保健の司令塔はどこを見ている?―WHOとほかの国連機関を見分けるコツ
第109回医師国家試験 B問題 第4問
国試問題にチャレンジ
世界保健機関〈WHO〉について正しいのはどれか。
- a.識字率を向上させる。
- b.難民の帰還支援を行う。
- c.食糧を安定的に供給する。
- d.医薬品の安全性を向上させる。
- e.労働者の作業環境を改善させる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
世界保健機関〈WHO〉は1948年に設立された国連の専門機関(本部ジュネーブ)で、感染症対策、非感染性疾患対策、ICDなどの国際基準づくり、医薬品の安全性・品質の確保など、保健医療全般を担当しています。医薬品については国際的な副作用モニタリング制度の運営、国際一般名(INN)の決定、必須医薬品モデルリストの作成などを通じて安全性の向上に取り組んでいます。一方、識字率の向上はUNESCO、難民の帰還支援はUNHCR、食糧の安定供給はFAOとWFP、作業環境の改善はILOと、それぞれ専門の機関が担っています。国際機関と担当分野を対応づけて覚えておくと、公衆衛生の問題を解くだけでなく、新興感染症の流行時などに国際的な保健の動きを理解する土台にもなります。
解答・解説
正解はdです
国際連合(国連)に関係する主な国際機関について、それぞれがどの分野を担当しているかを問う問題である。 世界保健機関(WHO)は、1948年に設立された国連の専門機関で、本部はスイスのジュネーブにある。目的は「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」である。主な活動は、感染症対策、非感染性疾患(生活習慣病)対策、国際的な保健の基準づくり、医薬品や食品の安全性・品質の確保など、健康に関わる分野全般にわたる。 選択肢の「識字率」「難民」「食糧」「労働環境」は、それぞれ専門の国際機関が担当している。どの機関が何を担当しているかを対応づけられれば、WHO の役割に当たるのは「医薬品の安全性の向上」だとわかる。
選択肢考察
- ×a. 識字率を向上させる。
識字率の向上や基礎教育の普及に取り組むのは、UNESCO(ユネスコ、国連教育科学文化機関。本部パリ)である。UNESCO は教育・科学・文化を通じた国際協力で平和に貢献することを目的とし、世界遺産の登録でも知られる。子どもの教育支援には国連児童基金(UNICEF)も関わるが、WHO の担当分野ではない。
- ×b. 難民の帰還支援を行う。
難民の保護、本国への自主的な帰還、受け入れ国での定住・第三国への再定住の支援を行うのは、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所。本部ジュネーブ)である。1990〜2000年には、日本人の緒方貞子氏が第8代の国連難民高等弁務官を務めた。難民キャンプでの保健医療に WHO が協力することはあるが、帰還支援そのものは UNHCR の役割である。
- ×c. 食糧を安定的に供給する。
食糧の安定供給を担当するのは、FAO(国連食糧農業機関)とWFP(国連世界食糧計画)である(いずれも本部はローマ)。FAO は農業生産の向上、飢餓の撲滅、栄養改善に取り組む。WFP は紛争や災害の際の食料援助などを行う。なお、食品の国際規格(コーデックス規格)は FAO と WHO が共同で設置した委員会が作成しているが、食糧の供給そのものは WHO の役割ではない。
- ○d. 医薬品の安全性を向上させる。
WHO の役割である。医薬品に関しては、主に次のような活動を行っている。 ・医薬品の品質・安全性・有効性に関する国際基準や指針をつくる。 ・国際的な副作用モニタリング制度(WHO 国際医薬品モニタリング制度)を運営し、各国から報告された副作用情報を集めて分析する。 ・医薬品の国際一般名(INN)を定める。 ・必須医薬品モデルリストを作成する。 ・低中所得国向けの医薬品・ワクチンの品質を事前に審査する(事前認証)。 ・偽造医薬品や品質の劣る医薬品への対策を行う。 これらの活動によって、世界全体で医薬品の安全性を高めている。
- ×e. 労働者の作業環境を改善させる。
労働条件や作業環境の改善、社会保障の推進を担当するのは、ILO(国際労働機関。本部ジュネーブ)である。ILO は1919年に設立され、のちに国連の専門機関となった。政府・使用者・労働者の三者の代表で構成されるのが特徴で、労働時間や労働安全衛生などに関する国際労働条約や勧告を採択している。労働者の健康について WHO と協力することはあるが、作業環境の改善は主に ILO の役割である。
WHO の概要
・設立は1948年4月7日で、この日が「世界保健デー」になっている。本部はジュネーブ。 ・WHO 憲章の前文は健康を「身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態であり、単に病気や虚弱でないことではない」と定義している。 ・最高意思決定機関は、加盟国の代表が集まる世界保健総会である。世界を6つの地域に分けて地域事務局を置いており、日本は西太平洋地域事務局(マニラ)に属する。
WHO の主な活動
・感染症対策:天然痘の根絶(1980年に宣言)、ポリオ根絶計画、HIV・結核・マラリア対策、新興感染症への対応。 ・国際保健規則(IHR 2005)の運用:「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言する。 ・非感染性疾患への対策:たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(FCTC)、生活習慣病対策。 ・国際基準づくり:国際疾病分類(ICD。現在は ICD-11 が2022年に発効)、国際生活機能分類(ICF)。 ・医薬品・ワクチン・食品の安全性や品質に関する基準の策定、必須医薬品モデルリストの作成。 ・プライマリヘルスケアの推進(1978年のアルマ・アタ宣言)と、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進。
主な国際機関と担当分野
・UNESCO:教育・科学・文化、識字率の向上。 ・UNHCR:難民の保護と帰還支援。 ・UNICEF:子どもの健康・栄養・教育の支援。 ・FAO:農業と食糧、飢餓の撲滅。 ・WFP:食料援助。 ・ILO:労働条件と労働安全衛生。 ・UNFPA(国連人口基金):人口問題とリプロダクティブ・ヘルス。 ・UNAIDS(国連合同エイズ計画):HIV/AIDS 対策の調整。
POINT
・WHO は保健医療全般を担当する国連の専門機関(1948年設立、本部ジュネーブ)。医薬品の安全性向上、感染症対策、ICD の策定などを行う。 ・識字率の向上は UNESCO、難民支援は UNHCR、食糧は FAO・WFP、労働環境は ILO の担当である。
