いちご舌と口囲蒼白―猩紅熱はどうやってうつる?
第108回医師国家試験 I問題 第58問
国試問題にチャレンジ
8歳の女児。発熱,咽頭痛および皮疹を主訴に母親に連れられて来院した。2日前から38℃台の発熱と咽頭痛とが出現した。今朝から前胸部に瘙痒を伴う皮疹が出現した。体温38.2℃。両側眼球結膜に充血はなく,軟口蓋は著明に発赤し,いちご舌を認める。顔面と前胸部とに丘疹性紅斑を認めるが口周囲にはない。 この疾患の主な感染経路はどれか。
- a.空気
- b.経口
- c.接触
- d.飛沫
- e.媒介動物
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
発熱・咽頭痛に続いて細かい丘疹性紅斑が出現し、いちご舌と口囲蒼白を伴う学童は、A群β溶血性レンサ球菌による猩紅熱を考えます。いちご舌は川崎病でもみられますが、両側眼球結膜充血がなく学童期であれば猩紅熱が考えやすくなります。A群レンサ球菌の主な感染経路は咳やくしゃみによる飛沫感染で、手指を介した接触感染は副次的な経路にとどまり、空気感染するのは麻疹・水痘・結核の3つです。治療はペニシリン系抗菌薬の10日間投与が標準で、リウマチ熱の予防につながりますが、溶連菌感染後急性糸球体腎炎には回復後も注意が必要です。感染経路を正しく理解することは、学校や家庭での感染対策や登校の判断に直結します。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・8歳の学童女児 ・2日前から38℃台の発熱と咽頭痛 → 上気道(咽頭・扁桃)の急性感染症 ・今朝から瘙痒を伴う皮疹が前胸部に出現 → 発熱・咽頭痛の1〜2日後に発疹が続く経過 ・軟口蓋の著明な発赤、いちご舌(舌乳頭が腫大・発赤して苺の表面のように見える状態) ・顔面と前胸部の丘疹性紅斑があるが口周囲には皮疹がない → 口囲蒼白(口の周りだけが白く抜けて見える所見) ・眼球結膜の充血はない
鑑別の流れ
発熱と発疹を伴う小児疾患の鑑別である。 ・風疹:発熱とほぼ同時に発疹が出るうえ、耳介後部・後頸部リンパ節腫脹が目立つ。本例は咽頭所見が主体で合わない。 ・麻疹:カタル期に咳・鼻汁・眼球結膜充血が強く、コプリック斑を伴う。結膜充血がなく咳の記載もないので考えにくい。 ・マイコプラズマ感染症:頑固な乾性咳嗽が中心であり、本例とは異なる。 ・川崎病:いちご舌を呈するが、両側眼球結膜充血(眼脂を伴わない)が主要症状の一つで、好発は4歳以下の乳幼児である。結膜充血がなく8歳という年齢からも可能性は低い。 ・伝染性単核球症(EBウイルス)やアデノウイルス感染症:咽頭炎と発疹をきたし得るが、いちご舌と口囲蒼白の組み合わせは典型的ではない。 以上から、学童期の急性咽頭炎にいちご舌・口囲蒼白を伴う細かい丘疹性紅斑が続いたことより、A群β溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes、以下A群レンサ球菌)の感染による猩紅熱と診断する。猩紅熱は、A群レンサ球菌が産生する発熱毒素(発赤毒素、streptococcal pyrogenic exotoxin:SPE)によって全身性の発疹が生じる病型である。
設問の考え方
A群レンサ球菌は主として咽頭・扁桃に定着・感染し、患者が咳やくしゃみ、会話の際に放出する飛沫(直径5μm以上程度の比較的大きな水滴で、1〜2m程度しか飛ばない)を周囲の人が吸い込むことで伝播する。したがって主な感染経路は飛沫感染である。
選択肢考察
- ×a. 空気
空気感染(飛沫核感染)は、飛沫の水分が蒸発してできた5μm未満の微粒子(飛沫核)が長時間空中を漂い、離れた場所の人にも感染する様式である。代表は麻疹・水痘(播種性帯状疱疹を含む)・結核であり、陰圧個室やN95マスクが必要になる。A群レンサ球菌はこの様式で広がる病原体ではない。
- ×b. 経口
経口感染は病原体で汚染された食品・水・手指を口から取り込むことで成立し、ノロウイルス、腸管出血性大腸菌、A型肝炎ウイルスなどが代表である。A群レンサ球菌でも汚染食品による咽頭炎の集団発生の報告はあるが例外的であり、主な経路とはいえない。
