StudyMed医師国家試験

カルシウムは「ブレーキ役」―高Ca血症と低Ca血症を正反対で整理する

第108回医師国家試験 G問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第108回 G問題 第9問

高カルシウム血症でみられないのはどれか。

  1. a.多尿
  2. b.せん妄
  3. c.易疲労感
  4. d.消化性潰瘍
  5. e.筋けいれん

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は高カルシウム血症の症状の中から「みられないもの」を選ぶ問題だ。症状を丸暗記するより、カルシウムイオンが神経や筋にどう働いているかという原理から考えると、迷わずに解けるよ。まず、細胞外のCa2+は神経・筋の興奮性に対してどんな役割をしているか覚えているかな。
医学生医学生
生理学の講義で習った気がします。Caが増えると筋肉が収縮しやすくなるので、興奮性も上がるんでしょうか。
ドクタードクター
そこは多くの人がつまずくところだね。筋細胞の中でCa2+が収縮を起こすのは確かだけど、ここで問題にしているのは細胞の外のCa2+なんだ。細胞外のCa2+は細胞膜のナトリウムチャネルを開きにくくする「膜安定化作用」をもっている。だから血清Caが上がると神経・筋の興奮性は下がり、Caが下がると興奮性が上がる。
医学生医学生
細胞の外のCaはブレーキ役、ということですね。ブレーキが強すぎると動きが鈍くなる、と。
ドクタードクター
いいたとえだね。その原則から高Ca血症の症状を考えると、脱力、筋力低下、易疲労感、腱反射の低下、そして中枢神経では集中力低下や傾眠、せん妄、重症では昏睡まで、すべて「興奮性の低下」で説明できる。消化管の動きも鈍くなるから便秘や食欲不振も出やすい。
医学生医学生
じゃあ易疲労感やせん妄は高Ca血症でみられる症状ですね。臨床実習の内科で、肺癌の高齢の方が急にせん妄になって、調べたら高Ca血症だったという症例を見ました。
ドクタードクター
まさに典型だよ。悪性腫瘍に伴う高Ca血症では、せん妄や意識障害が初発症状になることもある。高齢者の「急な混乱」をみたら、血清Caを測る習慣をつけておくといい。では多尿はどうだろう。
医学生医学生
多尿は……Caが尿に大量に出るので、浸透圧利尿でしょうか。
ドクタードクター
そう説明されることもあるけれど、主な機序は少し違う。Ca2+がヘンレループの太い上行脚にあるCa感知受容体を刺激するとNaClの再吸収が抑えられ、髄質の浸透圧勾配がつくりにくくなる。さらに集合管ではバソプレシンへの反応が鈍ってアクアポリン2を介した水の再吸収が減る。つまり二次的な腎性尿崩症の状態になって、多尿・口渇・多飲が起こるんだ。
医学生医学生
尿が濃縮できなくなるんですね。そうすると脱水になって、さらにCaが上がりそうです。
ドクタードクター
その通り。多尿による脱水が腎血流を減らし、Caの排泄が落ちてさらに高Ca血症が悪化する悪循環になる。だから治療の基本はまず生理食塩液の大量輸液で脱水を補正することなんだ。次は消化性潰瘍。これは少し意外に感じるかもしれないね。
医学生医学生
消化器内科の講義でZollinger-Ellison症候群の話は聞きましたけど、Caと潰瘍がつながるのはピンときません。
ドクタードクター
Ca2+には胃のG細胞からのガストリン分泌を刺激する作用があって、胃酸分泌が増えるから潰瘍ができやすくなる。原発性副甲状腺機能亢進症で潰瘍の合併が知られていて、MEN1ではガストリノーマも重なって難治性潰瘍になることがある。ほかに急性膵炎も高Ca血症の合併症として大事だよ。
医学生医学生
となると、残った筋けいれんは興奮性が上がったときの症状なので、低Ca血症のほうですね。
ドクタードクター
正解。筋けいれんは低Ca血症で起こるテタニーの表れで、高Ca血症ではむしろ筋力低下や脱力になる。だから「みられないもの」は筋けいれんだ。低Ca血症ではほかに口のまわりや手足のしびれ、助産師の手位、Chvostek徴候、Trousseau徴候、全身けいれんがみられる。
医学生医学生
OSCEの練習でChvostek徴候の手技を見たことがあります。頬を叩くと口角がぴくっと動くんですよね。高Caと低Caで心電図も逆になりますか。
ドクタードクター
なる。高Ca血症ではQT短縮、低Ca血症ではQT延長だ。高Ca血症ではジギタリスの作用が強まることも覚えておきたい。症状をまとめるなら、古くから「stones, bones, abdominal groans, psychic moans」、つまり結石、骨病変、腹部症状、精神症状と言われているよ。
医学生医学生
原因としては、外来なら原発性副甲状腺機能亢進症、入院中なら悪性腫瘍でしたっけ。
ドクタードクター
その理解でいい。悪性腫瘍ではPTH関連蛋白を産生するタイプと、骨転移や骨髄腫で骨が溶けるタイプがあって、どちらもPTHは抑制される。ほかにビタミンD製剤やサルコイドーシス、長期臥床、サイアザイド系利尿薬なども原因になる。それから臨床で忘れやすいのが補正Ca。血清Caの約4割はアルブミンと結合しているから、低アルブミン血症では実測値が見かけ上低く出る。アルブミンが4g/dL未満なら、実測Caに4から血清アルブミン値を引いた分を足して評価するんだ。
医学生医学生
栄養状態の悪い担癌患者さんだと、数字だけ見て正常と思ってしまうと見逃しそうですね。
ドクタードクター
そう、それが一番怖いところ。高Ca血症の症状はどれも非特異的だから、原因のはっきりしない倦怠感、口渇・多尿、便秘、意識障害をみたら、補正Caまで含めて確認することが診断の出発点になるよ。

