力はあるのに立てない―脳幹梗塞後の失調に選ぶべき「支え」は歩行器
第108回医師国家試験 G問題 第51問
国試問題にチャレンジ
55歳の男性。脳幹梗塞のため入院中である。2週前にふらつきが出現し,脳幹梗塞の診断で入院し,加療の後リハビリテーションを行っている。明らかな筋力低下はないが立位保持障害があり,足を大きく横に開いて何かにつかまらないと立っていられない。 移動に際しての補装具として適切なのはどれか。
- a.体幹コルセット
- b.短下肢装具
- c.長下肢装具
- d.T字杖
- e.歩行器
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
筋力低下がないのに足を大きく開いて何かにつかまらないと立てない状態は、脳幹病変などによる運動失調でバランスが保てなくなっていることを示しています。このようなバランス障害には、両手で支えて支持基底面を大きく広げられる歩行器が最も適しており、一点支持のT字杖では転倒を防ぎきれません。短下肢装具は尖足や下垂足、長下肢装具は膝折れ、体幹コルセットは脊椎疾患に用いるもので、いずれも失調には効果がありません。歩行補助具はT字杖、多点杖、ロフストランド杖・松葉杖、歩行器の順に安定性が高くなり、小脳性失調ではRomberg徴候が陰性、感覚性失調では陽性になる点もあわせて押さえましょう。補装具は「筋力・関節の支持性・バランスのどれが障害されているか」で選ぶという考え方が、リハビリテーション医療の基本です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・55歳の男性。2週前にふらつきで発症した脳幹梗塞で、急性期治療を終えてリハビリテーション中である(亜急性期)。 ・明らかな筋力低下はない。つまり、手足を動かす力(運動麻痺)の問題ではない。 ・足を大きく横に開き(開脚位)、何かにつかまらないと立っていられない。
障害の評価
筋力は保たれているのに立位が保てず、足を広げて支える面(支持基底面)を広くしてバランスをとっている。これは運動失調(筋力はあるのに、動きの協調や姿勢のバランスがうまく調整できない状態)による立位・歩行障害である。脳幹、とくに橋や延髄の病変では、小脳とつながる経路(小脳脚など)が障害されて、小脳性の運動失調が起こりやすい。体幹の失調が強いと、酔っぱらったような開脚歩行(wide-based gait)となり、転倒しやすい。
設問の考え方
補装具は障害の種類に合わせて選ぶ。関節を固定・保護する装具(コルセット、下肢装具)は、麻痺や関節の不安定性、脊椎の病気に使うもので、バランスの障害は改善しない。本例に必要なのは、つかまることで支える面を大きく広げ、左右・前後の揺れを抑えて安全に移動できる用具である。杖の中で最も支える面が狭いT字杖では不十分であり、体の周りを囲んで両手で支持できる歩行器が適している。
選択肢考察
- ×a. 体幹コルセット
体幹コルセット(体幹装具)は、脊柱の動きを制限・固定したり、脊椎の並びを矯正・保持したりする装具である。腰痛症、脊椎圧迫骨折、脊椎術後、側弯症などに用いる。体幹をある程度固定できても、小脳性・脳幹性の運動失調によるバランス障害は改善せず、移動のための補装具として不適切である。
- ×b. 短下肢装具
短下肢装具(AFO:下腿から足部までを覆う装具)は足関節の動きを制御し、つま先が下がる尖足や下垂足を防いで、歩行時に足先が床に引っかからないようにする。脳卒中の片麻痺や腓骨神経麻痺などに用いる。本例は筋力低下がなく足関節の支持性も保たれており、バランスの障害には効果がない。
- ×c. 長下肢装具
