StudyMed医師国家試験

4時間で治るもの、治らないもの―血液透析の「得意分野」は小さな分子にあり

第109回医師国家試験 A問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第109回 A問題 第19問

血液透析で速やかに改善されるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.アシデミア〈酸血症〉
  2. b.高カリウム血症
  3. c.透析アミロイドーシス
  4. d.二次性副甲状腺機能亢進症
  5. e.貧血

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は血液透析で何がすぐ良くなり、何がすぐには良くならないのかを問う問題だ。考えるときの軸は2つ。透析がどんな原理で物質を動かしているのかということと、それぞれの異常が「血液中の濃度の問題」なのか「長年かけてできた体の変化」なのかということだ。まず、透析の原理から確認しよう。
医学生医学生
半透膜をはさんで血液と透析液を流して、濃度差で物質を移動させる仕組みですよね。腎臓内科の講義では「拡散」と「限外濾過」と習いました。
ドクタードクター
その通り。拡散は濃いほうから薄いほうへ溶質が移動する現象で、分子が小さいほど速く動く。限外濾過は膜の両側の圧力差で水を抜く仕組みで、体液過剰の是正を担う。1回の透析はだいたい4時間くらいだから、その間に「速やかに」補正できるのは、拡散でどんどん動ける小分子の濃度異常ということになる。
医学生医学生
小分子というと、尿素窒素やクレアチニン、それにカリウムなどの電解質でしょうか。
ドクタードクター
そうだね。水素イオンや重炭酸イオンも小分子だ。では高カリウム血症から考えよう。透析液のカリウム濃度は通常2.0 mEq/L程度と、血清よりかなり低く設定されている。すると何が起こる?
医学生医学生
濃度勾配に従って、カリウムが血液から透析液側へ出ていくので、血清カリウムが下がります。
ドクタードクター
正解。しかも透析を始めてから速やかに下がる。高カリウム血症は致死的不整脈の原因になるから、薬物療法で制御できない場合は緊急透析の適応になる。では、アシデミアはどうだろう。
医学生医学生
腎不全では酸を捨てられなくなるので代謝性アシドーシスになる……というのはわかるんですが、透析で酸を抜くだけで、そんなにすぐ良くなるんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だ。実は透析は「抜く」だけでなく「補う」こともしている。透析液にはアルカリ化剤として重炭酸イオンが血中より高い濃度、おおむね25〜35 mEq/L程度で含まれている。だから重炭酸イオンは拡散で血液側に入り、同時に酸性の代謝産物は除かれる。どちらも小分子なので、1回の透析の間にpHはしっかり補正されるんだ。
医学生医学生
濃度勾配の向きを透析液の組成で決められるから、入れることも出すこともできるんですね。だから高度の代謝性アシドーシスも緊急透析の適応になるのか。
ドクタードクター
その理解でばっちりだ。ここからは、すぐには良くならないほうを見ていこう。透析アミロイドーシスは何が原因だったかな。
医学生医学生
β2-ミクログロブリンがたまってアミロイドとして沈着する病気です。CBTの勉強で手根管症候群と結びつけて覚えました。でもβ2-ミクログロブリンも透析で抜けるなら、良くなるのでは。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだね。β2-ミクログロブリンは分子量約11,800の中分子で、拡散では抜けにくい。高性能膜や血液透析濾過を使えば一部は除去できるけれど、それはあくまで血中の話。すでに骨や関節、腱に沈着したアミロイドは透析で取り除けない。手根管症候群やばね指、破壊性脊椎関節症などが起きたら、手根管開放術などの外科的処置や吸着カラムの併用、長期的な除去効率の向上で対応するしかないんだ。
医学生医学生
血液中の濃度を下げることと、組織にできてしまった病変を治すことは別問題なんですね。
ドクタードクター
まさにそれがこの問題の核心だ。二次性副甲状腺機能亢進症も同じ考え方で整理できる。腎不全では活性型ビタミンDの産生が落ちて低カルシウム血症になり、リンの排泄も落ちて高リン血症になり、FGF23も上がる。こうした刺激が長く続くと副甲状腺はどうなる?
医学生医学生
過形成になります。病理学の講義で、びまん性から結節性に進むと自律的にPTHを出すようになると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。透析でカルシウムやリンはある程度補正されても、腺が大きくなったという構造的な変化はすぐには戻らない。だからリン吸着薬、活性型ビタミンD製剤、シナカルセトのようなカルシウム受容体作動薬を使い、内科治療に抵抗すれば副甲状腺摘出術を考える。最後は貧血だ。
医学生医学生
腎性貧血はエリスロポエチンが足りないのが主な原因なので、透析で何かを抜いても、足りないホルモンは増えませんね。
ドクタードクター
その通り。尿毒症物質が除かれると赤血球寿命や造血はある程度改善するけれど、効果は緩やかで、エリスロポエチン不足そのものは補えない。治療の中心は赤血球造血刺激因子製剤と鉄の補充で、それでも改善には数週間以上かかる。
医学生医学生
整理すると、すぐ良くなるのは小分子の濃度異常であるアシデミアと高カリウム血症で、アミロイドーシス、副甲状腺機能亢進症、貧血は慢性の組織やホルモンの変化だから時間がかかる、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。臨床での注意点も付け加えておこう。リンは小分子だけれど、細胞内からの移動が遅いので、1回の透析で除去できる量には限界がある。だから透析患者さんでは食事制限とリン吸着薬が欠かせないんだ。
医学生医学生
臨床実習の透析室で、患者さんが食事のリンやカリウムの管理にすごく気をつかっていたのを思い出しました。
ドクタードクター
それはとても大事な視点だよ。緊急透析の適応も、高カリウム血症、高度の代謝性アシドーシス、利尿薬に反応しない体液過剰、尿毒症症状、透析で除去できる薬物中毒とまとめて覚えておこう。どれも透析の原理で説明がつくはずだ。そして長期透析患者さんの死因で最も多いのは心血管合併症だということも忘れないでほしい。