まとめ

細胞外のCa2+はナトリウムチャネルを開きにくくする膜安定化作用をもつため、高Ca血症では神経・筋の興奮性が低下し、低Ca血症では亢進します。そのため高Ca血症では易疲労感、筋力低下、せん妄・意識障害、便秘がみられ、筋けいれんやテタニーは低Ca血症側の症状です。高Ca血症ではこれに加え、Ca感知受容体を介した尿濃縮障害による多尿・口渇、ガストリン分泌刺激による消化性潰瘍、膵炎、尿路結石、QT短縮などが起こります。原因は外来では原発性副甲状腺機能亢進症、入院中では悪性腫瘍が代表で、評価は低アルブミン血症を考慮した補正Caで行います。「Caはブレーキ役」という原理を押さえておけば、高Ca血症と低Ca血症の多彩な症状を正反対の関係として整理でき、非特異的な訴えから電解質異常に気づく臨床力にもつながります。

解答・解説

正解はeです

カルシウムイオン(Ca2+)は神経や筋の興奮性を調節している。細胞外のCa2+は細胞膜のナトリウムチャネルの開口を起こりにくくする働き(膜安定化作用)をもつため、血清Ca濃度が上がると神経・筋の興奮性は低下し、下がると興奮性が亢進する。この原則を押さえると、高Ca血症と低Ca血症の症状を正反対のものとして整理できる。 ・高Ca血症:興奮性低下→筋力低下、脱力、易疲労感、腱反射低下、傾眠・せん妄・意識障害、便秘・食欲不振(消化管運動の低下) ・低Ca血症:興奮性亢進→テタニー(手足のしびれ、筋けいれん、助産師の手位)、Chvostek徴候・Trousseau徴候、けいれん発作 これに加えて高Ca血症では、腎での尿濃縮力の低下による多尿・口渇・多飲、腎結石、ガストリン分泌刺激による消化性潰瘍、膵炎、心電図のQT短縮などがみられる。本問は「みられないもの」を問うており、興奮性亢進の症状である筋けいれんが低Ca血症側の症状として除外できる。 高Ca血症の症状は全身に多彩だが、個々は非特異的なものが多い。そのため、原因不明の倦怠感、口渇・多尿、便秘、意識障害などをみたときに血清Ca値を測定することが診断の出発点となる。

選択肢考察

  1. ×a.  多尿

    高Ca血症の代表的な症状である。Ca2+がヘンレループ太い上行脚のCa感知受容体(CaSR)を刺激すると、NaClの再吸収が抑えられて髄質の浸透圧勾配がつくられにくくなる。さらに集合管では抗利尿ホルモン(アルギニンバソプレシン:AVP)への反応性が低下し、水チャネル(アクアポリン2)を介した水の再吸収が減る。これらにより尿を濃縮できなくなり、二次性の腎性尿崩症の状態となって多尿、口渇、多飲をきたす。多尿は脱水を招いて腎血流を減らし、さらに高Ca血症を悪化させる悪循環をつくる。

