「払いのけ」か「しかめ顔」か―JCSのⅢ桁を見分ける痛み刺激への反応
第108回医師国家試験 C問題 第28問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,28と29の問いに答えよ。 73歳の男性。意識障害のため搬入された。 現病歴:今朝起きてこないので,妻が様子を見に行ったところ反応がなかったため救急車を要請した。昨晩までは特に普段と変わらなかったという。 既往歴:20年来の糖尿病と高血圧症でスルホニル尿素薬とアンジオテンシン変換酵素〈ACE〉阻害薬を服用中。 生活歴:71歳の妻と2人暮らし。喫煙歴はない。飲酒は機会飲酒。 家族歴:父親が脳梗塞。 現症:呼びかけに反応なく,痛み刺激に対して開眼や払いのけるような動作はなく,わずかに顔をしかめる。身長165 cm,体重62 kg。体温37.0℃。心拍数98/分,整。血圧102/70 mmHg。呼吸数20/分。SpO2 100%(マスク3 L/分酸素投与下)。瞳孔径は両側3 mmで対光反射は正常である。
この患者の意識レベルはJCSでどれか。
- a.Ⅱ-20
- b.Ⅱ-30
- c.Ⅲ-100
- d.Ⅲ-200
- e.Ⅲ-300
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
JCS(Japan Coma Scale)は、まず「刺激なしで覚醒(Ⅰ桁)」「刺激で覚醒(Ⅱ桁)」「刺激しても覚醒しない(Ⅲ桁)」で桁を決め、その後に桁内を細分して判定します。Ⅱ桁は最も重いⅡ-30でも開眼が得られることが条件であり、痛み刺激でも開眼しなければⅢ桁です。Ⅲ桁は痛み刺激への運動反応で分け、払いのける目的的な動作があればⅢ-100、手足を少し動かす・顔をしかめる程度ならⅢ-200、無反応ならⅢ-300となるため、本例はⅢ-200です。GCSは点数が小さいほど重症でJCSとは向きが逆であり、払いのけはGCSのM5に相当します。意識レベルを正確かつ共通の言葉で評価・伝達することは、救急初療の判断や経時的な変化の把握の出発点となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
73歳の男性が、朝になっても起きてこず反応がないため救急搬送された。前夜までは普段どおりであり、夜間から早朝にかけて発症した急性の意識障害である。既往に20年来の糖尿病と高血圧症があり、スルホニル尿素薬(SU薬)とACE阻害薬を内服している。 バイタルサインは体温37.0℃、心拍数98/分(整)、血圧102/70 mmHg、呼吸数20/分、SpO2 100%(酸素マスク3 L/分)で、やや頻脈・血圧低めではあるが、ショックや重篤な呼吸不全を示す値ではない。瞳孔は両側3 mmで左右差がなく対光反射も正常であり、脳ヘルニアを示唆する瞳孔所見や、オピオイド中毒のような著明な縮瞳はない。
意識レベルの評価
本問で問われているのはJCS(Japan Coma Scale、3-3-9度方式)による意識レベルの判定である。JCSではまず「刺激しなくても覚醒しているか(Ⅰ桁)」「刺激すると覚醒するか(Ⅱ桁)」「刺激しても覚醒しないか(Ⅲ桁)」の3段階に大別し、次に各段階の中を3つに細分する。 本患者は呼びかけに反応せず、痛み刺激を加えても開眼しない。すなわち刺激しても覚醒しないのでⅢ桁である。Ⅲ桁の中では、痛み刺激に対する運動反応で区別する。払いのける動作(刺激部位へ手をもってくるような、目的をもった防御的動作)があればⅢ-100、払いのけはしないが手足を少し動かす・顔をしかめる程度であればⅢ-200、全く反応しなければⅢ-300である。本患者は払いのける動作はなく、わずかに顔をしかめるのみなのでⅢ-200と判定する。
背景にある病態
局所神経症状を伴わない意識障害で、SU薬を服用中の高齢糖尿病患者が夜間から早朝に発症していることから、SU薬による低血糖性昏睡が最も疑われる(次問で扱う)。
選択肢考察
- ×a. Ⅱ-20
