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腱索があるのはどの弁?―線維骨格から読み解く心臓弁の解剖

第109回医師国家試験 B問題 第32問

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第109回 B問題 第32問

心臓について正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.僧帽弁は半月弁である。
  2. b.三尖弁には腱索が付着する。
  3. c.僧帽弁前尖は左室流出路を形成する。
  4. d.僧帽弁のすべての腱索は1本の乳頭筋に付着している。
  5. e.肺動脈弁と大動脈弁とは線維性組織を隔てて隣接している。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は心臓の弁の解剖を問う基本問題だ。着眼点は2つ。弁を「房室弁」と「半月弁」に正しく分けられるか、そして弁同士や流出路との位置関係をイメージできるか、だよ。
医学生医学生
解剖実習で心臓を開いたとき、白いひもが弁についていたのを覚えています。あれが腱索ですよね。
ドクタードクター
そう、それが腱索。弁尖と乳頭筋をつなぐ線維性のひもだ。まず分類から整理しよう。心房と心室の間にあるのが房室弁で、右が三尖弁、左が僧帽弁。心室と大血管の間にあるのが半月弁で、肺動脈弁と大動脈弁だ。
医学生医学生
ということは、僧帽弁を半月弁とする記述は誤りですね。
ドクタードクター
その通り。僧帽弁は前尖と後尖の2枚からなる房室弁だ。司教の冠(mitre)に形が似ているのが名前の由来だよ。半月弁は3枚のポケット状の弁尖でできている。
医学生医学生
そもそも、なぜ房室弁にだけ腱索が必要なんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。心室が収縮すると強い圧がかかって、房室弁は心房側へめくれ返ろうとする。そこで乳頭筋も一緒に収縮して腱索を張り、弁尖を引き留めるんだ。一方、半月弁は逆流しようとする血液がポケットに溜まることで弁尖同士が密着して閉じるから、腱索を必要としない。
医学生医学生
だから三尖弁に腱索が付着するという記述は正しい、と。
ドクタードクター
正解の一つだ。三尖弁は前尖・後尖・中隔尖の3枚で、それぞれに腱索が付き、右室の乳頭筋や中隔につながっている。次は僧帽弁の乳頭筋だ。すべての腱索が1本の乳頭筋に付く、という記述はどうかな。
医学生医学生
左室には乳頭筋が2つあったはずです。前外側と後内側でしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。2つの乳頭筋それぞれから出た腱索が、前尖と後尖の両方に分かれて付く。左右から両弁尖を引き留めることで閉鎖が保たれるんだ。だからこの記述は誤り。臨床的には、後内側乳頭筋は単一の冠動脈から血流を受けることが多く、下壁梗塞で乳頭筋断裂から急性僧帽弁逆流を起こしやすいことも押さえておこう。
医学生医学生
循環器内科の実習で、心筋梗塞後に急に新しい収縮期雑音が出たら要注意と教わりました。
ドクタードクター
まさにそれだね。では僧帽弁前尖が左室流出路を形成する、という記述。
医学生医学生
左室の中で僧帽弁と大動脈弁が隣り合っている図を見た気がしますが、自信はありません。
ドクタードクター
正しい記述だよ。僧帽弁前尖は大動脈弁のすぐ後下方にあって、両者は線維性に連続している。だから左室から大動脈へ向かう通り道の後壁を前尖がつくるんだ。この位置関係は病気の理解に直結する。大動脈弁閉鎖不全症では逆流ジェットが前尖に当たって、心エコーで前尖の細かな振動、つまりflutteringが見え、Austin Flint雑音の原因にもなる。
医学生医学生
閉塞性肥大型心筋症のSAMも、前尖が流出路にあるから起こるんですね。
ドクタードクター
その通り。狭い流出路を速い血流が通るとき、前尖が中隔側へ引き寄せられて流出路狭窄と僧帽弁逆流を生じる。最後に、肺動脈弁と大動脈弁が線維性組織を隔てて隣接する、という記述だ。
医学生医学生
両方とも半月弁で近い位置にあるので、線維骨格でつながっていると思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。大動脈弁・僧帽弁・三尖弁の弁輪は心臓の線維骨格で互いに結ばれているけれど、肺動脈弁は右室の筋性の漏斗部、つまり動脈円錐の上に持ち上げられた位置にあって、大動脈弁より前上方にある。そのため他の弁と線維性に連続しておらず、この記述は誤りとされるんだ。右室では三尖弁と肺動脈弁の間にも筋性の室上稜が入るから、左室の大動脈-僧帽弁連続とは対照的だよ。
医学生医学生
左室は流入と流出の弁が線維でつながっていて、右室は筋肉で隔てられている、という違いですね。
ドクタードクター
いい整理だ。発展として、線維骨格には心房と心室を電気的に絶縁する役割もあって、正常では房室結節からヒス束への経路だけが両者をつなぐ伝導路になる。弁の付着部と電気的絶縁を兼ねていると知っておくと、WPW症候群の副伝導路の理解にもつながるよ。

