波動を触れる「袋」の正体―粉瘤から学ぶ発疹の分類
第119回医師国家試験 F問題 第50問
国試問題にチャレンジ
45歳の男性。2か月前から生じた右腋窩の皮疹を主訴に来院した。被覆皮膚と癒着し波動を触れる径20mmの皮疹を認める。腋窩の写真(A)と皮疹部の超音波像(B)とを下に示す。 この皮疹の種類はどれか。

- a.丘疹
- b.苔癬
- c.囊腫
- d.膿疱
- e.膨疹
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
皮膚と癒着し、波動を触れ、超音波で境界明瞭な低エコー腫瘤と後方エコー増強を示す病変は、類表皮囊腫(粉瘤)を考えます。上皮性の壁で裏打ちされた袋の中に角質などの内容物がたまった病変は、発疹の分類上「囊腫」に当たります。丘疹はおおむね10mm以下の充実性隆起、膿疱は膿を含む表在性の隆起、膨疹は蕁麻疹にみられる一過性の浮腫であり、丘疹の集まりである「苔癬」と続発疹である「苔癬化」は別の概念です。粉瘤は壁ごと摘出しないと再発しやすく、感染や囊腫壁の破綻で炎症性粉瘤になれば切開排膿を行います。皮疹を正しく言葉にして分類する力は、皮膚科診療における診断の出発点になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・45歳の男性。2か月前から右腋窩に皮疹が出現している。 ・大きさは径20mmで、上を覆う皮膚と癒着しており、触診で波動(内部に液状・軟らかい内容物があることを示す揺らぎ)を触れる。 ・写真(A)では、境界のはっきりしたドーム状の隆起で、色調は常色からやや青灰色を帯び、表面の皮膚には発赤・びらんなどの炎症所見が目立たない。 ・超音波像(B)では、表皮のすぐ下(真皮〜皮下)に、境界明瞭な類円形〜楕円形の低エコー域があり、内部エコーはやや不均一で、後方エコーの増強と側方陰影(外側陰影)を伴う。
診断へのプロセス
皮膚と癒着している点は、病変が表皮・真皮に由来する(皮膚付属器や表皮が袋状に陥入した構造である)ことを示唆する。皮下脂肪織由来の脂肪腫などは通常、皮膚との癒着を欠き可動性がある点で異なる。波動は内容物を含む袋状構造を示唆し、超音波で被膜に包まれた境界明瞭な低エコー腫瘤に後方エコー増強が伴うことは、内部が液体や軟らかい角質で満たされた囊腫の典型像である。炎症所見が乏しいため膿瘍は考えにくい。以上から、類表皮囊腫(粉瘤、アテローム)と診断するのが最も妥当である。類表皮囊腫は表皮成分が真皮内に袋状に入り込み、囊腫壁(表皮と同様の重層扁平上皮)から産生された角質が内部に貯留する良性病変である。
設問の考え方
本問は疾患名ではなく「皮疹の種類(発疹学的な分類)」を問うている。発疹は見た目と構造によって原発疹(斑、丘疹、結節、腫瘤、水疱、膿疱、囊腫、膨疹など)と続発疹(びらん、潰瘍、鱗屑、痂皮、瘢痕、苔癬化など)に分類される。被膜(上皮などの膜)で裏打ちされた袋の中に内容物がたまった病変は「囊腫」に分類されるため、正解は c である。
選択肢考察
- ×a. 丘疹
丘疹は皮膚面から盛り上がった限局性の隆起で、直径がおおむね10mm以下(文献により5mm以下とすることもある)のものを指す。これより大きい充実性の隆起は結節、さらに大きいものは腫瘤と呼ぶ。本例は径20mmと大きいうえ、波動を触れ超音波で内部に内容物を伴う袋状構造が確認できるため、充実性の小隆起である丘疹には当たらない。
- ×b. 苔癬
