青く連なる数珠を縛るか固めるか―食道静脈瘤に選ぶべき内視鏡治療
第109回医師国家試験 A問題 第18問
国試問題にチャレンジ
上部消化管内視鏡像を別に示す。 内視鏡治療として適切なのはどれか。2つ選べ。

- a.拡張術
- b.結紮術
- c.硬化療法
- d.高周波凝固
- e.粘膜切除術
対話形式の解説
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ドクターまとめ
食道粘膜下に青色調で連珠状〜結節状に隆起する血管は食道静脈瘤であり、門脈圧亢進により左胃静脈などから流入した血液で粘膜下静脈が拡張・蛇行したものです。内視鏡治療の二本柱は、ゴムバンドで縛る内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)と、硬化剤で血栓化・線維化させる内視鏡的硬化療法(EIS)で、EVLは簡便で緊急止血の第一選択、EISは供血路まで閉塞でき再発が少ない一方で合併症に注意が必要です。拡張術はアカラシアや狭窄、高周波凝固は潰瘍の露出血管からの出血、EMR・ESDは早期癌が対象であり、静脈瘤に行えば破裂や大出血を招きます。RCサインなど破裂リスクを示す所見や、β遮断薬・B-RTO・TIPSといった内視鏡以外の治療もあわせて理解しておくと、肝硬変患者の消化管出血に適切に対応できるようになります。
解答・解説
正解はb, cです
画像所見の読み取り
提示された上部消化管内視鏡像では、青色調で数珠をつないだような(連珠状の)静脈瘤が、中部食道の高さまで食道内腔へ隆起している。拡張・蛇行した粘膜下の静脈、すなわち食道静脈瘤の像である。後述の内視鏡所見記載基準に当てはめると、基本色調は青色(Cb)、形態は連珠状の中等度〜結節状の大きいもの(F2〜F3)、占居部位は中部食道まで(Lm)と表現される。
食道静脈瘤とは
肝硬変などにより門脈圧が上昇すると、門脈血は肝臓を迂回して体循環へ戻ろうとし、側副血行路が発達する。左胃静脈(胃冠状静脈)などから食道粘膜下の静脈へ血液が流れ込み、これが拡張・蛇行したものが食道静脈瘤である。破裂すると大量出血をきたし、致死的となりうる。
設問の考え方
設問は「この病変に対して適切な内視鏡治療」を問うている。食道静脈瘤の内視鏡治療の二本柱は、ゴムバンドで静脈瘤を縛る内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)と、硬化剤を注入して静脈瘤を血栓化させる内視鏡的硬化療法(EIS)である。ほかの選択肢は、狭窄(拡張術)、潰瘍などの露出血管からの出血(高周波凝固)、早期癌(粘膜切除術)といった別の病態に対する治療であり、画像から疾患を正しく読み取れれば、それぞれの治療法の適応疾患と照らし合わせて解答できる。
選択肢考察
- ×a. 拡張術
内視鏡的拡張術は、器質的・機能的に狭くなった消化管をバルーンやブジー(棒状の拡張器)で押し広げる治療である。食道領域では、食道アカラシア(下部食道括約筋が弛緩せず食物が通過しにくくなる疾患)、手術後の吻合部狭窄、腐食性食道炎後の狭窄、内視鏡的切除後の瘢痕狭窄などが適応となる。本例の病変は狭窄ではなく静脈の拡張であり、むしろ静脈瘤を機械的に圧迫・伸展すれば破裂の危険があるため適応はない。
- ○b. 結紮術
内視鏡的静脈瘤結紮術(endoscopic variceal ligation:EVL)は、内視鏡先端に装着したデバイスで静脈瘤を吸引し、O リング(ゴムバンド)をかけて縛る方法である。結紮された部分は血流が途絶えて壊死・脱落し、その後に瘢痕化して静脈瘤が消失する。手技が比較的簡便で全身への合併症が少なく、特に破裂による出血時の緊急止血の第一選択として広く用いられる。予防的治療の適応は、出血既往のある静脈瘤、発赤所見(red color sign:RC サイン)陽性の静脈瘤、F2 以上の静脈瘤などである。本例は F2〜F3 の大きな静脈瘤であり、適応となる。
- ○c. 硬化療法