  2. ×b.  せん妄

    高Ca血症では中枢神経の興奮性が低下し、集中力低下、抑うつ、傾眠、せん妄、錯乱などの精神神経症状が現れ、重症では昏睡に至る。特に高齢者では、せん妄や意識障害が高Ca血症の初発症状となることがあり、悪性腫瘍に伴う高Ca血症などで重要な所見である。

  3. ×c.  易疲労感

    高Ca血症では神経・筋の興奮性が低下するため、全身倦怠感、易疲労感、筋力低下、脱力がみられる。非特異的な症状であるが、軽度の高Ca血症(原発性副甲状腺機能亢進症など)ではこうした漠然とした訴えのみのことも多く、見逃さないことが大切である。

  4. ×d.  消化性潰瘍

    Ca2+は胃のG細胞からのガストリン分泌を刺激し、胃酸分泌を増やすため、高Ca血症は消化性潰瘍の原因となる。特に原発性副甲状腺機能亢進症では消化性潰瘍の合併が知られ、多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)ではガストリノーマ(Zollinger-Ellison症候群)の合併も加わって難治性潰瘍を呈しうる。このほか高Ca血症では消化管運動の低下による便秘、食欲不振、悪心・嘔吐、膵酵素の活性化による急性膵炎もみられる。

  5. ○e.  筋けいれん

    筋けいれんは神経・筋の興奮性が亢進したときの症状であり、低Ca血症に特徴的なテタニーの表れである。高Ca血症ではむしろ興奮性が低下するため、筋力低下や脱力、腱反射低下がみられ、筋けいれんは生じない。したがって「高カルシウム血症でみられないもの」として本肢が該当する。低Ca血症ではこのほか、口周囲や手足のしびれ、助産師の手位、Chvostek徴候(顔面神経の叩打で口角がぴくつく)、Trousseau徴候(マンシェットで上腕を圧迫すると手が攣縮する)、全身けいれん、心電図のQT延長がみられる。

高Ca血症の症状のまとめ

・腎:多尿、口渇、多飲、脱水、尿路結石、腎石灰化、腎機能障害 ・消化器:食欲不振、悪心・嘔吐、便秘、消化性潰瘍、急性膵炎 ・神経・精神:易疲労感、筋力低下、抑うつ、せん妄、傾眠、昏睡 ・循環器:QT短縮、徐脈・不整脈、ジギタリスの作用増強 古くから「stones(結石), bones(骨病変), abdominal groans(腹部症状), psychic moans(精神症状)」とまとめて覚えられている。

高Ca血症の主な原因

・原発性副甲状腺機能亢進症:外来で見つかる高Ca血症の代表。PTH高値。 ・悪性腫瘍に伴う高Ca血症:入院患者で多い。PTH関連蛋白(PTHrP)産生によるもの(肺扁平上皮癌、成人T細胞白血病など)と、骨転移・骨髄腫による局所の骨融解によるものがある。PTHは抑制される。 ・ビタミンD過剰(ビタミンD製剤、サルコイドーシスなどの肉芽腫による活性型ビタミンD産生) ・その他:長期臥床(不動)、サイアザイド系利尿薬、ミルク・アルカリ症候群など

補正Ca

血清Caの約40%はアルブミンと結合しているため、低アルブミン血症では見かけのCa値が低くなる。アルブミン4 g/dL未満のときは、補正Ca(mg/dL)=実測Ca+(4-血清アルブミン g/dL)で評価する。

治療の要点

脱水の補正(生理食塩液の大量輸液)が基本で、ビスホスホネート製剤、カルシトニン、デノスマブ、原因疾患の治療などを組み合わせる。

POINT

・細胞外Ca2+は神経・筋の興奮性を抑える:高Ca→興奮性低下(脱力、易疲労、意識障害)、低Ca→興奮性亢進(テタニー、筋けいれん) ・高Ca血症:多尿・口渇(腎性尿崩症)、便秘・消化性潰瘍・膵炎、せん妄、QT短縮 ・低Ca血症:テタニー、Chvostek徴候、Trousseau徴候、けいれん、QT延長 ・評価は補正Caで行う

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。