苔癬は小さく硬い丘疹が多数、集簇あるいは散在して長く同じ形態を保つ状態を指す(扁平苔癬、光沢苔癬、アミロイド苔癬などの病名に用いられる)。本例は単発の径20mmの病変であり該当しない。なお、慢性の掻破などで皮膚が厚く硬くなり皮溝・皮丘が目立つ「苔癬化」は続発疹であり、「苔癬」とは別の概念である。
- ○c. 囊腫
囊腫は、真皮内などにできた上皮性の壁(膜様構造)で裏打ちされた袋状の病変で、内部に角質・液体・脂質などの内容物を含む。本例は皮膚と癒着した径20mmの病変で波動を触れ、超音波で境界明瞭な低エコー腫瘤と後方エコー増強を示しており、内部に角質を貯留した類表皮囊腫(粉瘤)と考えられる。したがって発疹の種類としては囊腫に分類される。囊腫には類表皮囊腫のほか、外毛根鞘囊腫、エクリン汗囊腫(内容は液体)などがある。
- ×d. 膿疱
膿疱は、水疱の内容が膿(主に好中球)となったもので、白色〜黄色にみえる表在性の小隆起である。毛包炎、尋常性痤瘡、掌蹠膿疱症、膿疱性乾癬などでみられる。本例は表面に白黄色の膿の透見や炎症所見がなく、深部に位置する20mm大の袋状病変であるため膿疱ではない。
- ×e. 膨疹
膨疹は真皮上層の一過性・限局性の浮腫による扁平な隆起で、淡い紅斑と瘙痒を伴い、通常は数時間〜24時間以内に跡を残さず消退する。蕁麻疹に特徴的な発疹である。本例は2か月間持続する病変で、波動や超音波上の袋状構造を伴うため膨疹ではない。
原発疹と続発疹
原発疹:皮膚病変として最初に現れる発疹。斑(紅斑、紫斑、色素斑、白斑)、丘疹(おおむね10mm以下の隆起)、結節(丘疹より大きい充実性隆起)、腫瘤(さらに大きい、または腫瘍性の隆起)、水疱(漿液を入れる表皮内・表皮下の腔。5mm未満を小水疱とよぶ)、膿疱(膿を入れる水疱)、囊腫(上皮で裏打ちされた真皮内の袋状構造)、膨疹(一過性の限局性浮腫)など。 続発疹:原発疹などに引き続いて生じる変化。表皮剝離、びらん(表皮内までの欠損)、潰瘍(真皮以深に達する欠損)、亀裂、鱗屑、痂皮、膿瘍、胼胝、萎縮、瘢痕、苔癬化など。
類表皮囊腫(粉瘤、アテローム)
・表皮成分が真皮内に陥入・増殖して袋状となり、囊腫壁(顆粒層を伴う重層扁平上皮)から産生された角質が内部に貯留する良性腫瘍。顔面、頸部、背部、耳後部などに好発し、腋窩などにも生じる。 ・中央に黒い点状の開口部(面皰様開口)を認めることがあり、圧迫すると悪臭のある粥状の角質が出ることがある。 ・細菌感染や囊腫壁の破綻による異物反応で発赤・疼痛・腫脹を伴う炎症性粉瘤となることがあり、この場合は切開排膿を行う。 ・根治には囊腫壁ごと摘出する必要がある(くり抜き法などもある)。壁が残ると再発しやすい。 ・超音波では、真皮〜皮下に境界明瞭な類円形の低エコー腫瘤として描出され、後方エコー増強や側方陰影を伴い、内部に角質による不均一なエコーを認めることが多い。また皮膚との連続(開口部への細い索状構造)がみられることもある。
鑑別
・脂肪腫:皮下脂肪織の柔らかい腫瘤で、皮膚との癒着はなく可動性がよい。 ・皮膚膿瘍:発赤、熱感、圧痛など急性炎症所見を伴う。 ・腋窩では化膿性汗腺炎(反復する結節・膿瘍・瘻孔)やリンパ節腫大も鑑別となる。
POINT
・皮膚と癒着し、波動を触れ、超音波で境界明瞭な低エコー腫瘤と後方エコー増強を示す病変は類表皮囊腫(粉瘤)を考える。 ・上皮性の壁で裏打ちされた袋状の病変は、発疹分類上「囊腫」である。 ・丘疹はおおむね10mm以下の隆起、それより大きい充実性病変は結節・腫瘤。 ・膨疹は一過性の浮腫(蕁麻疹)、膿疱は膿を含む水疱。 ・「苔癬」(丘疹の集簇)と「苔癬化」(慢性湿疹などによる皮膚肥厚、続発疹)は別概念。
