StudyMed医師国家試験

「飲むから出る」のか「出るから飲む」のか―多飲・多尿の謎を解く3つの検査

第109回医師国家試験 A問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第109回 A問題 第20問

多飲・多尿の患者を診る際,検査項目でまず注目すべきなのはどれか。3つ選べ。

  1. a.尿比重
  2. b.γ-GTP
  3. c.血清Ca
  4. d.血清Na
  5. e.白血球分画

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は多飲・多尿の患者さんを前にしたとき、最初にどの検査に目をつけるかという問題だ。ポイントは、多尿をどう分類するかという頭の中の地図を持っているかどうか。その地図があれば、必要な検査は自然に決まってくる。まず、多尿の定義から確認しよう。
医学生医学生
1日の尿量がだいたい3 Lを超える状態、ですよね。2.5 Lとする基準もあると習いました。
ドクタードクター
そうだね。そして多飲と多尿はセットで現れることが多い。ここで大事なのは、水をたくさん飲むから尿が増えるのか、尿が勝手に出てしまうから喉が渇いて飲むのかを見分けることなんだ。病態としては、多尿は大きく2つに分けられる。何と何だったかな。
医学生医学生
水利尿と浸透圧利尿です。
ドクタードクター
その通り。水利尿は溶質を含まない水が過剰に出る状態で、尿は薄くなる。中枢性尿崩症、腎性尿崩症、心因性多飲症がこれに当たる。浸透圧利尿は、尿中に大量の溶質が出て、それに引かれて水も出る状態で、代表は糖尿病だ。では、この2つを振り分けるのに最初に使う検査は?
医学生医学生
尿の濃さを見ればいいので、尿比重ですね。
ドクタードクター
正解。尿崩症や心因性多飲症では尿が濃縮されず、尿比重はおおむね1.010未満、尿浸透圧は血漿より低くなる。一方、糖尿病では尿中のブドウ糖が溶質として加わるから、尿量が多くても比重は下がらず、むしろ高いことが多い。
医学生医学生
腎不全でも多尿になると聞きましたが、そのときも比重は高いんですか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。慢性腎不全では濃縮力も希釈力も失われるので、尿比重は1.010前後に固定される。これを等張尿という。浸透圧利尿とは別に整理しておくといい。では次に、水利尿だとわかったあと、尿崩症と心因性多飲症をどう見分ける?
医学生医学生
内分泌の講義で水制限試験を習いました。でも、それより前に血液検査で何かわかるんでしょうか。
ドクタードクター
まず見てほしいのが血清Naだ。血清Naはほぼ血漿浸透圧を反映する。尿崩症では水が尿へ失われていくから、飲水が追いつかないと血液が濃くなって、血清Naは正常上限から高値になる。心因性多飲症ではどうなるかな。
医学生医学生
水を飲みすぎて血液が薄まるので、正常下限から低値ですね。出るから飲むのか、飲むから出るのかの違いが、血清Naに表れるわけですね。
ドクタードクター
その通り。ちなみに糖尿病で高血糖があると、細胞内から細胞外に水が移動して血清Naが見かけ上低くなることもあるし、浸透圧利尿で脱水が強ければ高ナトリウム血症にもなりうる。どの病態でも血清Naは欠かせない情報なんだ。さて、3つ目の正解は血清Caだけど、なぜ多尿でカルシウムを見るのかわかるかな。
医学生医学生
正直、ちょっと意外でした。カルシウムと尿の濃さがどう関係するんですか。
ドクタードクター
高カルシウム血症では、集合管でADHへの反応性が低下して水の再吸収が障害される。さらにヘンレループの太い上行脚にあるCa感知受容体を介してNaClの再吸収が抑えられ、髄質の濃度勾配も弱まる。結果として腎性尿崩症の状態になるんだ。
医学生医学生
なるほど、だから高カルシウム血症の症状として多飲・多尿が出てくるんですね。腎性尿崩症は遺伝性のものしか頭にありませんでした。
ドクタードクター
後天性の原因こそ臨床では大事だよ。高カルシウム血症の背景には原発性副甲状腺機能亢進症や、PTHrP産生腫瘍・骨転移といった悪性腫瘍、ビタミンD過剰など、治療可能な疾患が隠れている。多飲・多尿が最初の症状ということもあるから、見逃してはいけない。同じ理由で低カリウム血症やリチウム製剤も腎性尿崩症の原因になる。
医学生医学生
残りのγ-GTPと白血球分画は、多尿とは関係なさそうですね。γ-GTPは肝胆道系の酵素で、白血球分画は感染や血液疾患の評価に使うものなので。
ドクタードクター
その通り。どちらも尿濃縮や水バランスとは直接関係しない。なお、初期検査としては血糖や尿糖、血清Kも忘れずに確認しよう。
医学生医学生
尿比重で水利尿か浸透圧利尿かを分けて、血清Naで尿崩症と心因性多飲症のあたりをつけて、血清CaやKで腎性尿崩症の二次的な原因を探す、という流れですね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。発展として、その先の検査も押さえておこう。水制限試験で尿が濃縮されなければ尿崩症、濃縮されれば心因性多飲症を考える。尿崩症ならデスモプレシンを投与して、尿が濃縮されれば中枢性、反応しなければ腎性だ。高張食塩水負荷試験でADHの分泌を見ることもあるし、近年はADH前駆体の一部であるコペプチンの測定も用いられる。
医学生医学生
画像では、頭部MRIのT1強調像で下垂体後葉の高信号が消えていると中枢性尿崩症を疑う、と放射線科の実習で教わりました。
ドクタードクター
よく覚えているね。中枢性尿崩症を見たら、胚細胞腫や頭蓋咽頭腫、ランゲルハンス細胞組織球症などの原因検索も大切だ。それから最近は、中枢性尿崩症をバソプレシン分泌低下症、腎性尿崩症をバソプレシン抵抗症と呼び改める動きもあるから、名称にも注意しておこう。