内視鏡的硬化療法(endoscopic injection sclerotherapy:EIS)は、内視鏡下に穿刺針で静脈瘤の内腔または周囲に硬化剤を注入し、血管内に血栓を作り、血管壁や周囲組織に炎症・線維化を起こして静脈瘤を閉塞させる方法である。血管内注入ではエタノールアミンオレイト(EO)、血管周囲注入ではポリドカノール(AS)などが用いられる。硬化剤が静脈瘤を介して上流の供血路(左胃静脈など)まで到達すれば、静脈瘤を根元から消すことができ、EVL より再発が少ないとされる。一方、手技の難易度が高く、腎障害(溶血に伴う)、食道潰瘍、門脈血栓などの合併症に注意が必要である。本例の静脈瘤に対して適切な治療である。
- ×d. 高周波凝固
高周波凝固法は、内視鏡を通して止血鉗子や凝固プローブを出血点に当て、高周波電流で発生する熱によって組織を凝固させて止血する方法である。消化性潰瘍の露出血管からの出血、内視鏡的切除中・切除後の出血などに用いられる。静脈瘤のように壁が薄く大量の血液が流れる血管に熱凝固を加えると、かえって穿孔や大出血を招く恐れがあり、食道静脈瘤の治療法ではない。
- ×e. 粘膜切除術
内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection:EMR)は、粘膜内にとどまる早期癌や腺腫などの病変を、粘膜下層を含めて内視鏡的に切除する治療である。現在では、病変の大きさや線維化の有無にかかわらず一括切除が可能な内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)が主流となっている。いずれも腫瘍性病変を対象とした治療であり、粘膜下の静脈が拡張した静脈瘤に行えば大出血をきたすため適応はない。
食道・胃静脈瘤内視鏡所見記載基準(日本門脈圧亢進症学会)の主な項目
・占居部位(L):Ls(上部食道まで)、Lm(中部食道まで)、Li(下部食道のみ)、Lg(胃静脈瘤) ・形態(F):F0(治療後に静脈瘤が認められない)、F1(直線的で比較的細い)、F2(連珠状の中等度)、F3(結節状または腫瘤状の大きいもの) ・基本色調(C):Cw(白色)、Cb(青色) ・発赤所見(RC):ミミズ腫れ様(red wale marking)、チェリーレッドスポット様(cherry red spot)、血マメ様(hematocystic spot)など。RC サインは破裂の危険が高いことを示す重要な所見である。
治療の適応
出血中あるいは出血既往のある静脈瘤は治療対象となる。予防的治療は、RC サイン陽性、あるいは F2 以上の静脈瘤などが対象とされる。
EVL と EIS の比較
・EVL:手技が容易、全身的な合併症が少ない、緊急止血に適する。一方、供血路が残るため再発しやすい。 ・EIS:供血路まで閉塞させられるため再発が少ない。一方、手技の熟練が必要で、硬化剤による合併症(溶血・腎障害、潰瘍、発熱、胸痛、門脈血栓など)がある。 ・実際には両者を組み合わせたり(EVL 後に EIS を追加するなど)、最終的に地固め療法としてアルゴンプラズマ凝固法(APC)を追加したりすることもある。
内視鏡以外の治療
・薬物療法:非選択的β遮断薬(プロプラノロールなど)による門脈圧低下(一次・二次予防)、出血時のバソプレシンやソマトスタチン類似物質の投与。 ・Sengstaken-Blakemore チューブ(S-B チューブ)によるバルーン圧迫止血(内視鏡止血が困難なときの一時的処置)。 ・胃静脈瘤(特に孤立性胃穹窿部静脈瘤)ではバルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO)が行われる。 ・門脈圧そのものを下げる経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術(TIPS)、手術(Hassab 手術など)。
その他の内視鏡治療と適応疾患の整理
・拡張術:アカラシア、吻合部狭窄、瘢痕狭窄 ・高周波凝固、クリップ法、純エタノール局注など:潰瘍の露出血管からの出血 ・EMR/ESD:早期癌、腺腫
POINT
・青色調で連珠状〜結節状に隆起する食道粘膜下の血管は食道静脈瘤である。 ・食道静脈瘤の内視鏡治療は、内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)と内視鏡的硬化療法(EIS)の2つ。 ・EVL は簡便で緊急止血の第一選択、EIS は供血路まで閉塞させられ再発が少ない。 ・拡張術はアカラシアや狭窄、高周波凝固は潰瘍出血、EMR/ESD は早期癌が適応であり、静脈瘤には用いない。
