StudyMed医師国家試験

心にも現れるコルチゾール過剰―Cushing症候群の症候を「作用の向き」で読み解く

第108回医師国家試験 I問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第108回 I問題 第12問

Cushing症候群でみられるのはどれか。

  1. a.乏尿
  2. b.抑うつ
  3. c.るいそう
  4. d.白血球減少
  5. e.低カルシウム尿症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はCushing症候群でみられる所見を選ぶ問題だ。症候を丸暗記するより、コルチゾールが体の各臓器に何をするかを押さえ、「過剰になったら増えるのか減るのか」で判定すると確実に解ける。まず、Cushing症候群の原因にはどんなものがあったかな。
医学生医学生
下垂体腺腫によるCushing病、副腎腺腫、それから肺小細胞癌などの異所性ACTH産生腫瘍です。
ドクタードクター
よく覚えているね。ただ、実臨床で最も多いのはステロイド薬の長期投与による医原性のものだ。どの原因でも、コルチゾールが慢性的に過剰になるという点は共通している。では体型から考えよう。コルチゾールが多いと体はどうなる?
医学生医学生
満月様顔貌と中心性肥満ですよね。でも蛋白異化で筋肉が落ちるなら、全体としてはやせることもあるのかな、と少し迷いました。
ドクタードクター
その迷いは大事なポイントだよ。コルチゾールは脂肪を体幹や顔、肩甲間部に再分布させる一方、蛋白異化で四肢の筋肉を萎縮させる。だから「太った体幹に細い手足」という体型になるんだ。四肢は細くても、全体としてるいそうになるのではなく中心性肥満が典型だ。ただし、進行の速い悪性腫瘍による異所性ACTH産生では、肥満が目立たず体重減少することもある点は頭の片隅に置いておこう。
医学生医学生
尿量はどうでしょう。ナトリウムを貯留するなら、尿は減りそうな気がします。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。実際には高血糖による浸透圧利尿や、糸球体濾過量の増加、自由水排泄の促進によって、むしろ多尿傾向になる。逆に自由水をうまく排泄できなくなるのは、コルチゾールが不足する副腎不全のほうだ。
医学生医学生
白血球については、ステロイドを使っている患者さんの採血で白血球が増えていたのを、内科の実習で見ました。
ドクタードクター
いい観察だね。コルチゾールは骨髄からの好中球の動員を促し、血管壁にくっついている好中球を血中へはがし、さらに血管外への遊走を抑える。その結果、好中球優位の白血球増加になる。一方でリンパ球と好酸球は減る。好酸球減少はCushing症候群、好酸球増加は副腎不全の手がかりになるよ。
医学生医学生
カルシウムは、骨粗鬆症になるくらいなので体から失われる方向ですよね。尿中には増えるということでしょうか。
ドクタードクター
その理解で合っている。コルチゾールは骨吸収を促し、腎尿細管でのカルシウム再吸収を抑えるので、尿中カルシウム排泄は増える。高カルシウム尿症だね。これが尿路結石の原因になるし、腸管からの吸収低下や骨形成抑制も重なって骨粗鬆症や椎体圧迫骨折をきたしやすい。
医学生医学生
そうすると、残る抑うつが実際にみられる所見ですね。精神症状まで起こるとは、正直あまり意識していませんでした。
ドクタードクター
正解は抑うつだ。コルチゾールは中枢神経にも作用し、過剰になると抑うつ気分、不眠、不安、易刺激性、集中力や記憶力の低下などが起こる。Cushing症候群の半数以上に何らかの精神症状がみられるとされ、なかでも抑うつが最も多い。重症例では自殺企図や精神病様症状に至ることもあるんだ。
医学生医学生
精神科の実習で、ステロイド投与中に躁状態になった患者さんの話を聞きました。それとは違うんですか。
ドクタードクター
ステロイド薬による精神症状では、多幸や躁状態が現れることもある。抑うつと躁の両方向がありうると知っておくといい。臨床で大事なのは、うつ病として治療されていた人が、実はCushing症候群だったという経過があることだ。精神症状だけでなく身体所見と組み合わせて疑う姿勢が必要だね。
医学生医学生
でも中心性肥満や高血圧、糖尿病は普通の生活習慣病でもよくありますよね。どうやって見分ければいいんでしょう。
ドクタードクター
鋭い疑問だ。特異度が高いのは、蛋白異化を反映する所見なんだ。幅の広い赤紫色の皮膚線条、皮膚の菲薄化、軽い打撲での皮下出血、近位筋の筋力低下などだね。OSCEの身体診察でも、腹部の皮膚線条や、しゃがみ立ちができるかを意識して見ておくと役立つよ。
医学生医学生
疑ったら、まずはデキサメタゾン抑制試験でしたね。
ドクタードクター
そう。スクリーニングでは一晩少量デキサメタゾン抑制試験で翌朝のコルチゾールが抑制されないこと、深夜のコルチゾールが下がらない日内変動の消失、24時間尿中遊離コルチゾールの増加などを確認する。そのうえで血中ACTHを測り、低値なら副腎性、正常から高値ならACTH依存性として、下垂体MRIや下錐体静脈洞サンプリングなどで原因を絞っていく。手術で腫瘍を取った後は、抑制されていた正常の副腎や下垂体がすぐには働かないので、一時的なグルココルチコイド補充が必要になることも覚えておこう。
医学生医学生
Cushing症候群と副腎不全をちょうど裏返しで覚えると、選択肢の向きを間違えにくくなりそうです。
ドクタードクター
その通り。体型、血糖、血圧、白血球、尿量を対比させて整理しておけば、どちらの疾患の問題が出ても対応できるよ。