まとめ

血液透析は拡散による溶質除去と限外濾過による除水を原理とし、小分子ほど速やかに移動するため、カリウムなどの電解質や水素イオン・重炭酸イオンの異常は1回の透析で補正されます。カリウム濃度の低い透析液により高カリウム血症が改善し、重炭酸イオンを含む透析液によりアシデミアも是正されるため、いずれも緊急透析の代表的適応となっています。一方、β2-ミクログロブリン沈着による透析アミロイドーシス、副甲状腺の過形成を伴う二次性副甲状腺機能亢進症、エリスロポエチン不足による腎性貧血は慢性の組織・内分泌の変化であり、外科的処置や薬物療法を併用しても改善には時間を要します。「血中の小分子の濃度を是正する」という透析の得意分野を理解しておくと、緊急透析の適応判断や長期透析患者の合併症管理を筋道立てて考えられるようになります。

解答・解説

正解はa, bです

血液透析の原理

血液透析(hemodialysis:HD)は、半透膜(ダイアライザーの中空糸膜)を隔てて患者の血液と透析液を接触させ、物質を移動させる治療である。主な原理は次の2つである。 ・拡散:濃度の高い側から低い側へ溶質が移動する現象。分子量の小さい物質ほど速く移動するため、尿素窒素(BUN)、クレアチニン、カリウム(K)などの電解質、水素イオン(H+)や重炭酸イオン(HCO3−)といった小分子は効率よく補正される。 ・限外濾過:膜の両側の圧力差によって水分を除去する現象。体液過剰(溢水)を是正する。

設問の考え方

「速やかに改善される」ものとは、1回の透析(通常4時間程度)のあいだに血中濃度が直接補正される異常、すなわち小分子の濃度異常である。アシデミアと高カリウム血症はこれに該当し、緊急透析の代表的な適応にもなっている。 一方、透析アミロイドーシス、二次性副甲状腺機能亢進症、腎性貧血は、腎不全が長く続いた結果として組織の変化やホルモン産生の異常が生じた慢性合併症である。原因物質の一部が透析で除去されたとしても、すでに生じた病態は時間をかけてしか改善せず、薬物療法や外科的治療を併用する必要がある。この「血中の小分子濃度の是正」か「慢性的な組織・内分泌の変化」かという観点で選択肢を分類すると解答できる。

選択肢考察

  1. ○a.  アシデミア〈酸血症〉

    腎不全では酸(H+)の排泄と HCO3− の再生が障害され、代謝性アシドーシスとなって血液の pH が低下する(アシデミア)。透析液にはアルカリ化剤として重炭酸イオンが血中より高い濃度(おおむね 25〜35 mEq/L 程度)で含まれており、拡散によって HCO3− が血液側へ移動し、同時に酸性の代謝産物も除去される。いずれも小分子であるため、1回の透析の間に速やかに是正される。