まとめ

多飲・多尿の診療では、まず尿比重(尿浸透圧)で、薄い尿が出る水利尿(尿崩症・心因性多飲症)と、溶質に引かれて水が出る浸透圧利尿(糖尿病など)とに振り分けます。次に血清Naを見ると、尿崩症では正常上限〜高値、心因性多飲症では正常下限〜低値となる傾向があり、両者を鑑別する手がかりになります。さらに高カルシウム血症や低カリウム血症は後天性の腎性尿崩症を起こすため、血清Ca・Kの確認は欠かせず、その背景にある副甲状腺疾患や悪性腫瘍の発見にもつながります。その後は水制限試験やデスモプレシン負荷試験、頭部MRIなどで病態を確定していきます。多尿を病態から分類する地図を持っておくことが、検査を無駄なく選び、治療可能な原因を見逃さない診療につながります。

解答・解説

正解はa, c, dです

多飲・多尿の考え方

多尿とは、1日尿量がおおむね 3 L(あるいは 2.5 L)を超える状態をいう。多尿と多飲はセットで現れることが多く、「水をたくさん飲むから尿が増える」のか「尿が勝手に出てしまうから喉が渇いて飲む」のかを見分けることが診断の出発点となる。 多尿は大きく次の2つに分けられる。 ・水利尿:溶質を含まない水が過剰に排泄される状態。尿は薄く(低張尿)、尿比重・尿浸透圧が低い。原因は中枢性尿崩症(抗利尿ホルモン〈ADH、バソプレシン〉の分泌低下)、腎性尿崩症(腎臓で ADH が効かない)、心因性多飲症(過剰な飲水)である。 ・浸透圧利尿:尿中に大量の溶質(ブドウ糖、尿素、マンニトールなど)が排泄され、それに引かれて水が出る状態。代表は糖尿病(高血糖による尿糖)である。

まず注目すべき検査

・尿比重(尿浸透圧):水利尿か浸透圧利尿かの振り分けに用いる、最初の検査である。 ・血清 Na(血漿浸透圧):水利尿の中で、尿崩症(水が失われて血液が濃くなる)と心因性多飲症(水が過剰で血液が薄まる)を見分ける手がかりとなる。高血糖の評価にも有用である。 ・血清 Ca:高カルシウム血症は腎性尿崩症を起こす二次的な原因として重要で、見逃さずに確認すべき項目である。 このほか、血糖(尿糖)や血清 K(低カリウム血症も腎性尿崩症の原因)も初期に確認する項目である。γ-GTP や白血球分画は多飲・多尿の鑑別には直接結びつかない。

選択肢考察

  1. ○a.  尿比重

    尿比重は尿の濃さの指標であり、多尿が水利尿か浸透圧利尿かを判断する最初の手がかりになる。尿崩症(中枢性・腎性)や心因性多飲症では ADH の作用不足あるいは作用抑制により尿が濃縮されず、尿比重はおおむね 1.010 未満(尿浸透圧は血漿浸透圧より低い 300 mOsm/kg 未満)と低値になる。一方、糖尿病では尿中のブドウ糖が溶質として加わるため、多尿であっても尿比重は低下せず、むしろ高値を示すことが多い。なお、慢性腎不全の多尿では尿の濃縮・希釈能がともに失われ、尿比重が 1.010 前後に固定する(等張尿)。

