StudyMed医師国家試験

緩和ケアは「最期の医療」ではない―家族・心・診断時から寄り添う全人的ケア

第109回医師国家試験 B問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第109回 B問題 第37問

がんの緩和医療について正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.遺族へのグリーフケアを含む。
  2. b.医療用麻薬は在宅医療では用いない。
  3. c.精神的苦痛は全人的苦痛の一つである。
  4. d.緩和ケアはがん終末期に限定された医療である。
  5. e.WHO方式では睡眠時の鎮痛を最終目標としている。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、がんの緩和医療の基本的な考え方を問う問題だ。ポイントは3つ。緩和ケアは「誰を」対象にするのか、「いつ」から始めるのか、そして「どんな苦痛」を扱うのか。この3点を押さえれば、選択肢はすっきり整理できるよ。まず、緩和ケアと聞いてどんなイメージを持っているかな。
医学生医学生
正直、ホスピスで終末期の患者さんに行うケアというイメージが強いです。
ドクタードクター
多くの人がそう思っているけれど、実はそこが一番の誤解なんだ。WHOの定義では、緩和ケアは生命を脅かす病気に直面する患者とその家族に対して、痛みなどの身体的問題だけでなく、心理社会的・スピリチュアルな問題も早期に見出して対処し、QOLを改善するアプローチとされている。キーワードは「家族」と「早期」だね。
医学生医学生
家族も対象なんですね。ということは、患者さんが亡くなった後の遺族のケアも含まれるんでしょうか。
ドクタードクター
その通り。患者と家族を一つの単位として捉えるから、死別後に遺された家族の悲嘆に寄り添うグリーフケアも緩和ケアの大切な一部だ。一方的に励ますのではなく、話に耳を傾けて、悲しみを自然な反応として受け止める姿勢が基本になる。悲嘆が長引いて日常生活が送れない、うつ病が疑われるといった場合には専門的な支援につなぐことも必要だよ。
医学生医学生
医療面接の講義で、傾聴と共感が大事だと習ったのを思い出しました。遺族に対しても同じなんですね。
ドクタードクター
まさにそう。次に「どんな苦痛」か。近代ホスピスの創始者シシリー・ソンダースが提唱した全人的苦痛、トータルペインという概念は知っているかな。
医学生医学生
身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、それと……スピリチュアルな苦痛の4つでしたっけ。
ドクタードクター
完璧だ。だから精神的苦痛が全人的苦痛の一つだという記述は正しい。精神的苦痛には不安、いらだち、恐れ、抑うつなどが含まれる。社会的苦痛は仕事や経済、家庭内の役割の喪失。スピリチュアルな苦痛は「なぜ自分が」「生きる意味は何か」といった問いだ。大事なのは、これらが互いに影響し合っていること。不安や抑うつが強いと痛みも強く感じやすくなるんだ。
医学生医学生
痛みを薬だけで抑えようとしても、不安が残っていたらうまくいかないこともあるということですね。
ドクタードクター
そういうこと。では「いつ」の問題。緩和ケアはがん終末期に限定された医療だ、という記述はどうだろう。
医学生医学生
さっきのお話だと、早期から行うものなので誤りですね。
ドクタードクター
正解。化学療法や放射線療法などの治療と並行して、病気の早期から提供される。日本でも「がんと診断された時からの緩和ケア」が推進されているし、対象もがんに限らず、心不全や慢性呼吸器疾患、神経難病なども含まれるよ。次に、医療用麻薬は在宅医療では用いない、という記述は?
医学生医学生
在宅医療の実習で訪問診療に同行したとき、フェンタニルの貼付剤を使っている患者さんがいました。なので誤りだと思います。
ドクタードクター
いい経験をしているね。モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなどは在宅でも広く使われている。内服・貼付・坐剤に加えて、携帯型ポンプによる持続皮下注射も可能だ。医師、薬局、訪問看護が連携して管理することで、住み慣れた自宅で痛みを抑えながら過ごせるんだ。
医学生医学生
最後のWHO方式の目標は、睡眠時に痛くないことがゴールではないんですか。
ドクタードクター
そこはよくひっかかるところだね。WHO方式がん疼痛治療では段階的な目標を立てる。第1目標が痛みに妨げられずに夜眠れること、第2目標が日中の安静時に痛みがないこと、第3目標が体を動かしても痛みがないことだ。睡眠時の鎮痛は最初に目指す目標であって、最終目標ではない。
医学生医学生
なるほど、最終的には動いても痛くなく、普段どおりの生活を送れることを目指すんですね。
ドクタードクター
そう。発展知識も整理しておこう。WHO方式の鎮痛薬使用の原則には、経口投与を基本とする、時間を決めて定期的に投与する、患者ごとに量を調整する、細かい点に配慮する、といったものがある。かつて原則に含まれていた三段階除痛ラダーは、2018年の改訂で原則からは外れ、痛みの強さに応じて最初から適切な薬剤を選ぶ考え方になっているよ。
医学生医学生
CBTの勉強ではラダーを丸暗記していたので、知れてよかったです。オピオイドの副作用で気をつけることはありますか。
ドクタードクター
便秘はほぼ必発で耐性もできにくいから、下剤の予防投与が基本。悪心・嘔吐は開始初期に多く、眠気も出ることがある。適切な量を痛みに対して使えば依存や呼吸抑制が問題になることは少ない。臨床では「麻薬は怖い」とためらう患者さんや家族も多いから、正しい情報を丁寧に伝えることも医師の大切な役割だね。
医学生医学生
薬の知識だけでなく、不安を和らげる説明そのものが緩和ケアなんですね。
ドクタードクター
その気づきが一番大切だよ。緩和ケアは特別な誰かが最後に行う医療ではなく、すべての医師が診断時から意識すべき基本的な診療姿勢なんだ。