  2. ○b.  高カリウム血症

    腎不全では K の排泄が低下して高カリウム血症をきたし、致死的不整脈の原因となる。透析液の K 濃度は通常 2.0 mEq/L 程度と血清より低く設定されているため、血液と透析液の濃度勾配に従って K が拡散で透析液側へ除去される。K は小分子であり、透析開始後速やかに血清濃度が低下する。薬物療法で制御できない高カリウム血症は緊急透析の適応である。

  3. ×c.  透析アミロイドーシス

    透析アミロイドーシスは、長期透析患者で中分子量蛋白質(分子量約 11,800)であるβ2-ミクログロブリン(β2-MG)が血中に蓄積し、これがアミロイド線維となって骨・関節・腱などに沈着する慢性合併症である。手根管症候群、ばね指、破壊性脊椎関節症、骨嚢胞などを呈する。β2-MG は高性能膜や血液透析濾過(HDF)で一部除去できるが、すでに組織に沈着したアミロイドは透析で取り除けず、速やかな改善は期待できない。治療は外科的処置(手根管開放術など)や、β2-MG 吸着カラムの併用、長期的な除去効率の向上である。

  4. ×d.  二次性副甲状腺機能亢進症

    腎不全では、腎での活性型ビタミン D 産生低下による低カルシウム血症、リン(P)排泄低下による高リン血症、FGF23 の上昇などが重なり、副甲状腺が持続的に刺激されて副甲状腺ホルモン(PTH)分泌が亢進する。長期間の刺激で副甲状腺は過形成(びまん性から結節性へ)となり、自律的に PTH を分泌するようになる。透析で血清 Ca や P はある程度補正されるが、腺の過形成という構造的変化はすぐには戻らない。治療には P 吸着薬、活性型ビタミン D 製剤、カルシウム受容体作動薬(シナカルセトなど)を用い、内科治療抵抗性の場合は副甲状腺摘出術を行う。

  5. ×e.  貧血

    腎不全に伴う貧血(腎性貧血)の主因は、腎臓でのエリスロポエチン(EPO:赤血球の産生を促すホルモン)産生低下である。加えて、尿毒症物質による赤血球寿命の短縮や造血抑制、鉄欠乏なども関与する。透析で尿毒症物質が除去されると赤血球寿命や造血能はある程度改善するが、EPO 不足そのものは補えず、効果も緩徐である。治療の中心は赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の投与と鉄補充であり、これらを用いても改善には数週間以上を要する。

透析で除去される物質と分子量

・小分子(分子量 500 程度以下):尿素、クレアチニン、尿酸、K・Na などの電解質、H+・HCO3−、リンなど。拡散で効率よく除去・補正される(リンは細胞内からの移動が遅いため、除去量には限界がある)。 ・中分子(分子量 500〜数万程度):β2-ミクログロブリンなど。拡散では除去されにくく、濾過(対流)を利用する血液透析濾過(HDF)や高性能膜で除去効率が上がる。 ・蛋白結合物質・大分子:アルブミンなどは除去されない。

緊急透析の主な適応

・薬物療法に反応しない高カリウム血症 ・高度の代謝性アシドーシス ・利尿薬に反応しない体液過剰(肺水腫、心不全) ・尿毒症症状(意識障害、心膜炎、出血傾向など) ・透析で除去可能な薬物・毒物による中毒

長期透析患者の主な合併症

・腎性貧血:ESA、鉄剤 ・慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD):二次性副甲状腺機能亢進症、異所性石灰化など。P 吸着薬、活性型ビタミン D、カルシウム受容体作動薬、副甲状腺摘出術 ・透析アミロイドーシス:手根管症候群、破壊性脊椎関節症など ・心血管合併症(最多の死因)、感染症、後天性嚢胞性腎疾患(腎癌の発生母地となる)など

POINT

・血液透析の主な原理は拡散(溶質除去)と限外濾過(除水)である。 ・拡散で速やかに補正されるのは小分子(K などの電解質、H+/HCO3−、BUN、クレアチニン)の異常であり、高カリウム血症とアシデミアは透析で速やかに改善する。 ・透析アミロイドーシス(β2-ミクログロブリン沈着)、二次性副甲状腺機能亢進症(副甲状腺過形成)、腎性貧血(EPO 産生低下)は慢性的な病態で、透析だけでは速やかに改善しない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。