  2. ×b.  γ-GTP

    γ-GTP(γ-グルタミルトランスペプチダーゼ)は肝・胆道系の酵素で、胆汁うっ滞、アルコール多飲、脂肪肝、薬剤性肝障害などで上昇する。水・電解質の調節や尿濃縮とは関係がなく、多飲・多尿の鑑別で最初に注目する項目ではない。

  3. ○c.  血清Ca

    高カルシウム血症では、腎集合管での ADH に対する反応性が低下して水の再吸収が障害され、腎性尿崩症の病態となる(ヘンレループ太い上行脚での Ca 感知受容体を介した NaCl 再吸収抑制による髄質の濃度勾配低下も関与する)。そのため多飲・多尿が高カルシウム血症の初発症状となることがある。原発性副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍(PTHrP 産生腫瘍、骨転移)、ビタミン D 過剰など治療可能な原因疾患が背景にあるため、多飲・多尿の患者では必ず血清 Ca を確認する。

  4. ○d.  血清Na

    血清 Na は血漿浸透圧をほぼ反映し、水利尿の原因の鑑別に役立つ。尿崩症では水分が尿へ失われる結果、口渇による飲水が追いつかないと血清 Na は正常上限〜高値(高ナトリウム血症)となる。これに対し心因性多飲症では水を過剰に摂取しているため、血清 Na は正常下限〜低値となる。また糖尿病で高血糖があると、血漿浸透圧上昇により細胞内から細胞外へ水が移動して血清 Na が見かけ上低下する(高張性低ナトリウム血症)。一方で浸透圧利尿による水分喪失が強ければ高ナトリウム血症にもなりうる。このように血清 Na は多飲・多尿の病態把握に欠かせない。

  5. ×e.  白血球分画

    白血球分画は好中球・リンパ球・好酸球などの割合を示し、感染症、炎症、アレルギー、血液疾患の評価に用いる。尿の濃縮や水バランスとは直接の関係がなく、多飲・多尿の鑑別で最初に注目する項目ではない。

多飲・多尿の主な原因

・水利尿(低張尿)  中枢性尿崩症:下垂体後葉からの ADH 分泌低下。特発性、胚細胞腫・頭蓋咽頭腫などの腫瘍、ランゲルハンス細胞組織球症、IgG4 関連疾患、頭部外傷・手術後など。  腎性尿崩症:腎臓の ADH 不応。先天性(V2 受容体やアクアポリン2 の遺伝子異常)、後天性(高カルシウム血症、低カリウム血症、リチウム製剤など)。  心因性多飲症:精神疾患などを背景とした過剰飲水。 ・浸透圧利尿  糖尿病(尿糖)、マンニトール投与、高蛋白食・高カロリー輸液(尿素負荷)など。 ・その他  慢性腎不全(濃縮力障害、等張尿)、閉塞性尿路疾患解除後の利尿、急性腎障害の回復期(利尿期)など。

水利尿の鑑別の進め方

・血清 Na・血漿浸透圧:尿崩症では高め、心因性多飲症では低め。 ・水制限試験:水を制限しても尿が濃縮されなければ尿崩症、濃縮されれば心因性多飲症を考える。 ・バソプレシン(デスモプレシン)負荷試験:投与後に尿が濃縮されれば中枢性、反応しなければ腎性尿崩症である。 ・高張食塩水負荷試験:血漿浸透圧を上げても ADH が分泌されなければ中枢性尿崩症を示す。近年はコペプチン(ADH 前駆体の一部で、測定が安定している)の測定も用いられる。 ・頭部 MRI の T1 強調像で下垂体後葉の高信号が消失していれば、中枢性尿崩症を示唆する。

補足

2022 年以降、尿崩症の名称をバソプレシン分泌低下症(中枢性尿崩症)およびバソプレシン抵抗症(腎性尿崩症)に改める動きがある。

POINT

・多尿はまず尿比重(尿浸透圧)で水利尿(低張尿:尿崩症・心因性多飲症)と浸透圧利尿(糖尿病など)に振り分ける。 ・血清 Na は尿崩症で高め、心因性多飲症で低めとなり、両者の鑑別の手がかりとなる。 ・高カルシウム血症と低カリウム血症は腎性尿崩症の原因となるため、血清 Ca・K を必ず確認する。 ・血糖(尿糖)の確認も忘れない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。