まとめ

Cushing症候群はコルチゾールの慢性的な過剰によって生じ、その症候は糖新生、蛋白異化、脂肪再分布、免疫抑制、骨吸収促進、中枢作用といったコルチゾールの作用から導くことができます。精神症状は高頻度にみられ、なかでも抑うつが最も多く、重症例では自殺企図に至ることもあるため、うつ病とされていた患者の背景に潜んでいることもあります。体型はるいそうではなく中心性肥満、白血球は好中球優位の増加(リンパ球・好酸球は減少)、尿は多尿傾向で高カルシウム尿症となり、いずれも副腎不全とは逆向きです。生活習慣病と紛らわしいため、赤紫色の皮膚線条や皮膚の菲薄化、近位筋力低下など特異度の高い所見に注目し、デキサメタゾン抑制試験などで確認する流れを押さえておくことが、見逃しを防ぐうえで大切です。

解答・解説

正解はbです

テーマ

Cushing症候群は、コルチゾール(グルココルチコイド)が慢性的に過剰となることで生じる症候群である。原因は、下垂体腺腫からのACTH(副腎皮質刺激ホルモン)過剰分泌によるCushing病、副腎腺腫などによるコルチゾール自律分泌、肺小細胞癌やカルチノイドなどからの異所性ACTH産生、そして最も頻度の高い医原性(ステロイド薬の長期投与)に分けられる。

症候はコルチゾールの作用から考える

コルチゾールは代謝・循環・免疫・骨・精神に幅広く作用するため、過剰になると以下のような所見が現れる。 ・糖・脂質代謝:糖新生亢進とインスリン抵抗性による高血糖、脂肪の再分布による中心性肥満・満月様顔貌・野牛肩(水牛様脂肪沈着)、脂質異常症 ・蛋白異化:皮膚の菲薄化、幅広い赤紫色の皮膚線条、易出血性(紫斑)、近位筋優位の筋力低下・筋萎縮、骨粗鬆症 ・循環・電解質:ミネラルコルチコイド様作用などによる高血圧、低カリウム血症(特に異所性ACTH産生で顕著) ・血液・免疫:好中球増加、リンパ球・好酸球減少、易感染性 ・骨・カルシウム:腸管カルシウム吸収低下と尿中カルシウム排泄増加(高カルシウム尿症)→ 尿路結石、骨粗鬆症 ・精神症状:抑うつ、不眠、情動不安定、多幸、精神病様症状 ・その他:月経異常、多毛・ざ瘡(アンドロゲン過剰を伴う場合)、消化性潰瘍、小児では成長障害

解き方

各選択肢を「コルチゾールが多いと増えるか、減るか」で判定すると、多尿、中心性肥満、白血球増加、高カルシウム尿症が本来みられる方向であり、それぞれ選択肢とは逆向きである。精神症状としての抑うつのみが実際にみられる所見である。

選択肢考察

  1. ×a.  乏尿

    みられない。コルチゾール過剰では、高血糖による浸透圧利尿や、糸球体濾過量の増加・自由水排泄の促進によって、むしろ多尿傾向となる。乏尿は逆にグルココルチコイドが不足する副腎不全(Addison病など)で問題となる。副腎不全では自由水の排泄が障害されて水利尿不全や低ナトリウム血症をきたすことがある。

