カルシウムは「ブレーキ役」―高Ca血症と低Ca血症を正反対で整理する
第108回医師国家試験 G問題 第9問
国試問題にチャレンジ
高カルシウム血症でみられないのはどれか。
- a.多尿
- b.せん妄
- c.易疲労感
- d.消化性潰瘍
- e.筋けいれん
対話形式の解説
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ドクターまとめ
細胞外のCa2+はナトリウムチャネルを開きにくくする膜安定化作用をもつため、高Ca血症では神経・筋の興奮性が低下し、低Ca血症では亢進します。そのため高Ca血症では易疲労感、筋力低下、せん妄・意識障害、便秘がみられ、筋けいれんやテタニーは低Ca血症側の症状です。高Ca血症ではこれに加え、Ca感知受容体を介した尿濃縮障害による多尿・口渇、ガストリン分泌刺激による消化性潰瘍、膵炎、尿路結石、QT短縮などが起こります。原因は外来では原発性副甲状腺機能亢進症、入院中では悪性腫瘍が代表で、評価は低アルブミン血症を考慮した補正Caで行います。「Caはブレーキ役」という原理を押さえておけば、高Ca血症と低Ca血症の多彩な症状を正反対の関係として整理でき、非特異的な訴えから電解質異常に気づく臨床力にもつながります。
解答・解説
正解はeです
カルシウムイオン(Ca2+)は神経や筋の興奮性を調節している。細胞外のCa2+は細胞膜のナトリウムチャネルの開口を起こりにくくする働き(膜安定化作用)をもつため、血清Ca濃度が上がると神経・筋の興奮性は低下し、下がると興奮性が亢進する。この原則を押さえると、高Ca血症と低Ca血症の症状を正反対のものとして整理できる。 ・高Ca血症:興奮性低下→筋力低下、脱力、易疲労感、腱反射低下、傾眠・せん妄・意識障害、便秘・食欲不振(消化管運動の低下) ・低Ca血症:興奮性亢進→テタニー(手足のしびれ、筋けいれん、助産師の手位)、Chvostek徴候・Trousseau徴候、けいれん発作 これに加えて高Ca血症では、腎での尿濃縮力の低下による多尿・口渇・多飲、腎結石、ガストリン分泌刺激による消化性潰瘍、膵炎、心電図のQT短縮などがみられる。本問は「みられないもの」を問うており、興奮性亢進の症状である筋けいれんが低Ca血症側の症状として除外できる。 高Ca血症の症状は全身に多彩だが、個々は非特異的なものが多い。そのため、原因不明の倦怠感、口渇・多尿、便秘、意識障害などをみたときに血清Ca値を測定することが診断の出発点となる。
選択肢考察
- ×a. 多尿
高Ca血症の代表的な症状である。Ca2+がヘンレループ太い上行脚のCa感知受容体(CaSR)を刺激すると、NaClの再吸収が抑えられて髄質の浸透圧勾配がつくられにくくなる。さらに集合管では抗利尿ホルモン(アルギニンバソプレシン:AVP)への反応性が低下し、水チャネル(アクアポリン2)を介した水の再吸収が減る。これらにより尿を濃縮できなくなり、二次性の腎性尿崩症の状態となって多尿、口渇、多飲をきたす。多尿は脱水を招いて腎血流を減らし、さらに高Ca血症を悪化させる悪循環をつくる。
- ×b. せん妄
高Ca血症では中枢神経の興奮性が低下し、集中力低下、抑うつ、傾眠、せん妄、錯乱などの精神神経症状が現れ、重症では昏睡に至る。特に高齢者では、せん妄や意識障害が高Ca血症の初発症状となることがあり、悪性腫瘍に伴う高Ca血症などで重要な所見である。
- ×c. 易疲労感
高Ca血症では神経・筋の興奮性が低下するため、全身倦怠感、易疲労感、筋力低下、脱力がみられる。非特異的な症状であるが、軽度の高Ca血症(原発性副甲状腺機能亢進症など)ではこうした漠然とした訴えのみのことも多く、見逃さないことが大切である。
- ×d. 消化性潰瘍
Ca2+は胃のG細胞からのガストリン分泌を刺激し、胃酸分泌を増やすため、高Ca血症は消化性潰瘍の原因となる。特に原発性副甲状腺機能亢進症では消化性潰瘍の合併が知られ、多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)ではガストリノーマ(Zollinger-Ellison症候群)の合併も加わって難治性潰瘍を呈しうる。このほか高Ca血症では消化管運動の低下による便秘、食欲不振、悪心・嘔吐、膵酵素の活性化による急性膵炎もみられる。
- ○e. 筋けいれん
筋けいれんは神経・筋の興奮性が亢進したときの症状であり、低Ca血症に特徴的なテタニーの表れである。高Ca血症ではむしろ興奮性が低下するため、筋力低下や脱力、腱反射低下がみられ、筋けいれんは生じない。したがって「高カルシウム血症でみられないもの」として本肢が該当する。低Ca血症ではこのほか、口周囲や手足のしびれ、助産師の手位、Chvostek徴候(顔面神経の叩打で口角がぴくつく)、Trousseau徴候(マンシェットで上腕を圧迫すると手が攣縮する)、全身けいれん、心電図のQT延長がみられる。
高Ca血症の症状のまとめ
・腎:多尿、口渇、多飲、脱水、尿路結石、腎石灰化、腎機能障害 ・消化器:食欲不振、悪心・嘔吐、便秘、消化性潰瘍、急性膵炎 ・神経・精神:易疲労感、筋力低下、抑うつ、せん妄、傾眠、昏睡 ・循環器:QT短縮、徐脈・不整脈、ジギタリスの作用増強 古くから「stones(結石), bones(骨病変), abdominal groans(腹部症状), psychic moans(精神症状)」とまとめて覚えられている。
高Ca血症の主な原因
・原発性副甲状腺機能亢進症:外来で見つかる高Ca血症の代表。PTH高値。 ・悪性腫瘍に伴う高Ca血症:入院患者で多い。PTH関連蛋白(PTHrP)産生によるもの(肺扁平上皮癌、成人T細胞白血病など)と、骨転移・骨髄腫による局所の骨融解によるものがある。PTHは抑制される。 ・ビタミンD過剰(ビタミンD製剤、サルコイドーシスなどの肉芽腫による活性型ビタミンD産生) ・その他:長期臥床(不動)、サイアザイド系利尿薬、ミルク・アルカリ症候群など
補正Ca
血清Caの約40%はアルブミンと結合しているため、低アルブミン血症では見かけのCa値が低くなる。アルブミン4 g/dL未満のときは、補正Ca(mg/dL)=実測Ca+(4-血清アルブミン g/dL)で評価する。
治療の要点
脱水の補正(生理食塩液の大量輸液)が基本で、ビスホスホネート製剤、カルシトニン、デノスマブ、原因疾患の治療などを組み合わせる。
POINT
・細胞外Ca2+は神経・筋の興奮性を抑える:高Ca→興奮性低下(脱力、易疲労、意識障害)、低Ca→興奮性亢進(テタニー、筋けいれん) ・高Ca血症:多尿・口渇(腎性尿崩症)、便秘・消化性潰瘍・膵炎、せん妄、QT短縮 ・低Ca血症:テタニー、Chvostek徴候、Trousseau徴候、けいれん、QT延長 ・評価は補正Caで行う
