StudyMed医師国家試験

途上国が本当に必要としたもの―ミレニアム開発目標に「高度医療」がない理由

第108回医師国家試験 G問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第108回 G問題 第4問

 国連ミレニアム開発目標〈MDG〉に含まれないのはどれか。

  1. a.初等教育の普及
  2. b.高度医療の推進
  3. c.極度の貧困の撲滅
  4. d.乳幼児死亡率の削減
  5. e.HIV/エイズの蔓延防止

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は国際保健の問題で、国連ミレニアム開発目標、いわゆるMDGsに含まれないものを選ぶ。8つの目標を丸暗記していなくても、「MDGsは誰の、どんな課題を解決するための目標か」という性格をつかめば解けるよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義でSDGsは習いましたが、MDGsはその前身、くらいの記憶しかありません。
ドクタードクター
それで出発点としては十分。MDGsは2000年の国連ミレニアム・サミットを契機にまとめられ、2015年を期限とした8つの目標だ。対象は主に開発途上国で、貧困と、それに伴う食料、教育、母子の命、感染症、安全な水といった基本的なニーズを満たすことが狙いだった。
医学生医学生
つまり「途上国の最低限の生活と健康を底上げする目標か」という視点で選択肢を見ればいいんですね。
ドクタードクター
その通り。まず極度の貧困の撲滅はどうかな。
医学生医学生
貧困対策が目的なら、これは真っ先に入っていそうです。
ドクタードクター
正解。目標1が「極度の貧困と飢餓の撲滅」で、MDGsの中心だ。1日1ドル未満で暮らす人の割合と飢餓に苦しむ人の割合を、1990年から2015年までに半減させることがターゲットだった。初等教育の普及は?
医学生医学生
教育は健康と直接関係なさそうですが、貧困から抜け出す基盤になるので入っている気がします。
ドクタードクター
いい推論だね。目標2が「普遍的初等教育の達成」。教育は貧困脱出の土台であり、保健知識を広める基盤でもある。母親の教育水準が子どもの健康を左右する、という話は聞いたことがあるかな。
医学生医学生
社会医学の講義で、母親の識字率と乳児死亡率の関係を見ました。
ドクタードクター
まさにそれ。次に乳幼児死亡率の削減とHIV/エイズの蔓延防止。どちらも保健分野だ。
医学生医学生
小児科の実習で、途上国では肺炎や下痢症、麻疹で亡くなる子どもが多いと聞きました。感染症対策も含めて、両方とも入っていそうです。
ドクタードクター
そう。目標4が幼児死亡率の削減で、5歳未満児死亡率を3分の2減らすことが掲げられ、麻疹の予防接種率も指標になっていた。目標6はHIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止。三大感染症対策は保健分野の柱の一つだ。
医学生医学生
となると、残る高度医療の推進が含まれないものですね。でも、医療を進めること自体は良いことのように思えますが……。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心。基礎的な保健サービスすら行き届かない地域で、まず必要なのは予防接種、母子保健、安全な水、感染症対策といったプライマリ・ヘルス・ケアに近い取り組みだ。高額な先端医療は届く人がごく限られ、最初に取り組むべき課題とはいえない。だからMDGsのどの目標にも入っていないんだ。
医学生医学生
限られた資源で多くの命を救うには、基礎から固めるということですね。
ドクタードクター
その感覚が国際保健の考え方そのものだ。保健に直接関わる目標は、幼児死亡率の削減、妊産婦の健康の改善、HIV/エイズなどの蔓延防止の3つ。ほかにジェンダー平等、環境の持続可能性、グローバル・パートナーシップを加えて8つになる。
医学生医学生
MDGsはもう終わっているんですよね。今の国試ではSDGsのほうが大事ですか。
ドクタードクター
そう考えていい。MDGsは極度の貧困人口の割合を半減させるなど成果を挙げた一方、妊産婦死亡の削減などは未達成で、地域間の格差も残った。それを引き継いだのが2015年に採択されたSDGsで、17目標、2030年が期限だ。大きな違いは、途上国だけでなく先進国を含むすべての国が対象で、「誰一人取り残さない」を理念にしている点だね。
医学生医学生
保健分野は目標3の「すべての人に健康と福祉を」でしたね。CBTの対策でも見かけました。
ドクタードクター
よく覚えているね。目標3には母子保健や感染症対策に加えて、非感染性疾患対策や、すべての人が経済的困難なく必要な医療を受けられるユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成も含まれる。MDGsからSDGsへの流れを、基礎的ニーズの充足から、すべての国の持続可能な健康へと視野が広がった変化として理解しておくといいよ。

まとめ

国連ミレニアム開発目標(MDGs)は、2000年の国連ミレニアム・サミットを契機に策定された2015年期限の8つの目標で、主に開発途上国の貧困と基本的ニーズの充足を目的としていました。極度の貧困と飢餓の撲滅、初等教育の普及、幼児死亡率の削減、妊産婦の健康改善、HIV/エイズ・マラリアなどの蔓延防止などが含まれますが、高度医療の推進は含まれません。基礎的な保健サービスが届かない地域では、予防接種や母子保健、感染症対策といったプライマリ・ヘルス・ケアが優先されるためです。MDGsは2015年に終了し、すべての国を対象に「誰一人取り残さない」を掲げるSDGs(17目標、2030年期限)へ引き継がれ、保健分野は目標3としてユニバーサル・ヘルス・カバレッジなども含むようになりました。国際保健の目標が何を優先してきたかを理解することは、限られた資源で健康を守る公衆衛生の考え方を身につけることにつながります。

