肝臓が壊れればアルブミンは下がる―「作られる場所」から読み解く検査値
第108回医師国家試験 G問題 第16問
国試問題にチャレンジ
血液検査項目とその検査結果が高値となる病態の組合せで誤っているのはどれか。
- a.K ―― 溶血性貧血
- b.総蛋白 ―― 多発性骨髄腫
- c.アルブミン ―― 非代償性肝硬変
- d.総コレステロール ―― 甲状腺機能低下症
- e.直接ビリルビン ―― Dubin-Johnson症候群
対話形式の解説
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ドクターまとめ
アルブミンは肝細胞でのみ合成されるため、合成能が破綻した非代償性肝硬変では低値となり、腹水への漏出も加わって低アルブミン血症が腹水・浮腫を悪化させます。一方、溶血では赤血球内に多いKやLDHが血中に出て上昇し、多発性骨髄腫ではM蛋白により総蛋白が上昇してA/G比が低下し、甲状腺機能低下症ではLDL受容体発現の低下などにより総コレステロールが上昇し、Dubin-Johnson症候群ではMRP2異常により直接ビリルビンが上昇します。検査値の変動は「細胞破壊で上がる」「合成低下で下がる」「排泄障害で溜まる」という産生・処理の原則から説明できます。この考え方を身につけておくと、偽性高カリウム血症や二次性脂質異常症の見落としを防ぐなど、日常診療での検査値の解釈にも直結します。
解答・解説
正解はcです
本問は、血液検査項目が「高値」になる代表的な病態を正しく結び付けられるかを問う一般問題である。「誤っているのはどれか」という否定形の設問なので、検査値が上昇しない(むしろ低下する)組合せを一つ選ぶ。 考え方の手順は次のとおりである。 1. それぞれの検査値が「どこで作られ(または貯えられ)」「どのように処理・排泄されるか」を思い出す。 2. 挙げられた病態が、その産生・放出・処理のどの段階にどう影響するかを考える。 例えば、細胞内に多い物質(K など)は細胞が壊れると血中に出て上昇する。肝臓で合成される物質(アルブミン、凝固因子、コリンエステラーゼなど)は肝合成能が落ちると低下する。代謝・排泄の経路が障害されると、その上流の物質が血中にたまって上昇する。この原則を当てはめると、合成の場である肝臓が高度に障害された非代償性肝硬変でアルブミンが「高値」になるという組合せだけが矛盾しており、これが誤りである。
選択肢考察
- ×a. K ―― 溶血性貧血
組合せとして正しい。カリウム(K)は細胞内に多く含まれる陽イオンで、赤血球内の濃度は血漿の約25倍(赤血球内およそ100 mEq/L、血漿およそ4 mEq/L)に達する。溶血で赤血球膜が壊れると、細胞内の K が血漿へ漏れ出し、血清 K が上昇しうる。同じく赤血球内に多い乳酸脱水素酵素(LDH)も溶血で上昇し、あわせて間接ビリルビンの上昇、ハプトグロビンの低下、網赤血球の増加がみられる。なお、採血手技の不良による試験管内の溶血でも K が見かけ上高くなる(偽性高K血症)ため、臨床では検体の溶血の有無を確認する必要がある。
- ×b. 総蛋白 ―― 多発性骨髄腫
組合せとして正しい。多発性骨髄腫は、抗体を産生する形質細胞が単一の細胞に由来して腫瘍性に増える疾患である。腫瘍細胞は単一種類の免疫グロブリン(M蛋白、モノクローナル蛋白)を大量に分泌するため、血清のγ-グロブリン分画が増え、総蛋白が上昇する。アルブミンは増えないので、アルブミン/グロブリン比(A/G比)は低下する。血清蛋白電気泳動では γ 分画などに幅の狭い鋭いピーク(M ピーク)がみられる。ただし、軽鎖のみを産生する型(Bence Jones型)では蛋白が尿中に失われ、総蛋白が上昇しないことがある点も知っておくとよい。
- ○c. アルブミン ―― 非代償性肝硬変