まとめ

心臓の弁は、房室弁(三尖弁・僧帽弁)と半月弁(肺動脈弁・大動脈弁)に分けられ、心室収縮時に反転しやすい房室弁にのみ腱索と乳頭筋が備わっています。僧帽弁は前尖・後尖の二尖弁で、前外側・後内側の2つの乳頭筋から両弁尖に腱索が付きます。僧帽弁前尖は大動脈弁と線維性に連続して左室流出路の後壁を形成し、大動脈弁閉鎖不全症での前尖のflutteringや閉塞性肥大型心筋症のSAMに関わります。一方、肺動脈弁は右室の筋性漏斗部の上にあり、他の弁とは線維性に連続しません。弁の構造と位置関係を立体的に理解しておくことは、心エコー所見や弁膜症、心筋梗塞の合併症を読み解く基盤になります。

解答・解説

正解はb, cです

心臓の4つの弁の形態と、弁を支える構造(腱索・乳頭筋・線維骨格)の解剖を問う基本問題である。 心臓の弁は大きく2種類に分けられる。心房と心室の間にある房室弁(右側の三尖弁、左側の僧帽弁)と、心室と大血管の間にある半月弁(肺動脈弁、大動脈弁)である。房室弁は心室収縮時に強い圧を受けて心房側へめくれ返りそうになるため、弁尖の縁に腱索(けんさく:弁尖と乳頭筋をつなぐ線維性のひも)が付き、心室壁から突出した乳頭筋が収縮して弁尖を引き留める。一方、半月弁は3枚のポケット状の弁尖からなり、逆流しようとする血液がポケットを満たすことで弁尖同士が密着して閉じるため、腱索や乳頭筋を必要としない。 もう一つの鍵は左室の中の位置関係である。僧帽弁前尖は大動脈弁のすぐ後下方に位置し、両者は線維性に連続している(大動脈-僧帽弁線維性連続)。そのため左室から大動脈へ向かう血液の通り道(左室流出路)の後壁を僧帽弁前尖が形づくる。これに対し、右室側の肺動脈弁は筋性の漏斗部(右室流出路、動脈円錐)の上に持ち上げられた位置にあり、他の弁と線維性組織で直接つながってはいない。 これらの原則を押さえれば、弁の種類・腱索の有無・乳頭筋の数・弁同士の位置関係を問う各選択肢を判定できる。

選択肢考察

  1. ×a.  僧帽弁は半月弁である。

    誤り。僧帽弁は左房と左室の間にある房室弁で、前尖と後尖の2枚からなる二尖弁である(形が司教の冠〔mitre〕に似ることから名付けられた)。半月弁とは3枚の半月状の弁尖をもつ大動脈弁と肺動脈弁を指し、心室と大血管の境界に位置する。

  2. ○b.  三尖弁には腱索が付着する。

    正しい。三尖弁は右房と右室の間の房室弁であり、前尖・後尖・中隔尖の3枚の弁尖の縁に腱索が付着する。腱索は右室の乳頭筋(前乳頭筋・後乳頭筋・中隔乳頭筋)や中隔壁につながり、右室収縮時に弁尖が右房側へ反転(逸脱)するのを防いでいる。腱索が付くのは房室弁(三尖弁・僧帽弁)であり、半月弁には付かない。