長下肢装具(KAFO:大腿から足部までを覆う装具)は膝関節と足関節を固定・制御し、立つときに膝が折れる(膝折れ)のを防ぐ。重い片麻痺や対麻痺、大腿四頭筋の筋力低下などで膝の支持性が失われた場合に使う。重度片麻痺の脳卒中急性期に、早期から立位・歩行訓練を行うために使うこともある。本例は下肢の筋力が保たれており、適応はない。
- ×d. T字杖
T字杖は片手で使う一本杖で、支える面を広げる効果も体重を支える力(免荷)も小さい。立位バランスが比較的保たれている人の補助や、軽い片麻痺・下肢の痛みがある場合に向いている。本例のように、何かにつかまらないと立っていられないほど失調が強い場合、片手の一点支持では体の揺れを十分に止められず、転倒の危険が高い。
- ○e. 歩行器
歩行器は体の前方と左右を囲むフレームを両手で持って使う。支える面が大きく広がるため、杖より安定性がはるかに高い。筋力が保たれていれば歩行器を押したり持ち上げたりして使うことができ、運動失調や重い感覚障害によるバランス障害にも適している。本例のように筋力は十分でも立位バランスが悪い患者が、転倒を防ぎながら移動や歩行訓練を行うのに最も適した補装具である。
運動失調の種類と特徴
・小脳性運動失調:小脳や、小脳とつながる経路(脳幹の小脳脚など)の障害で起こる。開脚歩行、指鼻試験・踵膝試験での測定障害、反復拮抗運動障害、構音障害(断綴性言語)、眼振などがみられる。Romberg徴候は陰性である(目を閉じても揺れが大きく悪化しない)。 ・感覚性(脊髄後索性)運動失調:関節の位置や動きの感覚(深部感覚)の障害で起こる。視覚で補っているため、Romberg徴候が陽性になる(目を閉じると大きく揺れる)。 ・前庭性運動失調:前庭(平衡感覚器)の障害で起こる。めまいや眼振を伴う。 脳幹梗塞では、小脳症状に加えて、脳神経麻痺(複視、顔面の感覚障害など)、構音・嚥下障害、片麻痺や感覚障害が組み合わさることがある(例:Wallenberg症候群〔延髄外側症候群〕では、病変側の小脳失調、顔面の温痛覚障害、Horner症候群と、反対側の体幹・四肢の温痛覚障害などがみられる)。
主な歩行補助具と適応
支える面が狭く安定性が低い順に、T字杖 → 多点杖(四点杖など)→ ロフストランド杖(前腕で支えるカフ付きの杖)・松葉杖 → 歩行器 → 車椅子となる。 ・T字杖:バランスが比較的良い人。片麻痺では健側の手で持つ。 ・多点杖:T字杖より安定する。片麻痺でバランスがやや不良な人に使う。 ・ロフストランド杖・松葉杖:下肢の免荷(体重をかけない・減らす)が必要な場合や、両側の下肢障害がある場合に使う。 ・歩行器:両手で使い、安定性が最も高い。持ち上げて進む固定型(ピックアップ型)と、車輪付きの型がある。上肢の機能と、ある程度の下肢の支持性が必要である。バランス障害(失調、パーキンソニズム、高齢者の筋力低下など)や術後の歩行訓練に用いる。
運動失調のリハビリテーション
バランス訓練、Frenkel体操(目で確かめながら、ゆっくり正確な動きを繰り返す協調性訓練)、手首・足首に重りを付けたり弾性包帯を巻いたりして揺れを抑える方法などがある。安全に移動するため、歩行器などの歩行補助具を併用する。
POINT
・筋力は正常で、開脚位で何かにつかまらないと立てない → 運動失調によるバランス障害である(脳幹・小脳病変)。 ・バランス障害が強い患者の移動には、支える面が最も広く安定する歩行器を選ぶ。T字杖では不十分である。 ・短下肢装具は下垂足や尖足、長下肢装具は膝折れ(膝の支持性の低下)、体幹コルセットは脊椎疾患に用いる。いずれも失調には効果がない。 ・補装具は「どの機能が障害されているか(筋力・関節の支持性・バランス)」で選ぶ。
