StudyMed医師国家試験

煙は子どもの眠りまで脅かす―受動喫煙と乳幼児突然死症候群

第108回医師国家試験 I問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第108回 I問題 第17問

受動喫煙によって発症リスクが増加する小児の疾患はどれか。

  1. a.水頭症
  2. b.髄膜腫
  3. c.虫垂炎
  4. d.内耳炎
  5. e.乳幼児突然死症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、受動喫煙が子どもの健康にどんな影響を与えるかを問う公衆衛生の問題だ。ポイントは、受動喫煙との関連が疫学的に確立している小児疾患をきちんと整理できているかどうか。まずは受動喫煙とは何か、そこから確認しよう。
医学生医学生
他人が吸っているたばこの煙を吸い込んでしまうこと、ですよね。衛生学の講義で、主流煙より副流煙のほうが有害物質が多いと習いました。
ドクタードクター
その通り。喫煙者が吐き出す呼出煙と、たばこの先から立ち上る副流煙を周囲の人が吸い込むことを受動喫煙という。副流煙には一酸化炭素やニコチン、多環芳香族炭化水素などが主流煙より高濃度に含まれるものもある。そして子どもは呼吸器が未熟で、体重あたりの呼吸量も多いから、大人以上に影響を受けやすいんだ。
医学生医学生
子どもで関連がはっきりしている疾患というと、まず気管支喘息が思い浮かびます。
ドクタードクター
いいね。喘息の発症や増悪、気管支炎や肺炎などの下気道感染症、呼吸機能の発達の低下は代表的だ。それに加えて中耳炎、そして突然死として乳幼児突然死症候群、つまりSIDSがある。選択肢のなかでこの枠組みに入るのはどれかな。
医学生医学生
乳幼児突然死症候群ですね。ただ、内耳炎も耳の病気なので少し迷いました。
ドクタードクター
そこが出題者の狙いだね。受動喫煙で増えるのは中耳炎で、内耳炎ではない。煙の刺激で鼻咽腔の粘膜に炎症が起こり、線毛運動が落ちて耳管の働きが悪くなる、だから中耳に液体がたまったり感染したりしやすくなる、という流れが考えられている。内耳炎は中耳炎や髄膜炎からの炎症の波及、ウイルス感染などで起こるもので、受動喫煙との直接の関連は確立していない。
医学生医学生
「中耳」と「内耳」の取り違えですね。耳鼻科の実習で滲出性中耳炎の子をたくさん見たので、言われてみれば納得です。
ドクタードクター
ほかの選択肢も見ておこう。水頭症は脳脊髄液の産生・循環・吸収の障害で脳室が拡大する病態で、小児では中脳水道狭窄症やキアリ奇形などの先天奇形、脳室内出血後、髄膜炎後が主な原因だ。受動喫煙で増えるという関連は示されていない。
医学生医学生
髄膜腫は小児ではかなりまれな気がします。
ドクタードクター
そう、髄膜腫はくも膜細胞由来の良性腫瘍で、中高年の女性に多い。確立した危険因子は頭部への放射線照射や神経線維腫症2型で、受動喫煙ではない。虫垂炎も、糞石やリンパ組織の過形成で虫垂の内腔が閉塞し、細菌感染が加わって起こるもので、受動喫煙との確立した関連はないんだ。
医学生医学生
では、SIDSと喫煙がどうつながるのかを知りたいです。うつぶせ寝のイメージが強くて。
ドクタードクター
SIDSは、それまでの健康状態や既往歴から予測できず、死亡状況の調査や解剖をしても原因が特定できない乳幼児の突然死だ。主に睡眠中、生後2〜6か月ころに多い。父母などの喫煙は主要な危険因子の一つで、国内の研究では両親が喫煙する場合のリスクは非喫煙の場合の約4.7倍と報告されている。ニコチンや一酸化炭素が呼吸や覚醒を調節する脳幹の働きに影響し、低酸素になったときに目を覚ます反応が鈍くなることなどが機序として考えられているよ。
医学生医学生
危険因子は、うつぶせ寝、周囲の喫煙、それから人工栄養の3つでしたよね。小児科の講義で厚生労働省の予防の3項目として出てきました。
ドクタードクター
よく覚えているね。予防としては、1歳になるまではあおむけに寝かせる、できるだけ母乳で育てる、妊娠中や赤ちゃんの周囲でたばこを吸わない、の3つが勧められている。ほかにも男児、早産・低出生体重、柔らかい寝具や過度の暖め、冬季などがリスクとして挙げられる。臨床で大事なのは、SIDSは除外診断だということ。解剖で他の死因を除外する必要があり、窒息や虐待との鑑別がとても重要になる。
医学生医学生
胎児期の影響もありますよね。妊婦さんの喫煙で低出生体重になると産婦人科の実習で聞きました。
ドクタードクター
そう、妊娠中の母親の喫煙や受動喫煙は、低出生体重、早産、胎児発育不全、そしてSIDSのリスク上昇につながる。制度面では、2018年の健康増進法改正で、多くの人が利用する施設は原則屋内禁煙になり、学校や病院、児童福祉施設などは敷地内禁煙となった。医師としては、外来や健診の場で保護者に家庭内の禁煙を具体的に勧めることが、子どもを守る直接的な介入になるんだ。
医学生医学生
換気扇の下で吸えば大丈夫、と言う保護者の方もいそうですね。
ドクタードクター
実際によく聞くね。ただ、換気扇の下で吸っても室内の汚染は完全には防げないし、衣服や髪に残った有害物質の影響も指摘されている。だからこそ、子どものいる環境では禁煙そのものを目指すよう伝えることが大切だよ。