Ⅱ-20は、大きな声で呼びかけたり体を揺さぶったりすると開眼する状態である。Ⅱ桁は「刺激すれば覚醒する」段階であり、本患者は呼びかけにも痛み刺激にも開眼しないため、Ⅱ桁には当てはまらない。
- ×b. Ⅱ-30
Ⅱ-30は、痛み刺激を加えながら呼びかけを繰り返すと、かろうじて開眼する状態である。Ⅱ桁の中で最も重いが、それでも開眼は得られる。本患者は痛み刺激でも開眼しないので該当しない。
- ×c. Ⅲ-100
Ⅲ-100は、痛み刺激で覚醒はしないものの、刺激を払いのけるような目的のある動作がみられる状態である。本患者には払いのける動作がないため、Ⅲ-100よりも一段階重い。
- ○d. Ⅲ-200
Ⅲ-200は、痛み刺激で覚醒せず、払いのける動作もないが、手足を少し動かしたり顔をしかめたりする反応が残っている状態である。本患者は痛み刺激で開眼せず、払いのけもないが、わずかに顔をしかめる反応があるので、この定義に合致する。
- ×e. Ⅲ-300
Ⅲ-300は、痛み刺激を加えても全く反応がない状態で、JCSで最も重い意識障害である。本患者は痛み刺激に対して顔をしかめる反応があるため、Ⅲ-300には至っていない。
JCS(Japan Coma Scale)
0:意識清明 Ⅰ.刺激しないでも覚醒している状態 1:だいたい清明だが、今ひとつはっきりしない 2:見当識障害がある 3:自分の名前、生年月日が言えない Ⅱ.刺激すると覚醒する状態(刺激をやめると眠り込む) 10:普通の呼びかけで容易に開眼する 20:大きな声または体を揺さぶることにより開眼する 30:痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと、かろうじて開眼する Ⅲ.刺激しても覚醒しない状態 100:痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする 200:痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめる 300:痛み刺激に反応しない 必要に応じて、R(restlessness:不穏)、I(incontinence:失禁)、A(akinetic mutism・apallic state:無動性無言・失外套状態)を付記する(例:Ⅲ-200-I)。
判定のコツ
・最初に「開眼しているか」「刺激で開眼するか」「刺激しても開眼しないか」で桁を決め、その後に桁内の細分を決めると迷いにくい。 ・Ⅲ桁は痛み刺激に対する運動反応で分ける。「払いのける」(刺激部位に手をもってくる目的的な動作)か、「顔をしかめる・少し動かす」程度か、「無反応」かを区別する。
GCS(Glasgow Coma Scale)との違い
GCSは開眼(E:1〜4点)、最良言語反応(V:1〜5点)、最良運動反応(M:1〜6点)の合計(3〜15点)で評価する国際的な尺度である。JCSは数字が大きいほど重症、GCSは点数が小さいほど重症である点に注意する。GCSでは痛み刺激部位に手をもってくる動作がM5(疼痛部位の認識)、逃避屈曲がM4、異常屈曲(除皮質硬直)がM3、異常伸展(除脳硬直)がM2、無反応がM1にあたる。
意識障害の鑑別(AIUEOTIPS)
A:アルコール、I:インスリン(低血糖・高血糖)、U:尿毒症、E:内分泌疾患・電解質異常・脳症、O:酸素欠乏・薬物過量(overdose)、T:外傷・体温異常、I:感染症、P:精神疾患・ポルフィリン症、S:脳卒中・てんかん・ショック。頭蓋内病変だけでなく、全身性・代謝性の原因を系統的に考えることが重要である。
POINT
・JCSは「覚醒しているか(Ⅰ)/刺激で覚醒するか(Ⅱ)/刺激しても覚醒しないか(Ⅲ)」でまず桁を決める。 ・Ⅲ-100:払いのける動作あり、Ⅲ-200:手足を少し動かす・顔をしかめる、Ⅲ-300:無反応。 ・痛み刺激で開眼せず、払いのけもなく、顔をしかめるのみ→Ⅲ-200。 ・JCSは数字が大きいほど重症、GCSは点数が小さいほど重症。
