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矢印の先にある「膿の塊」―潰瘍性大腸炎の生検で陰窩膿瘍を読む

第108回医師国家試験 I問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第108回 I問題 第22問

潰瘍性大腸炎患者の直腸粘膜生検組織のH-E染色標本を別に示す。  矢印で示す所見はどれか。

第108回 I問題 第22問の問題画像
  1. a.陰窩膿瘍
  2. b.粘膜の萎縮
  3. c.杯細胞の減少
  4. d.腺の配列異常
  5. e.粘膜のびらん

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は潰瘍性大腸炎の直腸生検標本で、矢印が指す所見を答える問題だ。ポイントは、選択肢がどれも潰瘍性大腸炎で起こりうる所見だということ。だから「この病気で見られるか」ではなく「矢印の先に何があるか」で選ぶ必要がある。まず、正常な大腸粘膜の構造を思い出してみよう。
医学生医学生
組織学の実習で見た大腸は、試験管みたいな腺管が表面から粘膜筋板に向かってきれいに並んでいました。
ドクタードクター
そう、その腺管を陰窩と呼ぶ。正常では陰窩の上皮に粘液を持った明るい杯細胞がたくさんあって、内腔は空っぽだ。では潰瘍性大腸炎の活動期になると、これがどう変わると思う?
医学生医学生
炎症細胞が増えて、腺がぐちゃっと乱れるイメージです。
ドクタードクター
大まかには合っている。もう少し分けると、粘膜固有層にリンパ球・形質細胞・好中球がびまん性に浸潤し、杯細胞の粘液が減って上皮が暗く見え、陰窩の形や向きが不ぞろいになる。そして陰窩の内腔に好中球が集まって膿の塊をつくる。これらが同じ標本の中に同時に現れるんだ。
医学生医学生
全部見えるなら、どれを答えてもよさそうに思えてしまいます。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だね。矢印の先を見ると、一つの陰窩の内腔に好中球を主体とする炎症細胞がぎっしり詰まっている。本来空っぽのはずの内腔が細胞で埋まっているわけだ。これが陰窩膿瘍で、正解になる。
医学生医学生
陰窩の上皮に入り込んだ好中球が、そのまま内腔にたまったということですね。病理学の講義で、上皮に好中球が入る段階を陰窩炎と習いました。
ドクタードクター
その理解でいい。陰窩炎から進んで内腔に好中球がたまると陰窩膿瘍だ。では他の選択肢がなぜ違うかも確認しよう。杯細胞の減少はどうかな。
医学生医学生
活動期の典型所見なので、この標本にもありそうです。
ドクタードクター
実際この標本の陰窩上皮にも見られる。ただ杯細胞の減少は、陰窩を囲む上皮細胞の変化だ。矢印が指しているのは上皮ではなく内腔にたまった細胞だから、矢印の所見ではない。腺の配列異常も同じ考え方で、陰窩の枝分かれや大きさ・向きの不ぞろいは、粘膜全体の並びを見て判断する所見なんだ。
医学生医学生
配列異常は慢性の炎症の証拠になるんでしたっけ。
ドクタードクター
その通り。慢性に炎症が続いたことを示すので、急性の感染性腸炎と潰瘍性大腸炎を見分けるうえで重要になる。粘膜の萎縮も慢性変化で、陰窩の数が減って短くなり、粘膜筋板まで届かなくなった状態だ。寛解期や長期経過例で目立つけれど、一つの陰窩の中を指す矢印とは対応しない。
医学生医学生
粘膜のびらんは、表面の上皮が欠けている所見なので、矢印が表面を指していないと合わないですね。
ドクタードクター
よく整理できているね。びらんなら表面上皮が途切れて炎症性の滲出物が付着して見えるはずだ。矢印は粘膜の深い部分にある陰窩の内腔を指しているから違う。
医学生医学生
陰窩膿瘍があれば潰瘍性大腸炎と診断していいんでしょうか。
ドクタードクター
そこは注意が必要だ。陰窩膿瘍は潰瘍性大腸炎の活動期の代表的な所見だけど特異的ではなく、感染性腸炎やCrohn病でも見られる。Crohn病との鑑別では、炎症が全層性か、病変が飛び飛びか、乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫があるかがポイントになる。肉芽腫は潰瘍性大腸炎では通常見られないからね。
医学生医学生
消化器内科の臨床実習で、内視鏡で直腸から連続した病変を見ました。病理はその裏付けになるんですね。
ドクタードクター
そうだね。潰瘍性大腸炎は直腸から口側に連続して広がり、炎症の主体は粘膜から粘膜下層の浅い部分にとどまる。内視鏡像と組織像を合わせて考えることが大切だ。臨床でもう一つ覚えておきたいのは、長期経過例では大腸癌や異形成のリスクが高まること。だから定期的な内視鏡と生検によるサーベイランスが行われるんだ。
医学生医学生
活動期の所見、慢性化の所見、そして癌化のチェックと、生検にはいろいろな役割があるんですね。
ドクタードクター
その通り。一枚の標本でも、どこを何として見ているかを意識すると、病態の時間経過まで読み取れるようになるよ。

まとめ

潰瘍性大腸炎の活動期の生検では、粘膜固有層へのびまん性炎症細胞浸潤、杯細胞の減少、陰窩炎・陰窩膿瘍が見られ、長期経過では腺の配列異常や粘膜の萎縮といった慢性変化が加わります。陰窩膿瘍は陰窩の内腔に好中球が集まって塊をつくる所見で、本来空である内腔が炎症細胞で埋まっていることが目印です。ただし陰窩膿瘍は感染性腸炎やCrohn病でも見られ特異的ではなく、Crohn病では全層性炎症や非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が鑑別点になります。画像問題では、その疾患で起こりうるかではなく矢印の位置にある構造が何かで判断することが重要です。組織所見を急性と慢性の変化に分けて読む力は、診断だけでなく長期経過例の癌サーベイランスの理解にもつながります。

