緩和ケアは「最期の医療」ではない―家族・心・診断時から寄り添う全人的ケア
第109回医師国家試験 B問題 第37問
国試問題にチャレンジ
がんの緩和医療について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.遺族へのグリーフケアを含む。
- b.医療用麻薬は在宅医療では用いない。
- c.精神的苦痛は全人的苦痛の一つである。
- d.緩和ケアはがん終末期に限定された医療である。
- e.WHO方式では睡眠時の鎮痛を最終目標としている。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
緩和ケアは、生命を脅かす病気に直面する患者とその家族を対象に、診断早期から治療と並行して苦痛を予防・軽減し、QOLの改善を目指すアプローチであり、がん終末期やがんそのものに限定されません。患者の死後も遺族の悲嘆に寄り添うグリーフケアを含み、苦痛は身体的・精神的・社会的・スピリチュアルの4側面が影響し合う全人的苦痛(トータルペイン)として捉えます。医療用麻薬は在宅医療でも内服・貼付剤・持続皮下注射などの形で広く用いられ、WHO方式がん疼痛治療では夜間睡眠の確保、安静時の除痛、体動時の除痛と段階的に目標を高めていきます。オピオイドの便秘対策や患者・家族の不安への説明も含め、緩和ケアの考え方はあらゆる診療科の医師に求められる基本姿勢として重要です。
解答・解説
正解はa, cです
緩和ケア(緩和医療)の定義・対象・実践の場と、がん疼痛治療の目標設定を問う一般問題である。
緩和ケアの定義(WHO、2002年)
緩和ケアとは、生命を脅かす病気に伴う問題に直面している患者とその家族に対し、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアル(霊的)な問題を早期に見出して的確に評価し、対処することで、苦痛を予防し和らげ、QOL(生活の質)を改善するアプローチである。 この定義から、次の3点を押さえると選択肢を判定できる。 ・対象は患者本人だけでなく家族も含み、死別後の遺族へのケアまで及ぶ。 ・病気の早期から、がん治療と並行して提供されるものであり、終末期に限らない。対象もがんに限られない。 ・苦痛は身体面だけでなく、精神・社会・霊的な面を含めた全人的なもの(トータルペイン)として捉える。 さらに、在宅でもオピオイド(医療用麻薬)を用いた疼痛緩和が行われていること、WHO方式がん疼痛治療では睡眠の確保は第一段階の目標にすぎず、体動時も含めて痛みのない生活を目指すことを知っていれば、残りの選択肢も誤りと判断できる。
選択肢考察
- ○a. 遺族へのグリーフケアを含む。
正しい。緩和ケアは患者と家族を一つの単位としてとらえ、患者が亡くなったあとも、遺された家族の悲嘆(グリーフ)に寄り添う支援を行う。グリーフケアとは、大切な人を亡くした人がその喪失を受け止め、悲しみから少しずつ立ち直っていけるように支えることである。一方的に励ますのではなく、話に耳を傾け、悲嘆を自然な反応として受け止める姿勢が基本となる。複雑性悲嘆(遷延性の悲嘆)やうつ病がうかがわれる場合には専門的な支援につなぐ。
- ×b. 医療用麻薬は在宅医療では用いない。
誤り。モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル(貼付剤を含む)などの医療用麻薬は、在宅医療でも広く用いられている。内服薬・貼付剤・坐剤に加え、携帯型ポンプを使った持続皮下注射なども在宅で行える。医師が麻薬施用者免許のもとで処方し、薬局・訪問看護と連携して管理することで、患者は住み慣れた自宅で痛みを抑えながら過ごすことができる。
- ○c. 精神的苦痛は全人的苦痛の一つである。
正しい。全人的苦痛(トータルペイン)は、近代ホスピスを創設したシシリー・ソンダースが提唱した概念で、患者の苦痛を身体的苦痛・精神的苦痛・社会的苦痛・霊的(スピリチュアル)苦痛の4つの側面が互いに影響し合った一つの苦痛として捉える。精神的苦痛には、不安、いらだち、抑うつ、恐れなどが含まれる。たとえば不安や抑うつがあると痛みを強く感じやすくなるため、身体症状だけでなく各側面に同時に目を向ける必要がある。
- ×d. 緩和ケアはがん終末期に限定された医療である。
誤り。WHOの定義では、緩和ケアは病気の早期から、化学療法や放射線療法など病気そのものを治す・抑える治療と並行して行うものとされる。対象疾患もがんに限らず、心不全、慢性呼吸器疾患、神経難病、腎不全、エイズなど、生命を脅かすあらゆる疾患が含まれる。日本でも、がんと診断されたときからの緩和ケアの提供が推進されている。
- ×e. WHO方式では睡眠時の鎮痛を最終目標としている。
誤り。WHO方式がん疼痛治療では、段階的な目標を立てる。第1目標は痛みに妨げられずに夜間眠れること、第2目標は日中の安静時に痛みがないこと、第3目標は体を動かしたり立ち上がったりしても痛みがないことである。睡眠時の鎮痛は最初に達成すべき目標であり、最終的には体動時を含めて痛みがなく、できるだけ普段どおりの日常生活を送れる状態を目指す。
全人的苦痛(トータルペイン)の4側面
・身体的苦痛:痛み、呼吸困難、倦怠感、悪心・嘔吐、食欲不振など ・精神的苦痛:不安、いらだち、孤独感、恐れ、抑うつ、怒りなど ・社会的苦痛:仕事や経済的な問題、家庭内の役割の喪失、人間関係、相続など ・霊的(スピリチュアル)苦痛:生きる意味や価値への問い、死への恐怖、罪の意識、死生観にかかわる悩みなど
WHO方式がん疼痛治療の基本
鎮痛薬の使い方の原則として、経口投与を基本とする(by mouth)、時間を決めて定期的に投与する(by the clock)、患者ごとに効果と副作用をみながら量を調整する(for the individual)、細かい点に配慮する(with attention to detail)が挙げられる。かつては非オピオイド鎮痛薬→弱オピオイド→強オピオイドと痛みの強さに応じて段階的に上げる「三段階除痛ラダー」も原則の一つとされていたが、2018年のWHOガイドライン改訂で原則からは外れ、痛みの強さに応じて最初から適切な薬剤を選ぶ考え方になっている(ラダーは教育的な目安として扱われる)。
オピオイドの主な副作用
便秘(耐性ができにくく、下剤の予防投与が基本)、悪心・嘔吐(開始初期に多い)、眠気。適切な量を痛みに対して用いれば、依存や呼吸抑制が問題となることは少ない。
在宅緩和ケア
在宅療養支援診療所、訪問看護ステーション、薬局などが連携して提供する。麻薬の処方・管理も在宅で可能である。
POINT
・緩和ケアは患者と家族を対象とし、遺族へのグリーフケアも含む。 ・緩和ケアは診断時から治療と並行して行うもので、がん終末期にもがんにも限定されない。 ・全人的苦痛=身体的・精神的・社会的・霊的苦痛。 ・医療用麻薬は在宅でも使用できる。 ・WHO方式の除痛目標:夜間睡眠の確保 → 安静時の除痛 → 体動時の除痛。