まとめ

緩和ケアは、生命を脅かす病気に直面する患者とその家族を対象に、診断早期から治療と並行して苦痛を予防・軽減し、QOLの改善を目指すアプローチであり、がん終末期やがんそのものに限定されません。患者の死後も遺族の悲嘆に寄り添うグリーフケアを含み、苦痛は身体的・精神的・社会的・スピリチュアルの4側面が影響し合う全人的苦痛(トータルペイン)として捉えます。医療用麻薬は在宅医療でも内服・貼付剤・持続皮下注射などの形で広く用いられ、WHO方式がん疼痛治療では夜間睡眠の確保、安静時の除痛、体動時の除痛と段階的に目標を高めていきます。オピオイドの便秘対策や患者・家族の不安への説明も含め、緩和ケアの考え方はあらゆる診療科の医師に求められる基本姿勢として重要です。

解答・解説

正解はa, cです

緩和ケア(緩和医療)の定義・対象・実践の場と、がん疼痛治療の目標設定を問う一般問題である。

緩和ケアの定義(WHO、2002年)

緩和ケアとは、生命を脅かす病気に伴う問題に直面している患者とその家族に対し、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアル(霊的)な問題を早期に見出して的確に評価し、対処することで、苦痛を予防し和らげ、QOL(生活の質)を改善するアプローチである。 この定義から、次の3点を押さえると選択肢を判定できる。 ・対象は患者本人だけでなく家族も含み、死別後の遺族へのケアまで及ぶ。 ・病気の早期から、がん治療と並行して提供されるものであり、終末期に限らない。対象もがんに限られない。 ・苦痛は身体面だけでなく、精神・社会・霊的な面を含めた全人的なもの(トータルペイン)として捉える。 さらに、在宅でもオピオイド(医療用麻薬)を用いた疼痛緩和が行われていること、WHO方式がん疼痛治療では睡眠の確保は第一段階の目標にすぎず、体動時も含めて痛みのない生活を目指すことを知っていれば、残りの選択肢も誤りと判断できる。

選択肢考察

  1. ○a.  遺族へのグリーフケアを含む。

    正しい。緩和ケアは患者と家族を一つの単位としてとらえ、患者が亡くなったあとも、遺された家族の悲嘆(グリーフ)に寄り添う支援を行う。グリーフケアとは、大切な人を亡くした人がその喪失を受け止め、悲しみから少しずつ立ち直っていけるように支えることである。一方的に励ますのではなく、話に耳を傾け、悲嘆を自然な反応として受け止める姿勢が基本となる。複雑性悲嘆(遷延性の悲嘆)やうつ病がうかがわれる場合には専門的な支援につなぐ。