解答・解説

正解はaです

潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)の直腸生検標本を読み、矢印の指す構造が何かを答える問題である。

標本の見方

大腸粘膜には、表面から粘膜筋板に向かって試験管状の腺管(陰窩、crypt)が規則正しく並んでいる。正常では、陰窩の上皮には粘液を持つ明るい杯細胞が多く、陰窩内腔は空である。 UC の活動期の標本では、次のような変化が同時にみられる。 ・粘膜固有層に、リンパ球・形質細胞・好中球などの炎症細胞がびまん性に浸潤する ・杯細胞の粘液が減り、上皮が暗く見える(杯細胞の減少) ・陰窩の大きさ・形・向きが不ぞろいになり、枝分かれする(腺の配列異常) ・陰窩の内腔に好中球が集まって膿の塊をつくる(陰窩膿瘍)

設問への考え方

選択肢の所見はどれも UC で起こりうるので、「UC で見られるかどうか」ではなく、「矢印が何を指しているか」で答えを選ぶ。矢印の先は一つの陰窩の内腔で、そこに好中球を主体とする炎症細胞が密に詰まっている。これは陰窩膿瘍(crypt abscess)の像である。杯細胞の減少や腺配列の乱れも同じ標本全体に見られるが、矢印が示す局所の所見ではない。

選択肢考察

  1. ○a.  陰窩膿瘍

    矢印は陰窩の内腔を指しており、そこに好中球を中心とする炎症細胞が集まって塊になっている。陰窩上皮に入り込んだ好中球が内腔にたまった状態で、陰窩膿瘍と呼ぶ。UC の活動期に典型的な所見である。ただし UC だけに見られるわけではなく、感染性腸炎や Crohn 病でも起こりうる。

  2. ×b.  粘膜の萎縮

    粘膜の萎縮とは、陰窩の数が減り、陰窩が短くなって粘膜筋板まで届かなくなった状態である。炎症をくり返した寛解期や長く続いた UC で目立つ。本標本では萎縮ははっきりせず、矢印も粘膜全体の厚さではなく一つの陰窩の中を指しているので、正解にならない。

  3. ×c.  杯細胞の減少

    杯細胞の減少(粘液の枯渇)は UC 活動期の代表的な所見で、本標本の陰窩上皮にも見られる。しかし杯細胞の減少は、陰窩を囲む上皮細胞の変化である。矢印が指しているのは陰窩内腔にたまった炎症細胞なので、矢印の示す所見ではない。

  4. ×d.  腺の配列異常

    腺の配列異常(crypt architectural distortion)とは、陰窩の枝分かれ、形や大きさの不ぞろい、並びの乱れをいう。慢性の炎症が続いたことを示す所見で、急性の感染性腸炎と UC を見分けるうえで重要である。本標本でも陰窩の不ぞろいは見られるが、陰窩が並ぶ粘膜全体の構築をみて判断する所見であり、矢印が示すものではない。

  5. ×e.  粘膜のびらん

    びらんとは、粘膜表面の上皮が失われ、欠損が粘膜の中にとどまっている状態である。組織では表面の上皮が途切れ、炎症性の滲出物が付着して見える。本標本では表面上皮の欠損ははっきりせず、矢印も表面ではなく粘膜の深い部分にある陰窩の内腔を指しているので、正解にならない。

潰瘍性大腸炎の概要

UC は、主に大腸の粘膜を侵し、びらんや潰瘍をつくる原因不明のびまん性・非特異性の炎症性疾患である。病変はふつう直腸から始まり、口側へ切れ目なく広がる(連続性病変)。炎症の主体は粘膜から粘膜下層の浅い部分にとどまる。症状は粘血便、下痢、腹痛で、再燃と寛解をくり返す。

UC の代表的な組織所見

1) 粘膜固有層へのびまん性の炎症細胞浸潤(形質細胞が陰窩の底と粘膜筋板の間にたまる「basal plasmacytosis」は慢性化を示す) 2) 毛細血管の充血 3) 杯細胞の減少(粘液の枯渇) 4) 陰窩炎・陰窩膿瘍 5) 多発するびらん・潰瘍 6) 陰窩の配列異常(枝分かれ、不ぞろい) 7) 粘膜の萎縮(陰窩の減少・短縮) 2)〜5) は活動期によく見られ、6)・7) は長く続いた炎症のあとを示す慢性変化である。

Crohn 病との組織学的な違い

Crohn 病では、炎症が腸管壁の全層に及び、病変は飛び飛びに分布する(skip lesion)。乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫を認めることが特徴で、UC では通常見られない。陰窩膿瘍は両疾患で見られるので、それだけで UC と Crohn 病は区別できない。

臨床とのつながり

長く続く UC では、大腸癌(colitic cancer)や異形成(dysplasia)が発生するリスクが高まる。そのため、定期的な内視鏡検査と生検によるサーベイランスが行われる。

POINT

・陰窩膿瘍:陰窩の内腔に好中球が集まって塊をつくる所見。UC 活動期の代表的な所見だが、UC に特異的ではない。 ・UC の組織では、びまん性の炎症細胞浸潤、杯細胞の減少、陰窩膿瘍、陰窩の配列異常、粘膜の萎縮が見られる。 ・病変は粘膜が主体で、直腸から連続して広がる。肉芽腫は Crohn 病を示唆する。 ・画像問題では「その疾患で見られるか」ではなく「矢印の場所に何があるか」で選ぶ。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。