  2. ○b.  抑うつ

    みられる。コルチゾールは中枢神経系にも作用し、過剰になると抑うつ気分、不眠、不安、易刺激性、集中力・記憶力の低下などを起こす。Cushing症候群の患者の半数以上に何らかの精神症状がみられるとされ、なかでも抑うつは最も多い。重症例では自殺企図や精神病様症状に至ることもある。ステロイド薬投与中にみられる精神症状(ステロイド精神病)では、多幸や躁状態が現れることもある。うつ病と診断されていた患者が実はCushing症候群だった、という経過もあるため、身体所見との組み合わせで疑うことが大切である。

  3. ×c.  るいそう

    みられない。コルチゾール過剰では体幹部・顔面・肩甲間部に脂肪が沈着する中心性肥満が典型であり、るいそう(高度のやせ)とはならない。一方で蛋白異化作用により四肢の筋肉は萎縮して細くなるため、太った体幹に細い手足という特徴的な体型(中心性肥満)になる。なお、異所性ACTH産生腫瘍のように進行が速く悪性腫瘍を伴う場合は、肥満が目立たず体重減少がみられることもある。

  4. ×d.  白血球減少

    みられない。コルチゾールは骨髄からの好中球の動員を促し、血管壁に付着している好中球が血中へはがれ出ること(辺縁プールからの移動)を増やし、さらに好中球の血管外への遊走を抑える。その結果、好中球優位の白血球増加となる。一方、リンパ球と好酸球は減少する。好酸球減少はCushing症候群の、好酸球増加は副腎不全の手がかりとなる。

  5. ×e.  低カルシウム尿症

    みられない。コルチゾール過剰は腎尿細管でのカルシウム再吸収を抑え、また骨吸収を促して骨から血中へカルシウムを動員するため、尿中カルシウム排泄は増加する(高カルシウム尿症)。これが尿路結石の原因となる。さらに腸管からのカルシウム吸収低下や骨形成抑制も加わり、骨粗鬆症・椎体圧迫骨折をきたしやすい。

Cushing症候群に特異性の高い所見

中心性肥満や高血圧、糖尿病は一般の生活習慣病でもよくみられるため、診断の手がかりとしては、幅の広い(1 cm以上)赤紫色の皮膚線条、皮膚の菲薄化、軽い打撲での皮下出血、近位筋の筋力低下(CKは上昇しない)など、蛋白異化を反映する所見の特異度が高い。

診断の流れ

1.スクリーニング(コルチゾール自律分泌の証明) ・一晩少量デキサメタゾン抑制試験:デキサメタゾン0.5〜1 mgを深夜に内服し、翌朝のコルチゾールが抑制されない ・深夜の血中・唾液中コルチゾールが低下しない(日内変動の消失) ・24時間尿中遊離コルチゾールの増加 2.病型診断 ・血中ACTHが低値(抑制)→ 副腎性(副腎腺腫など) ・血中ACTHが正常〜高値 → ACTH依存性(Cushing病または異所性ACTH産生)。大量デキサメタゾン抑制試験、CRH試験、下垂体MRI、海綿静脈洞(下錐体静脈洞)サンプリングで区別する。

治療の概略

Cushing病では経蝶形骨洞的下垂体腺腫摘出術、副腎腺腫では腹腔鏡下副腎摘出術が第一選択である。術後は対側副腎や正常下垂体の機能が抑制されているため、一時的なグルココルチコイド補充が必要になる。

Cushing症候群と副腎不全の対比

・体型:中心性肥満 ⇔ 体重減少 ・血糖:上昇 ⇔ 低下傾向 ・血圧:上昇 ⇔ 低下 ・白血球:好中球↑・好酸球↓ ⇔ 好酸球↑ ・尿量:多尿傾向 ⇔ 水利尿不全

POINT

・Cushing症候群の症候はコルチゾールの作用(糖新生、蛋白異化、脂肪再分布、免疫抑制、骨吸収促進、中枢作用)から導ける。 ・精神症状(抑うつが最多、ときに自殺企図)はよくみられる。 ・中心性肥満(るいそうではない)、好中球増加・好酸球/リンパ球減少、高カルシウム尿症(尿路結石)、多尿傾向。 ・特異性の高い身体所見は赤色皮膚線条、皮膚菲薄化、易出血性、近位筋力低下。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。