解答・解説

正解はbです

国連ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)は、2000年9月にニューヨークで開かれた国連ミレニアム・サミットで採択された「国連ミレニアム宣言」と、1990年代の主要な国際会議・サミットで合意された開発目標とを一つの枠組みにまとめたものである。2015年を達成期限とし、8つの目標(ゴール)と、その下に具体的な数値ターゲットが設定された。 MDGsの性格を一言でいえば「開発途上国の貧困とそれに伴う基本的な人間のニーズ(食料・教育・母子の命・感染症対策・安全な水など)を満たすための目標」である。したがって、選択肢を判断する際は「途上国の最低限の生活・健康水準を底上げする内容か」という観点で見るとよい。初等教育、貧困・飢餓、子どもの死亡、HIV/エイズなどの感染症はいずれもこの観点に合致する。一方、先端的・高額な医療技術の普及は、基礎的な保健サービスすら行き届かない地域での優先課題ではなく、MDGsの目標には入っていない。 なお、MDGsは2015年で期限を迎え、同年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」(17目標・169ターゲット、2016〜2030年)に引き継がれている。現在の出題ではSDGsの内容が問われることが多いため、MDGsはSDGsの前身として位置づけを理解しておけば十分である。

選択肢考察

  1. ×a.  初等教育の普及

    MDGsの目標2は「普遍的初等教育の達成」であり、2015年までにすべての子どもが男女の区別なく初等教育の全課程を修了できるようにすることがターゲットとされた。教育は貧困からの脱出や保健知識の普及の基盤となるため、目標に含まれている。

  2. ○b.  高度医療の推進

    MDGsの8目標のいずれにも該当しない。MDGsは途上国の極度の貧困や基本的な保健課題(子どもと妊産婦の死亡、主要感染症)への対策を柱としており、保健分野の目標も予防接種、母子保健、感染症対策といったプライマリ・ヘルス・ケアに近い基礎的な内容である。先端医療技術の推進は途上国支援として最初に取り組むべき課題とはいえず、目標には掲げられていない。したがって本肢が「含まれないもの」として正解である。

  3. ×c.  極度の貧困の撲滅

    目標1は「極度の貧困と飢餓の撲滅」であり、MDGsの中心となる目標である。1990年から2015年までに、1日1ドル未満で生活する人の割合、および飢餓に苦しむ人の割合をそれぞれ半減させることがターゲットとされた。

  4. ×d.  乳幼児死亡率の削減

    目標4は「幼児(乳幼児)死亡率の削減」であり、1990年から2015年までに5歳未満児死亡率を3分の2減少させることがターゲットとされた。麻疹予防接種の普及なども指標に含まれていた。

  5. ×e.  HIV/エイズの蔓延防止

    目標6は「HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止」であり、2015年までにHIV/エイズの蔓延を阻止し、その後減少させることなどがターゲットとされた。三大感染症(HIV/エイズ、結核、マラリア)対策はMDGsの保健分野の柱の一つである。

MDGsの8つの目標

1. 極度の貧困と飢餓の撲滅 2. 普遍的初等教育の達成 3. ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上 4. 幼児死亡率の削減 5. 妊産婦の健康の改善(妊産婦死亡率を1990〜2015年で4分の3減少) 6. HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止 7. 環境の持続可能性の確保(安全な飲料水と基礎的な衛生施設を利用できない人の割合の半減など) 8. 開発のためのグローバル・パートナーシップの推進 8目標のうち、保健に直接関わるのは目標4・5・6の3つであり、目標1(飢餓による栄養不良)や目標7(安全な水・衛生)も健康と深く関係する。

MDGsを受けた国際保健の動き

・2002年:世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)が設立され、三大感染症対策の資金を担うようになった。 ・日本は2010年に、母子保健、三大感染症対策、公衆衛生上の緊急事態への対応を3本柱とする「国際保健政策2011-2015」を策定した。

SDGsへの移行

MDGsは一定の成果(極度の貧困人口の割合の半減など)を挙げた一方、妊産婦死亡の削減などは未達成であり、地域間格差も残った。これを受け、2015年9月の国連サミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、SDGs(17目標・169ターゲット)が設定された。MDGsが主に途上国を対象としたのに対し、SDGsは先進国を含むすべての国を対象とし、「誰一人取り残さない(leave no one behind)」を理念とする。保健分野は目標3「すべての人に健康と福祉を」にまとめられ、妊産婦死亡・新生児死亡・5歳未満児死亡の削減、感染症対策、非感染性疾患対策、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC:すべての人が必要な保健医療サービスを経済的困難なく受けられる状態)の達成などが含まれる。

POINT

・MDGsは2000年の国連ミレニアム・サミットを契機に策定された、2015年を期限とする8つの開発目標で、主に途上国の貧困対策を目的とする。 ・保健関連の目標は、幼児死亡率の削減、妊産婦の健康の改善、HIV/エイズ・マラリアなどの蔓延防止の3つ。 ・「高度医療の推進」は含まれない(途上国支援の基本は基礎的保健サービスの普及)。 ・MDGsは2015年に終了し、SDGs(17目標、2030年期限、全ての国が対象)に引き継がれた。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。