まとめ

受動喫煙は呼出煙と副流煙を周囲の人が吸い込むことで、呼吸器が未熟で体重あたりの呼吸量が多い小児は特に影響を受けやすくなります。小児で受動喫煙との関連が確立している疾患には、乳幼児突然死症候群(SIDS)、気管支喘息、気管支炎・肺炎、中耳炎などがあり、内耳炎ではなく中耳炎である点はひっかけとして要注意です。SIDSは生後2〜6か月の睡眠中に多い原因不明の突然死で、うつぶせ寝、周囲の喫煙、人工栄養が三大危険因子とされ、あおむけ寝・母乳育児・妊娠中や乳児周囲での禁煙が予防の柱です。SIDSは除外診断であり、窒息や虐待との鑑別も欠かせません。受動喫煙の影響を疾患単位で整理しておくことは、国家試験対策だけでなく、保護者への禁煙指導という日常診療の実践にも直結します。

解答・解説

正解はeです

受動喫煙とは、他人が吸うたばこの煙(喫煙者が吐き出す煙である呼出煙と、たばこの先端から立ち上る副流煙)を吸い込むことである。副流煙には一酸化炭素、ニコチン、多環芳香族炭化水素などの有害物質が主流煙より高い濃度で含まれるものもあり、呼吸器が未熟で体重あたりの呼吸量が多い小児は特に影響を受けやすい。 小児において受動喫煙との関連が確立している疾患は、大きく次のように整理できる。 ・突然死:乳幼児突然死症候群(SIDS) ・呼吸器疾患:気管支喘息の発症・増悪、急性下気道感染症(気管支炎・肺炎)、呼吸機能の低下 ・耳鼻科疾患:中耳炎(急性中耳炎、滲出性中耳炎) ・胎児期の母体喫煙・受動喫煙:低出生体重、早産など 本問の選択肢のうち、この枠組みに入るのは乳幼児突然死症候群である。内耳炎は中耳炎と名前が似ているが、受動喫煙との関連が示されているのは中耳炎である点に注意する。

