」を知っているかを問う問題であり、選択肢のうち正常新生児にみられない所見を選べばよい。

考え方

新生児の身体所見は成人とは大きく異なり、成人なら異常とされる所見が新生児では正常ということが多い。代表的なものとして次の点を押さえる。 ・呼吸:腹式呼吸で、呼吸数は40〜60/分程度。 ・心拍数:120〜160/分程度(睡眠時はやや低く、啼泣時は高くなる)。 ・大泉門:開いていて平坦。1歳6か月ごろまでに閉鎖する。 ・原始反射:Moro反射、把握反射、吸啜反射などが陽性であることが正常。 ・腹部:肝臓を右肋骨弓下に1〜2 cm程度触れることが多く、脾臓の先端を触れることもある。 成人の感覚で判断せず、新生児の発達段階に応じた正常値で評価することが大切である。

選択肢考察

  1. ○a.  胸式呼吸

    新生児は腹式呼吸をしているので、この児には合致しない。新生児の肋骨は軟らかく、成人のように斜めに傾かず水平に近い向きで並んでいるうえ、肋間筋も未発達である。そのため胸郭を広げて換気することが難しく、主に横隔膜の上下運動に頼って呼吸する(腹式呼吸)。成長して胸郭の形が変わり肋間筋が発達するにつれ、2歳前後から胸腹式呼吸となり、学童期にかけて胸式呼吸の割合が増える。

  2. ×b.  Moro反射陽性

    Moro反射は、仰臥位の児の頭部を支えて急に少し落とすなど体位を急に変えたときに、両上肢を伸ばして開き(伸展・外転)、続いて抱きつくように閉じる原始反射である。原始反射は脳幹・脊髄レベルに中枢をもち、大脳の成熟とともに抑制されて消えていく。Moro反射は生後3〜4か月ごろに消失するのが正常で、新生児では陽性であることが正常所見である。新生児期に欠如・減弱していれば中枢神経障害を、左右差があれば分娩麻痺(腕神経叢麻痺)や鎖骨骨折を疑う。また消失すべき時期を過ぎても残る場合も中枢神経障害を疑う。

  3. ×c.  安静時心拍数120/分

    新生児の心拍数の基準範囲はおおむね120〜160/分であり、安静時120/分は正常範囲に入る。新生児は1回拍出量が小さく、心拍数を多くすることで心拍出量を保っているため、成人(60〜100/分)より心拍数が多い。睡眠時には100/分前後まで低下することもある。心拍数は年齢とともに減っていく。

  4. ×d.  大泉門は対角3×3 cm開大

    大泉門は、左右の前頭骨と頭頂骨に囲まれた菱形の骨の隙間である。出生時の大きさはおおむね2〜3 cm程度(個人差が大きく1〜4 cm程度まで幅がある)で、生後数か月でやや大きくなることもあり、その後縮小して1歳6か月ごろまでに閉鎖する。大泉門の大きさは本来、菱形の向かい合う辺の間の距離(辺の中点を結ぶ長さ)で測ることが多く、対角線の長さはそれより大きくなる。いずれにせよ3×3 cmは新生児として正常範囲である。なお大泉門が膨隆していれば頭蓋内圧亢進を、陥凹していれば脱水を疑う。

  5. ×e.  肝を右鎖骨中線上肋骨弓下に1 cm触知

    新生児・乳児では体の大きさに比べて肝臓が相対的に大きく、また腹壁が薄く軟らかいため、右鎖骨中線上で肋骨弓下に1〜2 cm程度触れるのは正常である(2〜3 cm程度まで正常とされることもある)。脾臓も先端を左肋骨弓下に触れることがある。これより大きく触知する場合や硬さに異常がある場合は、心不全、感染症、溶血性疾患、代謝疾患などを考える。

新生児のバイタルサインの目安

・呼吸数:40〜60/分(60/分を超える持続は多呼吸)。腹式呼吸で、不規則になりやすく、数秒の呼吸休止(周期性呼吸)がみられることもある。20秒以上の呼吸停止や、徐脈・チアノーゼを伴う呼吸停止は無呼吸発作として異常である。 ・心拍数:120〜160/分程度 ・体温:36.5〜37.5℃程度(腋窩温)

年齢による呼吸様式の変化

新生児・乳児:腹式呼吸 → 2歳前後:胸腹式呼吸 → 学童期以降:胸式呼吸の割合が増える(女性は胸式、男性は腹式の要素が強いとされる)。

大泉門と小泉門

・大泉門:前頭骨と頭頂骨の間。1歳6か月ごろまでに閉鎖。早期閉鎖は頭蓋骨縫合早期癒合症や小頭症、閉鎖遅延はくる病、甲状腺機能低下症、水頭症、骨形成不全症などを疑う。 ・小泉門:頭頂骨と後頭骨の間。生後まもなく(遅くとも生後1〜2か月ごろまでに)閉鎖する。

主な原始反射と消失時期の目安

・Moro反射:生後3〜4か月ごろ ・手掌把握反射:生後3〜4か月ごろ ・吸啜反射・探索反射:生後4〜6か月ごろ ・非対称性緊張性頸反射(ATNR):生後4〜6か月ごろ ・足底把握反射:生後9〜10か月ごろ ・Babinski反射:1〜2歳ごろ

新生児に多い生理的所見

生理的体重減少(生後3〜5日で出生体重の5〜10%程度減少し、1〜2週で回復)、生理的黄疸(生後2〜3日で出現し、1〜2週で消退)、新生児中毒性紅斑、稗粒腫、蒙古斑など。いずれも病的なものではなく、経過観察でよい。

POINT

・新生児は腹式呼吸。胸式呼吸は新生児に合致しない。 ・新生児の呼吸数は40〜60/分、心拍数は120〜160/分程度。 ・Moro反射は新生児で陽性が正常で、生後3〜4か月ごろに消失する。 ・大泉門は出生時2〜3 cm程度で、1歳6か月ごろまでに閉鎖する。 ・新生児で肝を肋骨弓下に1〜2 cm触れるのは正常である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。