  2. ×b.  医療用麻薬は在宅医療では用いない。

    誤り。モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル(貼付剤を含む)などの医療用麻薬は、在宅医療でも広く用いられている。内服薬・貼付剤・坐剤に加え、携帯型ポンプを使った持続皮下注射なども在宅で行える。医師が麻薬施用者免許のもとで処方し、薬局・訪問看護と連携して管理することで、患者は住み慣れた自宅で痛みを抑えながら過ごすことができる。

  3. ○c.  精神的苦痛は全人的苦痛の一つである。

    正しい。全人的苦痛(トータルペイン)は、近代ホスピスを創設したシシリー・ソンダースが提唱した概念で、患者の苦痛を身体的苦痛・精神的苦痛・社会的苦痛・霊的(スピリチュアル)苦痛の4つの側面が互いに影響し合った一つの苦痛として捉える。精神的苦痛には、不安、いらだち、抑うつ、恐れなどが含まれる。たとえば不安や抑うつがあると痛みを強く感じやすくなるため、身体症状だけでなく各側面に同時に目を向ける必要がある。

  4. ×d.  緩和ケアはがん終末期に限定された医療である。

    誤り。WHOの定義では、緩和ケアは病気の早期から、化学療法や放射線療法など病気そのものを治す・抑える治療と並行して行うものとされる。対象疾患もがんに限らず、心不全、慢性呼吸器疾患、神経難病、腎不全、エイズなど、生命を脅かすあらゆる疾患が含まれる。日本でも、がんと診断されたときからの緩和ケアの提供が推進されている。

  5. ×e.  WHO方式では睡眠時の鎮痛を最終目標としている。

    誤り。WHO方式がん疼痛治療では、段階的な目標を立てる。第1目標は痛みに妨げられずに夜間眠れること、第2目標は日中の安静時に痛みがないこと、第3目標は体を動かしたり立ち上がったりしても痛みがないことである。睡眠時の鎮痛は最初に達成すべき目標であり、最終的には体動時を含めて痛みがなく、できるだけ普段どおりの日常生活を送れる状態を目指す。

全人的苦痛(トータルペイン)の4側面

・身体的苦痛:痛み、呼吸困難、倦怠感、悪心・嘔吐、食欲不振など ・精神的苦痛:不安、いらだち、孤独感、恐れ、抑うつ、怒りなど ・社会的苦痛:仕事や経済的な問題、家庭内の役割の喪失、人間関係、相続など ・霊的(スピリチュアル)苦痛:生きる意味や価値への問い、死への恐怖、罪の意識、死生観にかかわる悩みなど

WHO方式がん疼痛治療の基本

鎮痛薬の使い方の原則として、経口投与を基本とする(by mouth)、時間を決めて定期的に投与する(by the clock)、患者ごとに効果と副作用をみながら量を調整する(for the individual)、細かい点に配慮する(with attention to detail)が挙げられる。かつては非オピオイド鎮痛薬→弱オピオイド→強オピオイドと痛みの強さに応じて段階的に上げる「三段階除痛ラダー」も原則の一つとされていたが、2018年のWHOガイドライン改訂で原則からは外れ、痛みの強さに応じて最初から適切な薬剤を選ぶ考え方になっている(ラダーは教育的な目安として扱われる)。

オピオイドの主な副作用

便秘(耐性ができにくく、下剤の予防投与が基本)、悪心・嘔吐(開始初期に多い)、眠気。適切な量を痛みに対して用いれば、依存や呼吸抑制が問題となることは少ない。

在宅緩和ケア

在宅療養支援診療所、訪問看護ステーション、薬局などが連携して提供する。麻薬の処方・管理も在宅で可能である。

POINT

・緩和ケアは患者と家族を対象とし、遺族へのグリーフケアも含む。 ・緩和ケアは診断時から治療と並行して行うもので、がん終末期にもがんにも限定されない。 ・全人的苦痛=身体的・精神的・社会的・霊的苦痛。 ・医療用麻薬は在宅でも使用できる。 ・WHO方式の除痛目標:夜間睡眠の確保 → 安静時の除痛 → 体動時の除痛。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。