- ×c. 接触
A群レンサ球菌は、咽頭分泌物や化膿した皮膚病変(伝染性膿痂疹など)に触れた手指を介して伝播することもあり、接触感染は副次的な経路として存在する。しかし猩紅熱のような咽頭感染の主たる経路は飛沫であり、最も適切な答えではない。接触感染が主体の代表例は、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、疥癬、流行性角結膜炎などである。
- ○d. 飛沫
猩紅熱の原因であるA群レンサ球菌は咽頭に感染し、咳・くしゃみ・会話で飛び散る飛沫に含まれて、近距離(おおむね1〜2m以内)にいる人の上気道粘膜に到達して感染する。家庭内や学校など濃厚に接触する集団で流行しやすいのはこのためである。感染対策としてはサージカルマスクの着用が基本となり、適切な抗菌薬投与開始後24時間を経過すれば感染力はほぼ消失する。
- ×e. 媒介動物
媒介動物感染は蚊・ダニ・ノミなどの節足動物が病原体を運ぶ様式で、マラリア・デング熱・日本脳炎(蚊)、つつが虫病・日本紅斑熱・重症熱性血小板減少症候群(SFTS)(ダニ)などが該当する。A群レンサ球菌はヒトからヒトへ直接伝播する細菌であり、媒介動物は関与しない。
A群レンサ球菌感染症の概要
・病原体:A群β溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)。グラム陽性球菌で、血液寒天培地上で完全溶血(β溶血)を示す。 ・好発:5〜15歳の学童期に多く、冬季と春から初夏にかけて流行する。潜伏期は2〜5日。 ・年齢による病像の違い:3歳未満では鼻汁・微熱など鼻咽頭炎の形をとり経過が遷延しやすい。年長児では鼻汁や咳はほとんどなく、咽頭・扁桃の強い発赤、白苔、口蓋の点状出血、頸部リンパ節の有痛性腫脹が目立つ。
猩紅熱の臨床像
・発熱・咽頭痛の12〜48時間後に、頸部・腋窩・鼠径部から始まり全身に広がる、細かい紅色丘疹が密集した紅斑(触るとざらざらする「紙やすり様」)が出現する。瘙痒を伴うこともある。 ・口囲蒼白:顔面は紅潮するが口の周囲だけ皮疹を欠く。 ・Pastia線:肘窩・腋窩など皮膚のしわに沿った線状の点状出血。 ・舌の変化:はじめ白苔に覆われ(白いちご舌)、数日で苔が取れて赤く腫れた舌乳頭が目立つ(赤いちご舌)。 ・回復期:体幹の糠状(粃糠様)落屑、手掌・足底や指先の膜様落屑がみられる。
診断と治療
・咽頭ぬぐい液の迅速抗原検査、咽頭培養で確定する。 ・治療はペニシリン系(アモキシシリン等)を10日間投与するのが標準で、ペニシリンアレルギーではセファロスポリン系やマクロライド系を用いる。10日間の十分な投与はリウマチ熱の予防に重要である。 ・合併症:化膿性(扁桃周囲膿瘍、中耳炎、副鼻腔炎、頸部リンパ節炎)と非化膿性(リウマチ熱、溶連菌感染後急性糸球体腎炎)がある。急性糸球体腎炎は感染1〜2週後(咽頭炎の場合)に発症し、抗菌薬で予防できるとはされない。 ・学校保健安全法では第三種の「その他の感染症」として扱われることが多く、適切な抗菌薬治療開始後24時間を経て全身状態がよければ登校可能とされる。
主な感染経路と代表的な疾患
・空気感染:麻疹、水痘、結核 ・飛沫感染:インフルエンザ、風疹、流行性耳下腺炎、百日咳、A群レンサ球菌感染症、マイコプラズマ感染症、髄膜炎菌感染症 ・接触感染:MRSA、疥癬、流行性角結膜炎、腸管感染症の一部 ・経口感染:ノロウイルス、腸管出血性大腸菌、A型・E型肝炎 ・媒介動物感染:マラリア、デング熱、日本脳炎、つつが虫病、SFTS
POINT
・発熱+咽頭痛の後に出る細かい丘疹性紅斑、いちご舌、口囲蒼白 → 猩紅熱(A群レンサ球菌感染症) ・いちご舌でも両側眼球結膜充血がなく学童期なら川崎病より猩紅熱を考える ・A群レンサ球菌の主な感染経路は飛沫感染(接触感染は副次的) ・空気感染するのは麻疹・水痘・結核の3つを確実に覚える ・治療はペニシリン系10日間、合併症としてリウマチ熱と急性糸球体腎炎に注意