  3. ○c.  僧帽弁前尖は左室流出路を形成する。

    正しい。僧帽弁前尖は大動脈弁(左冠尖・無冠尖)の直下で線維性に連続しており、心室中隔とともに左室流出路の壁(後壁側)を構成している。この位置関係は臨床的にも重要である。大動脈弁閉鎖不全症では拡張期に大動脈から左室へ逆流する血流が前尖に当たり、心エコーで前尖の細かな振動(fluttering)がみられ、聴診ではAustin Flint雑音の原因になる。また閉塞性肥大型心筋症では、狭くなった流出路を速い血流が通る際に前尖が中隔側へ引き寄せられる収縮期前方運動(SAM:systolic anterior motion)が起こり、流出路狭窄と僧帽弁逆流を生じる。

  4. ×d.  僧帽弁のすべての腱索は1本の乳頭筋に付着している。

    誤り。左室には前外側乳頭筋と後内側乳頭筋の2つの乳頭筋があり、それぞれから出た腱索が前尖と後尖の両方に分かれて付着する。こうして2つの乳頭筋が両弁尖を左右から引き留めることで、弁の閉鎖が保たれる。なお後内側乳頭筋は多くの場合右冠動脈(または回旋枝)の単一の血流支配を受けるため、下壁梗塞に伴う乳頭筋断裂・急性僧帽弁逆流が起こりやすい。

  5. ×e.  肺動脈弁と大動脈弁とは線維性組織を隔てて隣接している。

    誤り。肺動脈弁と大動脈弁は近接して位置するが、両者の間は線維性組織で区切られてはいない。大動脈弁・僧帽弁・三尖弁の弁輪は心臓の線維骨格(線維輪と線維三角)で互いに結ばれているのに対し、肺動脈弁は右室の筋性の漏斗部(動脈円錐)の上に乗る形で、大動脈弁より前上方の高い位置にある。そのため肺動脈弁は他の弁と線維性に連続しない。

心臓の弁のまとめ

・三尖弁:右房-右室間の房室弁。前尖・後尖・中隔尖の3尖。腱索と乳頭筋をもつ。 ・僧帽弁:左房-左室間の房室弁。前尖・後尖の2尖。腱索が前外側・後内側の2つの乳頭筋につながる。 ・肺動脈弁:右室-肺動脈間の半月弁。3尖。腱索・乳頭筋なし。筋性漏斗部の上にある。 ・大動脈弁:左室-大動脈間の半月弁。右冠尖・左冠尖・無冠尖の3尖。腱索・乳頭筋なし。弁尖の上方のバルサルバ洞から左右冠動脈が起始する。

心臓の線維骨格

心房と心室の境界には、4つの弁輪を中心とした結合組織の骨組み(線維骨格)がある。弁の付着部となるだけでなく、心房と心室を電気的に絶縁する役割があり、正常では房室結節-ヒス束のみが両者をつなぐ伝導路となる。大動脈弁と僧帽弁前尖の間の線維性連続(大動脈-僧帽弁連続)は左室の特徴で、右室では三尖弁と肺動脈弁の間に筋性の室上稜が介在し、両弁は離れている。

房室弁が閉じるしくみ

心室が収縮すると心室内圧が上がり房室弁が閉じるが、同時に乳頭筋も収縮して腱索を張り、弁尖が心房側へ翻るのを防ぐ。腱索断裂や乳頭筋断裂・機能不全が起こると弁尖が逸脱し、房室弁逆流が生じる。

POINT

・房室弁(三尖弁・僧帽弁)には腱索と乳頭筋がある。半月弁(肺動脈弁・大動脈弁)にはない。 ・僧帽弁は二尖弁で、左室の2つの乳頭筋(前外側・後内側)から両弁尖に腱索が付く。 ・僧帽弁前尖は大動脈弁と線維性に連続し、左室流出路を形成する(AR時のfluttering、HOCMのSAMに関係)。 ・肺動脈弁は筋性の漏斗部上にあり、大動脈弁とは線維性組織で隔てられていない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。