選択肢考察

  1. ×a.  水頭症

    誤り。水頭症は脳脊髄液の産生・循環・吸収の障害によって脳室が拡大する病態であり、小児では先天奇形(中脳水道狭窄症、キアリ奇形、二分脊椎に伴うものなど)、脳室内出血後、髄膜炎後などが主な原因である。受動喫煙によって発症リスクが高まるという関連は確立していない。

  2. ×b.  髄膜腫

    誤り。髄膜腫はくも膜細胞に由来する良性腫瘍で、中高年の女性に多く、小児ではまれである。確立した危険因子としては頭部への放射線照射や神経線維腫症2型(NF2)が知られているが、受動喫煙との関連は示されていない。

  3. ×c.  虫垂炎

    誤り。虫垂炎は糞石やリンパ組織の過形成などによる虫垂内腔の閉塞と、それに続く細菌感染によって起こる。小児の急性腹症の代表だが、受動喫煙が発症リスクを高めるという確立した関連はない。

  4. ×d.  内耳炎

    誤り。内耳炎は中耳炎や髄膜炎からの炎症の波及、ウイルス感染などで起こり、難聴やめまいをきたすが、受動喫煙との直接の関連は確立していない。受動喫煙で発症リスクが高まるのは中耳炎(急性中耳炎・滲出性中耳炎)である。煙の刺激で鼻咽腔の粘膜に炎症が起こり、線毛運動が低下して耳管機能が障害されることが機序と考えられている。「中耳」と「内耳」の取り違えを狙った選択肢である。

  5. ○e.  乳幼児突然死症候群

    正しい。乳幼児突然死症候群(SIDS: sudden infant death syndrome)は、それまでの健康状態や既往歴から予測できず、死亡状況の調査や解剖を行っても原因が特定できない乳幼児の突然死である。父母などの喫煙はSIDSの主要な危険因子の一つで、国内の研究では両親が喫煙する場合の発症リスクは非喫煙の場合の約4.7倍と報告されている。たばこの煙に含まれるニコチンや一酸化炭素が、呼吸・覚醒を調節する脳幹の機能に影響し、低酸素状態からの覚醒反応を鈍らせることなどが機序として考えられている。

乳幼児突然死症候群(SIDS)の概要

主として睡眠中に発症し、生後2〜6か月ころに多い。まれに1歳以上でも起こる。日本の乳児死亡の主要な死因の一つであり、発症数は予防キャンペーンの普及とともに減少している。診断には解剖による他の死因の除外が必要であり、窒息や虐待などとの鑑別が重要となる。

SIDSの危険因子

・うつぶせ寝 ・周囲の喫煙(妊娠中の母親の喫煙、出生後の養育者の喫煙による受動喫煙) ・人工栄養(母乳栄養でないこと) ・そのほか、男児、早産・低出生体重、柔らかい寝具・過度の暖め、冬季など

SIDS予防のために推奨されていること(厚生労働省)

1. 1歳になるまでは、寝かせるときはあおむけに寝かせる。 2. できるだけ母乳で育てる。 3. 妊娠中や赤ちゃんの周囲ではたばこを吸わない。

受動喫煙と小児の健康影響の整理

・胎児期(妊婦の喫煙・受動喫煙):低出生体重、早産、胎児発育不全、SIDSのリスク上昇 ・乳幼児期〜小児期:SIDS、気管支喘息の発症・増悪、気管支炎・肺炎、中耳炎、呼吸機能の発達の低下

制度面

2018年の健康増進法改正(2020年4月全面施行)により、多数の人が利用する施設での原則屋内禁煙が定められ、学校・病院・児童福祉施設などは敷地内禁煙(屋外に特定屋外喫煙場所の設置は可能)となった。

POINT

・受動喫煙で発症リスクが上がる小児疾患:SIDS、気管支喘息、気管支炎・肺炎、中耳炎。 ・SIDSの三大危険因子:うつぶせ寝、周囲の喫煙、人工栄養。 ・予防:あおむけ寝、母乳育児、妊娠中・乳児周囲での禁煙。 ・受動喫煙との関連があるのは「中耳炎」であり「内耳炎」ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。