これが誤った組合せであり、本問の正解である。アルブミンは肝細胞でのみ合成される血漿蛋白である。肝硬変が進行して肝予備能が破綻した非代償期(黄疸、腹水、肝性脳症などが現れる段階)では、肝細胞の数と機能が失われて合成能が著しく低下し、血清アルブミンは低値となる(基準値はおよそ 4〜5 g/dL)。さらに腹水への漏出や、門脈圧亢進による腸管からの蛋白喪失も低下に拍車をかける。低アルブミン血症は膠質浸透圧を下げ、腹水や浮腫を悪化させる。血清アルブミンは Child-Pugh分類の評価項目にも含まれ、肝合成能を示す重要な指標である。したがって「高値となる」という組合せは誤りである。
- ×d. 総コレステロール ―― 甲状腺機能低下症
組合せとして正しい。甲状腺ホルモンは肝細胞表面の LDL受容体の発現を高め、血中の LDLコレステロールの取り込みを促す。また、コレステロールを胆汁酸へ変えたり胆汁中へ排泄したりする経路も促進する。甲状腺機能低下症ではこれらの働きが弱まり、コレステロールの処理・排泄が滞るため、LDLコレステロールを中心に総コレステロールが上昇する。このため脂質異常症を診たときには、二次性の原因として甲状腺機能低下症を除外することが重要である。逆に甲状腺機能亢進症ではコレステロールは低下する。
- ×e. 直接ビリルビン ―― Dubin-Johnson症候群
組合せとして正しい。Dubin-Johnson症候群は常染色体潜性(劣性)遺伝の体質性黄疸で、肝細胞から毛細胆管へ抱合型ビリルビンを汲み出す輸送蛋白 MRP2(multidrug resistance-associated protein 2、遺伝子名 ABCC2)の異常が原因である。肝細胞内でグルクロン酸抱合までは正常に行われるが、胆汁中への排出が障害されるため、抱合型(直接)ビリルビンが血中へ逆流し、直接ビリルビン優位の高ビリルビン血症となる。肝細胞に黒褐色の色素が沈着し、腹腔鏡で肝臓が黒くみえる(黒色肝)のが特徴である。肝機能検査の他の項目はほぼ正常で、予後は良好である。
検査値が変動するしくみの整理
・細胞内に多い物質が細胞破壊で上昇するもの: K、LDH、AST(溶血、横紋筋融解、腫瘍崩壊症候群など) ・肝臓で合成され、肝合成能低下で低下するもの: アルブミン、凝固因子(プロトロンビン時間の延長)、コリンエステラーゼ、総コレステロール ・代謝・排泄の障害で上昇するもの: ビリルビン、アンモニア、コレステロール(甲状腺機能低下症、閉塞性黄疸、ネフローゼ症候群)
体質性黄疸の整理
・間接(非抱合型)ビリルビン優位: Gilbert症候群(UGT1A1 活性の軽度低下、頻度が高い、絶食やストレスで上昇)、Crigler-Najjar症候群(UGT1A1 活性の欠損または高度低下、I型は新生児期から重症で核黄疸の危険) ・直接(抱合型)ビリルビン優位: Dubin-Johnson症候群(MRP2 の異常、黒色肝あり)、Rotor症候群(肝細胞への再取り込みを担う OATP1B1/1B3 の欠損、黒色肝なし)
血清蛋白の見方
総蛋白はアルブミンとグロブリンの合計である。総蛋白が高くA/G比が低い場合はグロブリン増加(多発性骨髄腫、原発性マクログロブリン血症、慢性炎症、自己免疫疾患など)を考える。総蛋白が低い場合は、合成低下(肝硬変、低栄養)と喪失(ネフローゼ症候群、蛋白漏出性胃腸症、熱傷)を鑑別する。
POINT
・アルブミンは肝臓でのみ合成されるため、非代償性肝硬変では低下する(高値にはならない)。 ・溶血では赤血球内の K と LDH が血中に出て上昇し、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下を伴う。 ・多発性骨髄腫では M蛋白により総蛋白が上昇し、A/G比は低下する。 ・甲状腺機能低下症は二次性高コレステロール血症の代表的原因である。 ・Dubin-Johnson症候群は直接ビリルビン優位の体質性黄疸(MRP2 異常、黒色肝)である。
